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もらえなかった人の場合

<黒本>というものがある。
ライトノベル学園においても、一級に属するご禁制の魔道書である。
厳密に言えば<黒本>は魔道書ではない。
それはモールドを介して魔法を使役する<魔法士>、その装備についてのマニュアルでしかない。
だがそれなりの知識があればそこからモールドを製造―まがい物の粗悪品だが―し、
ある種の麻薬を用いて魔法を使う技能を脳に定着することができる。

まあ、それだけならまだいい。
所詮、まがい物でしかない技術では、大規模な術など到底行使できない。
だが本来モールドを介して行うべき魔法の違法な行使は、人体に魔素を蓄積させる。
それが一定量を超えたとき、術者は醜悪な魔物へを変わる

そう、ちょうど彼のように。

<黒本>を抱え、彼はつぶやく。
「もういい……もう怖いもんなんかねえ……ああ、そうさ」
ぶつぶつ呟く彼を、本日チョコを渡しめでたくカップルとなった二人が気味悪そうに見る。
「七万の大軍より怖いもんを教えてやるよ、ボクちゃん。
いいか、こちとら生まれてこのかた19年……春夏秋冬……朝昼晩……」

「もてねえんだよぉ!!!!!!!!!!!」
突然あがった絶叫に、周りの生徒が振り向いて彼を見る。
見ないのは靴箱にきれいにラッピングされたチョコが入っていた幸運な男子生徒だけだ。
「だめだ・・・・・もうだめだ。お前ら、僕を完全に怒らせた。」
手にした<黒本>を開く。
そして彼は破滅を選び、魔法中毒患者――通称『魔族』へと変貌した。

それは、ハート、もとい、心臓から足の生えた姿の巨大な異形。
本体は校舎の3階まで届く巨体。そしてそれを支える太い足。
黒く、僅かに光沢を帯びた体はドクドクと脈打っている。
チョコレートで構成された体は、脈動に合わせ動脈から熱いチョコドリンクをぶちまける。
すでにその体には<謡うもの>が現れ、魔法防御たる魔力圏を生成する歌を唱え続ける。
「♪チョッ、コレート♪チョッ、コレート♪チョコレートはメ・イ・ジッ♪」
最後の言葉と同時に、魔族の頭上に嫉妬の炎が吹き上がり、校舎やグラウンドに降り注ぐ。
バレンタイン。恋人達の楽しい放課後が、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と変わった。

「撃て――!!」
いち早く駆けつけた警備員、及び、風紀委員、それに近くにいた生徒達の一部から、
一斉に銃弾や炎、電撃といった攻撃が魔族に押し寄せる。
だがそれら全てが魔族本体まで届かない。
自らの復元すら行える魔族を倒すにはその制御中枢―脳組織―の5割以上を
破壊しなければならない。
しかし強力な魔族になればなるほど、<魔力圏>と呼ばれる物理法則の全てが
魔族の思いのままになる領域で、その身を包んでいる。
ゆえに不意打ち、あるいは、強力な魔法でなければ<魔力圏>を突破し傷つけることはできない。
いまこの場にいる誰もが、目の前の魔族に太刀打ちできる力を持たなかった。

そして人間をやめた魔族は、当然説得にも応じない。
「もう止めろ―!チョ、チョコは禁止されてるんだぞ!!」
応じないはずなのだが、しかし。
「チョコっと?」
意外なことに魔族が、錯乱した警備員ががなり立てるのスピーカに反応した。
「う、うむ。生徒会の通達(>74)で本命は3つまでしかあげられないことになったんだ。だから、な?」
警備員の必死の説得。
「1♪、2♪、3♪、1♪、2♪、3♪」
けれど。
「ま、まずいですよ。元になった生徒は一個もチョコを貰ったことがありません」
「1♪2♪たくさん♪、1♪2♪たくさん♪、1♪2♪たくさ――――んヽ(`Д´)ノ」
先ほどに倍する魔族の怒声とともに、再び炎が吹き荒れた。


「♪チョッ、コレート♪チョッ、コレート♪チョコレートはメ・イ・ジ~♪」
吹き上がる炎。絶望する人々の呻き。その中を魔族は陽気に歩き続ける。

しかし何時の世も希望の光は訪れる。
そう、この時も。
それは、魔族の闊歩するグラウンドの反対側、まぶしい光の中から。

「っらぁ!いい加減にしやがれ、化けもんが」
「まったく。醜悪な魔物だな、九郎」
光の中、顕れたのは鋼鉄の巨人――鬼械神『デモンベイン』。
その操縦者たる大十字九郎とそのパートナー、魔道書アル・アジフ。
そして――。
「ああああ、危ないじゃない。もうちょっと気をつけて飛ばしなさいよ馬鹿犬!」
「しょうがねえだろ。あいつらのテレポートに巻き込まれそうになったんだからよ」
「まあまあ嬢ちゃん。もうちっと相棒を信用しろって」
デモンベインの頭上。旋回するゼロ戦に乗っているのは
<虚無>の使い手ルイズとその使い魔平賀才人、そしてその愛剣ガンダルーヴ。

