第六話:決戦、ミッドウェー

 ホワイトハウスの会談から数日後、火炎共和国、木羅之基地――
 ここから六十機の戦略爆撃機、銀龍が飛び立った。
 銀龍は帝国軍の一式陸上攻撃機と米軍の爆撃機B29を合わせて2で割ったようなもので外観は日本型爆撃機だが、性能はB-29以上だ。

 十時間後、大東亜帝国帝都、東京上空――
 東京上空は六十機の銀龍が覆いつくしていた。
「目標上空へ到達。これより攻撃を開始する。ランチャー、一番、二番用意」
 格納庫が開き、箱のようなものが出てくる。
「攻撃、開始!」
 直後にその箱は下に向かって火を噴き、次々と爆弾を撃ち出す。これが銀龍の主要兵器、十式対地掃射機だ。これは地面を貫通し地下司令部破壊用に作られた多連装ロケットランチャーで
一機につき毎秒二十発もの対地ロケット焼夷弾及び対地飛散弾が撃ち出され、前者はその勢いで地下内に貫通、壕内を火の海にし、後者はその名の通りクラスター弾である。
 しかし、ここでそれを使うことは結果として大虐殺を招いた。なぜなら、前者は地下を破壊するために作られたのなら当然民間の防空壕も破壊してしまい、後者はクラスター弾の恐ろしさを
知っている人には言うまでもないだろう。したがって、このときの犠牲者は地球で言う東京大空襲の5倍にも膨れ上がったのである。
 帝都東京は徹底的に破壊され、これにより東京にいた政治閣僚や山本五十六を含む司令官などほとんどが死亡。(天皇は危機一髪で脱出)そして大東亜帝国の国家機能は完全に麻痺した。
後に帝国は大阪に臨時政府を移し、国家の建て直しをすることになる。しかし三日後、大規模なクーデターが行われ帝国主義政権が崩壊。一週間後には大東亜帝国は日本国として火炎共和国へ講和を申請。
両国は講和し、火炎共和国と日本は同盟を結んだのである。

 その頃、南米、フランス領ギアナ――
「一番、二番撃てーッ!」
 艦長のゲオルグ・ガーラーの指示で空中戦艦・デストロイアの巨大な砲塔が旋回しその砲身が火を噴く。
「十二時の方向から敵機!アメリカ空軍の模様」
「空中誘導爆雷用意」
 艦橋の横からロケットランチャーのようなものが出てくる。
「撃てーッ!」
 それから勢いよく飛び出した弾は対抗する米軍機に向かっていき、次の瞬間辺りが閃光に包まれた。それは米軍機が一瞬で消失した事を意味した。そして、二発目のN1が使用され、
残存フランス兵は一瞬にして消え去ったのであった。
 その後、デストロイアは中米パナマ運河、そして米国西海岸南部工業都市サンディエゴを地球上から次々と消しさらにアメリカ空軍の約五パーセントを削ぎ落とした。
 まさに究極の兵器だ。主力兵器はほとんど核兵器でとくにN1で焼かれた大地は最低でも約百年間は放射能で汚染され、草どころか微生物でさえ生きられる環境ではなくなると言われており、
まさにアドルフ・ヒトラーが求めた兵器そのものであったのだ。それ故に古代文明も“死の魔物”や“破壊神”等と名付けたのかもしれない……
 そして、その一週間後に陸海空軍をつれてロサンゼルスに、さらにその一週間後にはサンフランシスコに侵攻。
 独帝国相手に米軍も奮戦するが、デストロイアと後に続く新兵器により、後退する一方だった。

 アメリカ合衆国首都・ワシントンD.C 、大統領官邸・ホワイトハウス――
「何をやっているのだ君たちは!なぜあの“死の魔物(デストロイア)”をそして独軍を合衆国本土へ入れたのだ!」
 アメリカ合衆国第三二代大統領、フランクリン・ルーズベルトは怒りをあらわにしていた。
「申し訳ございません、大統領。しかし、いくら攻撃しようとしても、射程外から反撃されるので地上部隊、航空部隊は近づけないのです」
 陸軍長官のヘンリー・スティムソンが恐る恐る答える。
「全米の陸軍部隊、航空機部隊、艦隊をすべて導入しろ!試作機もだ!」
 ルーズベルトは恐れていた。デストロイアの矛先が自分に向くことを。そして、ロスアラモス原爆工場に独帝国軍が向かうことを……

 その頃、火炎共和国領、岩野島近海。共和国海軍実験艦、ガイリュウ――
「電算機、異常なし。目標、ダミーバルーン」
「発射管一番、四式誘導弾装填、発射準備!」
 四式誘導弾とは長年研究されてきた対地、対艦、対空能力を備えた無線誘導ミサイルで電算機で特定した目標に誘導、破壊することが出来る。
「四式誘導弾、撃て!」
 発射管が火を噴き勢い良く白い棒が飛び出した。これがミサイルである。それは天高く舞い上がり、上空の大型風船に命中、大爆発した。成功である。
「おめでとう。これで我が国の国防力はますます上がる。早速司令部へ報告し、実用化しよう。」
 共和国海軍廻林艦隊司令長官の三池はそこにいた。実は彼は物好きで、新兵器の実験には必ず顔を出すのだ。大抵の新兵器の採用、不採用は三池の顔で分かる。今回は採用のようだ。
技術者たちは胸を撫で下ろすと、すぐに作業を再開した。しかしこれを採用した三池にはある理由があった。それは、デストロイアの撃墜……

