043-614 名家の華と成り上がり者 第1回騎士侯 @カナリア

皇歴1560年、9月10日…………


私はフェネット家主催のパーティーに招待されていた。

ブリタニアの名家、フェネット家のシャーリーが婚約を発表するとあって、このパーティーには多くの貴族が参加するという。

そんな物に私ごときが参加して良いのだろうか?





物語りを進める前に、まずは私について知っていて貰いたい。

私、ラインハルト・ディザーは祖父の父が農民、祖父が兵士、父も兵士という平凡な家柄の男で、なんの因果か騎士侯に就いている。
私は兵士あがりであり、そこまで凄い人間でもない。

にも関わらず、親しい友や同僚、直属の上司は私を「騎士に、貴族に成るべくして成った者」と持ち上げてみせる。が、私自身は自らがその様な人間ではないと分かっている。





話が逸れた様だ。

私は、父から剣や弓、戟や槍の使い方を学んだ。
しかし、熱意と実力は有ったが教え方がてんで下手だった父の下である事が起因してか、私はすぐに行き詰まった。


私は熱い父が好きだったが、物足りなさを感じていたので士官学校に行かせて欲しいと頼んだ。



私の願いに驚いた様子だったが、父は快諾してくれた。

「遺憾だが、儂はそもそもお前を士官学校に入れるつもりだったよ。これをお前にやろう」そう言って父は一枚の紙を渡して来た。

それは夢への片道切符と言っても良い紙で、こう記してあった。

――皇立士官学校校長アストゥス・アッシュフォード伯爵閣下に、アルセス・ディザーが将来有望な騎士候補生を推薦致します。名はラインハルト・ディザー。歳は13。剣弓の基礎は既に学んでおります。是非とも入学を許可して頂きたい――
そう書いて有った。


――おこがましい事だが、アッシュフォード伯とは親友に近い友だったのだよ。――
父は恥ずかしそうに頭をかいていた。
裕福とはいえ兵士だった父が伯爵の親友だとは信じがたい事だったが、アッシュフォード伯は別け隔て無く人々に接する御人であると聞く。
まったくの嘘で無いのだろう。


父が本当にアッシュフォード伯の親友であると分かったのは、士官学校で名乗った時のアッシュフォード伯の反応である。
私が父と校長室に入った瞬間は教職者の顔でいたのに、父を認識した瞬間には破顔していた。


そこからの細かい出来事は省くが、私は無事に士官学校に入学出来る事になった。
推薦というよりコネで入学したという気がしないでも無かったのだがそこは、まぁ利益を得た訳でもないから、良いとしようか。









