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池袋最強と最高剣神のワルツ

人が集まればトラブルが生まれる。
このライトノベル学園もその例に漏れず……というより世間一般と比べても尋常でない
トラブルに満ちている。だが好き好んでトラブルに巻き込まれることはない。
「すんません。俺らこれから仕事なんすよ。通してくれませんかね」
少なくとも自分の隣で相手を説得しようとしている静雄にちょっかいを出すなあ、バカの
やることだよな、と静雄の上司、田中トムは考える。
確かに静雄の外見は、細身でおとなしそうな面の上に、ぽけっとしているときのこいつは
サングラスも似合わない。
けど怒らせちゃあ、いけない。沸点の低い静雄を怒らせたら、マジでうぜーことになる。

それなのに。

トムと静雄はいつもどおり課金サイトの金を払わないバカのところに出向く途中、いきなり現れた
男たちに周りを囲まれていた。
たしか最初に名乗った御上とかいう男の言い分だと、彼らはUCAT開発部とかに所属していて
教頭の依頼で二人に用があるといってきたのだが。
「俺ら、そんな大した揉め事起こしたわけでもないし、教頭に出張られる謂れはないっすよ」
「いや、別に君たちが何かをしたからというわけではないのだよ」
「じゃあ、いったい何で俺たちの邪魔してるんですか」
(あー、やべえ。静雄のやつ半分キレてるわ)
そう思いながら少しづつ距離をとるトムには気づかず、香取と名乗った小太りのおとこが
説明を始める

「うむ、それはだな」


「2nd-Gの概念……ですか?」
「ええ、その力をお借りしたいのですが……」
ライトノベル学園大学部理系研究棟の一室で、鹿島・昭緒と月読開発部長、それにモレクの3人が
話し込んでいる。
「ええと、2nd-Gの概念は名前を現実に反映できるとお聞きしましたが」
「そのとおりじゃなあ」
不安そうに聞くモレクの言葉に、鹿島ではなく研究室の奥から答えが返ってくる。モレクがそちらを
見ると、ノートPCをひざに乗せ安いキャスター付の椅子に跨った老人が3人の方へ突進してくる。
「例えば今度の新入生にいる『神無月みだら』ちゃんを2nd-Gで保護したら、 そこは夢のパラダイス!?
 か、一夫困っちゃう」
3人の前で止まりクネクネと奇怪な動きをする老人を、背後から現れたメイドが手にしたモップで強打。
「デスキンッ!?」と奇声を上げて倒れる老人を引きずりながらメイドは一礼して去っていった。

「確かに我々2nd-Gの概念では名前が力となります。鹿島の名は2nd-Gでは軍神としての力を持ち、
 また名前そのものの意味も力になります」
「そうねえ、たとえばさっきの大城全部長なら、大きな城。堅牢とか、要塞とかそんな感じかしら。
 うん、教頭、あなたの≪ラビリントス≫のような力かもしれないわねえ」
「ええ、全部長の人生、曲がりくねってますから。近寄りたくない魔宮ができそうですね」
いたって冷静に説明を続ける鹿島と月読部長。二人の言葉に微妙にいやそうな顔のモレク。
「で、我々に何をさせたいんですか?」
「あ、これは申し訳ない。実は2nd-Gの皆様方にですね……」
鹿島の促しに我に返り、モレクは説明を始める。曰く、学園の抗争が耐えないこと、なんとか
少しでも沈静化できないかと日夜教師陣で話し合っていること、そんな中2nd-Gの概念効果と
一人の男の名前が挙がったこと、etc、etc。

「なるほど『平和』島『静』雄ですか。」
「けど、聞こえてくる話だと、名前とはまるっきり反対みたいよねえ」
「ですから、彼に『賢石』ですか? 概念効果を付与する石を持っていただければ本人や周りに
よい影響を与えると思ったのですが。もちろん開発予算その他はこちらで負担いたします」
納得したような鹿島、疑問のままの月読。
結局、モレクの粘り強い説得で、まずはやってみることにしようとの結論が出た。

という会話がされたのが3日前。貫徹含みでUCAT開発部が装備を整えたのがついさっき。


「というわけでー、平和島静雄君、君にはこの『賢石』を身につけてもらう」
2日貫徹完了後のちょっとアッパーはいってる御上の声が響く。
「……つまり、手前らは俺が暴れるから。その石を持ってろと」
「うむ、多少不便かもしれんが、何、学園の平和のためでもある。ノーベル平和賞ものだな、これは」
「なるほど、なるほど、この石な」
そういって静雄は目の前にある、2mほどの青い石に手を当てる。
2mの2nd-G概念を籠めた『賢石』。学園の騒動を静めるにはこのサイズが必要との計算結果なのだが、
そこに「『賢石』はどこまでデカくできるか?」「予算無制限だし」とか、寝不足ハイテンションが
影響しなかったかというと。……さてどうだろう。
「うむ、その通り、ふははは」
「はは、なあ、オイ」
御上の横、笑いながら静雄が『賢石』の出っ張りを掴む。
「――っきるか、オラァァァ!」

