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しっとの心は父心

「…………」
  廊下の柱の影から、リネアはピクリとも動かずにその光景をじっと見詰めて……否、睨み付けていた。
  その視線の先では自分の弟の影武者だと言うことで城に来ている、ジグリットと、セイルーンの王女であるアメリアが談笑していた。
  正確にはジグリットが黒板にチョークで書いた言葉をアメリアに見せ、それに対してアメリアが楽しそうに返事している。
  話の内容はここからでは伺い知ることは出来なかったが、自分以外のものがジグリットとあんなにも親しそうに話をしている。
  それだけでリネアには十分だった。
――許さないわ……!
  更にアメリアがジグリットの肩に腕を回す。それが、我慢の限界だった。
  リネアは足音も荒く踵を返すと、自分の部屋へと駆け込み、そこにいた自分の侍従であるアウラにある一つの命令を下した。
「……セイルーンの王女をやりなさい」
  アウラは驚き、聞き返した。
「なんですってリネアさま!?あの国とはダザリアとも親交があるではないですか?」
  リネアは冷ややかな目線でアウラに一瞥をくれると、吐き捨てるように呟いた。
「あの国はいずれ、うちの国家の脅威になるわ……そうなる前に、潰すのよ……」
  その声の響きにアウラはぞっと身を震わせたが、リネアには逆らえない。そっと頷くと、慌てて部屋から出て行った。
  アウラの足音が遠くなるのを確認すると、リネアはそっと息を吐いた。
  その時、アウラのものとは異なる足音が聞こえ、リネアは部屋から顔を出す。
  そこには予想通り、いつものように小さな黒板を抱えたジグリットの姿があった。
  リネアは薄い笑みを浮かべると、ジグリットの元へと歩いていった。

  そっと、足音を殺して背後に立つ。辺りに人の気配がないことを確認し、慎重にターゲットに近づく。
  アメリアは気が付いていない。大丈夫だ。
  今までにも似たようなことを三度もしてきた。今回だって上手く行く……。
  そう言い聞かせながら、怪談の上に立ったアメリアに素早く近寄った。
  後は、後ろから押すだけ……。その瞬間、

「何か御用ですか?アウラさん」

  目の前の相手に名前を呼ばれ、ビクッと手が止まる。
  慌てて手を引っ込め、後ろに隠した。それと同時に、アメリアがゆっくりと振り返る。意志の強そうな目線に射抜かれて、アウラはしばし、居心地の悪い思いをした。
「リネアさんのお使いでしょうか?」
「あ、いえ……その……」
  何と答えて良いのか分からずしどろもどろになるアウラをアメリアは暫くじっと見詰めていたが、やがて小さく首を振った。
「最近……おかしな事件が起きているんですよ。ジグリットさんに近づいた人が次々と事故に遭うそうなんです」
「まあ……そうなんですか?」
  初めて知ったというように、アウラが口元に手を当てる。実際アウラは、何も知らなかった。
  王子の影武者であるという下践のものに、誰が近づこうがアウラにとって全く関心の外であった。
  それがリネアに命じられて、自分が事故に遭わせたものであると言うことをアウラは知らない。
「そこでわざとジグリットさんに近づいて、犯人をあぶり出せないかと思ったんですが、アウラさん、何か知りませんか?この私の、正義の血が騒ぐんです!」
  拳を握って主張されたところで、アウラには何一つ心当たりはない。
「何のことだか分かりませんわ」
  ただそう答えるだけだった。
「そうですか……分かりました。ありがとうございます」
  アメリアは丁寧に一例をすると、階下へと立ち去る素振りを見せた。
  しかしその直前で立ち止まり、再びアウラを真っ直ぐに見上げる。
「……ジグリットさんに一番近いのは、貴方がお着きのリネアさんです。どうかくれぐれも怪我をなさらないようにと、伝えて置いて下さい」
  そう言うと、アメリアは今度こそ立ち去った。アウラにはその背中を見送ることしかできないのだった。

「――失敗しました」
  先程の経緯を説明し、深々とアウラは頭を下げる。どのような叱責が来るか、想像するだに恐ろしい。
  しかし思っていたような怒りの声はなく、アウラは怖々と頭を上げた。
  そこにいたのは予想に反して上機嫌そうなリネアの姿だった。
  なにやら思索に耽りながら、手にした革の鞭を弄んでいる。
「あの……」
  そう声を掛けると、漸くリネアがこちらを向いた。その口元に浮かぶ笑みに、アウラは背筋が凍るような思いを味わった。
「そう、失敗したの……」
  言いながらゆっくりと歩いてくるその姿が怖い。威圧感に満ちたその笑みが怖い。
  アウラは呼吸を引きつらせ、思わず後退りした。しかしやがて壁にぶつかり、後退を止めることを余儀なくされる。
  そんなアウラの顎の先にムチの先端が押し当てられ、上を向かされた。
「おまけにそんなことを言うなんてねえ……なかなかやるじゃない」
  どこか嬉しそうなその声音が更なる恐怖を呼び、アウラは既に失神寸前だった。
「……今回だけは許してあげる。今回だけよ。次に私に逆らったらその時は……」
「は……はい……リネアさま……」
  一体リネアはどこを見ているのだろう。自分を覗き込むその目は、遙か遠くを見ているようにしか見えない。
  途方もないほどの恐怖に捕われたまま、アウラはただその場で震え続けていた――


CAST

  • ダザリア王国物語
リネア
アウラ
ジグリット

  • スレイヤーズ!
アメリア
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  • 3スレ目>>603-605
最終更新:2006年10月12日 22:37
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