043-608 新たな誓い @穴熊

数年ぶりにある友を訪ねる
苦しく惨めだったが、充実していたあの頃をともに戦った戦友
日本を取り戻すと誓いをして別れたのだが、その誓いを果たせた後も慌ただしさから報告が遅れてしまっていた
「遅くなってすまない」
そういって座り込み持参した日本酒を開けようとして気づく
「そう言えば酒はダメだったな。まぁ、付き合ってくれ」
そういって二つの杯に酒を注ぎ、片方を口に運ぶ
静かにゆっくりと杯を傾け、酒を飲み干してから再び口を開く
「君との誓いを果たしたよ。思っても見なかった方法でだがね」
そういう口元は誓いを果たしたことを誇るよりも自嘲の色が濃い
「だけど朝比奈たちが逝ったよ、私の力が及ばなかったすまない」
下げた頭を上げないまま言葉を続ける
「それだけじゃない!私はゼロを裏切った!日本と引き換えに彼を売り払ったんだ!」
徐々に強くなる言葉には自らへの怒りがあふれている。さらに自責の言葉を続けようとしたが杯を落とした音で我に返る
柄にもなく興奮してしまったことを恥じながら杯を拾い上げ頭を上げる
「愚痴だなすまん。なにかもっといい話はなかったか・・・」
新しい酒を注ぎながら考えていると一番聞かせたかったことを思い出す
「そうだ!大切なことを忘れてた。驚かないでくれよ」
楽しむようにもったいぶりながら酒を一口飲んでから言葉を続ける
「結婚したんだ。家庭を持つなんて想像もしなかったが、なかなかいいものだよ」
そういって懐から家族の写真を取り出し小さい男の子を指差す
「子宝にも恵まれてね、君の名を貰ったよ。昔の仲間に会うたびに甘やかされていて今から将来が心配だよ」
口では心配しらがらも目元は緩み彼の親ばかぶりがうかがえる
「今度は息子も連れてこよう。あいつは君の話が大好きでね、毎晩ねだられて大変だよ」
子供の様子を思い出したのか口元がゆるみ酒のスピードが上がる
「きっと君の事をヒーローか何かだと思っているんだろう。いや、それは私たちもだな」
すでに何杯目かも分からない杯を空にする
「私たちも酒を飲めば君のことばかり話している。不思議だなあの頃は世界を変えようとしていたのに、いざ変えてみればあの頃が懐かしいんだ」
笑いながら酒を注ごうとしたがすでに一升瓶が空になっている
それに気づき惜しみながらも腰を上げる
「今日のところはもう失礼するよ」
背を向けて歩き出してから最後に言い忘れていることを思いだし振り返る
「日本は取り戻したが世界はまだ不安定だ、必ず守り通す。君ならそうするだろう?」
誓いを新たに今度こそ藤堂はライの墓前を後にした


最終更新:2010年01月14日 02:36
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