「ダ、ダメだよ! ルルーシュ、それ以上はいけない・・・・・・アーッ!?」
という夢を見ていたようだった。
ハッと覚醒した僕が目を開けるとそこは薄暗い部屋。
クラブハウスの中の一室であることは間違いないようだ、内装に見覚えがある。
さて、と椅子から立ち上がろうとして──立てない。
「なんだ?」
椅子に座った姿勢でグルグルに縛り上げられていたのだ。
「ライ様がお目覚めになったようですわ」
それは咲世子さんの声だった。声の方に目をむけるとそこにはナナリーと咲世子さん。いつもどおりの二人がそこにいた。
「ライさんお目覚めですか」
ナナリーの声はやっぱり可愛いな──はともかくとして、
「あの・・・・・・、一体全体これは何の冗談なんだい?」
首を傾げるようにしてナナリーはその豊かな髪をめぐらせた。うん、どうにもやっぱり可愛い。可愛い子は何をしても可愛いな。
それはさておき、
「とりあえず解いてもらえないかな?」
ナナリーと咲世子さんは涼やかな微笑を浮かべた。
「私、ライさんとお話がしたくって」
「話は縛りあげなくてもできるんじゃないかな」
もう一度ナナリーは笑った。とても可愛い、彼女らしい微笑みだった。
「皆さんお好きですよね、民主主義ってものが」
は?
僕はナナリーが何を言わんとするのかを計りかねている。ソレと同時に何か空恐ろしいものが背筋を奔る。
この感情は、一体なんなんだ?!
「ライさんの自由をうばって好きにしたいと思う方!」
ハイ! ハイ! ハイ! ハ~イ! ハァ~イ!
ナナリーが手をあげた。咲世子さんも手をあげる。その後ろに隠れていたらしいカレンもあげた。
その後ろに立っていたミレイ会長まで。 それにニーナにユーフェミアさまにアーニャ、ヴィレッタ先生に神楽耶もいるのか。
って、コーネリア総督ってばなにやってんですか。それにしても千葉さんやラクシャータ、セシルさんに特派の女医さんまでなんでいるの?
それだけでおしまいじゃない、まだまだいる。まるでこの“コードギアス世界”と“ロスカラ世界”に存在する総ての女性が集まったかのようだ。
もちろん、それだけの人数がなんでクラブハウス内の一室に入っていられるんだなんて心無いツッコミはナシの方向で。
それら彼女たちの同意を受けて、またしてもナナリーはニッコリと笑った。やっぱりナナリーは可愛いな。
「はい、多数決で決定です。民主主義です☆」
ちょっとマテ、と僕は思った。
「この僕は一体どのルートを通ってきた僕なんだい? ギアス篇? 騎士団ルート? 特派ルート?
ひょっとして解放戦線ルート? もしかしてとは思うけど青月ルートとか?」
「そんなこと、どうだっていいじゃないですか」
ナナリーが言う。
「今日はライさんのためにたくさんの方が集まってくれたんですよ」
咲世子さんがお集まりの淑女たちにお茶を配ってまわっている。
「その心は?」
僕が問うた。
「“ライさんにみんなで民主主義的にチョコレートを受け取ってもらおう大会議”の開催の為です☆」
なるほど、何のことだかさっぱり分からないけど、そこに僕が参加するかしないかの意思は関係ないらしい。
『リア充はもげろ』
どこかからともなくリヴァルの絶叫が聞こえたような気がした。
「それはおそらく幻覚でしょう」
ですよねー。
僕は忘れることにした。
「それにしても」
僕は必死に説得を試みる。
「やっぱりこういうことはお互いの気持ちが必要なんだって思うんだ。こんな拉致監禁みたいなことはいけないって思わないかい?」
「だって多数決です。民主主義ですから☆」
「それは民主主義の意味を間違っていると思うな」
「それは見解の相違ってものですね、ライさん」
ナナリーは可愛く笑った。
「十人十色と言いますとおり、人は所詮その人だけが認識する世界に生きているんです。
十人十色──見るものも、感じ方も、それぞれの考え方だってその人それぞれの認識の違いはきっとあるんです!
人は世界はこんなにも思い通りになりません、だから!」
「だから力で思い通りにしようって言うのかい? それは──」
「卑劣だって非難しますか? ライさんの心を捻じ曲げ、尊厳を踏みにじろうとするわたしたちを」
そう言われると何も言えない。ナナリーは可愛いもんね、可愛いは正義とはよく言ったものだ。
「さぁそろそろ始めましょう。──誰が、ではなく、誰からライさんにチョコレートを受け取ってもらえるのかの会議を」
ちなみに、とナナリーは言った。
「ここにはギアスキャンセラーマシン・オレンジくん1号を持ってきてありますから、ギアスを駆使して逃げようとしてもダメですよ☆」
なんてことだ! 読まれている!?