推薦でも一般でも、試験はある。
入学試験として、剣と弓をテストされた。


その日私の体調も良く、弓の張りも良かった。
剣に至っては寸分狂わずに狙いを付ける事が出来ていた。

それが良かったのか悪かったのか…………


私は一人の貴族の子弟にちょっかいをだされた。
とりあえず無視をする。

へつらい、頭をペコペコ下げていれば良かったのだろうが、私は貴族の子弟の相手をして自分の調子を崩したくは無かったのだ。



すると貴族が私の近くから去ったので、安心したのも束の間。
何故か剣の相手も弓の相手もその子弟。
間違いなく試験官に圧力をかけている。


相手は貴族の子弟。
その気は無いが、間違えで傷を負わせたら父に責が及ぶやもしれない。

本気で相手にして良いのかと悩んだら、同じく試験をうけると思われる少女が言ったのだ。

――本気でやれば良い…………問題になったら此方でなんとかしてあげる――

私はその言葉に甘える事にした。



剣を取って私は貴族と向かいあった。

取った構えは中段。

貴族は笑みを浮かべて刃を八相気味に構える。

ジリジリとした空気がまとわりつく。

真剣では無いが、それでも実戦の空気だ。


試験官の号令と共に刃が宙を舞った。


私は開始と同時に二つの突きを入れた。
それで決まるとは思っていなかったが、態勢は崩せると考える。
その程度の突き。



しかし子弟は態勢を崩すどころか、その突きを殺すのではなく弾き返してきた。

普通突きに対応するなら退くか受けるかだが、その子弟は弾き返した。
半端な技量と腕力では不可能である。


ただのボンボンでは無い。その実力は本物だ!
警告が身体中を駆け巡る。

子弟は弾いた突きの威力に驚く素振りを見せていた。
流石に技量は有っても当時は私と同じ13だった子弟には、直ぐに切り返す程の筋力足りなかったらしい。

私は外に弾かれた刃を円を描く様に引き戻し、返す一手で再び――今度は本気で――突いた。

子弟は弾き返そうとはせず、剣の平で受けた。
木剣であるために流しは出来ないが、折れやすい木剣で突きを殺したのだ。
やはり子弟の技量は水際だっている。


そこで膠着した。
下手に動いたら負ける。
負けて良い勝負だが負けたくは無い。

しかし私は子弟と眼があった事で考えを改めた。
子弟の瞳に敵意は無く、ただ犬の様な瞳だ。

――負けたら悔しいが、それはそれで良いかもしれない――



しかしそこで試験官が終了を告げた。


端からみたら僅か10秒の攻防だっただろう。
しかし私からしたらもう少し長かった。




次に行なった弓の試合は難しい物では無かった。

的に向かって矢を10本放つ。
ただそれだけ。
興奮もしない、ただ単調な試合。

私と子弟は共に10本、当然の様に当てた。







試験は無事に終わった。その時の推薦組は大変出来の良い人間ばかりで有ったらしく、全員が受かった。


私が驚いたのは、当時試験を受けた者達の殆んどがブリタニアの貴族であったというもの。

しかも大貴族も何人か居たというのだ。

私に声を掛けた少女はブリタニアの名家アールストレイムのアーニャ。
私と打ち合った子弟はヴァインベルグ家のジノ。

共にブリタニア八家の人間で、本来なら士官学校などに来る人間ではない。

二人が言うには、士官学校は社交より余程楽だから、だそうだ。


後々士官学校で、私は二人と色々な事を協力してやり遂げ、親友とも言える仲になる。
更にジノ繋がりで枢木スザクという男とも友になった。




そして、その枢木スザクが今回の婚約パーティーの主役の一人……………


「何を考えて居るんだ?」
ジノが料理を片手に話しかけて来た。
僕は……私は頭を切り替えて言った。
「いや、少し過去の事を考えていたんだ………」
「過去?」
「そうだ」
私の言葉にジノは鼻で笑った。
「私達は過去を振り返る程生きてはいないだろうに………まだ私達は18だぞ?」
「常に過去を振り返って自制と自省を心掛けているんだよ。私は弱い男だからね」
「謙虚が過ぎれば嫌味になると前にも言っただろ?」
「君に嫌味とは言われたく無い。君は事有る毎に、おぁこれが庶民の~~だな!なんて言うんだから」
「それは嫌味じゃないだろ」
「嫌味に聞こえると前にも言っただろう?」
ジノと私はシニカルな笑みを浮かべた。

「まぁそれはともかく、本当に私が来て良いのか?こんな凄いパーティーに…………」
私が呟くと、ジノが笑った。

「シャーリーもスザクもお前の友じゃないか。友の婚約パーティーに参加するのは当然だろう」
「スザクは友と呼べるが、シャーリーを友と呼んで良いのだろうか?本来ならシャーリー嬢とかフェネット嬢とか呼ばねばならないのに………」

「そんな他人行儀で居る理由が分からんぞ?もっと堂々としていろ!」
「成り上がりの騎士侯ごときが大きくなれる様なパーティーか!?周りは爵位クラスだらけだぞ?騎士侯なんて私くらいのものだ」


「貴様、さっきから煩いぞ」
私達―というより私は見知らぬ男から叱責を喰らった。

男は中肉中背で身体的には全く特徴が無いが、親の仇を睨む様な眼が印象的だ。

肩の紋から言って子爵だろう。

周囲はプラス方向の活気に溢れており、私達の声量では「煩い」の域に入らないはず。
此方に非は無いが、大人しく頭を下げようとする。

しかしジノに止められた。

「ジノ?」
「お前の頭はこの様な者に下げる物では無いだろ」
子爵は顔を赤くして言った。
「貴様には言っとらんぞ」
貴様という言葉にジノは眉を潜めたが、努めて冷静に言った。

「酷いことを言うが、君はたかだか子爵じゃないか。子爵が伯爵に向かって貴様とはなんだ?」
「伯爵!?」
「確かに私は社交界に出てきて間もない。だがブリタニアの貴族ならば、ヴァインベルグの顔くらい覚えておくべきだ」
「!それは失礼しました…………。ようするに子爵は騎士侯には貴様と言っても良いと言うことでしょうかな」
ジノは自らの意見をねじ曲げて代用した男の事を憎々しげに見た。

「ラインハルトは私の親友だ。それにラインハルトは、いずれ実力で伯爵や侯爵になる男だから君が貶していい人間ではない」
「失礼ながらそれは貴方の思い込みでしょうな」
「なに?」
「あなたがどう思おうと、そこの騎士侯には実力など有りはしますまい。そう思ってしまうのは贔屓があるからですよ」

正論とは言い難いが否定はしづらい言葉。
男がそう言うと、ジノの背後から小さい声が聞こえた。

「その発言は、ヴァインベルグは勿論、アールストレイムとアッシュフォード、エニアグラムやヴァルトシュタインを敵に回すのと同義だと思う………」
「なに?」
ジノが振り向くとそこにはアーニャが居た。

