あらすじ
ある日、運命はわき道に逸れた
カレンはマオに拉致された
マオに一度は心を壊されたカレンだったが、ライへの愛によって自力で復活
マオを倒し、心身ともに叩き伏せたが
助けに来たライはすでに心を壊されていた
C・Cの力でライの精神世界に飛び込んだカレン
そこで、カレンはライの過去を知る
ライの苦しみ、罪業を受け止めたカレン
そして、カレンはようやくライの心の中でライと出会う
カレンの愛を受け取り、己の弱さに克ったライ
二人の心は一つに結ばれ、ライは現実世界へと帰還した
病院に入院していたライはお見舞いに来た生徒会の皆とともに過ごしていた
夕方の屋上でユーフェミアはライに耳打ちをする
彼女ははライの正体を知っていたのだった
ライ退院から三日後……
夕刻 ブリタニア政庁
ライとカレンは応接室ソファに座っていた……
受付でアポを取り、今ここにいるのであった
ガチャリ……
ドアが開いて、ユーフェミアが入ってくる
彼女を見ていると、今、存在している事が不思議に思えてならなかった
もし、自分があの場に居ず、あのまま彼女が……
ライは想像するだけで寒気がした
それにしても皮肉なものである
己の国を滅ぼした王が、一人の少女の未来と、数万人の日本人の命を救ったというのは
「お待たせいたしました、あ……スザクはここで……」スザクを外に置いて、人払いをしようとしたが
「待ってください!ユーフェミア副総督、スザクも一緒に聞いてもらいましょう……
彼は自分の親友でもあります!」
僕とカレンが黒の騎士団のメンバーである事を黙っていてくれた事に対する信頼でもあった
「そうですか……ではスザクも一緒に……」
紅茶を出されたものの、話が話だけに何から話せばよいのかがわからない……
ライも気になっていた、なぜ彼女が半信半疑とはいえ、自分の正体を知っていたのか
余りにも常識から外れた事であるはずだが……
事情を知らないスザクも、何から話せばいいのか、呆然としていた
ユーフェミアが意を決し口を開く
「スザク……あの絵をどう思いますか?」
スザクはユーフェミアの指が指された方向の肖像画を見る
「えっ!?な……なんで!?あれって、まるで……ライ?」
スザクは戸惑いながら、絵とライを交互に見比べていた……
正面で呆然とするスザクにただならぬ様子を感じたライとカレンは後ろの絵を見た
「えっ!?あれって……あなたの……」カレンが驚くのも無理はなかった
そこに描かれていたのは、「狂王」と呼ばれていた、かつてのライ自身の肖像画であった……
「その絵に描かれている方は、ライエル王……叔母上様が愛した人……」
バルコニーに立っていたライエル王……
銀の髪を風になびかせ、皇族の衣装を身に纏って大刀を杖にして堂々と立っていた
全てを射抜くような鋭い目をしてはいたが、どこか寂しさを奥に秘めていた……
その瞳はカレンやスザクが出会った頃の、ライそのものの目であった
ライを愛した女性は彼自身の本質を捉えていたという事だろう……
呆然としていたスザクにライは口を開いた
「気付いたかい?スザク、信じられないと思う、話しても妄想の類って笑われるだろうね……その絵に描かれているのは、僕自身なんだよ……僕は、この時代の人間じゃないんだ……」
「まさか……ライエル王って、あの小説の相手役の……ライ、君なのか!?」
ライはコクリと頷いた
「まあ……コールドスリープとか思ってくれればいいよ……
あの本に書かれていた様な綺麗なものじゃないけどね……」
ライは二人に自分の事を話した(無論、ギアスの事はうまく誤魔化して)
日本人とのハーフであるが故に、周囲の者達に軽んじられていた事
己と母と妹の立場の確立の為に、異母兄を抹殺し王座に付いた事
逆らう者たちへの粛清
隣国との戦、その最中の初恋
そして、全てを失い、眠りに付いた事……
ライが話し終えた時
スザクもユーフェミアもただ呆然としていた……
スザクにいたっては、頭が混乱していた
なにしろ、ライの言葉を信じるならば、ユーフェミアとルルーシュにとって、先祖であり、自分にとっても、神楽耶を経てさらに遠い遠い親戚なのだから……
しばらくして、ユーフェミアが本らしきものをテーブルに置いた
ライはユーフェミアを見た
彼女が頷いたのを確認して本を開いた
日記のようだ
○月×日
信じられない!!
まさか、あの「狂王ライ」が私の目の前にいるなんて!!
