044-248 ホワイトデーの夢 @全力

「よし、これでいいかな」

 僕は棚に並ぶ商品を手に取り呟く。
バレンタインデーに物をもらうと、十倍にして返さなければいけない、というミレイさんの話を聞いた僕は途方にくれた。
なぜならば、僕には貰ったものの価値がいまひとつわからなかったのだから。
だがしかし、悩みぬいた結果、僕は閃いた。 1個貰えば10個、五個入りならば50個入った小さなお菓子を探し、それを渡せばいい、と。
それを思いついた後、ルルーシュに比較的安いお店を聞き、そしてここに来たことは正解だったといってもいいだろう。
ミレイさんに渡されているおこづかい、今月分のそれと先月まで少しずつあまったお金を貯めていた甲斐もあり、なんとか全員分を買うことが出来た。

「いいんじゃないか。 それにしてもホワイトデーのお返しか、貰った相手全員分を用意するとは、お前も律儀なやつだな」
「る、ルルーシュ!?」

 返答など求めていなかった呟きに返事がきたのだ、誰だって驚くだろう、僕だって驚く。 というか現に驚いた。
そんな僕の様子を気に止めることなくルルーシュは僕の買い物かごの中のお菓子を見る。

「スナック菓子にチョコレート、ガムや飴にゼリーか、なるほど幅広くかつ量の多めなお菓子の数々、流石は俺が認めた男だ、ライ」
「え、あ、うん。 ありがとう」

 正直に言えば認められた覚えなど一切ないのだが、一応は褒められている――と思う――から感謝の言葉は述べておく。
すると、僕の言葉を聞いたルルーシュは、何故か口元を吊り上げて笑みを深め、顔の前に手を置き、勝ち誇った表情を見せる。

「だが、つめが甘いぞ、ライ! そんなことでは真のお返し王とは言えないな」

 とりあえず僕はその称号をくれるといわれても断固辞退しようと思う。

「相手に不快な思いをさせてしまうかもしれないものをお返しに選ぶとは言語道断! ライ、お前にお返しというものの真髄を教えてやろう」
「不快な思い……?」

 聞き流そうと思ったが、無視できない言葉がルルーシュの口から飛び出したことで、僕はルルーシュの話を聞こうと思い、聞き返す。
そんな僕の反応を見て、ルルーシュは一層笑みを深める。
その表情に少し不穏なものを感じ取ったが、それでも僕には聞くという選択肢しか残されていない。
「まず、この「きのこの山」と「たけのこの里」だ。 これは上級のお返しストでも渡すときに気を使うお菓子だ」

 お返しストってなんだ。 しかも上級? 下級や中級もいるのか? 初めて聞く言葉は僕の頭を混乱させる。
そんな僕の混乱に追い討ちをかけるかのように、ルルーシュは『気を使う理由』を一息で喋る。

「きのこの山が好きな通称『きのこ派』とたけのこの里が好きな通称『たけのこ派』は相容れない存在でな、この二つが発売した当初から永遠と戦い続けているのだ。
 有名なものではお笑い芸人のコンビの二人が3年間きのことたけのこのどちらが真のチョコレートスナック菓子か、と戦い続けた『1000日戦争(サウザンズ・ウォー)』があるな。
 そのときはたけのこの勝利だったのだが、今なおきのこ派は徹底抗戦している。 というかきのこ派が粘着してきているだけでたけのこの圧倒的優位は揺らぐことはないんだがな!
 しかし、だ。 きのこ派の人間にたけのこの里を渡してみろ、あいつらはお前をきのこ派だと思い徹底的に噛み付いてくるだろう。
 もちろん、俺たちたけのこ派はそんなことはないがな。 まぁ、きのこの山を渡されたところで普通に食べるさ、たけのこの里を薦めはするがな。 まぁ、強者の余裕というやつだ。
 俺のような一級お返しストならば相手がきのこ派かたけのこ派か見抜くのは容易だが、そうでない貧弱一般お返しストであるお前はきのこの山のみを用意しておくといい。
 だが、たけのこ派の中にも過激派もいる。 逆にきのこ派にも穏健派が存在する。
 早い話がきのこたけのこをホワイトデーのお返しに選ぶのなら、その人が何派なのかはしっかりと把握しておかなければならない。
 結局のところはきのこたけのこを贈りたいのならば、親しい人にしか贈らないようにするといい」

 まくしたてるようなその言葉を聞いて、僕に理解できたのは最後の部分だけだった。


「とりあえず、生徒会のみんながどっち派か教えてくれないか?」
「あぁ、いいとも。 もし生徒会以外の女子生徒がどっち派か知りたいならリヴァルに聞けばいい。
 注意しておくが、リヴァルはきのこ派の過激派だ。
 お前がたけのこ派であったとしてもきのこ派を装うべきだ―――――」








「という夢を見たんだ」
「……そうか」

 黒の騎士団アジトのラウンジで目を覚ました僕は、すぐ近くにいたゼロに夢の内容を話した。

「……お返しストってなんだろう?」
「そのルルーシュとやらに……いや、なんでもない。 所詮夢の中の会話だ、意味などあってないようなものだろう」
「まぁ、そうかな……とりあえず僕は帰るよ。 帰るついでにホワイトデーのお返しのお菓子を買わないと……きのこの山とたけのこの里買っても大丈夫かな?」
「大丈夫だろう、おそらく。 だがな、パイの実派とコアラのマーチ派が―――――」

 僕は何か語り出したゼロを近くにいた扇さんへとスルーパスしてラウンジの出口へと向かう。
扇さんが「ライィ…」と呟き恨みがましそうな視線を向けてくるが、気付かない振りをする。 扇さんは犠牲になったのだ、ゼロの長い話の犠牲にな。
扇さんは更に「千草ァ……」とも呟いている。 聞こえない、僕には聞こえない。
僕たちがKMFを整備している最中に愛妻弁当を広げて食べていた扇さんが憎いわけではない。
いきなり親指を立てて「俺、今日家に帰ったら千草にこの指輪を……」とか言っていた扇さんが悪いって玉城も言ってた。
ルルーシュに教えてもらった業務スーパーに着いたら、とりあえずお返しとしてうまい棒でも買おう、と思いながら僕は黒の騎士団のアジトを後にした。


最終更新:2010年03月23日 22:41
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