「ライに期待している人間は結構いる。八家や大公爵、皇族の中にも彼を認める方々は沢山いる。彼らが認めるライをこれ以上貶そうと言うのなら、それは私を含めた多くの人間を敵にまわす事になる…………」
アーニャの言葉は淡々としているが、私は少し恥ずかしくなった。

凡人たる私は、かなり重い期待を抱かれているようだ………


「…………」
「私は貴方に殺意を持ちはしないし、家の者が貴方を殺そうとしたら止める。けど貴方のために、他家の人間の動きを止める様なこともしない」



「脅しですかな?」
子爵が小さく呟く。
「脅し?私は事実を言っただけ」
「この男がそんなに凄い人間だと?」
ジノが口を挟む。
「君、貴族の端くれなら【流血の白薔薇】事件を知っているだろ?」
子爵は憎々しげに答えた。
「知っていますが………それがどうしました?」
「あの事件解決の第1功労者はラインハルトだぞ?」
ジノの言葉に子爵は驚いた様に私を見る。
「じゃあミュラーを斬ったのは………」

アーニャは感心した風に呟いた。
「意外と鋭い」

子爵は首を振った。
「しかし、ミュラーは剣で男爵から辺境伯にまでなったラウンズクラスの武人…………騎士侯が倒せるわけがない」
ジノが言う。
「アーニャが、ヴァルトシュタインやエニアグラムも敵に回すと言った理由を考えたらどうだ?」

「…………これも事実。という事ですかなアールストレイム卿」
「そう」
「しかし、事実ならなぜ………」
「公式発表で出なかったか?」
「そうです」

ここまで来ると、子爵の顔が真剣味を帯びてくる。

見ていて気付いたのだが、私に怒鳴って来たときは酔っていただけのようだ。
本来は知的と称して良い人間なのかも知れない。


突然、子爵が吟うように言葉をつむいだ。
驚いた事に、周りの人間が会話を止めて聞き惚れる程の美声である。

「……勇、並ぶ者なく、技、敢えて競う者なし。気性、猛々しくも、情、厚し。そう歌われるミュラー卿を倒すのだから、卿は………なるほど、流石はあの方…………」

私の眼を見る子爵は、最初の様子と全く違う。

しかも私の事を本当は知っていた感じだ………

ジノとアーニャも子爵の変わり様に顔を見合わせた。


子爵は笑顔を浮かべている。

アーニャが思い付いた様に子爵に言った。
「貴方、誰の回し者?」
「回し者とは?」
「クズ貴族の様に現れた癖に、私達の言葉だけでアッサリとライの事を見極める。そんなの愚鈍な人間に出来る事ではない」

ジノが納得したように呟いた。
「子爵は最初からライの事を知っていたのか!」

子爵は笑みを深めた。
何処か愛嬌のある顔である。

「えぇ。実は私、陛下直属の機密情報局の………」
子爵が声を潜めた瞬間、私は誰かに抱きつかれた。
「うわ!」
重くて倒れる。

「なにやってんだよノネット」
ジノが笑うのが聞こえた。
背中のエニアグ………ノネットさんが子爵に言っている。
「おいおいクワハラ。ばらすのが早すぎるぞ?せめて私が乗り込むまで【クズ貴族】をやってくれよ」
「それはどうも。ところでノネット様………ディザー卿が潰れてますぞ」
「ん。そうか、済まないなライ」

謝るならば早く退いて欲しいです………
ノネットさんは身長が大きいから、それに比例して重いのですし…………



ノネットさんに起こして貰ったら、ジノが代わりに乗しかかって来た。
「なぁノネット。なんでその子爵を使ってちょっかい出させたんだよ」
「そりゃ決まってるだろ。クワハラは子爵だが、ラウンズ推薦権を持っているんだ。だからライを推薦させようと思ったんだが……」
ジノが聞いた。
「さっき子爵は陛下直属の機密情報局って言ってたが………」
「嘘に決まってるだろ。これは本編じゃないんだ。情報局なんかないさ」

アーニャが呟く
「世界観を壊しかねない際どいネタは言わないほうが………」


ジノがわざとらしくゴホンと咳をする。
「ノネットも八家の人間で、しかも現役ラウンズなんだから推薦権も投票権も有るんじゃないのか?」
ノネットさんが首を振った。
「陛下が現役ラウンズの推薦権を無くしたんだよ。だから私は投票しかしない」
「へぇ………じゃあビスマルクもドロテアも?」
「ドロテアはラウンズ選考にノータッチだな。ビスマルクはほら、あいつは私と同じで八家だから」
二人の会話を聞いていて私は思った。

