東京都お台場。
観光スポットと名高いこの臨海都市も深夜を回ればテレビ局以外では人の気配は忽然と消える。
夜霧が立ち込め、波音が響く中で金属がぶつかり合う甲高い音がした。
人影は4つ。その内の2つが組み合い、火花を散らす。
一人は両手に手甲を嵌め、目に狂気の光を灯す大男、もう一人は槍を携えた甲冑の男。
だが、早くもその決着はつこうとしていた。
まるで暴風のような狂戦士の拳に対し槍兵がじりじりと押されていく。
距離を取り己が宝具を使おうと試みた刹那、狂戦士が一息に距離を詰めて拳を振るう、宝具の発射準備に入っていた槍が拳の直撃を受けて勢いよく弾かれ、輝きを失う。
だが、それを槍兵が気にする暇は、残念ながら与えられなかった。
体勢を崩した槍兵の目に映ったのは、自身を肉塊にせんと拳を振り上げ飛翔した狂戦士の姿。
直撃までの刹那、己が無様を嘆きつつ自分の名を叫ぶ主へと謝罪する。
轟音が響いた。
お台場海浜公園の一角に出来上がった赤黒いクレーターから、先程まで槍兵であったものが粒子となって立ち上ぼり消えていいく。
槍兵の名を力なく口にする青年。彼の前にズシンと音を立てて狂戦士が立ちはだかる。
青年に抗う術も逃れる術も残されてはいなかった。
ランサーのサーヴァントを下し、脱落した敵マスターの魂を食らった自らの従僕を見やって、壮年の男は一息着く。
まずは一勝。願いのためとはいえ自身より一回りも二回りも小さいであろう若者を殺した事に今更ながら罪悪感を覚える。
が、今更引き返す事など出来ない。
丁度霧が濃くなってきたのを期に、夜霧に紛れ退散しようとしたその時、バーサーカーが唸り声をあげた。
何事かと身構えた男性がバーサーカーの睨む視線の先を見据える。
霧の中から、ぼうっと人影が現れた。
ザリ、ザリ、と鎧の擦れる音。
霧を割って現れたのは東洋の鎧武者らしき男だった。
まるで歌舞伎役者の様な、白塗りの凶相を浮かべ、乱入者は剣を正眼に構える。
「――勝負」
まるで地獄から響くかのような低い声で鎧武者が口を開く。
壮年の男は瞬巡する。
彼のバーサーカーは周囲からマナを吸収する事で本来のバーサーカーの運用にあたってネックとなる燃費の悪さを解消していた。
このまま継戦をしても問題はない、が、この状況で懸念点が1つだけあった。
敵マスターの姿が見当たらない。
何か、こちらを嵌める為の準備をしているのか、それともマスターの意向を無視して暴走したサーヴァントが単身仕掛けてきたのか。
どちらにせよ、この戦場において一番無視できぬ不確定要素だった。
「バーサーカー、ここは任せる」
そう呟くと男の姿がかき消えていく、熱を纏うことで空気を歪ませて行使する身隠しの魔術だ。
少なくともこれで相手の目からは逃れられたであろうと考え、男は次のアクションに移ろうとする。
不意に、よろめいた。
咄嗟に手をつく事には成功したが急激な倦怠感に襲われる。
何が起こったのかと困惑しながら、地面に着いた手を見て絶句した。
彼が見た自身の手が、まるで年老いた老人のように骨張っていたのだ。
倦怠感が次第に増していく、魔力と生命力を失っていくような感覚。
「いったい、なにが……!?」
自分の発した声が嗄れた老人のように枯れている事に驚愕する。
衰えた片腕がプルプルと震える、自分を支えるだけの筋力が既に無くなっていたのだ。
無様に転倒する。いや、転倒するだけではない。
急激に減衰していく魔力に耐えきれず身隠しの魔術が解けた。
恐らく、今の自分の姿を見ることが出来れば彼は狂乱していただろう。
男の外見は老人の姿へと豹変していた。
白髪が混じっていたものの、大半が黒髪だった毛髪は総白髪となって抜け落ち、その顔には無数に皺が刻まれ、ひび割れている。
折れ曲がった腰と枯れ枝の様に細くなってしまった腕と足では起き上がることさえままならないだろう。
バーサーカーが咆哮をあげ、鎧武者へと飛びかかる。
狂乱の渦に囚われた思考であってもこのままではマズイと判断したのだろう。
だが、それが致命打となってしまった。
ビクリと老人となった男の体が跳ね、その瞳から生気が消えていく。
急激な老化に伴う魔力と体力の消耗で弱っていた身体に、スキルで軽減はされているとはいえバーサーカーが行動するにあたって消費される魔力は、男の命を奪うには充分すぎた。
実体化できる魔力を徐々に失っていくバーサーカーが再度咆哮をあげる。
その咆哮に込められた感情は、狂気か、憤怒か、哀しみか。
その唸り声を鎧武者のサーヴァントはただ瞠目し、手に持った剣を一閃する。
月明かりに紅と首が舞ったかと思うと粒子となって消滅した。
鎧武者のサーヴァントが抜き放った刀を一振りして血を払い、鞘に納める。
チン、と鍔を鞘が打つ軽い音が響いた。