ナナリーが指し示す部屋の隅っこにはジェレミア卿が体育座りで壁に向かって座っていた。
暗い。きっと彼も僕同様に拉致されてきたんだな。何て惨い・・・・・・。しかもギアスキャンセラーのための道具扱いだなんて!
そもそも今彼女はなんと言った?
誰が、ではなく誰から、と言った。
食べさせるつもりなのだ。ここに集まった数十人──数百人のチョコを順番を決めて、総て食べさせるつもりなのだ!
──殺される!
僕は激怒した。
「・・・・・・イヤだな」
え? と女性陣がいっせいにこちらを向く。
「イヤだ、イヤだ、リア充だなんて凄くイヤだ」
「ライさん、何を仰っているんですか?」
「自分たちのエゴのために誰かを力ずくでどうにかしようだなんて──ましてそれを自分がされるなんてイヤだってことさ。
申し訳ないけど、僕はこれで失礼させてもらうよ」
ホっとしたように胸をなでおろすナナリー。やっぱりナナr(ry
「ダメですよ、ライさん。大人しく会議が終るまで待ってていただけないと」
「だけど、僕はそれがイヤなんだ」
「でも、一人では帰れませんよ?」
ナナリーは淡々と言い放った。
「ライさんを縛っているのはスラッシュハーケンにも使われている特殊鋼ワイヤーなんですよ」
「自分で縄を解いて逃げ出すことはムリ、か」
どうりで随分ガッチガチのはずだ。ていうか、これ血が止まりそうなんだけど。
「それと、ライさんが忍ばせていた自決用の融体サクラダイト爆弾も解除させていただきました。
もちろんライさんが他人まで巻き込んで自決するだなんて思っていませんけど」
あれも見つかっていたのか。ていうか融体サクラダイト爆弾?! あれって爆弾だったの?
ルルーシュが「これ俺が作ったんだぜーっ」て自慢してたのが気に食わなかったから持ち出したんだけど、
あれって爆弾だったの? なんかキラキラした綺麗なのが入ってるなぁて思ってたんけど爆弾だって?!
何やってんだよルルーシュ! 下手したら死んじゃうじゃないか、常識的に考えて!!
でもこれで完全に脱出不可能になったってわけじゃないぞ。僕が何も言わずに姿を消せば、
いくらルルーシュやスザクでもおかしいなって探し始めてくれるだろうし、いざとなったら襟首に仕込んだ超小型通信機で・・・・・・。
「そうそう、襟元の超小型通信機とGPS発信機も無効化させてもらったんですよ。
関係各所には連絡していて、ライさんはちょっと遠くまでお買い物に行ってもらってることになっているんです☆
不審に思われるような要素は総て排除しているんですよ♪」
・・・・・・・・・・・・つまり。
「つまり、脱出するための手段は皆無。助けがくることもないってことなんだね」
「ハッタリだと思いますか?」
イヤと僕は頭を振った。
「多分君の言うとおりなんだろうねナナリー。さすがはルルーシュの妹だ、寸分たりとも隙がない。
やはり君も優秀だ。卓越している。冠絶する人材だ」
でも、と僕は心の中で絶体絶命というシチュエーションに反逆を叫んだ。
「ダメですよ」
ナナリーがまたも笑う。まるで僕の思考を読んでいるかのようだ。やっぱりナn(ry
「クラブハウスの中にめぐらせた脱出用秘密通路はすべて動かないようにしているんです☆」
「・・・・・・え?」
僕は呆然とした。
「部屋の中ほどにある落とし穴式の脱出路も、壁につくったカモフラージュ回転扉もぜ~んぶ電源を切っておいたんです☆ チェックメイトです☆」
「・・・・・・・・・・・・」
「他に何か質問はありますか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「じゃあ会議を始めましょう。まずは第一にライさんに何のチョコレートを食べていただくかということから」
「・・・・・・フフフフフ」
「?」
僕の笑い声にみんながいっせいに注目する。
「ピザだ」
「ピザ・・・・・・ですか?」
「ピザだ。いまのおすすめ商品はグラタンとカマンベールのハーモニーLサイズ3500円!
それと定番のシーフードミックスLサイズ3600円もプラス。そうだ、一枚で4つの味が楽しめてお得なフレンズ4のLサイズ3300円もつける!
