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25 :原作があるようです:2011/10/09(日) 16:50:17 ID:/5equpAUO


モララーと会った翌日。
この日ヒッキーは授業を体育館で受けていた。選択体育の卓球を選んだからである。
室内競技を選択した男女生徒達が走り回るのを見下ろす形で、ヒッキーは卓球台がならぶ2階から楽しそうに動き回る友人を眺めていた。

l从・∀・ノ!リ人 ヒッキー

(-_-) うん?

l从・∀・ノ!リ人 参加しないのじゃ?

(-_-) うん

壁際に座り込んだヒッキーの隣に、妹者も腰をおろしたが少しの間は会話が生まれずにいた。
なんとなく気まずさを感じたヒッキーは、妹者ならば無視されることもあるまいと、先に話しかけることにする。

(-_-) …(なんで隣にきたんだろ)

l从・∀・ノ!リ人 …(何を話せばいいんだろ)

(-_-) えと…妹者さんて卓球うまいんだね

l从・∀・ノ!リ人 あ、うん。中学時代は卓球部だったのじゃ


26 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 16:51:52 ID:/5equpAUO

(-_-) そうだったんだ

l从・∀・ノ!リ人 ヒッキーは何部だったのじゃ?

(-_-) 美術部

l从・∀・ノ!リ人 高校ではやらないのじゃ?

(-_-) うん、もういいかなって

l从・∀・ノ!リ人 ふーん…今度ヒッキーに卓球教えるから、私に絵を教えて欲しいのじゃ!…だめ?

(-_-) いいけど…なんでさ

l从・∀・ノ!リ人 それは、えっと私、美術の成績が悪いのじゃ

(-_-) そうなの?

l从・∀・ノ!リ人 うん、そうなの

(-_-) なんか意外だな…

( ゚∋゚) (…うまいこと2人だけの世界に入ったな)

( ゚∋゚) あ、俺のサーブ?はいよー



27 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 16:58:43 ID:/5equpAUO

l从・∀・ノ!リ人 ヒッキーは普段、家でなにしてるのじゃ?

(-_-) 読書とか

l从・∀・ノ!リ人 漫画?

(-_-) いや、普通の文庫本ばかりだよ。ハードカバーもあるけど

l从・∀・ノ!リ人 どんなジャンルが好きなのかおせーてなのじゃ

(-_-) うーん、最近はSFが多いかな

l从・∀・ノ!リ人 おお、頭良いのじゃ

(-_-) そんな事はないよ

l从・∀・ノ!リ人 それは成績がやばい私への嫌味か

(-_-) …美術だけじゃないの?

l从;・∀・ノ!リ人 実は数学と英語も…よければ教えてほしいのじゃ

(-_-) …数学と英語なら、なんとか

l从・∀・ノ!リ人 ほんと?ありがとー!

(*-_-) わ、ちょ、だきつかないでよ…

(゚、゚トソン ひゅーひゅー、真っ昼間から見せつけてくれるじゃね~か~

(;-_-) ……古風な煽りだね…


28 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:01:04 ID:/5equpAUO

l从#゚∀゚ノ!リ人 おいちょっとまてや

(-_-) トソン、どうしてここに?てか、なんでここの制服着てんの?

(゚、゚トソン まあまあ。いやー、愛し合う若者の邪魔をするのは気が引けるのですが

l从* ∀ ノ!リ人 な、な!

(゚、゚トソン 気がつきませんか、ヒッキー

(*-_-) な、なに?

(゚、゚トソン 窓の外です

トソンは芝居がかった風に、小窓の向こう側を指し示す。
外は、真っ暗闇に染まっていた。

(-_-) なにこれ…何も見えない

l从・∀・ノ!リ人 どういうことなのじゃ?

異変を察した生徒や教師達が一様に口を閉じ、体育館全体は静寂に包まれる。

(-_-) (外の騒音が一切聞こえてこないなんて…)

l从・∀・ノ!リ人 なんなの…

妹者は、ヒッキーの片腕にすがりつく。

(゚、゚トソン ヒッキー

(-_-) なに?


29 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:04:49 ID:/5equpAUO

(゚、゚トソン 妹者さんをきつく抱きしめてください

(-_-) え?

l从・∀・ノ!リ人 のじゃ?

