ここはラノベ学園校舎内。
一般人から人間凶器、つまようじから機竜、超能力から神の力まで、人材にも兵器にも
なんだかよく分からない能力にも精通する、イラクの内戦地帯よりも危険な学校である。
A「どんな学校だ」
B「……どーしたA。今、何に対してツッコミを入れたんだ」
A「いや、なんか、ちょっと……変な声が……うん」
B「ふーん。ところでさ、今日ってSOS団トーナメントの2回戦らしいじゃねーか」
A「ん。ああ、知ってるよ」
B「確か、今体育館でやってる筈だけど、お前は見に行かねーのか?」
A「対戦カードが『いーちゃん』対『一方通行』だろ? いーちゃんはともかく、
一方通行の攻撃力は異常だからな。体育館の崩壊とかに巻き込まれたくないし」
B「お前もそーか。実は俺も同じ考えでな。そんなに見たけりゃ、後で録画した映像を
見れ……」
ガゴォン!
A「……って言ってるそばから崩壊したよ体育館。大丈夫かよ、中の人」
B「大丈夫なんじゃねーの? つーか、体育館が崩壊するのなんて、これで……」
ズドォン!
いーちゃん 「――くそっ!」
一方通行 「なンだよなンですかなンじゃそりゃァ!? さっきから逃げてばっかで
つっまンねェなァオイ三下ァ! テメェ戦う気あンのかそォか無ェから
逃げてンだよなァだったらさっさとくたばれっつってンだろォがあァ
鬱陶しィったらありゃしねェ!」
A「……なんか、校舎の壁をぶち抜いて来ちゃったね」
B「……誰か『一般人専用』の校舎を作ってくれ……」
いーちゃんは、無人の校舎の中を走っていた。
先程、一方通行が校舎の壁を吹っ飛ばした際に、二人の――おそらく一般人で
あろう――姿が見えたが、その場所からはもう随分離れたはずだ。
どうやらあの二人以外の生徒は全員体育館に集合していたようで、これで
とりあえず、無関係の人間が怪我をするような事態は避けられるだろう。
「……と言っても、ぼくが怪我をする事態は避けられそうにないんだよね……」
怪我をしているとは言っても、元・学園都市最強の能力者『一方通行』の能力
が無くなった訳ではない。
チョーカーのバッテリーの持続時間である『十五分間だけ』という制限が
付いただけで、何の能力も持たないたかが《戯言遣い》を殺すには、十分過ぎる
ほどである。
『校舎の中』という地形を上手く利用して、なんとか一方通行を撒くことに成功
したものの、それも一時的なものに過ぎない。
彼の頭脳なら、もう一分もすれば追い付いて来るだろう。
「……全く。誰がこんな対戦カードを決めたんだよ。こんなの、一方的な狩りじゃ
ねえかよ。こんなの見て面白いかよ……」
そこに、
「――あァ、全く。つっまンねェ真似してくれたよなァ、こンなカード決めたヤツ
も、テメェもよォ」
心底つまらなそうな、一方通行の声が響いた。
「……なにっ!?」
声の響いてきた先は、後ろではなく――
――前。
今、いーちゃんがいる五十メートル程先、曲がり角の手前に、
白濁し、白熱し、白狂した一方通行がいた。
自分の行く手を塞ぐかのごとく。
それは、つまり――
「……先回り……されたのかっ……!」
「あァ、そォゆゥこったな。頭ン中でオマエの心理をシミュレートして、そンで
結論としてココに来てみたら、大当たりってこった」
この程度のことはなんでもない――というように、彼はどうでもよさそうな
口調で言った。
「で? どォするよ《戯言遣い》。『反射』がある俺に、オマエの攻撃は届か
ねェし、オマエの脚じゃ、到底俺の脚から逃げらンねェ。地形を利用して身を
隠しながら逃げても、結局コレだ」
一方通行は、心底くだらなさそうに、言う。
「で、オマエの唯一の武器の戯言も――『音』を反射出来る俺には聞こえねェ」
