「新しい物語....文脈から察するに、僕とキョンの再会によって、何かが起きる、という意味かな?」
「いかにもその通りだ。もう君は『何か』が何か、知っている。今日この日をもって、それは動き出すのだよ
君達はその中で何を思い、何を選び、そして何を、望むのかね?」
佐々木の質問に神野は答え、くっくっく、とひどく楽しそうに笑った
....いや、『酷く』楽しそうに『嗤った』
純度100%の悪意を超高圧で濃縮したかのような邪気を纏う嗤い声
ただの忍び笑いでしかないその声に、俺は凄まじい恐怖を感じた
「...........」
佐々木は黙って神野を睨む。そこはかとなく不安そうな面持ちだ。無理もない
「佐々木、大丈夫か?」
「....ああ。平気だよ。少し考え事をしてただけさ」
....そうか
「神野氏、詠子君から聞いた話によると、貴方は人の願いに惹かれて現れ、そしてその願いを叶えてくれるそうだね」
佐山が神野に言う。人の願いに惹かれて現れ、あまつさえ叶えてくれるだと?童話の気の良い妖精みたいな設定だ
この不気味な奴が、そんなファンシーで有り難い御方だったとは
妹には絶対会わせたくないね。妖精さんがこれほど邪悪な存在だと知ったら、ショックで寝込んでしまうかもしれん
俺のそんな内心の感想を無視して、佐山は続ける
「そして、私は貴方との対話を望んでいる。だからここに来た
私は、貴方が私の願いに応えてここに来たのだと思った
だが貴方はそれを否定したね?『君に会いに来たのではない』と
では、貴方は何を叶えるためにここにいる?」
佐山の口調は正に詰問だった。神野が何を叶えるかを、今すぐにでも知ろうという様子だ
「『新しい物語』によって主役にならんとする者達の願いを叶えるためだ
その者達は物語の観客を望み、故に開幕を広報する『事件』を望んでいる。とりわけ、現在の『神』とその友人達にね
その願いは強い。砂粒程度ではあれ、私を呼び込むほどにね。悲願であるのだろう
故に、私が叶える願いはその広報だよ。最も、『事件』の舞台に誘うだけだ。安心したまえ」
あまり安心出来ん。それはつまり、俺はまたけったいな事件に巻き込まれるって意味じゃねえか
「『事件』はただの広報だよ。君が肉体や金銭を損なう事は無い」
そうかい。全く信じられねぇな
「舞台に誘う、ね。どうやって僕達を連れて行くんだい?道案内かい?
そうであれば、僕はその案内された場所には絶対に近づかない事にするが」
魔法か何かで操るつもりかもしれんぞ。気をつけろ佐々木
「既に誘われているのだよ。君達はもう、我が『無名の庵』に在る。あらゆる時空に偏在するこの場所にね
ここを出れば、そこは既に舞台の上だよ」
「....この喫茶自体が、一種のワープ空間のような物、って事か....」
「この喫茶の名は『無名庵』、そしてこの空間は『無名の庵』か。成程、洒落てはいるね」
佐々木と佐山がそれぞれ口にする。ん?だとすると.....
「じゃあ、あんたはこの喫茶店のオーナーな訳か」
俺は神野にそう聞いた
「.....そうなるね」
そうか、やっぱそうなんだな
「.....この状況で、何と言うか....」
何故か、佐山が呆れたそうにそう言った
「くっくっく......流石はキョンだ」
何だ佐々木。俺はそんなに妙な事を言ったか?