怒号。そして高さ2m、総重量何kgか分からない巨大な『賢石』が、静雄の手によって
放り投げられる。あわてて飛びのくUCAT隊員たち。
「あああ、こんなの持って歩ける人間がどこにいる。考えろ、バカが。大体、俺は暴力が
 嫌いなんだよ、わざわざ使わせんじゃねえよ、クソがぁぁぁぁっぁ!」
やはり、説得に応じないか、かかれーという号令のもと飛び掛るUCAT隊員を、逆に吹き飛ばし
ながら静雄が吼える。
「いや、静雄持てたじゃん。ていうか、効いてなねえな、あの変な石」
あー、仕事できっかな、というトムの呟きをよそに乱闘は続く。

数分後。
静雄の周りを取り囲むように、UCAT隊員が倒れている。防護服のおかげで死人は出ていない
ようだが動ける者もいない。

「説得も実力行使も駄目。だが、小心、いや慎重な教頭はこのような事態も予想済み。
 こんなこともあろうかと、我々にはこれがある」
そういって開発部の一人が、なにやらごちゃごちゃとした機械を用意する。
「一応聞くけど何それ」
「うむ、これこそ『愛Full.2006』。Top概念の意思強制概念の『賢石』と妖刀『罪歌』を研究して作り
上げた究極の洗脳装置。範囲は狭いがこれを聞いたものは博愛主義者になること間違いなし。」
「じゃあ、早く使ったほうがいいな」
トムの疑問に律儀に答える開発部員。だが振り向くと静雄はすでに近くに来ている。
慌てた研究員は『愛Full.2006』を起動。ボリュームをフルにした。途端に取り付けられたスピーカから
『あ『愛『愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるあ……』』』
と何処か狂ったような『愛の言葉』がもれ始める。
「……あれ?」
しかし静雄は一切気にする様子もなく、研究員の頭をわし掴みにする。結局、『愛Full.2006』は
効果を見せず、代わりに静雄に捕まった研究員の頭からメリッ、ゴッとイヤな音が響き。


「ボォンジュ~ル、THE・HEY!、あっさ、ひるっ、イエェェェ~!」

――歌う馬鹿が現れた。
2nd-Gにおいて最高の剣神、熱田・雪人、その人である。

「まーだまだ、FUUUUU! どぉんちゅみぃ、THE・COOOOOOL」
歌いながら情熱的なステップを踏む熱田。
倒れているUCATの同僚を気にすることなく、熱田は謳い踊る。
「とりあえず……死ね!」
周囲の視線をものともせず、謳い踊り続ける熱田に静雄がキレた。アイアンクローを決めたままの
UCAT隊員をまるで人型のボールですとでもいうように振りかぶり、男に向かって放り投げる。
構わず熱田は、タララッと軽快にタップを踏み、足を引いて身をそらす。
上半身を低く沈めた熱田の上を、UCAT隊員がかっとんで行く。
「おいおいおい、美声にしびれて投げるんなら花束だろうが」
「あれもおたくらの秘密兵器?」
「……ああ、秘密にしておきたかった兵器だ」
倒れていたUCAT隊員の苦渋を声を漏らす。
熱田のほうは「ったく、もうワンコーラス待っててんだ、バカヤロウ」と機嫌よくつぶやきながら
静雄のほうに向かって歩き出した。
「死んどけっつたろうが。……あ?」
無造作に歩いてくる熱田に、同じぐらい無造作に殺すと宣言しながら静雄が腕を振るう。
しかし、殴りかかる一瞬前、静雄の目の前から熱田の姿が消えた。
「……? がっ!?」
続いてくるのは衝撃。横を見れば丸めた雑誌を手につまらなそうに欠伸をする熱田の姿。
それに拳を振るう。また熱田の姿が消える。だが衝撃は消えたはずの正面から。
「何だ、こりゃあ」
目の前にいるはずの相手が見えない。ありえないはずの自体が静雄を襲う。

