一方、保健室。…といっても青緑赤の三人組がいるあの保健室ではない。
会場に最も近く――そして馴染みの蛙医師が担当するこの部屋に、上条当麻は寝かされていた。
「………。あー、そっかそっか。俺、負けたんだっけ。」
どうやらあの後、疲れて寝てしまったらしい。それほど時間は経っていないようだ。
(まあ、必ず勝つって気もなかったしなぁ…。全力出して負けたんだし別に悔しくは…
ホ、ホントに悔しくなんかないぞ!折角年上のお姉さんだから強いとこ見せたかったなんてそんな事は――っ!)
「うん?目が覚めたようだね、上条当麻君?」
唐突にかけられた声に、思考が中断された。…お馴染みの、しかし此処に来てからは久しぶりに聞く、声。
「…あんたか。なんか久しぶりだな」
そう頻繁に死にかけられても困るんだけどね、と、『冥土帰し』は薄く笑い。
「うん、やっぱり大した怪我は無いみたいだね。『治らない傷』なんて事例もあるから、少し様子を見てみたんだけれど」
何時になく軽い怪我で済ませた患者に、ほんの少しの称賛と、目一杯の忠告の意味を含め、そう呟いた。
…対して。
「…今回はなんつーか、この程度で『済ませてもらった』だけなんスけどね」
神の奇跡をも殺せる筈の少年は、自嘲気味に嗤い。
「相良か土御門あたりに弟子入りしようかなぁ…」
女性に手加減され、かつ完敗したことを恥じているようだった。
が、しかし。
「まあいいんじゃないかな?君は今、そのおかげで非常に羨ましい状況にいるんだし」
は?と問い返し、起き上がろうとして…気付いた。
「…あのー、みなさん、何をしてらっしゃるんでせうか?」
やれやれ、と、蛙顔の医師が答える。
「みんな、君のお見舞いに来たみたいだね?よほど疲れてたのか、寝ちゃったみたいだけど」
「そう、ですか…」
胸元で右手を握る読子。左手に、両の手をしっかりと絡ませた小萌。腹の上には姫神とインデックスが丸くなっていて。
ベッド横に並んだ丸椅子には、肩を寄せ合っている御坂姉妹がおり、部屋の入口では神裂が長刀を抱えて座り込んでいた。
「………」
ふぅ…と、小さく溜め息をつき。起き上がるのは諦めた。
(読子先生まで…心配、してくれたんだな)
太陽の光を受け、きらきらと輝くシスターの銀髪を見つめ、上条当麻は誓う。
ここにいるみんな。ここにいないみんな。自分の、この右手の届く範囲にいる人達。みんなみんな、助けてみせる。
偽善遣いと呼ばれようと構わない。誰もが笑って誰もが望む最っ高に最っ高な幸福な結末を、作ってみせる。
…だから。
だから今だけは。
この平穏な一時という幻想は、右手が打ち消してしまいませんように―――
(…あ。読子先生、試合残ってるじゃん)
不幸だー、と、小さく呟く。しかし少年の顔は、慈しむような優しい笑顔に変わっていた。
CAST
・とある魔術の禁書目録
上条当麻
冥土帰し(蛙顔の医師)
最終更新:2006年08月10日 11:47