12月のベロニカ 著/貴子潤一郎 イラスト/ともぞ 富士見ファンタジア文庫

 

703 :イラストに騙された名無しさん:2012/01/31(火) 21:30:08.94 ID:hBYd25xx
1年前のリク「12月のベロニカ」に今更ながら挑戦してみます。
叙述トリック使った話だからうまく説明できるかわかりませんが、しばしおつきあいを・・・


704 :12月のベロニカ:2012/01/31(火) 21:33:19.54 ID:hBYd25xx
 女神降臨の依代となるため死ぬまで眠り続ける「ベロニカの巫女」と、彼女が役目を終えるまで
側近くで護り続ける不老不死の「ベロニカの騎士」。
 ルグナス王国の片田舎で生まれ育った『私』は、幼馴染みの少女が次代の巫女に選ばれたのを機に、
騎士の道を志すことになる。
“私がベロニカになったら、貴方は私の騎士になってくれる?”
 幼い日に交わした彼女との約束を果たすために。

 厳しい修練の末、ベロニカの騎士候補「栄光の十三人」の1人に選ばれた『私』フレイルは、
他の騎士候補者と共に次代のベロニカを警護し、国境の町カウセージュから王都へと向かっていた。
 しかしその道中、ベロニカを狙う隣国トリゼアの刺客に襲撃される。
 仲間の半数以上が倒され絶体絶命の窮地に陥った一行だが、ハキュリーと名乗る隻腕の男の助勢により
辛くも難を逃れた。
 彼が不死身の二つ名を持つ凄腕の傭兵と知り、一行は王都までの同道を願い出る。
 急ぎ旅の途中ということで当初は難色を示していたハキュリーだが、ベロニカが己の身分を明かし、
また彼女と私に浅からぬ縁故があると知った途端、何故か態度を一転させた。
 そして一行が彼の道案内に従うという条件のもと、同道を承諾するのだった。


705 :12月のベロニカ:2012/01/31(火) 21:35:31.83 ID:hBYd25xx
 王都への道中、『私』は己の歩んできた人生を振り返っていた。

 ルグナスでは国民からベロニカ候補が出た場合、その騎士候補者を王国騎士団内から選抜する。
 次代のベロニカは「栄光の十三人」と呼ばれる候補者達の中から、自身の騎士をただ一人だけ
指名する……そういう慣例になっていた。

 彼女が次代の巫女として神殿へ引き取られた後、私は騎士を目指すべく故郷を飛び出し、
王国騎士団の門戸を叩いた。
 従士として所属が許されてからは勉学や武術に邁進し、その甲斐あって念願の王国騎士に叙せられる。
 しかし庶民出ということで、周囲からは冷遇されていた。

 そんな中、私は同じ騎士仲間のライアンと親交を結ぶ。
 ライアンは没落した名家の貴族だったが、庶民出の私にも友好的に接する誠実な男だった。
 同じベロニカの騎士を目指していることもあって意気投合した私達は互いに切磋琢磨し、
いつしか親友と呼べる間柄になっていた。


706 :12月のベロニカ:2012/01/31(火) 21:41:20.91 ID:hBYd25xx
 ハキュリーの同道を心強く思う一方で、ライアンと『私』は彼の正体がトリゼア側の間者なのではないかと疑っていた。
 カウセージュの町で「栄光の十三人」の1人がトリゼアの内通者であると発覚し、現場に居合わせた
ライアンの手で処断されたばかりだったからだ。
 こちらの情報を得るため、トリゼアが外部の者を潜り込ませる可能性は高かった。

 ベロニカ行幸の道中、トリゼアから妨害を受けたのは今回が初めてではない。
 今から50年前、現在のベロニカが王都へ向かう際にも同様の事件があったと伝えられている。
 当時の「栄光の十三人」にはライアンの祖父も名を連ねていたが、この時もトリゼアと密通していた騎士がおり、
彼はその凶剣に斃れていた。
 裏切り者は処断され、ベロニカにも危害はなかったのだが、この事件に心を痛めた彼女は己の騎士を選ばないまま
役目に就いたといわれている。

 無条件でハキュリーを信用するのは危険だ――二人の意見は一致していた。
 その一方で私は、彼が何故私に対して友好的な態度を取るのかが気にかかっていた。


707 :12月のベロニカ:2012/01/31(火) 21:49:16.34 ID:hBYd25xx
 騎士となって時が流れ、とうとうベロニカの代替わりの時が近付いてきた。
 「栄光の十三人」に無事選出されたライアンと『私』は、次代のベロニカを王都へ迎え入れるため、
他の候補者と共に彼女の滞在先である国境の町カウセージュへと向かう。
 数年ぶりとなる幼馴染みとの再会。彼女は昔の面影を残しつつも美しく成長していた。
 彼女の騎士となるにふさわしくあろう……長年の目標を目の前にして、私は一層気を引き締める。