一方通行は、心底つまらなさそうに、言う。
「で? どォするよ《戯言遣い》?」
対して、いーちゃんは、
「……ったく、こんな風に裏をかかれたのは、《策士》と会った時以来だよ、
一方通行くん」
「……あァそォ。それが誰か知ンねェけど、結局どォするよ? ココで俺に
ブチ殺されるか、ギブアップ宣言をするか。好きな方選べよ」
その問いに対して、
いーちゃんは、
「――どっちも、嫌だね」
言った。
拒絶した。
「……へェ」
「きみには悪いけど、ぼくは結構、負けず嫌いなんだよ。今の先回りされた分、
きっちり返しておかないと、多分――今夜は眠れないよ」
「……いや、なンで宮部みゆきなのか知ンねェけどよォ。じゃ、つまり、戦闘
続行、――ってコトでイイのか?」
一方通行は、いーちゃんから五十メートル程離れたその場で、右腕と左腕を
水平に上げ、まるで闇に突き立つ白い十字架のように、獲物に狙いを定めた。
「――ああ、……続行だ!」
言葉と同時に、いーちゃんは全速力で階段へ向けて走る。
丁度、一階分昇ったところで、後ろから声が掛かる。
五十メートルなど、彼からすれば五歩で縮まる距離だ。
「オイオイ、まだパーティーは終わっちゃいねェぞ可愛いカワイイ
シィーンデェーレラァァァァァァァァァァァ!! ワタシと一緒に
踊りませェ―――ンかァァァァァァ!? まだまだ魔法が解けるにゃ早ェンだよ
おォ待ち下さァァァァァァァい!! ってかァ!?」
……なんだあの奇妙なテンションは。
と思いながら、いーちゃんは更に階段を昇ろうとして、
目の端に、それを
見た。
一方通行が、両腕を、
振り上げて――
(あの構えはっ……!)
見覚えのあるその構え――
一瞬で一方通行の狙いを見抜いたいーちゃんは、
全力の全力の全力の更に全力で、
階段を駆け昇って――
(なんとか……射程外にっ……! 間に合うか……!)
それは忘れもしない一撃。
鉄板をも易々と貫く、人喰いの技。
「どォらァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!
――進入禁止っ!!
《一喰い(イーティングワン)》っ!!!!!」
それは正に、大爆発。
一方通行の放った必殺の衝撃は、まるで噴き出す間欠泉のように、
突き上げるように、
下から上に向かって――
(間に合えっ……!)
屋上を、貫いた。
「……っくぁー、痛ぁー、……よりにもよって、あれをパクるのかよ……、
せめて『二重の極み』くらいにしときゃいいのに……」
一方通行の《一喰い》の衝撃を受けて、校舎の片方の階段部分は丸ごと
吹っ飛んだ。
校舎を横向きに置いた長方形に見立てると、右からおよそ四分の一が
消失している状態である。
全力で階段を駆け昇った結果、なんとかいーちゃんは生きていた。
ただし、《一喰い》の余波を受けて、最後の一瞬に、避け切れなかった
片足は折れてしまっている。
余波でさえ人の骨を折る威力――匂宮出夢の技のパクりではあるが、
もはや技名など関係ない。
あんなものを食らったら、人間など文字通り一撃で『消滅』してしまった
だろう。
というか中にいた二人は大丈夫なのだろうか――そんなことを考え
ながら、動かない片足を引きずって、屋上の鉄柵に背を預けた。
「あー、やっぱり折れてら……、まあ、すぐ治るかな……」
そこに、
「――で? 観念したのかテメエ?」
消滅した屋上の反対側――屋上に続く階段など無いはずの所に、
無傷の一方通行が立っていた。
おそらく重力のベクトル変換でもして、校舎の外壁を歩いて来たのだろう。
それを見たいーちゃんは、無事な片足を使って立とうとして、
「……さっき言った筈だけどね……ぼくは殺されもしないし、降参も」