「では、店のオーナーはそろそろ退散しようか
お客様と長話をしすぎて、注文品を食べ損なわれては困るからね」
そう言う神野からは、最早邪気を感じなくなっていた
「失礼します。サンドイッチ二人分と、紅茶です」
見ると、店のマスターが注文の品を盆に乗せて横に立っていた
「あ、どうも」
と、返事をしてから俺は再び神野の方に眼を向け
そこには、誰も座っていなかった
「......」
俺はテーブルに置かれたサンドイッチを口にした
旨かった
******
「見失っちまったなー、キョン達。まあいいや」
「あれ?当麻じゃん」
「ん、ビリビリ女じゃねえか」
「御坂美琴だっての。いい加減覚えなさいよねー」
「気にすんな。あー疲れた、っと。ジュースでも買うか
...ってオイ財布持ってねーじゃん俺。不幸だー」
「....その自販機からジュースが欲しい訳?ならお姉さんが取ってあげましょうか」
「断る」
「電圧をちょっとかけるとね....」
「いや断るから」
「ほら!タダでジュースが出てくるって訳よ」
「うわこのドロボー!....ん?」
「どしたの?」
「美琴さーん。上、上」
「....あれってバースロイル級突撃艦よね。壁面に展示してあったヤツ」
「そうです。ここに真っ逆さまに落ちてきてます。ああ不幸だ」
「さっきの電流で固定機が外れたのかしら?ま、いっか。ジュース貸して、スチール缶のね」
「こ、これでいいか?」
「OK。ちょっと派手に行くわよ!」
「のわわ!!.....どうなったんだ?」
「電磁砲の衝撃で、落下場所を無人の地区に誘導したのよ。これでもう大丈夫よ」
「おおさすが美琴サン。でも危ないからさっきみたいなの止めろよな!」
「まーまー、固い事言わないの」
******
俺達が食事を済ませ『無名庵』を出て最初に見た物は、こちらに向けて落下する突撃艦の船首だった
人々の賑わう空中回廊の一角にあった『無名庵』の、一つしかない出入り口から普通に出たはずの俺達は、何故か地上一階の無人地区にいる
より詳細に解説すれば、旧大型デパートの屋上
とある大企業が出店したものの、品揃えがあまりに常識的過ぎたため、独創性溢れる我が校の需要に対応出来ずに先週潰れてしまった、常識人たる俺としてはまこと同情せざるを得ない店である
昨日、建物の取り壊しが決定したために、高度と深度を含む半径2Kmには進入禁止と今日の朝会で厳命された店舗でもある
そんな場所に、喫茶店の出入り口から出たはずの俺達はいる
正面からは、轟音を放ちながらこちらへ落下する突撃艦が眼と鼻の先に来ている
「急展開過ぎるのではないかね!?」
「うわぁ!!」
「ぐっ...佐々木!!」
俺は脊髄反射的に突撃艦に背を向けて、後ろにいた佐々木をかばった
効果は無いだろう。艦の重量に潰される三人のうち、二人が折り重なって潰れるだけだ
だが、体が動いちまったんだからしょうがないだろ?何も考えずに佐々木を抱きしめ....
背後に異様な気配を感じて、振り返った
やたらと長くて量の多い髪をした女が立っていた
その女の存在感は、まるで百年前からそこにいるような圧倒的なものだった
およそ人間が放ち得ないであろうそいつの気配を、俺は感じ取り....
その女の背後にあった突撃艦が爆散し、俺の視界は白光に埋め尽くされた
******
「うっ...どうなったんだ?」
眩んだ眼がようやく視力を取り戻し始める。まず見えたのは、周囲に広がる瓦礫群
「....そうだ!佐々木!?」
「ここ....というか君の腕の中だよ。僕の痛覚が正常なら、怪我も無いはずだ
君こそ、無事かい?」
多分な。腕も足も両方付いてる
「よかった。それで、ここは....」
「突撃艦落下事故現場だよ。それにしては不自然な状態だがね」
佐山。そういやお前もいたのか
「無論、先ほどからずっといたよ。私の事を君達が気にも止めなかったから気づかなかっただけだろうはっはっはっは」
それだけ元気なら無事そうだな。で、不自然な状態だぁ?つーか何がどうなったんだ?
「突如壁面から落下した突撃艦の衝突により、同艦と旧デパートが爆散したのだよ
しかし、爆散した旧デパートがあった床面と、その旧デパートの屋上にいた我々は傷一つ無い
そもそも艦も建物も、衝突したとて原型くらいは留めるであろうに完全に爆散し粉々になっている
まるで、我々が誰かの何かの力によって守られたかのようにね
....いや、『誰か』は明確だね。そこの君、お陰で助かったよ」
佐山が呼びかけた先には、あの髪が長くて量が多い女がいた。こうして改めて見ると、髪型がモップみたいだな
「――――」
女は何も応えない。長門よりも無表情に、機械よりも機械的に、ただこちらを見ている
「ありがとう、九曜さん」
....佐々木?知り合いか?
「うん、知人だよ。そういえば、彼女は君に会いたがっていたな」
お前から俺の話を聞いて興味が湧いたからか?
「....いいや、僕が彼女に君の事を話した事は無いよ」
だろうな。その九曜って女は”普通じゃない”
「キョン....」
「ふむ、それはまあいいのだが....」
ちっとも良くねえよ。つーかなんだよ佐山。今、真剣な話してるんだ
「いや、君達はいつまで抱き合ったままなのかな?とね」
........??!!!!
