ライは目の前のポスターを見て深く溜息をついた。
その様子をルルーシュが苦笑して眺めている。
それに気がつかないまま、再びライの口から溜息が漏れる。
その様子を見てやれやれといった表情を浮かべると、ルルーシュがポンと肩を叩いた。
「こうなるのは予想できただろう?」
その言葉に、ライはまた深い溜息を吐き出すと、ゆっくりとポスターの方に向いていた視線をルルーシュに向けた。
「ああ、わかってはいたんだけどね。それでも実際に目にすると……ねぇ……」
ポンポンと再び肩を軽く叩くルルーシュ。慰めか同意の意味だろう。いや、或いは両方かもしれない。
なぜなら、ルルーシュにとっても他人事ではない。なんせ、ライが来るまでは自分がライの位置にいたのだから。
再びライの視線がポスターに向かう。
そこには、大きくライの写真が載っており、彼が生徒会主催の劇の主演のやることが告知されていたが、それはポスター全
体のほんの三分の一程度で、残りはでかでかと大きな文字か躍っている。
もちろん、劇の相手を投票で決めるという告知だ。
だが、その謳い文句はとてもじゃないがあまりにも飛躍しすぎる想像を駆り立てるに十分なものだったのである。
銀髪美少年のお相手投票決定戦。
あの幻の美少年のお相手は誰?
よく知らない人が読んだらどんなことを想像するだろうか。
下手すると変な週刊誌の記事あたりを想像してもおかしくないなと思ってしまう。
そう考えると、ライの背筋に寒いものが走る。
そうなったら、とてもじゃないが収集がつくとは思えない。
ただ、唯一の救いは、小さくながらも生徒会役員から選んでくださいの文字が小さくながらも書かれていることだろうか。
そして、投票の方法と締め切り、結果発表の日が記入してある。
そこら辺もいたってまともな文面である。
「しばらくの我慢だよ。それに見出しこそあおっている感じはするが、それ以外は問題ないみたいだしな」
「ああ、そうだな。そうなんだよな……」
そのライの言葉に怪訝そうなルルーシュの声が続く。
「どうしたんだ?らしくないじゃないか……」
その問いに、納得できないような表情でライが答えた。
「いや、なんか引っかかってるんだ」
その言葉に今度はルルーシュが納得できないような表情を作る。
「ふむ~……。確かに……。会長にしてはあっさりしすぎている気がするな」
「だろう?」
「確かにな……」
二人とも腕を組み考え込む。
しかし、考えれば考えるほど恐ろしい考えが浮かんだのだろう。二人は慌てて頭を振った。
「か、考えすぎかもな……」
「そ、そうだな。そのとおりだ」
二人は共に顔を合わせると苦笑いを浮かべた。
まさかな……。
しかし、この時、ライとルルーシュは検討すべきだったのかもしれない。
もちろん、あらゆる可能性を……。
だが、今の彼らにはそこまで考えることを放棄した。
いくらミレイさんでもそこまではしないだろう。
そんな楽観的思考を彼らは後で後悔することになる。
そして、その後悔は一週間後に現実になった。
「なんだ、これはっ……!?」
「うそだろ……、これは……」
結果発表されたポスターを見て僕とルルーシュは愕然とした。
そこには、投票結果がでかでかと書いてある。
いや、別にそれは驚く事ではない。
最初からわかっていたことだ。
問題は別にある。
結果の内容が問題なのである。
そこにはでかでかとこう書かれていた。
銀髪美少年の相手方決まる!!
お相手(お姫様役)には、生徒会副会長 ルルーシュ・ランペルージュ!!
美少年二人による素晴らしき競演にみんな期待せよ!!