(゚、゚#トソン はやくっ!!

(;-_-) !

ヒッキーの目が、開いていた小窓から飛び出してくる何かを捉え、とっさに妹者を抱きしめる。

(゚、゚トソン よし!

トソンは2人を強引に掴み、体育館の2階から1階の中央まで、跳躍した。

(;-_-) ひっ

l从; ∀ ノ!リ人 えっ

(゚、゚#トソン どーん!

トソンが着地し、落雷のようなダーンという派手な音を響き渡らせた直後、男女混合の悲鳴が体育館に響き渡った。

(;-_-) な、なにあれ、なに!

二階にいた生徒達が、小窓から飛び出してきたらしい影のような何かにまとわりつかれ、有らん限りの悲鳴をあげている。

(;゚∋゚) ぬおおおお、なんだこいつは!


30 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:08:57 ID:/5equpAUO

他の生徒同様、蛇のようにからみつかれ身動きできないでいるクックルは、全力でふりほどこうと試みるも。

(;-_-) クックル!

(;゚∋゚) 畜生びくともせん!

l从;・∀・ノ!リ人 こっちにくるのじゃ!

ナメクジやカタツムリを連想させる挙動で、二階の生徒達にからみついていたものが溢れ出るように一階へと落下してくる。

(;-_-) トソ!…ン…

ヒッキーの声に、異形となったトソンが不気味な笑みを貼り付けてこたえる。

(゚゚∀゚゚トソン

(;-_-) あ…

次々と、制服を突き破ってなお伸びる数本の触手。
臓物の如き生々しさをもつそれは、近くの生徒を捕らえた影のような何かへと突き立てられ動きを止めると、脈動をはじめた。

l从;∀;ノ!リ人 …うえぇ

(;-_-) …トソン


31 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:12:08 ID:/5equpAUO

吐き気を催す妹者をよそに、トソンはヒッキーに話しかける。

(゚゚∀゚゚トソン ヒッキー、お願いがあります

(;-_-) なに

(゚゚∀゚゚トソン このままでは事態を沈静化できません、今の私では力不足です。そこであなたの協力を要請します

(;-_-) 僕、何もできないよ…

(゚゚∀゚゚トソン いえ、できます。私が保証します

(;-_-) …僕に、できること?こんな僕でも?

突然、幾つかの窓ガラスが派手に破られ、生徒達の悲鳴をBGMにあたらしい影のような何かが、滴り落ちるように床へと達する。

(;-_-) 僕、とろいし、非力だし、機転きかないし、運動苦手だし、臆病だし…

(゚゚∀゚゚トソン 大丈夫ですよヒッキー、なにせ



(^^ー^^*トソン 私に取り込まれるだけの簡単なお仕事ですから



(;-_-)



l从;∀;ノ!リ人 ヒッキー危ない!


32 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:14:00 ID:/5equpAUO

間一髪のところで、ヒッキーに飛びかかった影のような何かは、トソンの触手が突き刺さり阻まれた。

(゚゚ー゚゚トソン ヒッキー、返事

(;-_-) う、え

(゚゚、゚゚#トソン はやくっ!

(;-_-) うぇ、あ、はいぃっ!

ヒッキーが声を張り上げた瞬間。

l从;∀;ノ!リ人 あっ?

新たに生えてきた極太の触手が彼を飲み込んだ。



33 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:15:46 ID:/5equpAUO




34 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:17:58 ID:/5equpAUO







ローカル線の列車は座席が窓に背を向ける形で置かれていて、兄に連れられて乗っていた中学生の僕は反対側の座席が背を向けている窓枠の中を、縮こまるように座りながら眺めていた。
列車が大河に差し掛かり橋の上から夕映えとキラキラ輝く水面と青々しい川岸を見て、ふと感傷的な気分になった僕は隣に座る兄へと訊ねる。

どうして、初めて見る景色でも懐かしく思ったりするのかな?