死んだルルーシュと同い年といったところだろうか……
それにしても……このような事誰かに言ったところで、私が狂人扱いされそうだ……
×月△日
肉体強化は順調だ……
私の選任騎士にすれば、このエリアの治安も安定するだろう……
さらに、日記からはエリア総督としての苦悩がありありと伝わってきたのだった
「これはクロヴィス兄様の日記です、兄の死後見つかったものです
私も最初は妄想の類かと思いましたが、幼い頃見たあの絵を思い出したのです
それと、スザクが学校での写真を時々見せてくれたのですが、
そこにあなたが映っていたのです……ライエル王、とお呼びすればいいのでしょうか?」
「いえ、僕はもう王でも何でもありませんから、ライでお願いします
あと、僕の正体はできれば……内密にお願いします」
「そうですね、まあ、このような事を言っても誰も信じないでしょうから……」
「ライ……僕も話さなければいけない事があるんだ……」
ライが自分の事を話したのだろう
スザクが意を決し、自分のことを話してくれた
ブリタニアの日本侵攻の際、父親を殺して事を……
三人は神妙な面持ちでスザクの告白を聴いていた……
自分の行動が、国家の命運を左右し、それによって、ブリタニアの占領を決定付け、同胞が虐げられた現状を作り出したのはスザクにとって重い十字架であっただろう……
父親の無謀な徹底抗戦による国民総玉砕を回避した事など、気休めになるはずもない
「スザク、君も重いものを背負っていたのか……」
スザクは澱んでいたものを吐き出したのか、どこか安堵した表情だった……
四人はお茶を飲みながら、色んな事を話した
これまでの事、これからの事、自分がこの世界でできる事、
わからない事だらけだけど、思い思いの考えを話したりした……
しばらく話し込んだ頃、
「スザク、あなたに取って来てもらいたい物があります……」
ユーフェミアはそう言って、スザクに鍵を渡したのだった
しばらくして、スザクが両手に抱えて持ってきたのは、長さの違う、二つの木の箱だった……
「これは?」ライは尋ねる
「開けてみてください」ユーフェミアはそう言うだけだった……
二つの箱を開けたライは驚きを隠せなかった!
「な……こ、これって……!」
そこにあったのは、かつて自分が王だった頃、使っていた二振りの日本刀だった……
師匠の形見分けであり、
戦場で振るっていた大刀、
それと、初恋の彼女に贈り物としてあげた小刀だった
「ライ、それを見せてくれるかな」ライはスザクに刀を渡す
「失礼いたします」ユーフェミアにそう言って、スザクは軽く鯉口を斬った……
「すごい……藤堂さんに刀を見せてもらった事があったけど、かなりの業物だよこれ……」
ライも驚いていた、かなりの年月が経っていたが、刃の輝きは両方ともあの時のままだった
これだけ保存状態がいいのは手入れを怠っていなかった証明なのだから……
「小刀は叔母上様の宝物でした、尊敬されていたのでしょう
私の一族が大切に保管していました
大刀の方は、焼け跡から刃しか残っていなかったので鞘も柄も新しいものに設えたそうです
ライ、これらをあなたにお返しします……」
「えっ?これらは僕が彼女に」
「そう、叔母上様に差し上げたものなのでしょう……「私の一族に」ではありません
これらはあなたが持っていて欲しいのです……叔母上様もそう望んでいるでしょう……」
ライは刀を手に取った
思い出す……王だった頃の記憶が
師匠を失い、形見として受け取ったあの日……
戦場で大刀を振るい、王の重圧、孤独から逃げていた事
小刀を自分に光を与えてくれた女性に贈った日のことを……
思い出がライの体中を駆け巡る……
立っている事さえできずに、ソファにもたれ掛かり、両手で顔を覆い……
「うっ……うあああぁっあああああああ……ああああああああ……」
声を押し殺しきれずに……泣いた……
エピローグ
ある晴れた日曜の早朝
「破っ!!」
ブンッ!!