僕ら二人が唖然として(放心して)その場に立ち尽くしていると、何とか笑いを堪え様としているものの、まったく堪えきれ
ていない様子でリヴァルが声をかけてきた。
「いやぁ、おめでとう……、二人ともっ……」
実に楽しそうである。
その様子があまりにもムカついたので思わず睨みつける。もちろん、ルルーシュもである。
「お、おおっと……、そう睨まないでくれよぉ、二人とも」
「睨まれたくなかったら黙ってろ、リヴァル」
ルルーシュの棘のある言葉に僕も頷く。
その言葉にリヴァルは苦笑しながらわかったとジェスチャーする。
確かに自分に火の粉がかからなければ、実に楽しい状況だという事は僕でもわかる。
だからリヴァルを責める筋合いはないのだが、愚痴のひとつも言いたくなるのが人情なのである。
なんかそれを考えれば、自分自身、最初のころの無表情に比べるとなんか感情の動きが出るようになったなぁと思ってしま
う。
もっとも、今はそれを素直に喜べない状況なのだが……。
「しかし、やっぱ、会長の予想通りになったか……」
そんなことをぼんやりと思っていた僕の耳にリヴァルの聞き捨てならない言葉が入ってくる。
それはルルーシュにもそう聞こえたのだろう。
二人同時にリヴァルに詰め寄った。
「「どういうことだっ」」
その迫力に押されたのだろう。
さっきまで浮かんでいた苦笑はかき消すように消え、一歩後ずさりした後に驚きと戸惑いが顔に浮かぶ。
「な、何がだよ……」
「「だから、会長の予想通りってどういうことだ」」
呼吸を合わせたわけでも、タイミングを見ていったわけでもないのに、きちんとシンクロしてしまうあたり、多分、僕とル
ルーシュのタイミングや思考パターンは似ているのだろう。
「あ……。そのことか……」
理由がわかり、ほっとした表情を見せるリヴァル。
つまり、その態度からこの件に関してはリヴァルが大きく関わっていないという事がわかる。
という事は……。
「いやぁさぁ、会長が残念そうな声で言ってたのを聞いたからな」
そう言いながらリヴァルは僕らに説明しだした。
「うちの生徒会の女子ってさ、それぞれ熱心なファンが結構いるだろ。そういうファンからしたら美少年のお相手なんてさ
せたくないじゃん。やっぱさ……」
その言葉に、僕とルルーシュは頷く。
確かに気になる子が劇とはいえ別の男との恋愛シーンなんて見たくないだろう。
僕だって、嫉妬ぐらいするかもしれない。
「それは女の子にも当てはまるわけよ。どうのこうの言いながら、ライの隠れファン結構いるって話しだしなぁ」
「しかしだ。それらがどうして俺の票につながるんだ?」
確かにその通りである。
生徒会の女生徒に票があまり集まらないのは納得できる。しかし、それがどうして圧倒的なルルーシュへの投票になるのか
。それがまだ納得できない。
そんな僕とルルーシュの態度に、リヴァルはため息を吐いて哀れそうに僕らを見た。
その目には同情というより、なんでこんな連中がという哀れみに近い色が見える。
「ほんと、わかんないのかねぇ……」
「「わからん」」
「つまりだ。男性にしてみれば気になる女の子を選ぶわけがなく、ましてや、女の子にモテモテの様子なんて見たくない。
女性にしても気になる男子が他の女の子とイチャイチャするのは嫌だ。つまり、それで選択肢の中で女子は消え去った」
ふむふむ。
思わず、僕とルルーシュは頷く。
言われてみれば納得できる。
「でだ、残ったのは男子だが、ここで問題は知名度ってことになる」
その瞬間、ルルーシュが頭を抱えた。
何か思いつくことがあるらしい。
「そういうことかっ」
思わず口走るルルーシュに、よくわからない僕。
だからだろうか。
リヴァルはニタリと笑いながら言葉を続けた。
「ルルーシュはわかったみたいだね」
「もう、言わなくていい……」
その会話だけではわからない僕は聞き返す。
「どういうことだ?」
ちらりとルルーシュを見た後、リヴァルは口をひらいた。
その表情には優越感と満足感に満たされている。
「いやねぇ、以前、男女逆転祭りがあってね……」
「言うなっ!!}
ルルーシュがリヴァルに睨みつける様な視線を向ける。
その視線の鋭さに思わず開きかけたリヴァルの口が止まったが、もうそれ以上の言葉は要らなかった。
「わかったよ……。そういうことか……」
そう呟いた後、自然とため息が漏れる。
「くそっ。不覚だった……」
ルルーシュの口から言葉がこぼれる。
僕も頭を抱え、唸る。
その様子をみて、リヴァルが呟いた。
「しかしさ、本当に二人とも頭はいいのに、こういうことに関してはまったく駄目だなぁ……。考えたら思いつきそうなこ
となのにさ。多分、二人以外は思いついたと思うぜ、こういう予想は……」
無慈悲なその言葉に、ぷちんと何かが切れた。
うつむいていた視線を上げると同じように視線を上げたルルーシュと目が合う。
こくり。
頷きあうと拳に力を入れた。
どかっ!!
その後に続くのは何かを殴りつける音が二つ。
そして、リヴァルの悲鳴だった。
しかし、劇どうしよう……。
まさか、本当に……。
思わずルルーシュの方を見る。
なぜかルルーシュもこっちの方を見ていた。
目と目が合う。
そして……、目を伏せるルルーシュ。
なぜか頬が赤い……。
なんで頬が紅いんだよっと心の中で突っ込みつつも僕も追わず目を背けた。
勘弁してくれよぉ……。
つづく
最終更新:2011年12月05日 13:19