核ミサイルの数はあまりに多く、大気圏外を音速の数十倍でつき進むミサイルを迎撃し、なおかつ付随被害を出さずに済む能力を持った者たちは少ない。
それでも、世界中に散った生徒たちの活躍により、どうやら全てのミサイルが撃墜できそうだった。
ラジェンドラ<レディ、SDI、ファイア>
対コンピュータフリゲート、ラジェンドラのSDインテンシファイア砲撃により、核ミサイルが数発まとめて爆散する。
ラテル「間に合いそうか?」
ラジェンドラ<なんとかなるでしょう。すでに残り二割です。まあそれでも数百発は残っていますが」
アプロ「なんでCDSバラージを使わないのさ。全部まとめて撃墜できるだろ?」
ラテル「地球中の文明を二十世紀中盤まで後戻りさせる気かこの馬鹿猫」
ラテルは相棒の黒猫型宇宙人、アプロを蹴り飛ばそうとしてひらりとかわされた。
とはいえ、なにごともなくこのわけのわからない大事件が終わりそうでほっとする。
しかし、その安堵も長くは続かなかった。
ラジェンドラ<ラテル、非常事態発生>
ラテル「どうした?」
ラジェンドラ<残存する全ての核ミサイルが進路を変更、急加速>
ラテル「は、はあ?」
ラジェンドラ<目標は日本。それもラノベ学園の確率が極めて高い。本来射程が足りないものも正体不明の力を受けて真っ直ぐそこに向かっています>
芝村「俺だ」
林水「理事長、緊急事態です」
芝村「用件を言え」
林水「核ミサイル迎撃中の各生徒・教員からの通信及びテレパシーによれば、いまだ撃墜に至らない核ミサイル全てが進路を変更し、このラノベ学園の敷地内に向かっているとのことです」
芝村「着弾までに撃墜可能か?」
林水「迎撃要員が全世界に散らばっていたのが仇となりました。おそらく数十発から二百発前後の弾頭が降り注ぐかと」
恐るべき会話を交わしているというのに、両者ともその表情にかけらの変化も無い。
林水「ただちに全授業・全講義を中止し、あらゆる防御システムの起動と避難処置の指揮を願います。学園のシェルターといえど、地表貫通型核爆弾には抗しえないかもしれませんが……」
芝村「…いいだろう。すぐ手配する」
ラノベ学園中のスピーカーから、大音量でサイレンが鳴り響く。
校舎の半壊など珍しくも無いラノベ学園において、シェルターへの避難命令など初めてのことだった。
光児「くっそー、あと1イニングあれば絶対逆転できたってのに!」
亜希「水爆が降ってくるってのに野球どころじゃないでしょーが」
真由美「二人とも早くシェルター行こうよ~っ!」
多くの生徒が我先にとシェルターに急ぐ一方で、避難命令を無視して校庭で空を見上げている者たちもいた。
一方通行「おい『最強』ォ、どうにかなんねェのか? やばそうだが」
フォルテッシモ「無理だな。お前は核ミサイルでも大丈夫だと聞いたが?」
一方通行「一発だけならまだしもよォ、狭い地域に殺到されちゃ、熱線・爆風・放射線……俺の計算能力を超えちまう」
フォルテッシモ「ではなぜシェルターに逃げない?」
一方通行「お前と同じ」
フォルテッシモ「……」
一方通行「この学園には想像もつかねェバケモンがいくつも棲んでやがる。そいつらがなんとかするだろーさ」
再び、ラジェンドラ艦内――
アプロ「こうなったら仕方が無いだろ、ラジェンドラ、CDSバラージだ」
ラジェンドラ<しかし、それではラノベ学園のコンピュータが全て破壊されてしまいます。単に不便になるだけではありません、機械知性にとっては死を意味します>
ラテル「学園を避けてCDS攻撃はできないのか?」
ラジェンドラ<細かい照準をしていては間に合いません>
ラテル「そうか。しかし全員を死なすわけにはいかん。また俺たちの悪名が高まるがどうしようも……」
ラジェンドラ<待ってくださいラテル、これは一体……!?>
ラノベ学園――
忠介「殿下殿下、急いでください」
バルシシア「たかだか核融合兵器が何十か爆発するくらいで、まったく慌しい」
太陽に投げ込みでもしない限り死にそうにないバルシシアは、大きくあくびをする。
忠介も口では急いでと言っているが、律儀にもバルシシアと一緒にのんびり歩いていて、妹の陽子をやきもきさせている。
その時。
ミュウミュウ「ミュウ!」
陽子の腕の中にいたミュウミュウが一声そう叫ぶと、するりと腕を抜け出し、風船のように浮かんだ。
その額から伸長した角はさらに長さと太さを増し、ゆっくりと、しかし次第に加速しながら回転を始める。
忠介「どうしたの、ミュウミュウ?」
ミュウミュウはまっすぐに空を見つめながら急速に上昇し、
ドォン――!
紡錘形の光となって、雲の向こうへと飛んでいった。
バルシシア「ほう……」
額の第三眼で界面下のミュウミュウの本体を見たバルシシアが、低く感嘆の声をあげる。
その途端、雲の向こうで爆発音が連続して生じ、その音の度に光となったミュウミュウの体が巨大化した。
ドォン!
鼓膜を圧する最大の爆発音と共に、今やミュウミュウ──エーテル渦動生命体『リヴァイアサン』の幼生体──の体は、空を覆いつくすまでに成長している。
ラジェンドラ<ラノベ学園から、界面下航行体が出現。おそろしく巨大なエーテル渦動です>
一人と一匹と一艦が固唾を呑んで見守る中、リヴァイアサンは急速に自らの体を押しつぶし、回転楕円体となり、円盤となり、ついにはブラックホールを思わせる大渦巻きに変じる。
無数の核ミサイルは、吸い込まれるようにしてその渦巻きの中心へと飲み込まれていった。
数時間後、非常事態態勢は解除され、ラノベ学園はなにごともなかったかのようにいつもの様子を取り戻していた。
忠介「つまりまたミュウミュウの仕業だったってことですか?」
カーツ「そういうことらしい。ま、この前のマッパーの時と同じだな」
忠介たちは校庭の片隅で、アプロとは別の猫型宇宙人、カーツ大尉から事件の顛末について説明を受けている。
陽子「じゃあ、ミュウミュウが核ミサイルを引き寄せて、食べちゃった……ってわけ?」
カーツ「その通り。もっとも、今のミュウミュウにとって数百発の核ミサイルなど、おやつにもならないだろうがね」
呆れた目でミュウミュウを見つめる陽子。
とうのミュウミュウは、忠介の腕の中で満足げな顔で眠りこけている。
バルシシア「まったく、これだから地球人は困る。『つまみ食い』くらいで騒ぐでない」
CAST
アプロ
ラテル
ラジェンドラ
芝村
林水
光児
亜希
真由美
一方通行
フォルテッシモ
忠介
陽子
ミュウミュウ
バルシシア
カーツ
最終更新:2006年08月05日 19:24