むかーし、むかーし。
かつて全竜交渉部隊と3rd-Gの戦いの中使われた「――人の思いは通じる」という、思いが
通じている相手と人格が入れ替わる概念があったんじゃと。
ある日困った事に、この概念と「お前と俺は同期の桜」「解りあえるものはない」など他Gとの
概念の比較、研究中に暴発事故が発生しまったんじゃ。
まあ、そのくらいなら学園内で起こりえる他の研究や実験の暴走に比べて、被害は少ない方
じゃが、大変なのはそれに巻き込まれた生徒たちのほうじゃな。
たとえば、たまたま機材の貸し出しに来ていた大神涼子さんと森野亮士くんのようにのぅ。
「がああー、何でこんなことになってんだよ。信じられねー、俺の頭から出ーてーけー」
(すいませんッス。すいませんッス。でも駄目なんッスよ)
「あらー、本当に亮士君の心だけ入っちゃったんですねえ」
そうなんじゃ。りんごさんの言うとおり、入れ替わりの概念が起きたのに、なぜか大神さんと
亮士くんの二人は入れ替わらずひとつの体のままじゃったんだと。
まるで亮士くんが大神さんに取り付いた感じになってしまったみたいじゃのぅ。
やっぱりストーカーは一味違うようじゃ、ほっほっほ。
さて、これはそんな事件に巻き込まれたオオカミさんとその仲間たちのお話じゃ。
では、はじまりはじまり。
「ホント困りましたわ。でも入れ替わるはずの概念でどうしてこんなことになったんでしょう?」
「ふむう。これは推測なのだがね。概念の暴走や複合効果もあるだろうが、そこに倒れている
彼の片思いの強さも原因なのではないかと思うよ?」
「なるほどですわー。亮士くん、一週間付回してようやく告白したのに涼子ちゃんあっさり断っちゃ
いましたしね。んー、一部でも通じてるし涼子ちゃんにも少しは受け入れたってことでしょうか」
冷静に解説する佐山君とりんごさんの言葉に、な、な馬鹿なこというなーと顔を真っ赤に両手を
振り回す涼子さん。ついには出てけとばかりに頭まで振りはじめます。
「はは、通じ合えないのは不幸だね。その点、私と新庄君の思いは完璧だよ」
相変わらず自信満々にいったのは佐山くんです。どこにそんな根拠があるんでしょうね。
(おや、妙な声が。これが人を惑わす悪魔の囁きかね。はは、だが愚かなことだ。私と新庄君の
思いは世界の概念条文ですらあるのだよ?)
と言い返す佐山くん……っていま地の文にツッコミ返しました?!
(だが、まてよ)
と呟きを続け、っていやだからさっきの答えはー?!
(確かに私と新庄君で創りあげた『佐山と新庄の意思は、永遠に共にある』 は実に素晴らしい
概念ではあるが、この学園には上条のような非常識人間や涼宮くんのような自己中心的で
概念を変えたり消したりする人物がいるね。よもや彼らによって打ち消されてはいまいか?
なんということだ。もしそうならとんでもないことになる。まずは消されていないか確認せねば。
なに、決して不純な動機ではなく、あの概念が失われることは世界にとって大きな損失だからね)
もうこっちを完全に無視して、真剣な顔で振り向く佐山くん。
「っ……新庄君!」
「あー、うん。なんとなくわかっちゃたから。でも混乱するだけだからやめようね」
半目で佐山くんに釘をさした後、ため息をつきながら新庄くんはりんごさんに謝ります。
「ごめんね。変なことになっちゃって。うん、でもああ見えても佐山君で何とかしてくれるよ」
「いえー、結構楽しいですわよ」
出てけーと激しくヘッドバンギングする大神さんと、ああやはり私と新庄君は通じていたのだね
とクネクネ身をよじる佐山くん。まるで怪しい暗黒舞踏のようです。
「とにかく早いとこ何とかしろっ!」
さすがに自分の頭を振っていても問題は解決しないと、ようやくわかった大神さんが叫びます。
「大体、問題起こしたのはそっちだろ!。うちの魔女先輩でもこんなろくでもねえ研究はしねえぞ!」
と、そう怒鳴った大神さんの目の前に剣が突きつけられました。
剣を握るのは概念研究をしている月読・京さんの護衛で、3rd-G自動人形ギュエスさんです。
主人に仕えることを悦びとする自動人形(ところで「仕える悦び」ってエロいですよね)として、