兄は、僕に微笑みかけながら言う。

…そんなの簡単さ。懐かしいのは、他の誰かが既に見た光景だからだよ。つまりね…

僕は、またか、と思った。
兄が僕と話すときはいつもこうなのだ。簡単な事を、「年上の兄と会話することで理知的であると思い込みたがっている」僕のために、少しだけ複雑にみせかけて話してくれるのだ。
あくまで僕に解る程度の、嘘っぱちな複雑さ。

…他の誰かとは、僕らのご先祖様さ。彼ら彼女らが見た景色なのさ

どうして?おかしいじゃないか。兄は僕に、そう指摘させてくれる。

僕は、お母さんお父さんの見た景色をしらないよ

…そりゃ、記憶として残るわけじゃないからね。経験としての話さ…

どういうこと?


35 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:21:09 ID:/5equpAUO

僕は首を傾げる。

…遙かな昔から受け継がれてきた、どんな場所が生存に適する環境なのかという経験則としての光景。あるいは、遺伝子に刻まれた、かつては生存に適していた光景が、今現在の個体では生存に適さないという、すれ違い。そういう話さ…

解っていないのに納得したふりをする飛びきり馬鹿な僕の頭をそっとなでて、全て見抜いている兄はこう付け加える。

…だって、昔の事をおぼえていなくちゃ進化のしようがないだろう…

僕はただただ、頷いた。兄と話すと、僕はいつも惨めになる。
だけれども、そんな事以上に安心もするのだ。
僕が解らないだけで、頭の良い兄は何でも知っていて、不思議な事象にも理由がちゃんとあって、それは兄が僕に代わって解いてくれるから、馬鹿な僕は考えなくてすむのだと。
幼かったとはいえ、今思えば本気でこんな馬鹿な考えをしていたのは自分くらいのような気がする。
…そんな馬鹿な弟と正反対な兄は、景色が変わり続ける窓枠の向こうを眺めながらこう言うのだった。

だからヒッキーは、お母さんお父さんが見た景色を再び目にしたから懐かしいのかもしれないね


36 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:23:34 ID:/5equpAUO

僕はそこでようやく、わざわざくだらない疑問につきあってくれたのは慰めるためだったのだと気付き嬉しくなって、救われた。
兄に連れられて、両親の墓参りに行った日の事。


…どうしてこんな事を、思い出したのだろう。


37 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:24:12 ID:/5equpAUO





38 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:39:17 ID:/5equpAUO



(゚、゚トソン あなたの体は、現在の地球人とは異なります

気が付けば、トソンの説明をぼんやりと聞いていたヒッキーは、幻覚を見ているのだと思っている。
目の前にある古めかしくて赤い色のテレビはどんよりと曇る空から鎖一本でぶら下がっている。
その脇に黒いスーツを着たトソンが、四つ葉のクローバーで覆い尽くされた地面に立ち、ヒッキーはパイプ椅子に座って正面のテレビを眺めていた。

テレビの中ではヒッキーを取り込んだトソンが、ゾンビ映画に出てきそうなクリーチャーと化して黒い影のような何かを食い散らかしていたが、それについてヒッキーはなにも感じなかった。


39 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:45:42 ID:/5equpAUO

(゚、゚トソン 現代の人類とは異なる部分を作り現人類とは違う、かつて滅んだ旧人類として、事故に遭ったあなたは生まれ変わった。兵器である私のリミッターを外す鍵として

ヒッキーの視線はテレビから離れない。
画面には、黒い影のような何かがいなくなり体育館の外が明るくなったにもかかわらず、腰を抜かして震えている生徒達。
彼ら彼女らは口々に「バケモノ」と言いながら、クリーチャー状態のトソンを見上げている。
トソンの背中には触手にかわりヒッキーの無表情な顔面が浮き出ていて、パイプ椅子に座るヒッキーは自虐的に笑った。
きっと、この映画じみた光景が現実なのだと思う。

(゚、゚トソン ショックですか?

(-_-) …まあね

テレビの中では、ほぼ全ての人間が恐怖しているグロテスクなトソンの背中へと、這いつくばってでも接近した希有な人物を映している。妹者だった。

(-_-) 今の僕は、事故の前の僕とは別人ってこと?