「この騒ぎのせいで、先ほどから周囲の皆様がこちらをずっと見ているのは気付いていたかね?
私には新庄君がいるからどうとも思わないが、あまり見せつけると君達を恨み出す人も生まれるかもしれないよ?」
俺はゆっくりと周囲を見回した。遠巻きに人集りが俺達を囲んでいた。全員がこっちを見ていた
「っっっすまん佐々木!!」
「あ...いや...僕の方こそ....」
俺はすぐに佐々木から離れた。お互い顔が真っ赤だ
周囲から笑い声や口笛が聞こえてくる。また勘違いする奴が増えちまったな。それも爆発的に
「ほらほら!こっちよみんな!」
と、急に聞き慣れた声が響き、聞き慣れた足音が近づいて来る。こいつは....
「なんか大騒ぎしてるわよ!さては宇宙人でも到来して来たのかしら!....ってあれ?キョン?」
横を見ると、凉宮ハルヒがそこにいた
朝比奈さん、長門、古泉も一緒だ
「....あー、見たか?」
「は?何をよ?」
ハルヒは俺と佐々木の抱擁は見てないようだ。安心したぜ
「何であんたがここにいんのよ?ここで何してんの?」
それは俺が聞きたいくらいだ
「???何言ってんのよアンタ。寝ぼけてんの?あと、それ誰?」
ハルヒは佐々木を指して聞いた。質問は一つずつにしろよ
「こいつは佐々木。俺の....」
「親友」
と、途中から佐々木が勝手に答えた
「は?」
驚くハルヒに、佐々木は目を向けて
「と言っても中学の頃ですけど。貴女が凉宮さんですね。キョンがお世話になっていると聞いてます」
ちょっと待て佐々木。何でハルヒの事を知ってるんだ?お前にこいつの奇行を話した事は無いはずだが
「この学校はちょくちょく噂になるからね。それに、君達の事については特に詳しく話してくれる人がいてね」
俺達について特に詳しく話す奴だと?誰だそいつは?
「私です」
そう聞こえた方の人集りから、今度はツインテールの女が出て来た
その女の顔を見た古泉が、微かに顔を曇らせる。どうしたんだ?
「こいつか?佐々木」
「うん、彼女は橘京子さん。僕の....やはり知人と言うべきかな」
「初めまして。ようやく、こうして出会う機会が訪れました。欣喜雀躍の思いだわ」
橘京子が言った。いや意味分からんぞ
「凉宮さん」
佐々木がハルヒに話しかける
「....ん?な、何?」
「私達、こっちに転校してきたんです。これからよろしく」
そう言って、佐々木はハルヒに手を差し出す
「....よろしく」
ハルヒもそれをおずおずと握り返し、お互いに握手した
しばらくしてから佐々木はハルヒの手から自分の手を解き、俺に向き直る
「キョン、今日はありがとう。お陰で色々と助かったよ」
「ん....なんだ?もう案内は終わりで良いのか?」
「ああ。後は九曜さんと橘さんを連れて冒険してみるよ。それじゃあ」
そう言って、佐々木は橘と九曜の二人と一緒に、俺達に背を向けて行っちまった
「なんか変わった人ね。あんたの友達」
お前に変人認定されるとは、佐々木も鼻が高いだろうよ。言っておくがこれは皮肉だ
「ま、いいわ。これから部室に行くわよ。これはさっき買った荷物だから、あんた持ちなさい」
そう言ってハルヒは俺に大量の雑貨を押し付けられた
やれやれ
******
「ふむ....」
「あれ?佐山君たらこんなとこで何してるの?」
「ん?新庄君か。いや、嵐の予感がしてきたと思ってね....」
「????変な佐山君。いや、変なのはいつもかな」
END
CAST
キョン
佐々木
凉宮ハルヒ
長門有希
古泉一樹
周防九曜
橘京子
相良宗介
千鳥かなめ
坂井悠二
シャナ
エドワード・ザイン
上条当麻
御坂美琴
佐山・御言
新庄・運切
出雲・覚
飛場・竜司
ダン・原川
ヒオ・サンダーソン
空目恭一
近藤武巳
日下部稜子
木戸野亜紀
村神俊也
神野陰之
相良に押し倒された女性
最終更新:2007年06月02日 13:59