主人への暴言は許せなかいようですね。
「……貴様、こちらに落ち度があるとはいえ、その言い草は姫に対して無礼が過ぎるぞ」
「やめな、ギュエス。自分でいっんだろ、悪りィのはこっちだ。手をひきな」
剣を挟んで一歩もひく姿勢を見せない大神さんとギュエスさんの間を、京さん(いやもうむしろ
京姐さん?)がとりなします。
「大神って言ったよな。すまねえな、できるだけ早く対処するんでここは我慢してくれ」
「……いえ、すんません。こっちも頭に血が昇って言い過ぎました」
「……申し訳ありません姫。私も出過ぎたまねを」
素直に謝るギュエスさんと大神さんを見て、りんごさん思わず感心してしまいます。
「涼子ちゃんがあんなに素直に謝るなんて、流石ですねえ」
「ねえ、佐山君。京さんと大神さんて何か似てるよね。こう強い女の人って感じで」
「ははは、よく気づいたね、新庄くん。彼女たちの様な女性を『レディース』といってね、
わりと昔からいたのだが、近年その過激傾向が強くなってね。その実態を描いた
漫画などは凄いことになっているらしいよ?」
「あら、新庄さんはレディースコミックを読んだことがありませんの? よければ一冊
お貸ししましょうか。小説の資料になさるといいかも」
「え、ええと……じゃあ一冊貸してくれる? りんごさん」
「はい。今回は私の個人的なサービスですけど、私たち御伽銀行に仰っていただければ
もっと『お貸し』いたしますわ。いつもニコニコうちの『貸し出し』ますがモットーですから」
そういってにこやかに嗤うりんごさんになにか嫌な予感をおぼえ、新庄くんは思わず助けを
求めてあたりを見回します。
でも目に入るのは……
「でもこっちの子は名前だけじゃなくて雰囲気とかが飛場に似てるわねえ」
「……? でも風見、この子はリュージ君より大きいよ?」
「微妙に飛場がへこんでるぜ、美影。あー、そうだ。よろこべ飛場。あっちのちっちゃいのが
言ってたが、こいつもストーカーだとよ。これでお前にも仲間が増えたな」
「そうね、この子も彼女と一体化したわけだしますます似てるじゃない。良かったわね」
と、半目でいう出雲くんの言葉を一歩ひきながら風見さんは混ぜ返します。
「SM夫妻には言われたくないですよっ! オープンエロスならいいと思ってますね?!」
それにですよ、と飛場少年は非難のの矛先を出雲から、我関せずという顔をした二人に変えます。
「合一タイプなら原川先輩たちもですよ。むしろ、原川先輩はクールに見せてますけど、人形
フェチなあたり、いざという時はすごいと思うんですが、ど、どうでしょう、ヒオさん?
「え、え、ヒオですの? えと、はい、原川さんは凄いですのって、あ、イタッ」
「黙れ、飛場・竜司。どんな相互理解の概念も通じないような妄想を垂れ流すな。大体、
合一するのはヒオとサンダーフェロウで、俺は只の操縦者にすぎん」
「あらーひどいですわ。聞きましたヒオさん、原川さんたら「只の」ですって。これだから
男の人は信じられませんわー」
いつの間にかそばに来ていたりんごさんがヒオに耳打ちします。
「そんな! 原川さん、りんごさんの言うとおりなんですの?! そんなのひどいです。いつかも
ヒオがやさしくしてくださいってお願いしても無茶なことして、でもヒオがまだ上手じゃないから、
もっと頑張ろうとしてるのに、でもサンダーフェロウと勝手に盛りあがって二人で激しく動いて
ヒオをくらくらにしちゃうのは原川さんですのに、それなのにタダ乗りなんですのー!!」
「まあまあま、ヒオさんたらそんなすごいことされちゃってるんですか? 鬼畜ですわー」
顔をしかめる原川を挟むように「非道いですわー」「ひどいですのー」と輪唱で責めたてる
りんごさんとヒオさん。
少し離れたところでは、「俺は千里一筋だからな」と惚気る出雲くんを照れ隠しに風見さんが
殴り飛ばし、「ぼ、僕も美影さんだけですよ」と言った飛場少年が、それに巻き込まれて一緒に
吹き飛んでます。
新庄くんと大神さんはそんな仲間を見て、思わず顔を見合わせ同時にため息をつきました。
「ごめんね。いつもあんな感じなんだ。慣れてないと大変でしょ?」