(゚、゚トソン 死者蘇生とは言い難いので、そういう解釈もアリです…肉体は別物で記憶は再生できなかった部分を外部から入力し、人格にも少し手を加えてあるらしいので


40 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:50:35 ID:/5equpAUO

テレビの中では立ち上がった妹者が必死に、何度も、トソンの背に浮き出たヒッキーへと叫びながら歩み寄る。

「ほら君離れて!」

「嫌なのじゃ、ヒッキーと一緒にいるのじゃ!」

「おいベスパ4手伝ってくれ、錯乱している!」

だが駆けつけた軍人らしき男女2人組によって、他の生徒達と共に体育館の外へ。

(゚、゚トソン 人工妖精と人間との違いは要するに、人間に造られるか人間から産まれるかです。あなたはどちらかと言えば…

テレビの中は、暗幕が下ろされていた。

(-_-) …学校のみんなは無事なの?

(゚、゚トソン 見ていた通りです

(-_-) そっか…なら、良いや

ヒッキーは、声も表情もひきつらせて言った。

(-_-) 僕は人間をやめることで初めて、人間の役にたてたんだ

(゚、゚トソン …そんなことはないですよ


41 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:53:57 ID:/5equpAUO

(-_-) ねえトソン。僕は自分が嫌いなんだ。いつもいつもいつも、兄の出涸らしっていうか、兄の残り滓で構成されている気がしてさ

(-_-) 鈍臭くて馬鹿で、でも欠点を直すことができない自分が嫌いで、視線が怖いから人混みも苦手でさ…気がついたら、本ばかり読んでて。気がついたら、兄は軍隊のパイロットなんてエリートで…

(-_-) なんかもうさ…本気で、僕の存在をなかったことにしたくてさ

(∩_∩) …もう死にたい…

吐露するうち、ヒッキーの目からは涙が溢れ初め、嗚咽が止められなくなる。やがて一通り泣きはらしたのを見計らい、トソンは言った。

(゚、゚トソン 考えすぎですよ

(∩_;) …え?

(゚、゚トソン あなたが自分を嫌う理由は、私から見ればあなたを嫌う理由になりません。たいしたことじゃないんです


42 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:55:28 ID:/5equpAUO

(-_-) 僕にとってはたいしたことだよ

(゚、゚トソン あなたの良い部分を打ち消すほどではありません

(-_-) …僕に良い部分なんて

(゚、゚トソン ありますよ

(-_-) たとえば?

(゚、゚トソン まず第一に、自分の短所を把握してるじゃないですか。あなたが本当に鈍臭い馬鹿なら、自分の短所に気付きもしません

(-_-) それでも僕が劣っていることに変わりないよ


43 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:57:06 ID:/5equpAUO

(゚、゚トソン それは誰と比べての話ですか?

(-_-) まわりの人、兄とか

(゚、゚トソン まわりの人の平均でも出したんですか?ちゃんとした人数にアンケートしたんですか?そもそも、あなたはまわりの人、ひとり、ひとりを追跡調査して良い部分と悪い部分を割り出したりしたんですか?

(-_-) …してないよ

(゚、゚トソン じゃあ、あてにならないじゃないですか、他人と自分を比べるなんて。曇り空から僅かにのぞく青空だけを見て、まばらに雲の浮かぶ自分より晴れていると言うようなものです

(゚、゚トソン ていうかですね、あれだけの量の本に紙カバーかけておきながら、メモも無しにどれがどの本か分かる時点で、馬鹿ではないです


44 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 17:59:10 ID:/5equpAUO

(゚、゚トソン あなたは見ず知らずの私に親切にしてくれたじゃないですか。他人に気を配ることができるじゃないですか…誰だって、短所をなおすのは難しいですよ

(-_-) でも…さ…

(゚、゚トソン 無理に自分を好きになれとは、言いません。ですからせめて、自分をそんなに卑下しないでください

(-_-) …いいじゃないか。僕の問題でしょ

(゚、゚トソン 違います

(-_-) どうして

(゚、゚トソン あなたね、自分が好意を抱いている相手が死にたそうにしていたら悲しくないですか?

(-_-) それは、まあ悲しいけどさ。僕を好いてる人なんて…

(゚、゚トソン いますよ、気づいてないんですか?あなたの兄、あなたの面倒を見てくれているヒールさん、あなたの友人、それに妹者さん、あと私です

(-_-) …でも


45 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:01:19 ID:/5equpAUO

(゚、゚#トソン あーもう、いい加減これでわかりなさい!

