79 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2012/02/12(日) 21:01:18 ID:3kyIWTtMO
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地球を目指しているランサス星系王立宇宙軍の艦隊は、もはや聞く耳を持たなかった。
「何せ彼奴らに言わせると太陽系は、海賊の拠点らしいお。笑える話だおね」
シルフィールドに搭載されたホライゾン達パイロットは、戦闘前の緊張を和らげようとしていた。
「しかし、なんでまた、こんな辺鄙なとこに目を付けたんだ?」
「連中の星じゃ地球なんて未開の惑星ってイメージしかないモナ。政府が地球は海賊の拠点になってる、現に大勢の海賊が逃げ込んだ、悪の惑星だと吹聴したって疑う奴は少ないだろうし確かめることも難しいから、うってつけだモナ」
「星系間連盟に入れていりゃあ、連盟軍の仲裁も期待できたが…国連がなあ」
同僚の吐き出すやるせなさが、憤りに変わる前にホライゾンは諫める。
「国連のせいにしてばかりいられないお。僕たち太陽系軍が海賊の侵入を防げなかった事は事実だお」
「…しかしなあ」
「気持ちは分かるけど僕たちがやるしか無いモナ。二度と手を出そうとは思わなくなるくらいに痛めつけないと、また攻めてくるモナ」
「そりゃ、まあ」
80 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2012/02/12(日) 21:06:40 ID:3kyIWTtMO
「大丈夫だお、太陽系軍は強い。シルフィールドだって、改良された機体に僕らみたいな大ベテランが2人づつも乗ってるお。楽には行かないだろうけどね」
「そうモナ。人工有機脳を搭載してるシルフィールドだって良く動くし、後ろには多くの戦闘艦やメイヴがいる、戦力的には劣らないモナ」
「そうだよな…しかし、2人か」
「え?」
「どうしたモナ?」
「いや、あのさ…笑わないで聞いてほしいんだが」
「なんだお?」
「…最近ずっと気になってるんだが…俺たちのシルフィールドに搭載されている脳って、本当に2つだけだよな…なんだか、3人目が乗っているように思えてさ」
「…それって」
唐突に、通信が入る。
《総司令部より全軍。平和的交渉は決裂、敵艦隊ならびに艦載機は戦闘態勢に移行。戦闘に備え、繰り返す、戦闘に備え》
全員、即座に口を噤み、感覚を研ぎ澄ませる。
自分達の限界が近い事は承知している、しかし自分達は戦わなければ、本当に、ただの亡霊以下になりさがってしまう。
なにより、かつて自分達が立っていた故郷を守りたい。人類を守りたい。
(子供を守るため、と言いたいけど)
81 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2012/02/12(日) 21:12:23 ID:3kyIWTtMO
かつて地球では、ほとんどの子供が人工子宮から生まれた時期があった。
自然に生まれる子供も勿論いたが多くは施設に集められた配偶子を徹底した遺伝子管理のもと組み合わせていた。
若いうちから軍人だったホライゾンは宇宙での事故により遺伝子が傷つき組み合わせる配偶子には不適当とされ、子供を残していない。
(軍に入る者の義務として、クローンならいたけど…無事に産まれたのかさえ知らないしなあ)
そういえばと、ホライゾンは思う。
国連や現在の地球の人工妖精には少数だが、太陽系軍の人工妖精から、デザインや人格を流用した個体がいると言う噂があり…そういった個体は、兄弟姉妹と呼べるのか暇潰しに議論したことがあった。
噂が本当なら、ツンと遺伝子レベルで近しい個体が地球にいるとすれば、さらに気合いが入るかもしれない。
(なーんて)
そもそも、皆パートナーと一緒に戦うのだ。
皆撃墜される気は無いし、逃げる事も無い。
初めから背水の陣、必然、これ以上ないくらい気合いは入っている。
だからホライゾン達の士気は、非常に高いのだった。
《偵察隊より警告、敵艦載機群、速力上昇》
《全軍に交戦許可する》
82 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2012/02/12(日) 21:14:13 ID:3kyIWTtMO
《セクタD18担当tac301からtac304は正面、tac305からtac308は右翼迎撃せよ》
「行ってくるモナ」
命令を受けた一つ四機編成の戦術飛行隊が四つ、真っ直ぐ突っ込んでくる敵にぶつかるコースをとり、さらに四つが別方向からの敵に向かう。
《F12担当tac501からtac508、正面からぶつかり時間を稼げ》
《偵察隊より報告、敵に人型兵器が混じっている。警戒せよ》
ホライゾン率いる戦術飛行隊も加速、指示された敵へ向かった。
《tac302より各隊へ、巴戦は避け一撃離脱を心掛けろ》
地球から遠く離れた宙域で、電子戦に続き、艦載機同士によるミサイルの応酬が始まる。
最終更新:2012年02月20日 14:40