 そんな中で起きた異変――カウセージュの市街地で暴動が起こり、私達13人はその鎮圧に乗り出す。
 ところが、これは隣国トリゼアの陰謀であり、彼らの真の目的はベロニカの拉致だった。
 騒ぎが陽動だと気付いた私は急ぎ彼女の元へと向かったが、彼女は私の目の前で連れ去られてしまう。
 後を追おうとする私の行く手には、彼女の護衛に残っていたはずの男が立ちはだかっていた。
 ライアン。彼はトリゼアと通じ、彼女を敵国へと売ったのだ。
 親友の裏切りに激高した私は、怒りにまかせて彼を斬り伏せる。
 その直後、他の騎士達が現場に駆けつけ、私闘禁止の戒律を破った咎で私は拘束された。

 投獄された私は、同じ地下牢に捕らえられていた傭兵マダックスに声をかけられる。
 マダックスは一連の暴動の実行犯であり、ライアンとトリゼアとの連絡役でもあった。
 彼の口からライアンの裏切りの理由を知らされた私は、その内容に驚愕する。
 ライアンが裏切るよりも先に、自分の方が彼を裏切っていた……そう思い至り打ちひしがれる私の元へ、
追い打ちをかけるようにかつての仲間達が現れ、一連の事件の処断を下す。
 利き腕を切り落とした上、騎士剥奪、永久追放――それは騎士たる者にとって、死を上回る極刑であった。
 激痛と失血にのたうちながら、私の意識は闇へと沈んでいった……


708 :12月のベロニカ:2012/01/31(火) 21:55:17.84 ID:hBYd25xx
 『私』達ベロニカ一行は本来の旅程を外れ、ハキュリーの案内で傭兵仲間しか知らないという裏街道を進んでいた。
 しかし情報が漏れていたのか、再びトリゼアの追っ手が現れたため、私達は陽動作戦をとることになる。
 他の騎士達とハキュリーが敵を引きつけている間に、私とベロニカは山林を抜けて王都を目指す……そういう算段であった。

 ところが獣道を進む私達二人の前には、陽動作戦に参加していたはずの男が立ちはだかっていた。
 ライアン。彼はトリゼアと通じ、彼女を敵国へと売ろうとしていたのだ。
 親友の裏切りに衝撃を受けた私だが、彼女を護るため、動揺を抑えて彼を斬り伏せる。
 その直後、陽動を成功させ刺客を返り討ちにしたハキュリーが駆けつけ、私達三人は予定通り山道を通って王都を目指すのだった。

 そしてその道中、私はようやくハキュリーが何者なのかを知ることになる。


709 :12月のベロニカ:2012/01/31(火) 21:59:52.50 ID:hBYd25xx
 ……『私』は死ななかった。
 意識を失っていた短時間の間に出血は止まり、体力も回復していたのだ。
 様子を見ていたマダックスの話から、私は自分が不老不死――ベロニカの騎士となったことに気付く。
 しかしそれは同時に、彼女が敵地で孤独に苛まれながら永遠の眠りについたことを示していた。
 私はマダックスと共に脱獄し、トリゼアへと向かう。
 そしてトリゼア兵との死闘の果てに、無事ベロニカを救出することに成功した。
 しかし、親友も愛する人も裏切った私に、彼女の騎士である資格はない。
“彼女は騎士を選ばなかった”
 私はかつて仲間だった騎士達にそう言い残して彼女の身柄を預け、その場を立ち去ったのだった。

 かくして一人の騎士が歴史から姿を消した。
 そしてこの頃から、不死身と渾名される隻腕の傭兵が戦場に現れたのである……。



710 :12月のベロニカ:2012/01/31(火) 22:07:47.32 ID:hBYd25xx
 ハキュリーの正体、そして旅路を急いでいた理由を知り、先を急ごうとする『私』達。
 しかし時既に遅く、王都へと辿り着く前に巫女の代替わりの時を迎えてしまう。
 三人の前に顕現した女神の前で、ベロニカとなった彼女は私を騎士に選んだ。

 ベロニカの騎士たらんとして、終ぞそれを叶えることがなかったハキュリー。
 自分は裏切り者だ、と前置いた上で、彼は問いかける。
“こんな俺でも彼女の元へ行けるだろうか?”
 そんな彼に、女神は微笑みを浮かべて……

 気がついた時には女神の姿は無く……ハキュリーは穏やかな表情で事切れていた。
 私は覚めない眠りに就いたベロニカを背負うと、再び王都を目指し歩き始める。
 彼女を神殿に送り届けて身辺整理が済んだら再びここへ戻ろう、せめて彼を『彼女』の隣へ弔ってあげよう――そう心に誓って。
 二人で進む12月の山には、ひらひらと初雪が降り始めていた。

(幕)


711 :イラストに騙された名無しさん:2012/01/31(火) 22:11:18.86 ID:hBYd25xx
以上、お目汚し失礼しました。
原作手元になくてうろおぼえで書いたので、細かいところ間違ってるかもしれません。
致命的な間違いがあったら、指摘&訂正よろしくお願いします。



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最終更新:2012年02月03日 23:32