風景が一変する。

ほんの一瞬後、ヒッキーとトソンは暖かな水の中をたゆたっていた。不安を感じない温水の中、やわらかい虹色がヒッキーとトソンを照らす。

(゚、゚トソン 今から共有するのが、私の気持ちです

言い終わるやいなやヒッキーには、不思議な感覚がこみ上げてきた。

(-_-) あっ

それの正体が何なのか、無性にたかぶる自分をみとめて分かった。
体の芯、指の先までほとばしる熱。いてもたってもいられない衝動に駆られて鼓動が激しくなり、もっと近づきたくなった。

(*-_-) (あれ?これって…)

しかし、同時に見え隠れする別の感情。ヒッキーは、二重の衝撃を受ける。

(*-_-) …

(゚、゚*トソン にっ

(*-_-) に?


46 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:02:42 ID:/5equpAUO

(゚、゚*トソン …二度は、しませんからね

(*-_-) 大丈夫…わかったよ

トソンが無言で頷くと、ヒッキーは落ち着きを取り戻した。

(-_-) ところで…いまのトソンの気持ちでさ、気になることがあったんだ

(゚、゚*トソン な、なんですか?





(-_-) トソンは、どうしてそんなに寂しいの?




(゚、゚トソン


47 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:09:15 ID:/5equpAUO

風景が、また変わる。

今度は荒涼とした岩砂漠、空は灰色と炭色の雲が渦巻き、大地はどこまでも鈍色でトソンの表情も堅い。

(゚、゚トソン 見せすぎちゃいましたね

(-_-) なぜ?

(゚、゚トソン …時代が違うからです

(゚、゚トソン 私が生まれた時代から、気の遠くなる年月を隔てて、今この瞬間に私はいます。想像してみてください。心地良いまどろみの中で眠りについたのに、無理矢理叩き起こされて、まわりを見てみれば自分がいるのは未知の世界…寂しくもなりますよ

(-_-) うん

(゚、゚トソン ほんとね、迷惑な話ですよ。過去の記憶まで復元することないじゃないですか。あれですか、所詮人工妖精だから感情なんて調整できるとか思っちゃったんですかね。しかも結果できてないし


48 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:12:36 ID:/5equpAUO

愚痴りながら、今度はトソンが涙を流し声も次第に震え始めた。

(;、;トソン ていうか、なんでわたしだけ再生したんですか、なんで抜け殻じゃなくて心まで再生したんですか?人工有機脳つくれるなら、わたしをコピーしないで初めから構築しなおしてくれって話ですよ

(-_-) …

(;、;トソン 心をそのままにしたら寂しくなるのは当たり前ですよ。私の知ってる皆が築いたものはすべて埋もれてるし…私の知ってる誰かのお墓すら遺ってない、わたしの知っている場所はすべて土か水の中なのに…

(-_-) トソン

(;、;トソン お父様も姉様たちも、お友達も好きだったあの人も、みんなみんな痕跡すらないんですよ?お父様とあの人が教えてくれた星座すら、今の時代では形が違うんです

(;、;トソン 言ってもしかたないのはわかってます、でもなんで私だけ遙か未来に放り込まれたんですか、なんで私だけ置いてきぼりですか。なんで私以外は死んだままなんですか!…ひどいよ…

(-_-) トソン


49 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:15:35 ID:/5equpAUO

(;、;トソン …わたしはひとりなんですヒッキー、本当は記憶の海をただよって、私の知ってた、私を知っていた皆と生きていた頃を繰り返したいんです。でも組み込まれたプログラムが許してくれません。嫌ですね、心があるというのは

(-_-) ごめんねトソン、よけいな事を聞いちゃって

(;、;トソン いっ、良いんですヒッキー、でも責任はとってください。あなたのせいで、久しぶりにこんなにも悲しいんですから…

(-_-) …僕は君の、何千年何万年分の寂しさを理解なんてしきれない。想像もつかないから

ヒッキーはトソンに手を差し伸べた。

(-_-) でも、これから先何十年かの寂しさなら理解できるかもしれない、だから

トソンはヒッキーの手を取り、ヒッキーはトソンを優しく抱き寄せる。
おそるおそる、なるたけ慎重に。
綿菓子を握る気分だった。


50 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:16:50 ID:/5equpAUO

(-_-) 一緒にいよう。時間遡行はできないけれど、僕の生きる時間を案内することはできるよ

トソンの泣き声が大きくなるのにあわせて、トソンの足下から緑が広がる。

(;、;トソン うっ…えぐっ…

新緑が芽吹き、様々な蕾が膨らみ、色とりどりの花が咲いて、背の低い若木が曇天めざして伸びる。

(;、;トソン うわあああああん!

