一つの机を、何十人もの男子生徒が囲み、見つめていた。
その表情は暗く、何か巨大なものに押しつぶされることを恐怖している小人のようである。
重々しい空気の中、一人の男が口を開く。
「作戦はこうだ。まず俺と坂上、佐山副会長殿の三名でポイントB-2から目標地点へと侵入、対象を発見次第最大戦力を持ってこれを迎撃する」
硝子製の机の上に乗った地図。その一角を指さし、相良宗介は手持ちの銃に弾倉を差し込んだ。
ガシャリ、と独特の音を立てて銃弾が装填される。
「その間にポイントA-3から侵入した別働隊が奴らの本拠地を襲撃。学園都市製の兵器と個々人の能力によって手薄になった敵陣地を一気に破壊する」
「待ってよ。それじゃ相良達が危険すぎる、ここは皆で一気に攻め込むべきじゃないのか?」
その作戦提案に坂井悠二が身を乗り出し抗議する。
熟練の兵士では無いにしろ、彼にとて先発の三名が危険に晒されることぐらい簡単に予想が付いたからである。
「駄目だ。それでは全員が生きて戻ることができない可能性が出てくる」
「そんな事無い、皆がきっと力を合わせれば何とかなるはずだ!」
「人の心はそうはいかんという事だ」
スッ……と手が伸ばされ、悠二の前を横切る形で塞がり、悠二を椅子に軽く押し戻す。
差し出したのは副会長、佐山御言であった。
「確かに我々の戦力を持ってすれば身体上は誰一人犠牲を出すことなく事を修めることができるだろう。あくまで身体上はな」
その言葉にどんな意味が込められているのかは、坂井悠二にも理解できる。
今回の戦いとは、つまりそう言うものだ。
戦意を失わずに、逃げ出すことなく最後まで戦い続けられるか?
それこそが最大の鍵であり、絶対の条件でもある。
しかし、敵のその想像を絶する姿は確実に自分達の心を砕こうとするだろう。
だから彼等は、自らを盾に仲間を守り抜こうとしているのだ。
数多くの不確定要素の中で、これだけは簡単に予測できることだった。
「だけど……それでも………」
それでも、彼等だけが最前線で戦うことを見逃すことなど今の自分にはできない。
自分の身を自分で守る。それだけしかできないのが、坂井悠二という存在の“今”である。
他人を守るほどの余裕は無い……本音を言えば彼とて怖いのだ。
その見た目はこの世の何にも増しておぞましく。
その速度は悪寒をばらまく程に俊敏且つ機敏。
その羽音は恐怖を煽り、闘志を挫き。
その生命力は不死身という言葉を幻視する。
たった数匹ですら、あのシャナを戦慄させたというのにその数何と二十万。
本能的な、生理的な恐怖を呼び覚まさせる奴らの前に坂井悠二という存在はあまりにも無力だった。
「くそ、――――っ、なんで、こんな……弱いん、だ……」
いつの間にか涙が流れていた。
恐怖ではない、悔しさから……自分の弱さに対する悔しさから坂井悠二は涙を流していた。
歯を噛み締め、瞼を閉じても尚嗚咽が漏れ出す。
こんな思いをしたくないから、あの日、誓ったはずなのに。
強くなると、強くなってみせると。
「何も……僕は、何も、変わって、ないん、だ」
「泣くな、坂井悠二」
顔を上げると、相良宗介がこちらを真っ直ぐ見据えていた。
「泣いても喚いても、戦いの時は来る。その時お前を、お前の戦友を守るのは涙ではなくお前自身だ」
「……………」
「獅子堂戌子は言っていた。“戦え!”坂井悠二」
それは鼓舞の声だった。受け売りであるはずのその言葉に、戦いの中に生きてきた戦士から少年へのエールが確かに込められていた。
「戦え!戦え!戦え!戦え!戦え!戦え!戦え!戦え!戦え!」
「怪物であろうと、化け物であろうと、天敵であろうと、好敵手であろうと関係ないのだ。
全ては立ち向かい、できる事をし尽くす事から始まる。お前も戦士である事を望むなら、戦え。
戦える限り、戦え。戦えなくても、戦え―――」
「……………」
頷くと共に坂井悠二は拳を握り、それを突きだした。
全てに対する決意と答えが、その小さな拳に現れていた。
「僕も共に行く。“相良達と一緒に”―――戦う!」
「決まりだな」
相良宗介が己の拳と坂井悠二の拳を合わせると同時に、佐山御言が立ち上がる。
「――――諸君!
今こそ言おう。・・・・・佐山の姓は悪役を任ずると。
私はここに命令する! いいか? 死んでも生き残れ。そして自らを失うな。何故ならば、誰かが失われれば、その数だけ、彼の決意を踏みにじる。
解るな!? ならば、進撃せよアヘッド、進撃せよアヘッド。 進撃せよだゴーアヘッド! 戦友が勇気を失う前に強く殴って言い聞かせろ! そして最後まで生き残れ! それが解ったら言うがいい!」
『――――Tesテスタメント』
「で、あっちの皆さんは何であんなシリアスな展開に入ってるんだ?」
「クジ引きで校内全区域に生息しているゴキブリの巣窟点を潰す役割を引いたらしい」
「あぁ、成る程。そう言えば“さ行”組はハズレを引いたって聞いてたな」
「そして俺達“た行”組はお節作りというわけか。ある意味適材適所というわけだな」
「高須ー海老持ってきたぞー」
「お、来たか。高上、悪いが取ってきてくれ」
「はいよ」
CAST
相良宗介
坂井悠二
佐山・御言
高須竜児
最終更新:2007年12月09日 22:32