ズッコケ山賊修業中 著者/那須正幹 挿絵/前川かずお

 

667 :イラストに騙された名無しさん:2012/01/07(土) 20:53:36.39 ID:dKEWAZRC
那須正幹の「ズッコケ三人組」シリーズのうち「ズッコケ山賊修行中」を投下。
というか1年位前に別のスレに書き込んだやつだけど、なんとなくこっちに加筆転載。

ちなみにズッコケ三人組シリーズは
・小さい体格ながら運動が得意、だけど勉強はからっきしでやんちゃ坊主の「ハチベエ」、
・とても物知りで頭がいいけど、今一つ要領が悪くヒョロッとした運動オンチ「ハカセ」、
・大食いで太っていて大きな体、だけど気が優しくておっとりのんびりな「モーちゃん」、
の仲良し小学生男子三人組が色んな事件に巻き込まれていくシリーズ。

669 :イラストに騙された名無しさん:2012/01/07(土) 21:39:04.69 ID:dKEWAZRC
主人公のやんちゃ坊主『ハチベエ』、物知りの『ハカセ』、
体は大きく力が強いが動きが鈍く心優しい『モーちゃん』。
彼ら悪ガキ小学生三人組『ズッコケ三人組』は、ある日
親戚の大学生のお兄さんの車に乗せてもらい、ちょっと遠くに遊びに出かけた。

その帰りに、車で山の中の道を通りがかると
日本昔話に出てくる猟師のような格好に身を包んだたくさんの男達が車を止め、取り囲んだ。
そしてそのまま猟銃を突きつけて三人組とお兄さんを脅し、拉致する。


拉致された先は地下洞窟迷宮のような場所で、
男達はここで家族とともに前時代的な集団生活をしているらしい。
軽く幽閉されつつ、ご飯を持ってきてくれる少女などから情報を仕入れると、ここは
その昔、古墳時代にヤマト朝廷に滅ぼされた一族「ツチグモ」の末裔が暮らす隠れ里らしい。
しかも指導者である「土蜘蛛さま」を現人神として崇める宗教としての一面も持っているとか。
彼らは山賊として、山を通行するものをたまに襲って車や金品を強奪しているらしい。

ここに入った外部の者は秘密を守るために一生をここで暮らすことになる。
第2次世界大戦当時、この付近の山に墜落してきた米軍飛行機のパイロットの白人も
その後ここから出されず、数十年経って老人になってもまだここで暮らしていた。
しかしその老人は、ここの人たちはいい人たちだし居心地も悪くないから
ここで一生を暮らすのも悪くない、と三人組を諭す。

実際、ツチグモの人間達は三人組やお兄さんを仲間にしようとしているようで、
お兄さんには山賊の一員となるべく修行させているようだし、
三人組には洞窟の中にある学校でツチグモの子供達と一緒に教育まで受けさせてくれる。

だが、まだ親に会いたい盛りの子供の三人組には到底受け入れられる話ではなかった。

670 :イラストに騙された名無しさん:2012/01/07(土) 21:40:46.11 ID:dKEWAZRC
子供だと油断されている隙をついて三人組は脱出し、残されたお兄さんを助けるために
近くにあった集落の交番に駆け込んで事情を説明する。
一笑に付されるかと思ったが、中年の警官は真剣に話を聞いてくれて
それはただごとではない、人を呼び集めるから待ってろ、という。
しかし安心して待っていた三人組は、警官に呼ばれて集まってきた近所の住人達に拘束される。

実はあの洞窟とそこに住んでいる人々はただの総本山であって、この周辺の住民もみな、
普通に日常生活を送っていながらも土蜘蛛さまを熱烈に崇める信者だったのだ。
地元出身である警官ももちろんその一人だった。
三人組を捕縛しながら住民達は、嘘か本当か分からないが、
「この周辺だけでなく、ツチグモの人間は日本各地に散らばり、政府や警察などの中枢にも居るのだ」
とまで言った。


洞窟に連れ帰られた三人組はツチグモたちの宗教の儀式を目撃する。
それは非常に奇妙なものだった。

お社の上から信者達を睥睨する現人神、仮面をつけた女性「土蜘蛛さま」に対して、
洞窟の住人や付近の住民がひれふしあがめ奉る。
しかし平伏しながらも、次々に「おうらみもうす」「お恨みもうす」「お怨みもうす」と唱え、
自分の人生で起こった不幸や嘆きを土蜘蛛さまのせいだと恨みがましく申し立てる。
祈っているのか祟っているのかわからない、異様な光景であった。