トソンが子供のように泣きじゃくるなかで緑は増え続けるがしかし、空が晴れることはなかった。
泣きやんでからも。


51 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:35:45 ID:/5equpAUO


宇宙空間を航行している太陽系軍のバンシー級空母に、3人は集まった。

( ФωФ) お、来たか

( ・∀・) 無事にトソンを回収したそうだな

( ´_ゝ`)ようモラ、忙しいのによくこれたな

( ・∀・) なにせヒッキーが取り込まれてるからな。それはそうと博士

( ФωФ) む?

( ・∀・) 話が違うぞ博士。ヒッキーが、トソンのリミッターを解除する鍵だと?

( ФωФ)今までの話は嘘だからな

( #・∀・) ふざけるな!畜生なぜだ、どうしてヒッキーが必要なんだ!

( ´_ゝ`) 説明しただろ、人間を取り込まないと…

( ・∀・) それなら俺にやらせろ

( ФωФ) 不可能だ。トソンはヒッキー以外を地球人とは認めないからな

( ・∀・) は?

( ФωФ) そもそもヒッキーの身体が、我々と異なるのは何故か。最初から、このためだったんだよ


52 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:38:53 ID:/5equpAUO

( ´_ゝ`) トソンに人間を取り込ませて本性を引き出す実験、とっくにやったんだが…見事に失敗していてな

( ・∀・) どうして

( ФωФ) トソンは、自身が知る人間…つまりは過去に滅んだ地球人と、取り込んだ人間、つまり現代に生きる地球人の違いでエラーを起こしたんだ

( ・∀・) 違い?

( ФωФ) 数多ある中でも特に脳の、報酬系の場所が違う

( ・∀・)報酬…系?

( ФωФ) ここで言う報酬とは人の各種行動、選択の動機となる欲求のことで、報酬系とは、その選択を繰り返し行いたくなる動機づけを与える領域だ

( ・∀・) 選択の動機…人間の意志に関わる部分なのか?

( ФωФ) うむ、会議で喩えるか。いろんな人間が各自主張しあい、侃々諤々の論争を経て結論を出す。そして、この会議全体が意志と呼ばれる物だ


53 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:42:01 ID:/5equpAUO

モララーが黙って思考を巡らす合間に、ロマネスクは気怠そうに付け加える。

( ФωФ) ものすご―く簡単に言えばな

( ・∀・) …乱暴な言い方をすれば、意志の在処が違うと

( ФωФ) だからこそ、今のヒッキーの身体が求められた。まあ脳だけでは足りないから、彼の体は遺伝子情報すらもいじってあるわけだ

( ・∀・) 造り直すなら宿る中身は誰でもよかったのか?人格さえあれば

( ´_ゝ`) そうでもないさ。取り込まれた人間が、トソンの力を利用して暴走しないとも限らんし地球に愛着が必要だ。もっといえば温和で、比較的理性的合理的な判断をくだせる…そしてなにより、万一肉体の取り替えが失敗して死んでも、楽に隠蔽出来る者


54 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:45:19 ID:/5equpAUO

( ФωФ) 当時、準備はできていた。あとは被験者待ちでな

( ・∀・) 丁度よく事故にあったわけだ、ヒッキーは

( ´_ゝ`) 奇跡的に、記憶を保存する領域がほとんど無事だったしな

( ・∀・) 軍人をつかえよ

( ´_ゝ`) 軍人はいまや貴重で、事故死や戦死は減少する一方。またシミュレーションでは軍人であるが故に忠誠心をなくす

( ・∀・) フィギュア

( ФωФ) フィギュアは無理だ。造りが人間と違いすぎる

( ´_ゝ`) それにな、ヒッキーは身内を、軍人として地球を守る兄に憧れ、慕っていると分析された。しかも事故後、一般社会に紛れさせても目立たない。どこにでもいる温和しい学生だから利用しやすいと考えられた…最悪、学生1人の事故死なら簡単にもみ消せる


55 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:47:57 ID:/5equpAUO

( ・∀・) …どうしてそんな、酷い事を言える。弟を想う気持ちは、お前だって同じではなかったのか

( ´_ゝ`) 同じさ

( ・∀・) どこが…

( ´_ゝ`) 弟を死なせたくない、弟には穏やかな日常を過ごして欲しい。俺はそのために動いている

( ・∀・) なんだと?


