「ねぇ、ライ。貴方、私の事、好きよね……」
実にいきなりである。
まぁ、確かにその通りだし、ブルームーンの日に互いの思いを交換し合った仲だ。
否定するはずもない。
だから、僕は頷きかけたものの、頭の中を嫌なものがよぎった。
ミレイさんがこんなことを言い出すときというのは……。
だから、頷く代わりに聞き返す。
「何でしょう、頼みたいというのは……」
その聞き返しに、一瞬だがドキリとした表情を見せたものの、相手は百戦錬磨のミレイさんである。
すぐに立て直していつもの笑顔を向ける。
「うふっ、そんな訳ないでしょ。私は……」
だが、そんな事ではもう誤魔化されない。
「この前も同じパターンでしたよ」
言い終わる前に切り返す。
さすがにこの切り返しはきつかったのだろう。
うっ……といった感じの表情で言葉に詰まるミレイさん。
いくら惚れているとはいえ、いつもいいように使われるのは嫌だから反撃する。
そりゃ、好きな相手に頼られるのは悪い気はしないし、嬉しい。
だが、何事にも限度があるし、なんか相手への思いが軽いというか薄っぺらく感じてしまうのだ。
「好きなのを餌にして、頼み込むのやめてください」
だから、僕はきっぱりと言い切る。
惚れているとはいえ、いや、惚れているからこそケジメはつけたい。
だからこその言葉。
そう思っての言葉。
だが、思いを伝えるのは難しい。
実際に思いをいくら言葉にしても、果たしてどれだけが相手に伝わるだろうか。
そして、その言葉をどれだけ相手は受け止めてくれるだろうか。
それもわからないのが、ますます人を不安にさせる。
本当に、人とは厄介な生き物だ。
僕のその言葉に、ミレイさんは完全に言葉を失う。
普段のミレイさんからは、いや、今まで見てきたミレイさんからは想像出来ないほど顔面が蒼白なっている。
瞳が焦点を失い、虚ろになってしまっているように見えた。
しまった。言い過ぎたか……。
一瞬で、思考がマイナスに走る。
何やってるんだ、僕はっ。
好きな相手をこんなにしてしまうなんて。
だから、慌ててミレイさんを抱きしめる。
「ごめん、言い過ぎた……」
ミレイさんの強張っていた身体がゆっくりとほぐれていくのがわかる。
不安を振り払うように僕を抱きしめ返してくる。
「ううん。私の方こそごめんね。そうよね、そう聞こえても仕方ないわよね」
その言葉にホッとする。
わかってくれたんだ。僕の思いを……。
「いいんだ。僕の方こそ言いすぎた」
お互いに抱き合いながら、言葉を掛け合っていく。
それは、互いをもっとも身近に感じられ、そして思いを正確に伝えていく事の出来る方法なのかもしれない。
そう思ったときだった。
「んんっ」
咳払いが僕らの意識を現実に戻す。
はっと周りを見回すと、そこには生徒会室の入り口のドアに生徒会メンバーが揃っていた。
「もういいかな……」
そう言って苦虫を潰したような顔をしていたのはルルーシュ。
どうやら、さっきの咳払いも彼の仕業のようだ。
そんな、ルルーシュを止めようとしたのだろう。
顔を真っ赤にしたシャーリーが彼の手を引っ張るような格好になっている。
そして、その横でおろおろしているのはニーナ。
で、カレンはまるで石造のように固まっている。
もちろん二人とも顔が真っ赤だ。
いや、この場合、二人の反応がとても微笑ましい気がする。
で、スザクはその後ろで苦笑している。
多分、ルルーシュの行動に対してだろう。
そういや、リヴァルの姿が見えない。
と、思ったら、彼らの後ろでうずくまって廊下の絨毯を突いていた。
そこまで確認した時だった。
慌ててミレイさんが僕から離れる。
その顔は真っ赤だ。
「あ……」
思わず僕の口から残念そうな声が出た。
その言葉に、ミレイさんの表情が一瞬だがにこりと微笑む。
「いけないっ、みんなを呼んでたの忘れてたわ。ごめんごめんっ」
そう言って、みんなの方に顔を向ける。
視線が僕から離れるのが、ちと寂しい。
「実はね……」
まるで今までのことがなかったかのようにミレイさんは説明を始める。
そんな彼女を僕はじーっと見続ける。
まるで、魅入られたかのように……。
いや、多分そうなのだろう。
どうのこうの言っても、僕はミレイさんにベタ惚れなのだから。
そして、ある程度説明が終わったのだろう。
みんなが、今ミレイさんが言った事をいろいろと話し合いを始めた時だった。
すーっとミレイさんの顔が僕に近づく。
「ライ、続きはみんなが帰ってからね……」
その囁きに僕は頷き返す。
そう、思いは言葉では伝わりにくいし、果たしてどれだけ相手に伝わっているのかわからない。
だけど、いや、だからこそ、言葉だけではなく、いろんな事で伝えていけばいいんだ。
何も言葉だけが思いを伝える方法ではない。
それに一度に100%の思いを伝えられなくても、何度も何度も伝えていって100%にすればいいじゃないか。
そうだ。
それが出来るのが人間なんだ。
僕は、ふとそんな事を思っていたのだった。
最終更新:2010年03月23日 22:04