(……つまんねえな)
『歩法』。
2nd-Gが誇る対異世界用戦闘技術。
原理は単純。相手の視線から己をずらす。呼吸から予測してくるタイミングをずらす。踏み込みをずらす。
聴覚を。鼓動を。相手の持つ全知覚とタイミングを。ほんの少しづつずらしていった時、相手はこちらを
認識できなくなる。言うのは簡単で、行うには熟練を要する技術。しかし剣神である熱田には日常的な動作。
(つーか、剣神の俺に平和維持活動? 有難すぎて涙がでらぁ、全くよ)
殺さないように、ちょうど持ってきてた雑誌で相手をしているが、そもそも静雄とか言う相手はこちらが
見えていない。動きも格闘技をやっているもののそれではない。多少はタフそうだがそれだけだ。
(あー、つまんね。とっとと終わらせるか)
相手ではない、そう判断し止めの一撃をのど元にでもやっか、と熱田が思ったとき。
――強烈な一撃が来た。

(クソが、ふざけてんじゃねえぞ!)
衝撃に静雄の目が眩む。
腕を振り回すが相手には当たらない。殴られている方向を考えれば、相手は確かにそこにいる
のだが姿が見えない。いや、見えなくさせられている。
(クソ、クソ、クソ、クソ、クソがぁぁぁ!!)
一方的に殴られる。だがそのことよりも屈辱的なのは、時折姿を現す熱田がとことんつまらなそうに
自分を打ち据えていること。
(勝手にきて、俺を怒らしといて、テメエはツマンネぇだと! 俺に拳使わせておいてテメエは退屈。
 ざけんなよ、何だ、何様だ、テメエ。神か、神気取りか、いいぜ、ふざけろ、神だろうとよ――)
衝撃で目が眩む。相手は捉えられない。何より怒りで前が見えなくなる。
それでも平和島静雄は――
、 、  、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
ただ、目の前の相手をぶっ叩いた。


「っ、はっ!」
静雄の拳がモロに熱田の顔面を捕らえる。しかしさすがに剣神としての意地か
吹き飛ぶことなく数歩よろめくだけで熱田はこらえる。
みれば静雄は2撃目をくり出そうとするところ。その視線は熱田しか見ていない。
だから熱田は歩法を使う。
視線を。
足音を。呼吸と鼓動を。
筋肉のうねりや骨の軋みすら静雄の全知覚からずらす。
静雄の全知覚からはずれ、認識できなくなる。
それでも――
それでも平和島静雄は、見えないはずの相手に襲いかかる。

(なんだ、こいつ)
熱田は考える。『歩法』を使っているはずの自分をなぜ相手は捕らえられるのか。
『歩法』を破ること、それ自体は実は難しくない。相手と同調し、かつそれをずらす
メカニズムが『歩法』ならその同調を崩せばいい。一瞬目を閉じる、呼吸を止める、
そんな簡単な事で同調は崩れる。
だが目の前の相手がそんなことを知るはずはない。現にそんなことをしている様子もない。
(つまり、こいつは……)
ただ、殴る。まるで抑えきれない何かに衝き動かされるそのままに、ただ殴りかかってくる。
その拳が熱田を捉える。
「制御できねぇか、自分で自分がよぉ」

殴られる。『歩法』を覚えて以来、いや、そもそも2nd-Gの剣神で人の攻撃で傷つかぬはずの
自分に打撃を、それも血を流すほどの尋常ではない打撃を与えた相手を熱田は見る。
それは――純粋なまでの『暴力』の塊。

(やべえ)
頬を掠める拳をかわしながら思う。
(やべえな、こいつ)
拳を避けざま、逆に相手の右の脇腹に打ち込みながら考える。
(やべえくらいに――)
相手はよろめきながらも自分に向かって拳を振るう。
「――おもしれえ……!!」
手を伸ばし、襟を掴んで引き寄せる。相手も同じようにこちらの襟を取る。
お互い胸倉を掴んだまま、申し合わせたかのように全力の頭突き。
人間がぶつかったとは思えないほどの轟音が響く。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「おいおいおいおい、面白すぎんぜ、お前。どうすんだ? どうすんだよ、おい」

額をギリギリ押し付け合う熱田と静雄。静雄は怒り、熱田は笑う。
周囲すべてを無視しての大喧嘩が始まった。


ところ変わって職員室。

「おや、茶柱」
2ndG協力への事務処理を行い、その他学園沈静化プランに眼を通し、ほっと一息。
「今日はいいことがありそうです」
茶をすするモレクに「熱田と静雄、数時間わたる乱闘の末に引き分け、周囲の被害は甚大」
との一報が届くにはもう少しかかりそうである。



CAST

  • 終わりのクロニクル
鹿島・昭緒
月読開発部長
大城・一夫
熱田・雪人
UCAT開発部/隊員

  • デュラララ!!
平和島静雄
田中トム

  • 灼眼のシャナ
“大擁炉”モレク
+ タグ編集
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  • 3スレ目>>547-554
最終更新:2006年10月12日 22:12
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