 一方、ナチス・オメガ帝国帝都、ベルリン――
「さて、皆に聞くが、この地球上で最優先に消したほうが良いのはどこだと思うかね?」
 総統であるアドルフ・ヒトラーは密かに会議を開いていた。
「皇帝、私は早期にアメリカを征服し、世界統一をしたほうがよろしいと思いますが……」
 海軍元帥のカール・デーニッツが答える。
「皇帝、私はアメリカではなく火炎共和国を先に叩いたほうが良いかと……」
 空軍元帥のヘルマン・ゲーリングが反論気味に答えた。
「たしかに、アメリカを先に叩いたほうが良いだろう。しかし、その技術力でアメリカの艦隊を壊滅状態へ追い込んだのが気に入らん。ゲーリング君、デストロイアに連絡しダッチハーバーを
破壊後すぐに共和国へ向かわせろ。そして、火炎と言う名の穢れた国をこの美しい世界から抹消するのだ」
 ヒトラーはそう言うと高官たちを部屋から出し、大好きなチョコレートを口に含んで噛み締めた。ベルギーチョコレートの香り高い芳香と甘みが口の中に広がる。これがヒトラーの至福の時間だ。
しかし、彼は知らなかった。このあと、計画の見直しを迫られることを……

 そのころ、火炎共和国首都、火城、軍総司令部海軍司令室……
「どうしました?司令」
 司令官の異常に気付いた早見が聞いてくる。久村は考えていた。
「今後のデストロイアの進路が気になってな。早見はどう思うか?」
 逆に聞き返された早見は瞬間的に答えられずしばらく悩んでアメリカと答えた。
「私もそう思うが、アメリカならなぜ直接ソ連のように首都を叩かないか。なぜアメリカに侵攻するのに南米を経由したのか。なぜ西海岸だけを攻撃するのか……。不思議と思わないか?」
「そう言えば、情報によると内陸部で原爆という大量破壊兵器を製造しているとか。もしやそこかもしれません」
 早見は断定的に言う。
「油断するな。いつ来るかわからん。国内の防衛能力を強化しておけ。それと、戦艦浅倉の近代改修はまだか。敵が侵攻して来るまでには完了させておけ」
 久村は手元のアイスコーヒーを一気に飲み干した。

 一週間後、北太平洋、アリューシャン列島沖。共和国海軍潜水艦、基-207――
「メインタンク注水!全速で沈降しろ!」
 艦長が叫ぶ。五分前だった。彼らが哨戒の任に当たっていた時、突然独軍の潜水艦Uボートと鉢合せとなった。以後ずっと追いかけられている。
「機関後進。敵の後ろにつけ!」
 艦長の予測通り敵は止まりきれずに自分たちを追い越した。
「今だ!魚雷発射口一番、二番ヨーイ!」
 魚雷発射口に魚雷が装填される。敵は全速で回避するが間に合わない。
「撃てーッ!」
 二分後、敵潜水艦は木っ端微塵になり海中を漂っていた。
「浮上する。メインタンクブロー」
 しかし、そこで待ち構える巨大な影があった。確認のために潜望鏡を上げた艦長は驚愕した。
「艦首右舷にデストロイア! 本国に連絡!」
 直後にそれが放った砲弾が潜水艦、基-207を撃ち抜き潜水艦内で炸裂。
その後の状況は言うまでもないだろう。

 一時間後、ミッドウェー諸島沖。火炎共和国海軍山狭艦隊旗艦、戦艦浅倉……
「遂に来たか……。本土には、絶対に入れさせんぞ」
 響艦隊司令長官からから山狭艦隊司令長官へ転属された巌伊はその艦橋から、地平線を睨んでいた。
戦艦浅倉は十年前に建造された老朽艦だったが、このときのために大改装が施されたのである。主な改装点は主砲の撤去とミサイルランチャーの搭載、そして艦の高速化である。
ミサイルランチャーには初の誘導多目的ミサイル、四式誘導弾を搭載。果たして、空中戦艦、デストロイアは倒せるのだろうか……

 同海域。共和国海軍廻林艦隊旗艦、大和……
「我々は今、デストロイアに向かっている。無論決死の覚悟だ。皆最善を尽くし、共和国を死守せよ!以上だ」
 三池の命令が作戦航行中の全艦隊へ流された。大和の艦橋内もこれまでに無い緊張に包まれている。
「電算機、広域レーダー起動しろ!急げ!」
 電算機、広域レーダーが起動し画面の隅に巨大な点とそれを囲むように無数の小さな点がある。デストロイアとその護衛機である。
「作戦展開中の全艦へ打電!『ワレ、敵大型空中戦艦見ユ。』第一種戦闘配備!」
「第一戦速、面舵一杯」

今ここに、超兵器デストロイアとの最終決戦が始まる……

最終更新:2009年10月29日 15:15
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