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夢の共闘

  この上ない高揚感を紅世の王“虹の翼”メリヒムは感じていた。
  節分……と言うこの世界のこの国の文化をメリヒムは面白いとも素晴らしいとも思わない。
  本心を述べれば、下らないと考えている。人間の歳数えと祈願風習など、本来ならば切り捨てるにも値しないものだ。
  だが、それが戦い――しかも彼に多大な利益をもたらす――となれば話は別である。
  強大なる紅世の王として幾つもの死闘を潜り抜けてきたメリヒムは、今、この瞬間幾年月思い描いてきた理想が形になっているのを再度確認し。
「っはははははははははは!」
  歓喜の声をあげた。
  紅蓮の軍勢が大地を埋め尽くす中で、虹の翼を広げた剣士は、その幸福にただただ声を張り上げて笑う。
  彼は待ち望んでいたのだ。
  炎の軍勢を束ねる、かつては最強のフレイムヘイズとして名を馳せた一人の女と共に戦うことを。
「馬鹿笑いしてんじゃねぇ!!」
  メリヒムから放たれた、七色に分かれた七本の光線の間を縫うように飛びだした少年……平賀才人が叩き付けるように剣を振るう。
  剣とサーベルが小さな火花を散らせながらぶつかり合い、ちょうど鍔迫り合いの形になった。
  お互いの視線が交差し、その瞳に込められる感情の違いが、平賀才人の心を焚きつける。
  言葉に出さずとも台詞は分かる。「舐めるな」と、その瞳が語っていた。
「貴様には分からんのか? 愛しい女と戦場を駆けるこの喜びが」
「分かんねぇよ! 俺はどっちかってぇと守りたい方なんだ!!」
  才人が左手を腰に回し、ホルスターに掛けてあった銃を取り出す。
  躊躇いなく引かれた引き金と共に飛びだした弾丸に先駆けて、巨大な空気の槍がメリヒムを吹き飛ばした。 
「そうか……ならばそれで良い」
「っな!?」
  一息に三撃、赤青緑の三原色の光線が才人の足下の地面を抉る。
  しかし、咄嗟に跳躍することで回避したその先に突き立てられたサーベルが、その肩を抉るように貫き傷口を真っ赤に染めた。
  引き抜かれた剣先から飛び散る血を尻目に背中から地面に落ちるが、多少の怪我ならば意に介さずに動くことができるガンダールヴの力を持って瞬時に後転しつつ身体を起こす。
  曲げた膝をバネに獲物を襲う狼の如く飛びかかり、がむしゃらに剣を振るうが一閃、二閃、三閃……繰り出した攻撃は尽く防がれた。
  まるで柳に殴りかかるような感覚……メリヒムが必要最低限度の力をもって太刀を受け流し、斬り返す度に才人は一つ一つ傷を重ねていく。
  ギリリ……と歯が噛み締められる音が口から漏れる。
  今現在、才人の姿は土に汚れ、幾つもの痣と裂傷が痛々しい。
  対するメリヒムは……全くの無傷だ。
  学園都市製の特殊弾丸『衝槍弾頭』による衝撃波の槍も全く効果が無かったようで、外見には傷一つ着いていない。
  端から期待はしていなかったが。
  技術、経験、練度などのおよそ戦闘に関する全ての要素で二人の差は歴然たるものなので、これも有る意味当然の結果と言えるのだが、それでも平賀才人は悔しさを感じていた。
  左手のガンダールヴの刻印、相棒の魔剣デルフリンガー、虚無の使い手たる主人ルイズ。これらと共に数々の強敵と戦い、七万の大軍と一人で立ち向かい、何度も敗北と勝利を重ねてきた。
  しかし、目の前の男にはそこで培ってきた全てが通用しない。不意打ちとして銃まで使ったのに、まるで反撃になっていなかった。
圧倒的に強く、強く、強い。恐らく……いや、確実にワルドやビダーシャルなどよりも遥かに強い。
  剣技は言うに及ばず、速度も反応もガンダールヴを上回り体術も半端ではない腕前なので近接戦闘ではまず勝ち目がない。
  未だ最強の攻撃力を誇る自在法『虹天剣』にはデルフリンガーの魔を喰う力も効果はなく、さらには翼を使って空まで飛ぶ。
  そして何より二人の戦力差を決定付けているのが。
「来るぞ相棒!」
「!!」
  瞬時に相棒の言葉に従い全力で身体を転がす。
  何本もの紅蓮の弓矢が、先程まで才人が立ってていた辺りに降り注いだ。
  身を起こし天を仰ぐと、そこには弓矢を構えた炎の腕だけが存在するというわりかし奇妙な光景が広がっていた。
  ――自在法『騎士団』――先程から大地を埋め尽くす紅蓮の兵達と同じ、一人の女戦士によって生み出された異形。
「遅かったな」
「ちょっと未熟な坊や達に手ほどきしてたら時間がかかっちゃった」
  出た……と平賀才人は呟く。
  周囲を染め上げる炎と同じ紅蓮の色をした双眸と髪。
  熱く、熱く、尚熱く、それでいて美しく、力強く、その存在そのもので空間を彩る一人の女性。
  最強のフレイムヘイズ……『炎髪灼眼の討ち手』マティルダ・サントメールが、炎の大剣を片手に立っていた。
「……ギーシュ達はどうした?」
「そこら辺に転がってるわよ?」
  やっぱり。
  そうだ、この女……この女丈夫こそが平賀才人とメリヒムの勝敗を分ける決定的な差である。
  もともとこの戦いは紅世の王とフレイムヘイズ、水精霊騎士隊による多人数戦であったのだ。
  それ故に、一人一人の戦力ではなくチームワークこそが勝利の鍵となる。自分達の場合ならば才人は近接戦闘による突撃及び先駆け、他のメンバーは主に遠距離の後方支援と中距離戦闘が主な役割だ。
  そこに足止めや撹乱などを入れ混ぜる事で、それこそ何倍にも水精霊騎士団の戦力的価値は跳ね上がる。
  だが得てして力とはそれ以上の力にねじ伏せられるものである。今回相対したマティルダ・サントメールが、今回の彼等にとってのソレだった。
  彼女の自在法『騎士団』は“天壌の劫火”アラストールの力の顕現のであり、彼女を騎士団長とした一糸乱れぬ統率力を誇る炎の軍団だ。
  その一体一体がフレイムヘイズ一人分に相当すると言われる紅蓮の戦団の力は、指揮するマティルダを先頭として圧倒的な戦力を持ってギーシュを隊長とする騎士団に襲い掛かった。
  歴戦の戦士を筆頭とした『騎士団』に宮廷貴族から「学生の騎士ごっこ」と揶揄されている騎士団が当然敵うはずもなく、水精霊騎士団はあっと言う間に壊滅に追い込まれ、団員はそこら辺で尽くノビている。
「アイツぐらいじゃ流石にアンタを止められないか」
「ん――服のセンスは今イチだけど造形美は良いのよねぇ。後は鍛え方次第かな?」
「青銅のゴーレムと炎の剣士じゃ勝負にならないと思うけど」
  どうせ作った傍から槍で串刺しにされて、見るも無惨な飴細工になったに違いない。
「中々見応え有るわよ? 確かに勝負にならないけ――ど!!」
  爆炎を背景に、弾丸のように飛来してくるマティルダが大剣を振るう。
  才人が迎撃として斬撃を合わせると同時、燃えさかる炎の大剣からまるで弾けるように火の粉が舞い上がり、空気を焦がす。
「――っはぁ!!」
  瞬時に繰り広げられる剣戟。その一つ一つで大剣と片刃剣の間で焔の華が咲く。
「相棒、熱くてたまんねーぞ!!」
「吸収できねぇのか!?」
「魔力以外は喰えねぇんだよ俺は」
「好き嫌いはよくねぇ!!」
「おしゃべりしすぎると危ないわよ?」
  二人のやり取りにカラカラと笑いながらマティルダが一閃、横凪を放つ。
「――っうぉ!」
  真正面から受け止めた才人の身体がわずかに宙に浮かぶ。
  そしてその瞬間、マティルダの影から飛び出てきたメリヒムが背後に回った。
「合わせて」
「言われるまでもない」
  才人を挟むように二人の蹴りが交差し、腹部と背骨に同時に鈍痛が走る。
  痛みに歯を食いしばって反撃に移ろうとした瞬間、追い打ちをかけるように爆発が二つ、身体を前後から圧迫した。
  今代の炎髪灼眼の討ち手や“闇の雫”も得意とする、局部的な爆破攻撃だ。
  ミシリという音を耳に残しながら爆圧による大打撃に身体が軋み、口から空気と共に温かい何かがはき出され、平賀才人は今度こそ両膝を地面に着き、前のめりに倒れた。