今なら劇場版・魔法少女リリカルなのはのプレゼントキャンペーンもやってるからそこそこお得だ!!」
──もう一越えが必要だな──
その声は深淵の奥底から響いてきた。
そう、僕は助かりたい。まだまだ死ぬわけにはいかないんだ! 助かるためなら悪魔とだって手を組むだろう。
「それなら・・・・・・、それならピザ各二枚づつだ! サイドメニューのビターショコラと山盛りポテト、北海道プレミアアイスもつける!」
否、僕が手を組もうとしたのは──悪魔ではない。似たようなものだが確定的に違う。
「いいだろう、乗ったぞ。プレミアアイスはバニラ・チョコ両方でな」
女性たちをかきわけ、僕の前にまで出てきた尊大かつ傲慢なそのクールな瞳。
そう、それは魔女だ!
「C.C.さん! 裏切るのですか?!」
初めてナナリーが動揺で声を震わせた。やっぱりナ(ry
「違うな、間違っているぞナナリー、これは裏返ったのではない。表返ったのさ!」
そう言うやいなや、C.C.はスッっと床にしゃがみ、その手をついた。
「これで、どうだ」
C.C.の金の瞳が怪しく輝く。その瞬間、パリっと何かが弾ける。何か不可視の波動が床を伝って奔っていく!
「これが仙道、波紋疾・・・・・・」
「違うぞ、断じて違う!」
慌ててC.C.が僕の言葉を遮った。まぁそんなことはどうでもいい。
フワとナナリーの首が力なく傾いた。バタバタと女性たちが倒れていく。ブラボー、おぉブラボー! どうやら上手くいったようだ。
フム、とC.C.はその様子を一瞥した。
「さすがに直接触れてではなく、床を伝ってとはいえ、私のショックイメージを喰らって意識を保っていられる者はいなかったか」
なにせあのスザクでさえ錯乱して暴走するようなエグイ必殺技だもんね・・・・・・とは胸の内にしまって言わないでおこう。
僕は気を失ったナナリーたちをなんともいえない気分で見つめた。
そう、ナナリーの敗因はたったひとつ。ナナリー、たったひとつのシンプルな答えだったんだ。
この魔女は面白ければなんにでも首を突っ込む。けれどピザを与えれば敵にも味方にもなるまさにエゴの塊だということを知らないでいた!
そんな彼女を“仲間”だと勘違いしたことが敗因だったんだ──!!
もちろん口にしては言えない。助けてもらうまでは悟られないようにしておこう。
「とにかくおかげで助かったよC.C.、この縄──もといワイヤーをほどいてくれないか」
「いいだろう」
C.C.が近付いてきて、ギッチギチに縛り上げられた僕の前に立つ。ワイヤーにかけられた電子ロックをいじっているようだ。
やれやれ、どうやら助かったようだな。報酬のピザ代の捻出は大変そうだけど、なぁに命には代えられない。
「約束のピザ、忘れるなよ?」
「あぁ、わかっている。契約は果たすよ」
「それともう一つ」
うん? と僕は首を回して側面に立つC.C.を振り返った。
最初に感じたのは金色の視線。
ガボッ
次に認識したのは口の中に突っ込まれた何か。
「電子ロックの解除には少々時間がかかりそうだ。それでも食べておけ」
それだけ言って、C.C.は僕から視線を外した。
フム。
僕は突っ込まれた何かを噛みしめる。
それはクリームチーズの風味を含んだ何か、とても甘いチョコレートだった。
「みんなが目を覚ます前になんとか頼むよ」
「わかっている。急かすな」
淡々と答えるその隅っこに感じる何か別の熱を持った感情。
「ど、どうだ? 美味い、か?」
C.C.のちょっと照れたような声は、僕が初めて耳にする言葉だった。
そこでハタと気がついた。
「そうか、今日はバレンタインデイだったのか!」
一瞬の沈黙。
「ライ、貴様一度もげてみるか?」
それは臓腑をも抉る、絶対零度の金色の視線。
あれ?
あれあれあれ?
さっきまでのちょっと熱を含んだほんわかした空気が霧散している。なぜだ?
どうやら僕はどこかで選択肢を間違ってしまっていたらしい。
C.C.の両手が椅子から離れる。あれ? C.C.どこへ行ってしまうんだい? ちょっと、おーい。
そうして彼女は部屋を出て行ってしまった。
過ぎ行く時間。
ガサゴソと動く音。
女性たちが目を覚まし始めたのだ。
なんてことだ。僕は自分の何が悪かったのかもわからないまま、やがてくる最期の時を想像したのだった。
──ざんねん、ぼくのぼうけんはここでおわってしまった!
~GAMEOVER~
最終更新:2010年02月21日 23:04