56 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:51:20 ID:/5equpAUO

( ´_ゝ`) 俺は、弟が死地に向かうのは嫌だ。だから弟が戦わずに済む方法をずっと考えてきた

( ´_ゝ`) ひいては、同じ様に他者の大切な人が戦わずに済む方法を。大切な人間を守りたい、だが隷属していない、独立した政府が平和を保つには武力が必要だ。侵略者を追い払い、遠ざけるために

( ´_ゝ`) 生存性や兵器の信頼性を向上させるとか、事故の防止だとかよりも根本的な方法。至った結論はな

( ´_ゝ`) 人間が、戦わなければいい

( ・∀・) 機械知性に、明け渡せと?それともフィギュア?

( ´_ゝ`) 機械知性だけでは、まだまだ足りない。フィギュアはクローン以上にコストがかかる…そもそも、フィギュアに危険を押しつけるのは極力避けたいしな

( ・∀・) …兄者、お前


57 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 18:57:44 ID:/5equpAUO

( ´_ゝ`) ああ、シルフィールドのようなシステムだが…肉体を失った意識は、いずれ蒸発してしまうのが確認されている

( ・∀・) 人間の、人間による人間のための生存競争すら放棄しろと?馬鹿げてる

( ´_ゝ`) 生き残るのに、必ずしも人間が戦う必要はない

( ・∀・) 高見の見物と決め込んでいて機械知性に反乱されたらどうする。それに、足りないと言ったな

( ´_ゝ`) そのために、ヒッキーだ。彼のような愛着、親しみといった感情ごと、プログラムとしてトソンに組み込み複製する。そして機械知性と複製したトソン達に、肩代わりしてもらうのさ

( ・∀・) トソン達は人間でもフィギュアでもないと言うのか

( ´_ゝ`) 感情を廃した量産型の生体兵器に感情移入できるほど、俺は想像力が豊かじゃないからな。情や、慈しみってのはそういう物だろう?

( ・∀・) …


58 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 19:02:05 ID:/5equpAUO

( ФωФ)…愛着や郷土愛を植え付けるのに、地球の一般社会で日常を過ごさせるのは有効だよ。条件を整えて、複数の同一人物に異なる思い出を作って貰えばいい。あとは愛着ごと複製するのだ

( ・∀・) そんな回りくどいことして…馬鹿げてる。こんな事、赦されるはずがない

( ´_ゝ`) 赦す?神様がか?それこそ馬鹿げているぞ

( ФωФ) なあモラ。その台詞、私はこれまで何度も聞いた。もう今更だよ、自身の寿命を弄くったり、フィギュアを生み出した時点でな

( ФωФ) 軍仕様のフィギュアを見てみろ。慢性的な人手不足に宇宙空間という特殊な環境を言い訳にして、あれらは兵の鎮静剤と麻薬代わりだ

( ФωФ) そんな事が赦されていいはずはない。だのに、お前もフィギュアを利用する


59 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 19:03:45 ID:/5equpAUO

(;・∀・) …それは…

( ´_ゝ`) さて博士、そろそろ時間だな

( ・∀・) 時間?

( ФωФ) ヒッキーと、話したくはないか?


60 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 19:18:51 ID:/5equpAUO

(-_-) …落ち着いた?

(゚、゚トソン はい。すみません

(-_-) いいよ。新鮮だったし

(゚、゚トソン そう言ってもらえると助かります

(-_-) …

(゚、゚トソン …

(゚、゚トソン …えっと

(-_-) うん

(゚、゚トソン あの、なんか勢いでこんなことになりましたが

(-_-) そうだね

(゚、゚トソン あらためて、お願いしてもいいですか

(-_-) えーと…なにを?

(゚、゚トソン 左手

(-_-) …ああ、うん


61 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 19:19:06 ID:/5equpAUO

(゚、゚トソン 所謂、恋人つなぎで

(-_-) うん

( -_-) (゚、゚トソン …

( ・∀・) …

(*-_-) (゚、゚*トソン …

( *・∀・) ニヤニヤ

( *・∀・) あー、あー。ただいまマイクのテスト中

Σ(;-_-) Σ(゚、゚;トソン ビクッ!