「ありゃ、やりすぎちゃったかしら?」
  満身創痍の才人をマティルダが指先でチョイチョイとつつく。
  突かれている才人はただ虚ろな……しかしどこか不屈の闘志を感じさせる視線を
  それをメリヒムは鼻で笑い、一言「軟弱」と吐き捨てると次の敵を探すために目を凝らし、存在の流れを読む。
  マティルダとの共闘というのは、メリヒムがかつて何度も願ってやまなかった“剣の向きをそろえる”という願望を擬似的にではあるが叶えている。
  例え時間制限付きであろうが相手が、格下であろうが、それがボロ雑巾のように倒れ伏そうが今の彼にとっては些細な問題であり、気に留めるものではない。
  唯一人の男のために姿形をも捨てる偉大なる紅世の王“虹の翼”メリヒムはそういう男である。
「……向こうに大きな力の流れがある」
「じゃ、そっちに行きましょ。楽しそうだし」
  言うや否や、マティルダの周りから紅蓮の炎が湧き上がる。
  やがて顕れた鬣も、馬体も、馬具も、その全てが紅蓮に燃える悍馬に騎乗し、焔の様に笑いながら手綱を握りつつ、彼女はどこか楽しそうにメリヒムに問いかける。
「戦士の先輩として彼に何かアドバイスは無いの?」
「必要ない」
「じゃ、恋する男の先輩としてでも何か言ってあげなさい」
「……………」
  メリヒムはもう一度、ほんの一瞬だけ才人に目を向け。
「精進することだ………愛する女を守りたいのなら……な」
  溜息混じりにそう呟いた。
  何故か、感謝の言葉が聞こえた気がする。
  しかしメリヒムはやはりそれをどうでも良いこととして切り捨てた。
  彼は、愛と忠義と戦の中に生きる男なのだから。


CAST

  • ゼロの使い魔
平賀才人

  • 灼眼のシャナ
“虹の翼”メリヒム
マティルダ・サントメール

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4スレ目>>51-56
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最終更新:2007年02月18日 13:07
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