強力な使い手二人が魔族に立ち向かう。

「『魔族』は時間と共に強化されていくと聞いている。一気にカタをつけるぞ九郎」
「おうよ!ちゃんと合わせろお嬢ちゃん」
「っ!馬鹿にしないでよ。サイトあんたもしっかりするのよ」
「あたたっ!わかってる。わかってるから、叩くなって。任せろよ」
4人の確認が済み、2つの呪文が紡がれる。
デモンベイン必殺の呪法「レムリア・インパクト」
虚無の系統が持つ破壊呪文「エクスプロージョン」

同時――。

「チョコレート大噴火!!」
脅威を感じたのか、はたまた4人2組男女の息のあい方にトラウマをえぐられたのか。
地響きを立てて魔族がデモンベインへと突撃する。

おそらく。
デモンベイン一人なら魔族を駆逐することは難しかったかもしれない。
かつてデモンベインの力が「ディスペルマジック」に打ち消されたように
魔族の絶対支配域である<魔力圏>をデモンベインは打ち破れたか?
たとえ<魔力圏>を突破しても、いまやデモンベインに匹敵する巨体となった
魔族の制御器官、その5割以上を破壊できたか?
できなければその勝敗はどうなっていたか判らない。

――だが。
虚空に描かれるエルダーサイン。
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ」

――相手は二人。鬼械神と虚無の系統。
『光射す世界に、汝ら暗黒棲まう場所無し!!』
「オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド」

――2つの詠唱は絡み合い。
『渇かず、飢えず!』
「ベオーズス・ユル・スヴェエル・カノ・オシェラ」

――その開放の刻を重ねる。
『無に還れぇぇぇぇぇぇ!!!』
「ジュラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……」

――ゆえに、魔族は2つの破滅を身に受ける。
『レムリアァァァァァ!インパクトォォォォォォォォォ!!!!』
呪文の完成、開放される――――――エクスプロージョン。


「チョコ?!」
魔族の体表に小型の太陽のような光が生まれる。
「チョ、チョコレートッ!!」
膨れ上がり全てを破壊する光を<魔力圏>がかろうじて押しとどめる。
だが、完全に弾き返すその前に。

「おおらっあ!」
デモンベインの追撃が来る。
必滅の力を宿した右手が、押し返される光を押し込む。
虚無と必滅の二重奏が作り出す、<魔力圏>の強制消去。
侵食される魔力圏。押し返される拳。押さえつけられる閃光。
3つの力が拮抗したのは、ほんの数瞬。
魔力圏を突破され、魔族の体に届くのは、灼熱の光と破滅の拳。
一瞬の静寂があり――。


「昇華!!」
「カカオォ――――――――――!!」

爆発と閃光、断末魔の叫び。
そして、魔族の全てが消滅した。

後日談だが。
結局事件は、バレンタインに嫉妬した生徒の自爆テロということで解決する。
解決に協力した大十字探偵事務所にはそれなりの報酬が支払われるはずだったが。

「九郎よ、いい加減チョコは飽きた」
「しょうがねえだろ。これしかねえんだしよ」

ほんの少し術の制御が甘かったのか、呪文の余波で校舎の一部が破損し
支払われた報酬のほとんどはそちらに回り、結果九郎たちには
今回の騒動でだぶついたチョコ、その現物支給ということになった。

「ツインテールは海老の味っていうけど、魔族はチョコの味ってことかよ」
「汝の制御が甘いからだ。もっと精進するがいい。何食うものには困らん」
「マジかよ、トホホホ」

ちなみにルイズのほうはあっさりチョコの報酬で引き下がったらしい
というか、裕福な貴族のルイズには別に報酬はいらないはずなのだが。

「ルイズもう無理」
「なな何よ食べれないっていうの?!これが今度のご褒美なんだから
 全部食べるまで許さないんだからね!」
「まー頑張るこった、相棒」

と、まあそういうことらしい。


CAST

  • 斬魔大聖デモンベイン
大十字九郎
アル・アジフ

  • ゼロの使い魔
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
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最終更新:2007年12月09日 22:45
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