(-_-;) …兄ちゃん?

(゚、゚トソン ちょっと、勝手に入ってこないでくださいよ

( ・∀・) いやーごめんごめん。あんまし時間がなくってさ…んで、ヒッキー


62 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 19:22:14 ID:/5equpAUO

(-_-) なに

( ・∀・) …ごめんなさい

そう言ってモララーは土下座する。顔を埋めんばかりの勢いで。

(-_-;) な、ちょっと

(  ∀ ) ごめん、ヒッキー。俺のせいだ、こんなことになったのは

(-_-;) …やめてよ、別にいいから

(  ∀ ) ごめん

(゚、゚トソン ほらモララー、顔を上げなさい。ヒッキーが困ってますよ

力ずくで立たされたモララーに対し、ヒッキーは本当に困惑していた。

(-_-) …あの、訊いても良い?

( ・∀・) なにをだい

(-_-) …僕と…僕は、その…

(-_-) あなたの弟でいても良いの?

( ・∀・) 良いもなにも、兄弟じゃないか

(-_-) だって。元の僕は、もう死んだわけだし

( ・∀・) 機械の体でも他人の体でも、自分は自分であると意識できていれば君だよ

(-_-) だけどさ


63 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 19:26:35 ID:/5equpAUO

( ・∀・)一生変わらない同一の私、なんてものは無いしね

(-_-) じゃあ、本当に

( ・∀・)ああ。君は今も昔もこれからも、僕の弟だよ

(-_-) …兄ちゃん、僕いまさら気がついたんだけどさ

( ・∀・)うん?

(-_-) ありがとね

モララーは、まったく予想外の感謝に狼狽える。

(;・∀・)ど…どうしてだい?なんで感謝を?僕は君を、部品にしてしまったのに

(-_-) いや、だってさ。どんな形にせよ、さ

(-_-) 僕という人間に、生きて欲しいと願ってくれたんだもの






兄弟でいる事。

漠然とした、口約束ですらない明示。
たったそれだけの事ではあるがしかし、ヒッキーが欲していた事である。
自殺願望すら抱いていたヒッキーはトソンの気持ちを知りモララーに認めてもらうことでようやく、すがりついて甘える子供のように安堵する。


64 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 19:29:32 ID:/5equpAUO

( ・∀・) …

(-_-) 僕の、兄ちゃんで居てくれた

(゚、゚トソン まあ弟っていう存在だけが欲しいのなら、ヒッキーでなくともいいわけですしね―

(-_-) だから、ありがとう兄ちゃん

( ・∀・) ヒッキー…

(゚、゚トソン (…羨ましいですよ)

ヒッキーは弟と言う役割であることで自分の居場所を精神的に確固たる物にしているのだ。

(゚、゚トソン …ん?

(-_-) どうしたの

(゚、゚トソン 外が急に騒がしくなったと思ったらモララー、あなた呼ばれていますよ。戻ったほうが良いかと思います

( ・∀・) もう時間か…そうするよ

モララーは左手の腕時計を確認すると、ここは時間の流れが違うのか、と呟いた。

(-_-) 仕事行くの?

( ・∀・) うん。実は、これから大きな仕事をこなさなくちゃ、ならないんだ


65 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/10/09(日) 19:33:19 ID:/5equpAUO

(-_-) 仕事って、あぶないの?

( ・∀・) うん。それじゃヒッキー…ありがとう。ヒールによろしくね

モララーは足下から、火を灯した蝋燭のように溶け始め、あっというまに消えてしまった。



しばらくモララーが立っていた場所を眺めていたヒッキーは、ふとトソンに訊ねる。

(-_-) そういえば、今僕達がいるのは何処なの?

(゚、゚トソン 此処は私の中ですよ

(-_-) じゃなくて、トソンは体育館から別の場所へと移動したの?

(゚、゚トソン しましたよ。今いるのは、宇宙です

(;-_-) ……いやいやいや

(゚、゚トソン 本当ですよ。太陽系軍の空母、バンシー級に運び込まれました。外の様子、テレビで見ますか?






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最終更新:2012年01月18日 00:23