午後12時。罰ゲーム開始から早くも4時間が経過。
上条と桜の二人は学園内の食堂にいた。平賀からの連絡で昼食をとるために集まったのである。彼は打ち合わせの為今はいない。
本日は土曜日なので授業は午前中で終了。各人はそれぞれの予定に従い自習するなり遊ぶなり馬鹿をするなりしている。
しかし彼らは罰ゲーム。そんな彼らを脇に見ながら自分たちの境遇を嘆きあっている。
「武者、いや大城さんでしたっけ? あの人が教室にまで来ていて……あんなの突っ込むに決まってるじゃないですか」
「こっちは色気だけはあるなんちゃって女子高生が出てきた。あの人の性格上喜んでOKしただろうってのがますます嫌だ」
「ところで、上条君のほうは、2時間目には何かあった?」
「ああ。……そう言い出すって事はお前のほうもか」
「ええ、僕のほうは……」
草壁桜の回想
2時間目終了後の休み時間。僕が廊下に出ると、すぐさま声が聞こえました。
「ゆらーり……えへへ――くさ、――壁先輩だぁー……」
「た、玉藻ちゃん!? 何でいるのここに!?」
説明します! 彼女は西条玉藻ちゃんと言いまして、両手にごっついナイフを持った、僕になついている女の子の後輩です。
何でなつかれたかというと、昨年のクリスマス直前のころにいろいろあって、僕が彼女に殺され、そのおかげで多くの人の
命を救ったというドクロちゃんもびっくりの(あまり思い出したくない)体験があったからなのですが。
「……とりあえず、2、3回刺してからあいさつ」
……彼女はナイフで切ることが大好きで、しかもそれを愛情表現のひとつとして使ってくるのです。主に僕に。
「ねぇ玉藻ちゃん、何か忘れてない!? 主に常識とか! 僕になついてくれるのは嬉しいけれど会うたんびに
切り付けてくるのはおかしいでしょ!? 僕は不死身じゃないから! 生き返ったのはあの時だけなの!」
頼むから通じてくださいお願いします。実際にはドクロちゃんに撲殺されるたびに生き返ってますが、
それがばれたら死ぬ回数が2倍ドンさらに倍です。
「あぁ、……そーだね……、忘れてることあったぁー」
「そうだよね、忘れてることあったよね!? 会うたんびに」
彼女はポケットから何かを出して、それを顔に付けました。
「えへへ――これで完璧、だよね――」
それはパーティグッズでおなじみの、鼻メガネでした。
「何で鼻メガネなんだよ! な・ん・で・は・な・メ・ガ・ネ・な・ん・だ・よ!!」
「草壁、アウト」
「いやもういいです、お仕置きでも何でも受けますから至急ここから離脱させてください……ってあれ?」
お仕置き隊が来ません。
そして気づきました。いつも通りにぼろぼろだったから今まで気づきませんでしたが、玉藻ちゃんの着ている
制服が黒一色で染められていることに……!
「くさ、――壁先輩ー……」
ナイフを持った腕が振りあがり、
「こんにちはー」
「んぎゃあああぁぁぁーーーーーーーーっっ!!」
草壁桜の回想 ここまで
「……何で生きてるんだ、お前いま」
「ぼくにもなんだかわかりませんけど……。で、そっちのほうは?」
「ああ、こっちは先生に頼まれて保健室に行ってな」
「あの、保健室に?」
「あの、保健室に」
上条当麻の回想
「すーはー、すーはー」
保健室に入る前に心の準備、場合によっては命の覚悟がいるとはどういうことだろうかと上条は考える。
だがここはそういうところであり、そして自分は彼らにとって格好のエサなのだ。肉体的にも精神的にも。
「まともな人でありますように……。まともな人がいないなんてオチはなしにしてくれよ……。
とりあえず赤・青・黄の三色は無しにしてくれ……」
覚悟を決めて扉を開いた。
ヘッドホンを付けた佐伯ネア女医が、激しくヘッドバンギングをしながら踊り狂っていた。
「……………………」
「上条、アウト」
「……あら?」
尻をシバかれたときの騒ぎで、佐伯ネアがこちらに気づいた。
目と目が合う。
次の瞬間、彼女はヘッドホンを投げ捨てるとデスクの上のはさみを自分の首筋に突きたて
「やめろ! 俺は何も見なかった! 見なかったから!!」
……ようとして上条に止められた。
「上条、アウト」
「何で人の自殺を止めようとしてアウトになるんだよ、おかしいだろ!!」
そんな上条に、佐伯ネアは動揺を隠す為かいつもより早口に言葉を紡ぐ。
「あらあら、そんなにお尻を叩かれてたら、いずれは内出血から肉が腐ってぐしゃぐしゃになってしまうわね……。
くすくす……あなたは上条さん……だったわね確か? ついに私にもフラグを立てに来たの? ふふ……どうせ
あなたのことだからすぐさま私を切り捨てて他の女性へ走るんでしょうけど……どうせ私なんかあなたの世界に
何の影響も与えないのよ……あなただって私の様なクズ人間は死ねばいいって思ってるんでしょいやむしろ
モノ扱いした挙句ゴミみたいに捨てて足蹴にしてやろうって思ってるんでしょそうでしょそうに違いないわ……」
「あんたが俺のことをどう思ってるのかよくわかりました。だからいますぐそのセリフを止めて下さい」
「それとも薬が欲しいのかしら? だったらデパス、プロバリン、イソミタール、ユーロジンなどがあるわ……
今日のお勧めはハルシオンね……。それとも睡眠薬? ならいいのがあるわ。私のオリジナル『オネムリンZ』……
さぁ二人で一緒に永遠の夢世界へ」
上条は逃げ出した。
赤・青・黄の最悪の三色に、灰色も加えようと思いながら。
上条当麻の回想 ここまで
「すごい、ですね……」
「ああ、まだ保健室を甘く見ていた」
そこへ平賀が戻ってきた。撮影隊を何人か連れてきている。
「ああ、二人ともいるね。今からちょっとインタビューに答えてもらうから」
「「はぁ……」」
「ではまず草壁桜君。罰ゲームが始まり4時間がたちましたが、現在の心境はいかがですか?」
「はい、えっと……」
桜はカメラ目線をした。
同時にカメラ横のカンペが目に入った。『ラップ調で!』
(ええっ!?)