がっ、と
――頭を、掴まれた。
鷲掴みだった。
「……っ!」
そして、一方通行は、静かな声で、
「ハイ。オシマイ。……コレで俺がオマエの生態電気を逆流させりゃ、
オマエは粉々になっちまうワケだが――なンか言い残したことは?」
いーちゃんは、
「……くそ」
「ン?」
笑って、
「……あー、いいとこまで行ったと思ったんだけどなー……残念」
言った。
それに対して、一方通行は、心底つまらなさそうに、
「そォか。よかったな」
心底どうでもよさそうに、
一方通行は、
膝から、崩れ落ちた。
「……え?」
間抜けな声を挙げてしまったのは、いーちゃんだった。
最後の最後、一方通行が「よかったな」と、言った次の瞬間、彼は
全身の力が抜けてしまったように、膝から崩れ落ちたのだ。
その一方通行は今、屋上の床にうつぶせに倒れている。
意識ははっきりしているようだが、どうやら起き上がることもできない
らしい。
「……あァクソ。バッテリー切れか、チクショウ。やっぱり最後の《一喰い》が
マズかったなァ。アレで予想外にエネルギー喰っちまったか」
うつぶせで毒づく彼の表情は読めないが、とりあえず、もう起き上がって
襲ってくる心配は無さそうである。
「……はは。ってことは……」
「ふン。そォゆゥこったな《戯言遣い》。なンか納得いかねェけど、
俺の負けだ。ギブアップってこった。……くァ、それにしても体が動かねェ。
悪ィ。腕引っ張って仰向けにしてくれ」
そう言って、「こっちの腕を引っ張ってくれ」とばかりに彼は片手の指を
動かしたが、その指は死にかけの芋虫の如く力がこもっていなかった。
「ん。ああ……よいしょっと」
いーちゃんも片足が折れているので力が入らなかったが、彼の体はかなり
軽く、結構簡単にひっくり返った。
すると、彼は苦々しい顔で、
「あァ、すまねェな。ったく……なンでこの俺が、テメエなンかに負けなきゃ
いけねェンだよ。納得いかねェ」
「まあまあ。ぼくがきみに勝つなんて、一生のうちに一度くらいの
偶然だよ。一回くらい、多めに見てよ」
「ハッ……偶然ねェ」
「そう。偶然だよ」
「傑作……ってヤツか?」
「戯言だよ」
足の折れたいーちゃんを、なんだかいきなり現れた赤い女が一通り
からかった後、半ば拉致同然の勢いで「え? 片足折れてる? そんな
もん一日で治るからちょっと仕事手伝ってよいーたん」「いや、骨折は
かすり傷じゃないんですから。あなたの回復力が異常なんですああああ
ああああ拒否権無いんですかああああああ!?」
とか言って、屋上から跳んで行ってしまった。
「……」
それを見届けた後、一方通行は、
床に手を付いて、
――立ち上がった。
「……あァーあ、なンかストレス溜まンなァ。一般人相手にわざと
負けるってのはよォ」
実は、彼のチョーカーのバッテリーはまだ残っていた。
確かに《一喰い》に使ったエネルギーは大きかったが、それでも
残りのエネルギーを全部使い切るほどではなかった。
残り時間は二、三分くらいだが、普通に動くことも出来た。
「……くっだらねェなァ、オイ」
――『で? 観念したのかテメエ?』
「……あァ! 心底くっっっだらねェ!」
そう言いながら、彼は頭をガシガシと掻きながら、屋上の鉄柵を
乗り越えた。
――『コレで俺がオマエの生態電気を逆流させりゃ、オマエは
粉々になっちまうワケだが』
そのまま重力に身を任せ、屋上から落ちていく寸前、彼の目は、
校庭に立っている、
かつて自分が守り通した一人の少女を捉えた。
「……俺ァもう、人殺しなンかしたくねェンだっつーの。ったく」
CAST
いーちゃん
一方通行
最終更新:2006年09月05日 17:51