「のう、ぬしよ」
耳と尻尾をぴこぴこ揺らし、賢狼ホロは呟いた――と、こう表現すると語弊があるかも知れないが、
ホロは人の娘の姿形に獣の耳と尻尾が生えている、という出で立ちである。
ともあれ、そんなホロに声をかけられた行商人ことクラフト・ロレンスは振り返らずに応える。
「どうした? ここはもうすぐ終わるが、まだあっちの方の草刈と土ならしが残ってるんだが……」
そのままふう、と長時間据わり続けで痛み始めた腰を伸ばし、夏の日差しを反射する汗を心地よさげに布で拭う。
適度に顎を覆う髭に、この仕事を始めてから被るようになった麦藁帽子が妙に似合っていた。
そんなロレンスに、ホロはなんとも言い難い――強いて言うなら呆れた表情を浮かべて告げる。
「……ぬしが満足しておるならわっちは別に構わぬが、ぬしの生業はこんなことだったかや?」
繰り返すが、ロレンスは行商人である。行商人として独り立ちをしてから七年目、今年で二十五になる。ちなみにただの人間だ。
そんな彼が行商ではなくまるで学校の用務員のような仕事をしているのは何故かと言えば、
むしろその通りなのである。今の彼は何故かこの学校の用務員として生活を営んでいるのである。ここはそういうスレなのだ。
「そう言うな。気付いたらどういうわけかこんな見知らぬ土地にいて困っていたところを雇ってもらえたんだ。
今はこうして食い扶持を稼がせてもらえるだけ良しとするべきだろう。
大体、お前ですら知らない土地で俺にどうしろと言うんだ」
「黙りんす」
薮蛇に痛いところを突かれてホロはそっぽを向く。
してやったり、とホロに背を向けたままロレンスはほくそえむ。
元いた世界では口の達者なホロには負け続きなロレンスであったが、
慣れない地に来て勝手が分からない、という動揺はホロの方が大きいらしく、最近は勝ち星を挙げている。
「まあ、いいじゃないか。
どういうわけかここにはお前みたいな耳や尻尾を持った連中が当たり前のようにうろついてるし、
おかげでこっちもわざわざ正体を隠す必要がないんだ。考えようによってはなかなか快適な暮らしだぞ」
「そうは言うがの……」
溜息混じりなホロが何か言い返そうとした瞬間、二人の背後に建つ校舎の一部が爆砕した。
ぱらぱらと破片が降り注ぐ中、ホロは呆れた様子で、ロレンスは鎮痛な面持ちで振り返り――
「ふむ、狼の匂いからして今回はいぬかみの娘の仕業のようじゃの。また裸王が何かしたんじゃろう」
「また……仕事が増えるのか」
「今に始まったことじゃありんせん」
とかなんとか言ってる間に別の場所からも火災が発生した。キシャーとか聞こえるところからして桃色ピンクの破壊魔神のようだ。
かと思ったらまたまた別の場所から破砕音。日本刀を手にした両儀式が魔術師・荒耶宗蓮を追いかけて窓を蹴破り外へと跳んでいた。
そろそろかなと二人が思っていると、案の定、「ダーイ」と叫ぶバーサーク用務員・大貫善治がチェーンソーを手に跳躍していた。
なお、大貫氏はロレンスと同じくこの学校の用務員を務めているのだが、バーサーク状態になってしまうと彼も破壊する側に回る。
「で、ぬしよ。どうするのかや?」
「早いうちに補修しないとまずいだろう。この手の建物はてっぺん以外が崩れたままだと被害が広まる」
「思うに、元の場所に帰ったら、ぬしは行商などやめて大工仕事でもすればもっと儲かるんじゃないのかや」
「嫌に説得力があるからそういうことを言うのはやめてくれ」
とか言いながら、そんな死地へとあくまで『壊れたところの応急処置』をする気で駆けてゆく縁の下の力持ち。
なんだかんだでこの学校に順応している二人だった。
CAST
・狼と香辛料
ホロ
ロレンス
・いぬかみっ!
いぬかみ(ようこ)
裸王(川平啓太)
・まぶらほ
キシャー(宮間夕菜)
・空の境界
両儀式
荒耶宗蓮
・フルメタル・パニック!
大貫善治
最終更新:2006年08月10日 11:51