行政特区日本が開始してから僕たち黒の騎士団の仕事は格段に増えている
しかしゲリラ上がりの僕たちにはデスクワークが出来る人間が少なく、必然的に一部の人間の負担が多くなる
その一部になってしまった僕こと“ライ”は連日の残業に追われていたが、今日は久しぶりに定時で帰れることに浮かれていた
だからか普段はまっすぐに帰るところを休憩室に立ち寄りコーヒーでも飲もうかなどと考えていた
「よお、今日はもう帰りか?」
自販機に小銭を入れたところで声をかけられ振り返る
そこには知らない人がいた
長身で体格のいい茶髪の男だが見覚えがない。ならば結論は一つしかない
「すいません人違いです」
そう言って頭を下げ自販機に向かいなおそうとしたが
「ははは、ライが冗談いうなんて明日は雪が降るな」
笑いながら肩を叩いてくる。僕の名前を知っているということは知り合いのようだ
コーヒーを買ってから男の顔を改めて見る
む、よく見ると見覚えが無いこともない、しかし名前が全然思い出せない。誰だ?しかたない聞こう
「失礼ですけどどなたでしたっけ?」
「おいおい、あんまりしつこいと笑えないぞ」
まだ冗談だと思っている男は少しだけ困った顔をする
「いえ、本当に思い出せなくて。名前を聞けば思い出せると思うんですけど」
そこまで言ってようやく僕が本気だと気づいたようだ
「そうか、たまにあるよなそんなこと。“吉田”だ、吉田透」
よしだ、ヨシダ、吉田、頭の中でその名前を何度も繰り返す
吉田?いたかそんな人?
「吉田?さん一ついいですか?」
「なんで?が入ったか知らないがなんだ」
許しが出たので基本的な疑問をぶつける
「僕たち話たことありましたっけ?」
マンガならし~~~んとか、ヒュ~~~とかいう擬音が流れそうな沈黙が訪れる
長いようで一瞬の沈黙が過ぎ去り吉田さんが口を開く
「そういえば無いかもな」
やはり僕の記憶に間違いは無かった
「ですよね。どうしても杉山さんと月下の話をしてたとき横にいたくらいしか思い出せなくて」
ちなみに今のがゆいいつ彼が絡んだイベントだ
そんなことはさておき、疑問が晴れた僕が一人うんうんとうなずいていると吉田さんはこれ以上無いくらい沈んでいる
「俺って杉山のおまけかよ・・・。俺だっていろいろ頑張ってるんだぞ・・・」
うなだれる彼の姿を不覚にも友人“リヴァル”と重ねてしまう。彼も散々空気扱いを受けているからな
そう思うとなんだか哀れになってきたのでそっとしておこうと思う。僕はゆっくりとその場を離れた
「なあ、俺ってそんなに影薄いか?」
裾をつかまれた!これじゃあ逃げられない
「そんなことないですよ。僕がイベントを見逃しただけかも知れないですし」
何度でも言う、彼が絡んだイベントは杉山の横に“いるだけ”のものが一度だけだ
「だけど他のやつらは強制イベントでも台詞があるじゃないか。いや、騎士団員男性にだってあるぞ」
そんなことはシナリオさんに言ってほしい。面倒くさいな、適当に喜ばして追い返すか
「そうだ!吉田さんはCGに出てるじゃないですか!」
「CG?」
その言葉に吉田さんが頭を上げる
「そうですよ!台詞なんて音声と文章だけですけど、CGはちゃんとギャラリーにも登録されて何時でも見れるんですよ!」
これだと思い一気にまくし立てる
「ほ、本当か?本当に俺が写ってるのか?」
「ええ!本当ですとも!見てください!」
PSPを取り出しギャラリーの黒の騎士団編を選ぶ
一つ目、入団イベントのCGでゼロのマントから頭だけが出ている
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二つ目、慰安旅行ルートの宴会で一人酔いつぶれてよだれで水溜りを作っている
「・・・・・・」
「・・・・・・」
以上
「お前俺のこと嫌いだろ!」
吉田さんが僕の襟首をつかみあげる
「落ち着いてください!嫌いになるほど絡んでないじゃないですか!」
瞳孔が開いてとってもやばい感じの吉田さんをなだめつつ次の作戦を考える
そうだ!昔の人がいいこと言ってた!押してだめなら引いてみろだ!
「すみません。僕じゃあ力不足みたいです。いっそ自分でアピールしてみては?」
「自分でアピール?」
よし!食いついた!いける!
「そうですよ、残念ながら吉田さんの魅力はうまく伝わってないみたいなのでこの場を借りてアピールしましょう」
あわよくばその隙に逃げられる
「よし、じゃあいくぞ。あー、俺は吉田透。扇たちと昔からレジスタンスをしていて黒の騎士団じゃあ一応幹部ってことになってる」
乗ってきたな今のうちだ。足音を殺して吉田さんから距離をとる
「戦闘では雷光の機長として二人の部下と共に戦場を駆けている」
「雷光?」
しまった!知らない単語が出たんでついしゃべってしまった
「知らないか?グラスゴー四機を台座にリニアキャノンを装備した三人乗りの機体なんだが」
そこまで聞いてやっと思い出す
「あぁ、ありましたね。ロスカラにでて無いんで忘れてました」
言ってから気づいた。まずい
ゆっくり吉田さんの方を見ると案の定また悪いほうに入っている
「わざとだろ。ぬか喜びさせておいて、わざとだろ」
なんかもうどうしようもないな。彼を見ているとリヴァルがましに思えてきた
そうだリヴァルは空気、目に見えずともそこに存在するし感じ取れる。でも彼は違う、その存在じたい微妙だ例えるなら空間。概念では存在しているが決して感じ取ることは出来ない物
きっと今こうして会話しているのも夢か何かだろう。なら僕は目を覚まして仕事に行かなくては、そう僕は自分のベッドで寝ているんだ。これは決して現実逃避じゃない
「じゃあ明日も早いんでこれで」
そういって空間さんに背を向け走りだす
「待て!ライ!俺を一人にするきか!」
その叫びを聞きながらも振り返らず帰路に着く。早く寝て全てを忘れるために
「もっと絡んでくれぇー!」
最終更新:2010年01月26日 00:10