ハカセによると、宗教の一形態として「人生で起こった理不尽な不幸」の原因と見なす
「厄の神」を奉り、あがめながら恨むという形式もありうるのだという。

この怨みに満ちた光景と同じように、ツチグモたちは先祖を滅ぼしたヤマト朝廷、
そしてそれに連なる日本人全てを恨み、怨み、うらんで、
その怨念を練り上げることによってこれまで一族を保ってきたのだろう。

671 :イラストに騙された名無しさん:2012/01/07(土) 21:42:44.02 ID:dKEWAZRC
また洞窟の牢に幽閉される三人組。これまでは軟禁だったが、今度は監禁に近い。
そして、脱出と秘密の漏洩の罪で、三人とも斬首により処刑されることが決まったと告げられる。

絶望のふちに沈む三人組だが、こっそりと助けに来た者たちが居る。
ツチグモたちと同じ山賊ルックに身を包んだ男女。
それは、いつの間にかツチグモになじんでいたお兄さんと、その恋人になったツチグモの娘だった。

この娘はあの「土蜘蛛さま」の侍女であり、
三人組をお社にある抜け道から脱出させてあげられるという。
助かることに喜びいさんだ三人組だが、お兄さんはここに残ると聞いて驚く。
一緒に脱出しよう、と説得するが、彼はこの娘と一生ここで添い遂げると固く決心しており、
その気持ちを翻すことはできなかった。


お社に着くと、なんとあの「土蜘蛛さま」が待っていた。
実は、お社にある出口とは、代々の土蜘蛛さましか開け方を知らない秘密の脱出口だった。
その出口を使って三人組を逃がすことを提案したのは土蜘蛛さま自身なのだと言う。

なぜツチグモの頭目が自分たちを助けるのか?
そして助けるにしても、なぜこのようにこそこそした助け方を?と不思議がる三人組。
土蜘蛛さまは嘆息しつつ説明する。

672 :イラストに騙された名無しさん:2012/01/07(土) 21:46:32.83 ID:dKEWAZRC
実は、土蜘蛛さま自身はこのツチグモ一族にうんざりしていた。
前時代的な洞窟暮らし。
周りの信者達は土蜘蛛さまを崇めながらも、いわれのない恨みの念をぶつけてくる。
その信者達がすることはといえば山賊として無辜の通行者を捕獲して車などを略奪したり、
国の中枢に出身者をもぐりこませようとやっきになったりと、まるで闇の組織ごっこだ。

そういえば、あの儀式で周囲住民の信者から土蜘蛛さまに陳べたてられていた恨みの中には
「うちの息子が都会に行ったまま戻ってこない、親などどうでも良いと言うのか。
 おうらみもうす、おうらみもうす。」などという内容のものもあった。
一族の有様を疎ましく思っているのはこの土蜘蛛さまだけでなく、
若者の中には既にこの一族を見限っている者たちも出てきているようだ。

いっそのこと、こんなおろかな組織の現人神など辞めてしまいたい土蜘蛛さま。
しかし指導者としての責任も感じており、また信者達から向けられる心は「恨み」でいっぱいなので、
下手なことをすると一族の頂点とはいえただではすまないだろう。
だからこれまで我慢していたが、三人組のような幼い子供までを殺そうとする信者達を見て
ついにじっとしては居れず、今回の密かな行動に出たらしい。

しかしそれを聞いて三人組は、逃げ道がここしかないなら、
土蜘蛛さまが自分たちを逃がしたことがばれてしまい危険なのでは、と心配するが
土蜘蛛さまは自らは逃げないと告げ、三人組たちだけを無理に出口の中に押し込んだ。
心配してくれたことを感謝しつつ、仮面をはずして微笑んでくれた土蜘蛛さま。
その素顔は美しい女性だった。

673 :イラストに騙された名無しさん:2012/01/07(土) 21:47:39.20 ID:dKEWAZRC
抜け道の隠された出口から外に出て、必死に人里に着いた三人組。
今度は近所の交番や民家などには行かず、泣きながら遠くまで歩ききり、無事に家まで帰りついた。
警察にも届け出て捜査してもらったが、例の洞窟は埋め立てられていたそうだ。
それっきり捜査は中断したまま。作り話だと思われたのか、
警察上層部にも居ると言うツチグモの一派が事件を握りつぶしたのかは分からない。
お兄さんは行方不明として処理された。

三人組は今でも時々思う。
お兄さんは、お兄さんの恋人の女の子は、あの美しい土蜘蛛さまは、
あの脱出の後にどうなってしまったのだろうかと。
だが、それはもう永遠に分からないことだ。



以上です。
思い出して書いてみたが、バッドエンディングっぽいなぁ

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最終更新:2012年01月10日 22:59