「いや、なんとなくついてける」
(そうッスね。うちもあんな感じッスよ、新庄先輩)
はあ、ともう一回ため息をつく二人(+一名)
「ええと、結局問題解決はどうするの、佐山君?」
「うん、それなのだがね。今、長引いたときを考えてアドバイザーを呼んだところだよ、新庄君」
「アドバイザー?! それは四六時中いるためのですか! それなら美影さんといつも一緒のこの僕が」
なぜか張り切る飛場少年を無視して、佐山少年、ちょうどやってきた車に目を向けます。
「ああ、ちょうど来たようだね」
「あ、あっさりスルー?! もっとみんな僕にかまってくださいよ」
「ん、じゃあリュージ君、今日は一緒にお風呂にはいろ。ずっと前(
>>143)から入ってなかったよね?」
わぁい、と喜ぶ飛場少年をやっぱり無視。佐山くんはやってきた人物にみんなに紹介します。
「知っている者もいるかも知れないがね。オリンピックスケーターの桜野タズサくんだ」
手を上げた佐山くんの元にやってくる桜野さん。いつだって堂々とした彼女なのですが、その自称
"百万ドルの美貌"がなんだか今は赤くなってます。
「さて、用件はすでに電話で伝えているが、早速取り掛かってくれるのかね?」
「ええ、いいわ。けどプライベートなことだし彼女にだけ話すわ。それでいいでしょ」
「ふむ、かまわんよ。では早速力を貸してもらうとしよう」
その言葉に桜野さん、ひとつ頷くと大神さんを手招きして少し離れた場所に歩き出します。
「ねえ、佐山君。桜野さんがアドバイザーってどういうこと?」
「何、簡単なことだよ。彼女は昔とり憑かれたことがあってね、その男性の幽霊と100日間を
共にしたことがあるそうだよ」
「へえ。あ、じゃあアドバイスってその時の体験談? ふうんちょっと聞いてみたいなあ」
大神さんと桜野さんは離れたところでひそひそ話。耳打ちする桜野さんの言葉に大神さんは熱心
に頷いたり顔を赤くしています。
「……目隠し……お風呂は……はあ……へ、トマ……何で……」
「……えっと……追い出し……でも、駄目……食べすぎ……」
「……はい?……トイ……え、トイレ……え、え、じゃあ一緒にって……。え―――――――――っ!!」
突然、素っ頓狂な声をあげる大神さん。
そして、とりあえず近くの木によっかからせている亮士くん(の体)の方に走ってきます
うるうる涙目で亮士くんを見た次の瞬間、大神さんの蹴りが亮士くんを吹き飛ばしました。
受身も取らず、地面をゴロゴロ転がる亮士くん。まあ受身を取ろうにも、亮士くんの意識の方が
大神さんの頭の中なので無理なんですけど。
(ひ、ひどいッス! 涼子さんあんまりッスよ)
「うるさい、死ね!いますぐ死ね!でなきゃ眼を潰せ、耳をふさげ!!」
(ひぃぃぃ! そんなの無茶っスよ。できないっス)
「お、落ち着いて大神さん。少しだけ、少しだけ我慢しようよ、ね? 佐山君も止めてってば!」
「我慢できるかっ! い―――や―――だ―――――っ!!」
結局、大神さんと亮士くん、二人の体が500m程離れたところで、効果が消失したそうじゃ。
目立った後遺症もなく亮士くんは体に戻ることができて、まずは一安心じゃな。
ただ、その後亮士くんは大神さんから「半径500mには近寄ったら殺す」という「ストーカー禁止法」
並の取り決めを一方的に宣言されたんじゃと。
おかげでしばらくの間、亮士くんは500m先から謝り続けたんじゃが、人にみられていない時は
まるで性格の違う亮士くん。その「許してくれないか、涼子」と遠くから渋いんだかヘタレてるんだか
分からない謝罪姿と、「こう渋く迫られるのもいいなー、とか思ってません、涼子ちゃん?」とからかう
りんごさんの姿が見られたそうじゃ。
めでたし、めでたし?
~新庄・運切著 佐山宇宙名作童話シリーズ「オオカミさんと13匹のビーヤーキー」より~
とうじょうじんぶつ
大神涼子
森野亮士
赤井林檎
月読・京
ギュエス
佐山・御言
新庄・運切
飛場・竜司
美影
ヒオ・サンダーソン
原川・ダン
風見・千里
出雲・覚
桜野タズサ
最終更新:2006年10月12日 22:43