042-113 七夕in騎士団 @全力感想人Y

「……ライー? そんなに急いでどこに行くのかな?」
 生徒会での仕事を切り上げたミレイは、彼女が終了を告げて数分も待たずに出口へと駆け出すライに尋ねた。
「えっと……ちょっと前に知り合った人達から誘われて七夕を祝うことに……」
 歯切れ悪く言うライをミレイは少し怪訝な顔で見て、あごに手をあて小さなうなり声を出した後、こう聞いた。
「……七夕って、何?」
「……えっと……」
 聞かれてライは更に言葉を濁す、彼自身七夕が具体的にどういう行事なのは把握出来ていないのだ。
 しばらく二人の間の時間が停止するが、その停止した時を動かす存在がいた。
「七夕っていうのは、笹に願いごとを書いた短冊っていうのをつるしたりするんです」
 その人物の名は枢木スザク、おそらく今の生徒会室内にて最も七夕について詳しい男であった。
「へぇ、願い事ねぇ……欲しいプレゼントを書いた紙を靴下の中に入れるみたいなもの?」
 それを聞いたミレイはすぐさま自分の知識内にて最も一致するイベントを思い浮かべた。
 しかし、それはスザクに否定された。
「いえ、そういう物質的なものじゃなくて……例えば『健康第一』とか『家内安全』とかそういう願いを書くんです。
 ルルーシュは前に「利益があるのは芸事だ」って言ってましたけど……」
 そういって何気なくルルーシュの仕事机に視線を向ける二人、当然のようにサボった彼を思い浮かべ一様にため息をついた。
「まったく、こういう時はルルーシュが自慢気に蘊蓄を披露するもんでしょう?」
「そう……なのかな……?
 ……そうだ、七夕には織姫と彦星っていう話があって―――」
 ちなみにスザクに気を取られていたミレイはライが既に生徒会室内にいないことに気付いていなかった。

「ふぅ……助かった」
 忍び足でクラブハウスを脱出したライは安堵の息を漏らした。
 事前にカレンから「“絶対に”遅れないように」と念をおされていた。
 ――のも理由の1つだが、通りすがりのC.C.がそれに便乗して「ほぅ、ならば遅れたら今月は私にピザを奢り続けて貰おうか」などといい、何故かカレンがそれに同意したのが大きな理由である。
 「存分に遅れるといい」と笑顔で言うC.C.に噛み付くカレン、二人の様子は小走りとなっている今でも容易に思い返すことができた。
「でも、スザクの話だと願い事を書く行事らしいが……遅れてもいいんじゃ……」
 呟きつつもペースを維持出来れば充分に時間に間に合うだろう、と推測しながらライは走る。
 願い事には時間制限があるのだろうか、などと考えながら。


