「ギアスの力は王の力。王の力は人を孤独にする」
揺れる馬車の荷台に寝転び空を仰ぐ少女は、此処に居ない誰かへ話し掛けるかのように呟く。
そして自身の言葉に、いいやと否定の笑みを溢した。
「少しだけ違っていたか……」
少女はとても嬉しそうに、空へ優しく語り掛ける。
「なぁ、ルルーシュ」
その声に、言葉に答える者は、既にこの世には存在しない。
だからこれは、ただの独り言。彼ならばこう答えるだろう、そう思える答えもあるが、独り言だ。
彼女は可笑しくなって、笑顔を浮かべたまま、馬車に揺られる。
「何処まで行くつもりだ?」
ふと、馬車を操る御者から少女へ声が掛かる。まだ若々しさを保つ声に、少女は悪戯っぽく笑った。
「もう少しくらい感傷に浸らせてくれてもいいんじゃないか?」
「それは済まない。だが、せめて向かっている場所くらい……」
「行く宛など無いぞ」
「……分かった」
御者は少女に呆れ半分の苦笑を返しながら、被った麦わらを片手で押し上げる。
ずれた麦わらから、銀糸の束が零れ落ちる。陽光に目を細めた、彼の眼もまた空のように青く。
「なあ、ライ」
「何だ、C.C.」
「この世界は、きっと優しくなる」
「ああ、そうだな」
「私はそれを見届ける。不死身の私にこそ、その役目は相応しい」
青年、ライは返事を躊躇った。彼女の言葉が、自らに枷を施しているような気がして。
それを察知したC.C.はにやと口角を吊り上げ笑う。
「安心しろ。残念ながら私はお前達のおかげで人の温もりというものを思い出した。
私は寂しがり屋でな。お前にも付き合ってもらうぞ。一生な」
「なるほど、一生ね」
ライは左手の甲へ視線を落とす。そこに浮かび上がった、赤い鳥のような紋様。
コード保持者の証。
「消え行く筈が、命をも蝕む僕のギアスに反応して僕に移った。V.V.や皇帝の持っていたコード、か」
今でも信じられなかった。目が覚めたら不老不死になっていたのだから。
世界が変わろうとしている。その変化の為に起きたすべてを聞かされたライは、涙した。
その場に立つことができなかった自分への悔しさとか、友の死への悲しみで。
だから、せめて。
「君達の創った世界は、僕達が見届けるよ。ずっと」
その声に、言葉に答える者は、やはりこの世には存在しない。
そしてこれも、ただの独り言。独り言だ。
「さて、まずはE.U.に行こうか」
「何の目的で……そうか、イタリア州に行きたいんだな」
「その通りだ。何せピザの本場だぞ? ここ暫く質素な暮らしだったのだ。ピザが食べたい」「はいはい」
馬車は揺れる。少女は空を仰ぎ、限り無い未来を思って笑った。
御者は麦わらを被り直し、E.U.へ向けて馬を走らせる。その顔には笑み。
それが永遠の旅の始まり。
最終更新:2012年12月19日 11:41