道着を着たライは汗を流し、クラブハウスの庭で木刀を振っていた
「…… カレン、そんな所でじっとしてないで、こっちに来なよ」
カレンの気配を感じ、ライは素振りを中断する
「ごめんなさい、稽古の邪魔しちゃったかしら……」
「あ、いいよ切りのいいところだったから、それよりカレン、随分早いじゃないか、面会までには、まだ時間があるはずだよ」
「それにしても、いいの?あなたの刀、藤堂さんに預けて……」
「うん、僕はまだあの刀を持つにふさわしくないんだ……だから、今はこうして自分を鍛えなおしているんだ」
そう言って、ライは自分の手を見つめる……
自分の手に豆ができ、ライはブランクが埋まっていくのを感じていた
「ライ、あたし部屋でご飯作ってくるからね」
「じゃあ、腹ごなしにもうひとっ走り行ってくるよ!!」
ライはカレンの手料理を心待ちにしながら、ランニングを開始したのだった
昼 トウキョウ租界内麻薬更生院にて
「面会時間は一時間です……あと禁断症状がでた場合、面会を中止させていただく場合がありますので御了承ください」
係の者がそう言って部屋の鍵を開けた
ガチャリ……
扉が開いて、カレンが収容されている女性の下に駆け寄り、手を握った
「カ……レン」女性は弱々しい声で、カレンに答える
「お母さん……」カレンは母との再会に涙を抑えられなかった
カレンの母親は娘の将来の為に、側に居たいが為にシュタットフェルト家に入り
そこで、他の使用人からいじめを受け、娘のカレンからも八つ当たりを受け
いつしか、リフレインに逃げていたのだった
カレンが母親の愛情を知った時には、すでに彼女は薬物の後遺症により心を病んでおり
その上、イレブンであるが故に懲役二十年という不当な判決を受けていた
それでも、最近では特区の成立により、日本人に対する不当な差別の現状が見直され、懲役についてはまだ審議中であるが、
この麻薬更生院に治療をかねて移送されたのだった
まだ会話は不十分ではあるが、少しずつ、ゆっくりと着実に回復している
この調子なら、遠い将来に自宅療養の目処が立ちそうだ
「あ、あの、自分はカレンさんとお付き合いさせていただいております……ライ=ランペルージです!!」
緊張しながら自己紹介するライに、カレンの母は嬉しそうに微笑んでいた……
ライとカレンは時間の続く限り、彼女に色んな事を話した
(当然、黒の騎士団については避ける形で)
学園での生活、デートした時の事や、カレンが料理を勉強し始めた事、自分達の将来の事等……
ぎゅっ……と彼女がライの手を握った……
「カ……レン……を……よろし……く……お願い……します……」
ライの資質に何かを感じたのだろう
彼女は紡ぎ出せる精一杯の言葉をライに投げかけた
母親が子を思う親心が痛いほど伝わってきた
(母上……)
ライは自分の母ミコトを思い、涙を浮かべるのだった……
しばらくして、ライとカレンは安堵した彼女から、花が枯れていく様な儚さを感じていた
事実、彼女は既に生きる意志を手放していた
愛する娘を任せられる者がいるのならば、もう自分がいる必要がないと……
ライは手を握りながら、どう言葉を返せばいいかわからなかった
「時間です」無機質な声が室内に響く
規則がある以上、この手を離さなくてはならない
コツ……コツ……
係りの者がライを引き離そうと近づいてくる
ライは咄嗟に手を強く握り返し……
「あ、あの……ま、孫の顔……見に来てください!!」
しばらくの沈黙の後
「えっ!ライ!?」カレンは顔を真っ赤にしながら、戸惑うのだった
「あ……ありが……とうございます……ありがとう……ございます……」
ライの手を細い指で精一杯握り返し、耐え切れずに、一筋の涙を流すのだった
二人は彼女の生きる意志にかすかに炎が灯ったのを感じていた
夕方の帰り道二人は公園を歩いていた
「もう……ライったら」カレンの顔が未だに赤かったりする
「ま、まあ……そういう事になるだろうね……」ライも恥ずかしさで頭を掻いていた
「ありがとう、お母さんを元気付けてくれて……」
「親が子を思う気持ち、伝わってきたよ」ライはしみじみ思った
「ライ、これからどうするの?」
「今はまだ、わからない……特区だって、誰もが賛成しているわけじゃない
全てのゲットーに対して対応しきれている訳じゃないし、
特区内でも日本人が希望を抱き始めている頃で、
それでも、世界の多くはまだ不安定で
まあ……考える事は一杯あって整理が付かなかったりするんだよな……でも」
それでも、今、ここに存在している自分がやれる事がある
血で穢れた自分がまだ生きている事にもきっと意味がある
こんな自分を受け入れてくれた大切な人がいる
歴史上死んでいるはずの自分がこの時代に存在している事も必然なのかもしれない
だから、何かを成し遂げるために……
僕は生きていく!!
ライは空を見上げ、そう誓った!! (完)
*
最終更新:2009年06月23日 03:13