「ほら、早く答えて。3,2,1、ハイ」
「ちぇ、チェケダウッ! ええと、オレ達ただいま罰ゲームChu! ィエア! ムジツの罪でシバかれ中ッイェアッ!
とにかく・すぐさま・ヘルプミープリーズ! チェケダァッ!」
「上条、アウト」
「桜……、それヒクわ」
「………………」
「では続いて上条当麻君。今回の罰ゲームはいかがですか」
『東北弁で!』
仕方なく喋りだす。しかし方言など関西弁くらいしか知らない。やむなく想像で喋ることに。
「おらぁ……、大変、だと思う、けども……」
「草壁、アウト」
「上条君、それは卑怯。絶対笑うもん」
「何が。お前のも似たり寄ったりだろ」
インタビューも終わり、いよいよ食事タイムである。職員の女性二人がそれぞれに水を持ってきてくれた。
「あ、どうも」
上条は水を受け取り、何の気なしにその女性の顔を見た。思ったより若く、童顔だ。桜のほうに目を向けると、
「?」
なぜか桜は顔面を硬直させている。
「!!」
一瞬後、上条の顔も固まった。
「上条、草壁、アウト」
職員さんたちは去っていった。
「ちょ、ちょっと待てちょっと待て!! なんで俺の母さんが来てるんだよ!!」
「えっ、てことは上条君も!?」
「てことはお前もか!?」
「えー、説明すると、上条に水を出したのが桜の母親の草壁あけみさん、そして桜に水を出したのが上条の母親の
上条詩菜さんです。お二方、ご協力誠にありがとうございます」
平賀が説明するが、ちょうどシバかれていた二人にはほとんど聞こえていなかった。
「一体どこまでオファー出したんですか……」
「頼むからホント親出すの止めて……」
さらに食事が来るのを待っていると、ガシャン、ガシャンという音が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。
「お、来たみたいだな」
平賀の言葉のすぐ後に、
「………………強者」
ガシャン、ガシャンと足音を響かせ、この学園の生活指導を担う事でもおなじみの天目一個が、両手に二人分の
お盆を乗せ、鎧の上からメイド服とヘッドドレスをつけて登場した。
「「………………………」」
「………………強者」
天目一個は二人に料理の載ったお盆を渡し、
「………………強者」
ガシャン、ガシャンと去っていった。
「……んじゃ、とりあえず食べようか」
「そうですね」
セーフ。
「「いただきまーす」」
お盆に掛けられていた布を取る。
「さあて、やっと心休まる……」
上条の昼食はお子様ランチだった。中央のチャーハンの上にしっかりと日の丸が刺さっている。
「……心休まんねぇよ!」
「上条、アウト」
「ちゃんとしてくれよ飯ぐらい……」
上条の嘆きをよそに、桜は味噌汁をすすっている。こちらは普通のブリの甘辛煮定食だった。
ブリの甘辛煮が大好物である桜は早速ブリをとり、口の中へ入れた。
「いいなぁそっちは。普通でよ……」
上条がつぶやく。
「うわこれすっごく美味しい! ……あれ、でもこれなかなか噛み切れないなあ……」
箸で引っ張ってみても切れない。何かがおかしい。
「!!」
桜の目つきが変わった。箸で慎重にブリの甘辛煮「と、思っていたもの」を開いていく。
「これ…………、フリル付きエプロンだ……」
「そうだよ、何と勘違いしたかは知らないけど、それは『三塚井ドクロ着用済みフリル付きエプロン甘辛煮定食』だから」
平賀が淡々と死刑宣告をする。
「ええっ! またドクロちゃんなの!?」
「草壁、アウト」
しかし桜の叫びは止まらない。
「どうりで朝から家にも教室にもいないなと思ったんだよ! 全くあのアホ天使はいつもいつもロクな事をしない
んだから……ていうかこれ2度ネタじゃん! だめだよ人を薬漬けにするのを2度も3度も繰り返しちゃ!!」
お仕置き人に肩をつかまれる。
「はいはいまったくもう……って、ええっ!?」
そのお仕置き人は、黒尽くめで、頭に輪っかが浮かび、鋼鉄製トゲバットを提げていた。
「ねぇあの、誰だかわかっちゃったんですけど! というかモロバレなんですけど! ねぇドクロちゃんでしょ!?
あ、……もしかして今までの全部聞いてた? ごめんドクロちゃん言い過ぎた! だからお仕置きを
エスカリボルグでしちゃだめ! 絶対死ぬからそれお仕置きじゃないから!!」
『謎の』お仕置き人に引きずられ食堂から出て行く桜。
食堂の外から「ぼぐしゃぁぁぁぁ!!」という音と、液体が飛び散る音がした。
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪
「ただいま……」
疲れ果てた表情で桜が戻ってきた。上条は何も言えなかった。
CAST
上条当麻
上条詩菜
草壁桜
草壁あけみ
平賀才人
西条玉藻
佐伯ネア
天目一個
お仕置き人
最終更新:2007年12月09日 22:50