戦略拠点32098 楽園 著者/長谷敏司 イラスト/CHOCO 角川スニーカー文庫
- 556 :戦略拠点32098
楽園:2011/08/22(月) 04:51:40.76 ID:i1e620kp
- 1000年以上もの間、星間戦争が続くはるか未来。
地球への回帰運動から始まった二大勢力の衝突は、兵器と人命を消費しながら永く続いている。
「戦略拠点32098」を偵察せよ。
苛烈な防衛線が張られた、敵が「楽園」と呼ぶ星の正体を暴くための降下作戦。
無謀な作戦は失敗し部隊は全滅、降下兵ヴァロワが目にしたのは、
青い空と草原、無数の巨大戦艦の成れの果てが突き刺さった風景。
そこでサイボーグ兵ガダルバと、戦争に不釣り合いな生身の少女マリアと出会う。
宇宙戦艦のコントロールを任される敵の高性能サイボーグにヴァロワは降参し、
元々敵同士のはずのヴァロワとガダルバ、何も知らず無邪気なマリアの共同生活が始まった。
野を駆け回り、果物を収穫し、星が見える地上で眠る…
人工子宮で培養され、人間は機械部品を組み込まれるのが普通となったこの時代、
「楽園」と外の世界は違いすぎた。ロボットのような口調ながら、
人間性のことで悩むガダルバ、外の戦争など知らないマリアと触れ合ううち、
三人で過ごす日常へ愛着が生まれたヴァロワ。
だが、マリアが倒れたことを切っ掛けに「楽園」の真実を知る。
ここは敵陣営(ガダルバ側)が作り上げた、宗教的な死後の「楽園」であり、
墜落した戦艦の乗員たちは「墓守」によって花の種と一緒に土へ埋められる。
死者が眠る聖地だからこそ、敵軍は必死に守っていたのだ。
- 557 :戦略拠点32098
楽園:2011/08/22(月) 04:53:52.00 ID:i1e620kp
- >>556の続き
そしてマリアは「楽園」に花を咲かせる無垢な「墓守」として、
不老の肉体、一定期間で記憶をリセットする脳を与えられた、
人工の楽園に相応しい科学の産物だった(ときどき、脳の記憶でエラーが出ると倒れていた)。
マリアは治療されたが、彼女はいつか二人のことも忘れさる現実はそのまま。
ガダルバは、ただ一人生き残った戦艦のクルーだったが、あえて自軍へ帰らなかった。
ヴァロワは、戦闘の度、危険に曝される地表を目にし、自軍への帰還を決意する。
墓場しかない星の実態を報告すれば、マリアが危機にさらされることはない。
ヴァロワが共に過ごした日々を彼女が忘れても、後悔なく戦い続けられると思ったのだ。
長距離移動可能な巡航爆撃機を戦艦から見繕い、帰還準備を進めるヴァロワ。
そんな彼へガダルバは言う。
「軍なら代わりがいくらでもいるお前は、ここでは代わりがいない」
マリアとヴァロワが過ごした日々を、彼女へ証明できるのはヴァロワだけ。
敵を効率よく殺すため合金と機械部品の塊として作られ、
この星で「人間らしく生きる」ことを知ったガダルバと、
ここに残りたくても「人間くささ」のせいで残れないヴァロワは、
お互いの感情を吐き出して、青臭い殴り合いをした。
ヴァロワの帰還後、エピローグ。
星空には、もう砕け散る戦艦の光はない。
余談だが、作者のSF作品はこの世界観と同じ時間軸で展開されている。
(フリーダの世界、ハヤカワからでてるITPの話など)
最終更新:2011年11月20日 23:18