045-020    @カナリア

特区成立より一年。
ライが日本に帰還してから三ヶ月。

彼が帰還時に端を発した人事騒動の熱が冷めつつある今日、それは起きた。





「君は良いよね、役得が有ってさ」
ライが突然呟いた。

彼の副官に任命されている玉城は、書類に捺す判を持ったまま固まる。
「………仕事をサボってゲームをする癖に、優秀だから仕事を沢山回される上司を持った為に休みすら取れない部下に対する言葉か?」

玉城の言う通り、ライの手には携帯ゲーム機が握られている。

「更にその部下が有能なんだから良いじゃないか。君達が優秀過ぎて私は暇だよ」

実際玉城以下ライの部下達は、事務仕事に関しては総じて優秀だ。
騎士団レベルの事務すらできなかった玉城だが、何故か特区レベルの事務では活躍している【税込25帝国ドルのバイブル本のお陰か?】


「暇なら手伝えよテメェ!ゲームなんてやってんじゃねぇ」
「あぁあぁぁ!聞こえなぁい!」
耳に指を詰めてライが言った。

最初仕事に対する意欲が120有ったライは、思ったよりスムーズに流れている特区の政治に意欲を20削がれ、スザクが何もしないでニコニコしているだけの現状に30削られ、直属の部下達【事務仕事オンリー】の否定的な態度に40抉られて、残った意欲は30。

そんなライが、仕事を必要最低限しかしないのは必然と言えた。
しかしその必要最低限を上手く、サラリと処理してしまうから部下達は面白くない。




「で?」
「うん?」
玉城は苛立たしさを前面に押し出した顔で机を叩いた。

「ん?じゃねぇよ?!役得ってぇのはなんなんだってんだよ!!」
ライはヤレヤレと首を振る。

青筋を浮かべる玉城。

「ぶっ飛ばすぞお前」
「返り討ちだよ。………まぁ役得っていうのはだな、ゲーム・その他だ」
「はぁ?」
「分からないか?ゲーム・その他だよ」

電波?
そう問いたくなる程、意味不明な上官の言葉に玉城は脂汗を浮かべた。

―こんなのの下で仕事して、俺に未来はあんのか?―

半ば本気でそんな事を考える部下を、ライは無視して話を続ける。

「君はゲームに出られるじゃないか…」
下を向き、肩を震わせるライに、玉城は焦る。
「俺はゲームになんて出てねぇよ」
「嘘をつけ!出てるじゃないか、発売して直ぐにワゴン行きの片道切符を得たと言う、盤上じゃない方と、盤上にだって!!」
「あぁそれか……………っつ、ゲフン、ゴフン、オッホン!……………お前も両方出てんだろ!このゲームにだって………」
露骨な誤魔化しにライは騙される。



「私には名前は無いだろ」
「あるじゃねえか、ライって名前がしっかり!」
玉城の言葉にライはゲームを置いて立ち上がった。

不穏な空気を感じて2M程後退る玉城。

「それは…………」
「そ、それは?」
「デフォルトネームじゃないかあああああ!!」
眼にも止まらぬ動きで、ライは玉城を殴った。

それで吹っ飛んだ玉城は壁に激突し、のた打ち回る。
「ぐぅふぉ!ゲホッ!!……な、3Mは離れてたのに、一瞬で!?」
「問題はそこじゃない!!」
「ひでぇ……」
「分かるか君に、私の気持ちが!行け、団員B………え?吉田って言うんだ。
知らなかった~~って言ってる私が、自分の名前を意気揚々とマイクに言おうとしたら「P1」だったこの気持!!!!なに?吉田なんかに負けてるのか?てか吉田って特区に居たか?見た事ないけど!?」
「やっぱりヒデェ」
「このままだと、無節操にロボット集めて大戦してるゲームにでさえ私は呼ばれず、ギャグ担当でお前が呼ばれる始末になりそうだ…………」



「んなこたねぇよ。……ほ、ほら、あのゲームにゃOVAとか漫画版とかも出れんだからさ、その枠に入れれば良い話だろ」
何故かフォローに走る玉城。
「そうだな!」
単純なライはやはり引っ掛かる。

「んで、ゲーム・その他のその他ってのは?」
「駅伝の次の日にやる番組に出てるだろ?それだよ」
「それは中のひt……中の人なんていないぞ!!」
「だよね。私にも中の人なんていないよ、中の人なんてね。……そう、中の人なんてぇぇ!!」
再び錯乱したライ。
彼を止めるのはやはり玉城。



二人はこんな会話を毎日毎日飽きずにやっているのだった…………


最終更新:2010年09月05日 02:13
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