――やはり場違いだろ――


今までも身分が近いのはスザクだけだった。
しかし今日の発表で、スザクは一気に子爵だ。
私はこれから枕を抱き締めて眠るしかないのか…………

未来のラウンズ達と今のラウンズが楽しく話して居るなか、私は暗い気分に陥った。



この時の私には、スザクとシャーリーの婚約発表パーティーで、私自身の運命の女性に会うということは分からなかったし、分かるはずもなかった…………





第1回終了



設定みたいな物【シュナイゼルさんとカノンさんver】




突然シュナイゼルに書類を渡されたカノン。
書類をチェックしてから嫌そうに言った。

カ「本編に出てない私に設定を説明しろと?」
シ「嫌かい?」
カ「どうせ断らせないのでしょう?やりますわ」
シ「うん頼む。……………おや?この説明を励んだら、君の出番を増やすとカナリアが言っている。私もフォローするから頑張りたまえ」
カ「……イエス・ユア・ハイネス!」





――爵位について――

まずこの説明は作品内の爵位についての話です。
正式な物ではありません。


カ「爵位は、騎士侯・男爵・子爵・辺境伯・伯爵・公爵・侯爵の7つあります。順に権利と義務が増えます。騎士侯以外の爵位は、基本受け継がれて行きます。騎士侯は功績の有る市民や騎士がなれる貴族で、一代限りとなります」

シ「騎士侯とは本来、多大なる功績をあげて貴族になるに相応しい人物に、どの爵位を授けるか選定するまでの仮の地位だったんだ。まぁ補足だね、これは」

カ「ありがとうございます。作中にあるように、ブリタニアには八家という家柄が有り、それは下の通りです」


八家
ヴァインベルグ
アッシュフォード
ヴァルトシュタイン
アールストレイム
エニアグラム
シュタットフェルト
ランペルージ
ブリタニア【次男家】


カ「これが八家です。ヴァルトシュタイン・アールストレイム・エニアグラムは侯爵、シュタットフェルト・ランペルージは公爵、ヴァインベルグ・アッシュフォードは伯爵。ヴァインベルグ・アッシュフォードは伯爵ですが、
八家以外の公爵・侯爵より立場が上で、昔はそれが元で争いが起きたこともあります。シュタットフェルトは商家としても知られ、ブリタニアの財政の片翼を担っています。アールストレイムは十代前ほどに皇族から離れた家系です」
シ「まぁ貴族に関しては此処までで良いだろう。次は組織や事件を頼むよ」
カ「了解しました」




――事件・組織について――


カ「作品で流血の白薔薇という事件が有りますが、あれを説明します…………。」


カ「作中の三年前、とある貴族が殺されました。被害者は白薔薇が好きで、事件の現場にも沢山落ちていたのですが、それは被害者の血で真っ赤に染まっていたんです。警察局がそれを見て付けた事件名が流血の白薔薇事件」

シ「一人目が殺された直後、何人もの貴族が次々と殺されていった

シ「一人目が殺された直後、何人もの貴族が次々と殺されていった。手口は同じ、巨大な刃で頭を砕かれていた」
カ「犯人の目星は三件目から付いてたのですけれど、犯人と目されるミュラー卿はその様な事をする人間ではないと…………」
シ「警察はミュラー卿に罪を押し付けようとする真犯人がいると考えていたようだね。」
カ「彼は人気でしたからね。しかし四件目の直後からは警察も認めたようで、直ぐに包囲網を築きました。しかしミュラー卿は剛力無双の武人ですから、普通の騎士や軍人では勝ち目がありません。そこで運が良かった事に…………」
シ「ラインハルト・ディザーがいたんだね」
カ「えぇ。彼は丁度士官学校を卒業したばかりで、初めての現場でした」
シ「ミュラーは薬物を服用していて暴れていた。だから凶暴さが増していたのに、彼はそれを打ち倒した。」
カ「ミュラー卿の名誉の為に捕縛後自殺という事になってはいましたが、公然の秘密と言うものです」
シ「その時の活躍で彼は騎士侯になったんだ」
カ「そうですわね…………」
シ「エニアグラム卿が新しいラウンズ候補だと喜んでいたな」

カ「事件の事は終わりにして、そのラウンズの説明をしますね。ラウンズとは帝国最強12騎士の事で、現在はノネット卿、ドロテア卿、ビスマルク卿、ルキアーノ卿の四人が就任しています」
シ「4年程したら、ラウンズは8人になっているだろうね」
カ「そうですわね…………ところで殿下」
シ「なんだい?」
カ「私の出番は本当にあるんですか?」
シ「さぁね。私じゃなくてカナリアに聞きたまえ」
カ「………………」


最終更新:2010年01月14日 02:48
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