「おっ、もう来たのか!」
「来た、エース来た!」
「これで勝つる!」
 ライが騎士団のアジトに到着すると三人の酔っ払いがいた。
 玉城は、まぁいつものことだが、南と杉山まで日の沈まぬ内から酒を飲んでいた。
「……」
「おいィ? 待てよぉライぃ」
 無言で通り過ぎようとしたライを玉城が引き止める。
 酒を注いだコップを片手に、どこか不機嫌そうな表情で。
「なんなんだ、玉城?」
 とりあえずライは玉城に尋ねてみた、半身になりいつでも駆け出す準備を整えながら
「アァ? 俺のすすめる酒が飲めねぇってぇのか?」
 うん、酔っ払いの絡みだ。 そう判断したライはすぐさまそこから離れようとした。
 が、その動きは阻害された。 酔っ払いその2、その3によって。
「まぁ、まずは一献」
「飲みゃ分かるって」
 ライはそんなまとわりついてくる酔っ払いを振りほどきながら自らの時計を見る。
 時間があれば少し、ほんの少しだけ付き合い隙をみて逃げるのだが、今はその少しの時間が惜しかった。
 このままでは財布の中身がピザでマッハになってしまうのは火を見るようにわかりきってしまっていた。
 笑みを浮かべながらライが玉城に酒を飲まされようとした時、彼に救いの手が差しのべられた。
「あんたたち、未成年に何やってんの!」
「カ……井上さん!」
 響くカレ……井上の声に酔っ払い達の動きが止まる。
 ライはその隙をつき拘束から脱する。 そしてそのままラウンジの方に駆け出した。
「全くあんたら……酒は呑んでも飲まれるなという名セリフを知らないの?
 知らないならその頭に意味はないわね、酒瓶で後ろから砕いてあげようかしら?」
 そんなライを見送った井上は酔っ払いトリオに視線を向ける。
 いつもと若干様子が違う井上に恐れおののきながら玉城は反論を試みた。
「そういうお前だって酔っ払ってんじゃねぇか、見ろ見事なカウンターで返した―――」
 しかし、彼の挑戦は無謀であったようだ。 言葉を言い終えるか否かのタイミングで玉城の懐に潜り込んだ井上はそのままアイアンクローをかけた。
「私がどうやって酔っ払ってるって証拠よ今日の私は小清水モードなだけ」
「痛い、痛いって! おい、南! 杉山! 見てねぇで助けろ……!」
 そう言って目を二人がいる斜め右後方辺りに向けた。
 しかし、そこには誰もいなかった。
「聞き分けが悪いのはアンタだけだったわね」
 玉城は絶望した。
「ギリギリセーフね」
「……チッ」
 少し安心したようなカレンの言葉にC.C.の舌打ちが続いた。
「あぁ、ちょっと危なかったけどね。
 で、今日は七夕って聞いたけど……」
 急いで来たものの、結局何をするのかよく分かっていないライはカレンに尋ねた。
「あ、そうか説明しないとね。 記憶喪失だっていうのに色々知っていたからつい知っているものだと思っていたわ」
 記憶を失っているライだが、ほとんどの一般常識―――何故かKMFの操縦法までも―――を知っていた為、カレンは彼が七夕について知っているものと思っていたのだ。
「ふむ、それについては私から説明させて貰おうか」
 簡単な説明をしようとしたカレンを押しのけ、仮面を被った人間が会話に割って入った。
「ゼロ! じゃ、じゃあお願いします」
 そう言いカレンはライの正面からライの隣へと移動し、ゼロに説明を促した。
「よし、では少し早いが七夕祭りの開催の挨拶がてらに説明をしよう。 ……ディートハルト!」
 ゼロがディートハルトの名を呼ぶと明かりが消え、そしてゼロへとスポットライトが当たる。
「黒の騎士団の諸君! 今日、集まってくれたことに感謝する」
 ゼロはマントを閉じ、直立して挨拶を開始した。
「七夕、それはそもそも日本や中華連邦等で行われていた節句というものが由来と言われている。
 また、元来は中華連邦の行事であったが、昔日本に伝来したときに棚機津女(たなばたつめ)の伝説が合わさり生まれた言葉だ。
 願い事をするという風習は織姫が織物等の芸事に長けていたことから、手習いの願掛けが広まったことが由来とされている――――」
 腕を振り、頭を振り、全身を使ったその躍動感溢れる説明は、見ていて飽きないものであった。
「カレン」
「……何?」
 しばらくゼロの説明を聞いていたライだが、おもむろにカレンに声をかけた。
「手短に説明してくれないか?」
「短冊、こういう長方形の紙に願い事を書いて笹に吊るすの」
「ありがとう」
 カレンの簡潔な説明を聞き、とりあえずやるべきこと―――願い事を書く―――を理解したライはゼロの言葉と動きに集中することにした。
「―――と、いうことで引き離された織姫と彦星が一年に一度……ん?」
 織姫と彦星の話を感情をこめた機械音声で朗読し終えたゼロの肩を扇が叩く。
「あー……ゼロ、予定時間をオーバーしているんだが……」
 腕時計を指差しながら指摘する扇。 確かに開始予定時間から10分ほど過ぎているのをゼロは仮面ごしに見てとった。
 予定より早く挨拶を始めたのにも関わらずの時間をオーバーする話に扇は彼がかつて働いていた場所の長のことを思い出したりしていた。
「む、すまない。
 よし、では今、この時より七夕祭りを開催することをここに宣言する!」
 その言葉と同時にゼロは両手を捻りつつ両腕を広げ、足をピッタリと揃えポーズを決めた。
「カレンは何を書いたんだ?」
 ライは渡された短冊に何を書こうか迷い、カレンの意見を参考にしようと聞いてみた。
「私は、日本解放……って書こうと思ったんだけどゼロの話を聴くと……」
「『KMFの操縦技術を上げる』か……そういえばそういう技術的なものに利益があるっていってたな……」
 僕もそう書こうかな、と呟きつつライはペンを走らせる。
「おい、私には聞かんのか?」
「じゃあ、C.C.は何て書いたんだ?」
 ライはペンを止め、何となく予想がつくものの一応聞き返してみた。 するとC.C.は何も言わずに短冊をつき出した。
 そこに書いているのは『ピザ』の二文字。 下に描かれているピザのイラストがやけに上手いのが目につく。
 やっぱりか、とそう思いながらライはC.C.に短冊を返そうとする……がC.C.はそれを受け取らなかった。
「私の願いを見たんだ、対価としてそれを一番高いところに付けて貰おうか」
 幾度も部屋に侵入され、勝手にベットを占領され、ピザを買わされた経験から何を言っても無駄だと悟ったライは自分の短冊にサっと文字を書くと自分とC.C.の短冊を持って笹の方へと歩き出した。
「なんだ、言い返さないのか……つまらん」
「あんたねぇ……!」
 ライは後ろで始まった口論を華麗にスルーしつつ卜部に脚立を渡して高めの位置に貼って貰った。





