雨の日のアイリス 著者/松山剛 イラスト/ヒラサト 電撃文庫

 

 

803 :雨の日のアイリス1/7:2012/05/05(土) 05:11:10.33 ID:iNfNVr5k
アイリスというロボットがいた。愛らしい外見の明るい少女だ。
アイリスはウェンディ博士のもとで家事手伝いとして働いていた。
博士は女性にしてロボット工学の第一人者として活躍する人物だ。
アイリスは博士の世話をするとともに、妹のように、
デートをしたり、講義の真似事をしたりして仲良く過ごしていた。

しかしある日、回収された暴走ロボットの検査中、
再び暴走したロボットの手によって博士は殺されてしまう。
なまじ精神回路が優秀だったためにアイリスは強くショックを受け、
身体を焼いて自殺を図るも、しかしすんでのところで思いとどまる。
結局持ち主のなくなったアイリスはロボット管理局に回収され、
自殺を図ったためか買い手も現れず、スクラップにされてしまう。

804 :雨の日のアイリス2/7:2012/05/05(土) 05:12:12.47 ID:iNfNVr5k
ある日アイリスは目覚める、精神回路を別のロボットに組み込まれて。
以前とは似ても似つかない、廃品寄せ集めの不格好な外見、
視界も聴覚もまるで雨のようなノイズだらけの、ひどい代物だ。
アイリスの入ったその身体は作業現場に売り飛ばされていた。
他のロボットたちとともに、物を運ぶ作業に従事させられる。

過去を思い返さないように作業に没頭する日々の中でアイリスは、
リリスという少女ロボットとボルコフという巨漢ロボットと出会う。
ひどい作業現場の中、仲良く、あるいは仲睦まじく会話する二人。
アイリスは二人と仲間となってある秘密を共有する。
警備員の眼を盗んで行われる、絵本の読書会が開かれた。

805 :雨の日のアイリス3/7:2012/05/05(土) 05:13:14.76 ID:iNfNVr5k
読解機能の壊れたリリスと視覚機能の弱ったボルコフに代わり、
アイリスは毎晩『三流魔神ウェザー・ダーク』を朗読した。
気ままで頼りない魔神と、彼に仕える魔法の指輪のお話。
指輪の気持ちを通じてアイリスは考える、ロボットの生きがいとは何か。
奇しくもそれは、博士との最後の講義の内容と似ていた。

ある日、リリスの提案でアイリスは安全回路を外すことになる。
安全回路はロボットの暴走を防ぎ、人間が制御するための回路だ。
これを外すのは技術がいるのだが、経験の長いリリスにはできるという。
アイリスの外装を開けて中身をチェックするリリス。
すると中には、かつてのアイリスと博士が写った写真が入っていた。

806 :雨の日のアイリス4/7:2012/05/05(土) 05:15:18.86 ID:iNfNVr5k
二人に来歴を語るアイリス。また同時に、二人の過去も明かされる。
リリスはかつてある夫婦に家で子供代わりにされていたが、
しかし夫婦の間に実際の子供が生まれると捨てられてしまったのだ。
ボルコフは元々軍用のロボットであり、戦場における兵器だった。
しばらく使われた後、新型兵器の導入と共にお払い箱となったという。

ある日、現場で事件が起こった。
元々スクラップ同然のロボットが集まるその現場で、
中でも古い何体かが、その場で機械によって粉砕されたのだ。
安全回路の存在のために命令に逆らうことができず、
精神回路で作られる擬似精神で怯えながら、壊れていくロボットたち。
いずれは自分たちの番、特にあちこちガタが来ているボルコフは…。

三人は脱走を計画した。

807 :雨の日のアイリス5/7:2012/05/05(土) 05:17:07.14 ID:iNfNVr5k
元々軍用なので安全回路が複雑で取り外せないボルコフ。
そのため脱出が困難になると判断し、ある策を練った。

他のロボットが大勢いる中、スピーカーを手にするリリス。
録音しておいた現場監督の声で、脱走を命じたのだ。
事前に安全回路も外しておいたことで、散らばるロボットたち。
その大混乱の中で廃材回収のトラックを強奪し、三人は脱出する。

脱走も長くは続かない。警察の手はすぐ迫った。
熱線銃まで持ちだされ、トラックは大破、道に投げ出される。
取り押さえられ、アイリスとリリスは壊され…
そこでボルコフが立ち上がった、事故で安全回路が壊れたのだ。
兵器としての力を活用して暴れ、辛くも三人は脱出に成功する。

808 :雨の日のアイリス6/7:2012/05/05(土) 05:19:16.87 ID:iNfNVr5k
ボロボロの三人、先が長くないのは目に見えていた。
さらに無情にもボルコフから告げられる、自爆装置の存在。
ボルコフは最期にリリスへ感謝の言葉を残し、二人の囮となって散った。

二人も既に限界は近い。もはやパーツの大部分が破損していた。
そこでリリスはキャッシュカードをアイリスに預ける。
知り合いのジャンク屋に頼めば修理をしてくれるはずだと。
一人で生きる強さを持てとアイリスを励まし、リリスは眠った。

ついに独りとなったアイリスは、身体を引きずりジャンク屋を目指す。
自分を直し、そして眠るリリスも助けるのだと。
そしてたどり着いた先、アイリスは無情な現実を目の当たりにする。
そのジャンク屋は、かつてあの暴走ロボットにより破壊されていたのだ。
バッテリーが切れ、博士の幻想を見ながら、アイリスは停止した。

809 :雨の日のアイリス7/7:2012/05/05(土) 05:21:30.94 ID:iNfNVr5k
博士がアイリスに残した遺言があった。
中に書かれていたのはアイリスへの想い、多くの感謝、
そして、アイリスのために用意していたスペアの身体の存在だ。

博士の同僚の手によって、アイリスは再び目覚めた。
廃品を探し出して精神回路を回収し、スペアの身体に組み込んだのだ。
かつてのような美しい外見、しかしそれだけでなく、
厳しい経験を乗り越え、どこか力強さを秘めたようでもあった。

最後にアイリスは博士に手紙を書くことにした。
大切な友達のこと、そして今の彼女のことを。
ボルコフはやはり亡くなっていたが、リリスの肉体は回収された。
そして今はリリスとともに、ロボット駆け込み寺を開いている。
行き場のないロボットを修理し、働き方を仕込むのだ。
毎日忙しく、やりがいを感じながら、二人は生きている。

 

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最終更新:2012年06月02日 01:52