 少し酒に付き合わされたり、何故かあった虫料理に神楽耶がパニックを起こしたり、カレンとC.C.の喧嘩の仲裁をしたり―――
 七夕祭りといってもやってることは普通の宴会だな、そんなことを思いながらライは少し風に当たる為にアジトの外に出た。
「ふぅ……ん? ゼロ?」
 一息ついた所で怪しげな人影が目に入った。
「む、ライか。 どうしたんだ?」
「僕は風にあたりにきたんだけど……」
 ライはそこで言葉を切る。 君こそどうして、と続けようとしたがその理由が何となく分かったからだ。
「……そう、お前の考えている通りだ」
「じゃあ……」
 ライの言葉にゼロは頷き、そして言う。
「仮面を付けていると飲み食いが出来ないのだ!」
 宴会と化した今の状況でそれは大きなハンデであった。
「……仮面、取ることが出来るようになるといいね」
「……ブリタニアを倒したらそれもいいかもしれないな」
 二人は何となく夜空を見上げる。 星一つ見えない曇り空に二人してため息をついた。


おまけ

「七夕ねぇ……うーん、今から準備してもさすがに間に合わないか……
 それにしても私がそんなおいしいイベントを見逃していたとは……!」
 心底残念そうに言うミレイにスザクはルルーシュから聞いた知識の中から慰めとなる言葉を探した。
「ええっと……七夕を祝うって文化は基本的に日本でしか行われないらしくって、会長が知らないのも仕方なかったと思いますよ」
 スザクの言葉を聞いても、どこか納得していない雰囲気なミレイであったが、何か思いついたのか唐突に笑顔を見せた。
「そうよね、知らなかったんだから仕方ないわよね……じゃあ、来年はやるわよ」
「え? 会長って今年度で卒業じゃあ……」
 スザクの言葉が聞こえなかったかのようにミレイはどこかに電話を始めた。
「――――えぇ、そう。 で、大きな笹を……うん、さっすがお爺様!」
 会長が卒業してもイベントとかあるのかもしれない……むしろOBとしてやってきそう……
 その光景を思い描き、楽しそうだな、とわくわくするスザクであった。


最終更新:2009年07月11日 07:50
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