「終わったぞ"ますたぁ"。疾くその妖術を解くがいい」
サーヴァントの言葉と共に霧が次第に薄くなっていく。
急に濃度を増した霧こそが、バーサーカーのマスターが老化したからくりであり、鎧武者のサーヴァントがいう彼のマスターの持つ異能であった。
そして、夜の闇の中から一人の男が姿を現す。
上物のスーツとオールバック気味に整えられた金髪に端正な顔立ち、目には剣呑な光を携えた男だった。
「"偉大なる死"(ザ・グレイトフル・デッド)、あのマスターには効果はあったようだが、やっぱりテメーらサーヴァントにゃあ効かねえようだな、セイバー」
相手を殺した事への頓着など一切なく、今しがた自身が行使した異能の結果を淡々と呟く。
グレイトフル・デッド、それがセイバーと呼ばれた鎧武者のマスターであるプロシュートの使う異能。
半径200mの全ての生命を老化させる力をもった、彼のいた世界ではスタンドと呼ばれる特異な能力だった。
「我らはそもそも生命に非ず。然らば命あるものを老いさせるその"ぐれいとふるでっど"なる妖術が効かぬも道理よ」
「チッ、面倒くせー。主従揃って老化させちまえば楽にすむってのによォー」
ガシガシと頭を掻きながら、公園を後にする。
老人と化したマスターの死体を調べた所でわかるのは衰弱死した事だけ、プロシュートへ嫌疑がかかりようもない。
去り際に横目で眼前に広がる暗い海を見る。
昼、ここに訪れた時にも海を眺めたが、日本の海と彼の故郷に広がる地中海の美しさは比べるべくもなかった。
『栄光は……おまえに……ある……ぞ……』
この聖杯戦争の場に呼ばれる前の最後の記憶。
仲間の仇を討つために確保しようとした、ボスの娘を守るスタンド使い達との死闘と敗北。
朦朧とする意識の中、成長を遂げた弟分のペッシが追い込まれた所で、その記憶は終わっていた。
ペッシがどうなったのか。
ギアッチョは、メローネは、リーダーのリゾットは本懐を遂げて栄光を掴むことが出来たのかはわからない。
確実に、あの時に自分は死んだという自覚がプロシュートにはあった。
それが何故日本という行った事もない土地で記憶を失い、殺し屋稼業などをやっていたのか。
その疑問については、全てセイバーが教えてくれた。
望みを叶えるという聖杯を巡っての殺し合い。
参加資格はこの偽りの空間において本来の自身が何者であるのかを思い出す事。
望みを叶えると聞いて脳裏に浮かんだのは今はもういない仲間達と、どうなったのかもわからない仲間達の姿。
奇人変人ロクデナシ揃いのメンバーだったが、かけがえのない仲間でもあった。
復讐という路線を望まぬ形で途中下車させられた自分が、もし乗り直せるのならば。
死から甦り、ホルマジオやイルーゾォに加えて自分を殺したブチャラティ達、そして全ての発端であるボスに対して仲間の仇討ちができるのならば。
プロシュートに迷う理由など存在しなかった。
最寄りの喫煙所に立ち寄りプロシュートは紫煙を吐く。
江東区は条例によって歩き煙草が禁止されている為、渋々と狭っ苦しい場所で煙草を吸う羽目になってしまった。
何もかもが窮屈なこの国に対しイラつきを覚えながらも、一仕事終えた後の一服を楽しむ。
遠くから響くパトカーのサイレンを耳が捉えた。
先の戦いの死体が見つかったか、はたまた別の何かか。
連続殺人を皮切りに、不穏な空気が日に日に東京を覆っていっている。
本格的な戦争が近づいてきている事をプロシュートは嫌でも肌で感じていた。
(そういやセイバー、あのサーヴァントはお前の言ってた"ゲンジ"とかいう奴じゃなかったのか?)
(否だ。剛力無双の類いには心当たりこそあるが、彼奴めの獲物は長物か刀剣以外にはまずあり得ぬ。他所の英雄であろう)
霊体化しているセイバーに念話で語りかける。
思い出すのは初めてセイバーと遭遇した時の記憶。
セイバー、プロシュートに名乗った真名を平景清。
最低限の信頼関係を結んでおく為に、プロシュートは自分が聖杯にかける願いを伝え、その逆にセイバーが聖杯にかける願いを聞いた。
「一度死した後、平氏一門の仇を討ち、悲願を果たした我には聖杯とやらにかける願いはない」
故に、とセイバーが続ける。
「望みなき我が呼び出されたという事は"ますたぁ"、そなたの死してなお仲間の仇討ちを願う思いに我が引き寄せられたか、あるいは」
静かに語っていたセイバーの目に、突如として暗い殺意の光が宿った。
「この場に源氏に縁があるものが存在するかのどちらかよ」
外国人であるプロシュートには源氏や平家といったものがどういうものなのかは理解はできない。
だが、源氏とセイバーが口にした時の隠し様のない激情は、プロシュートら暗殺チームが見せしめとして殺されたソルベとジェラートを送られ警告された時にボスへと抱いた感情に似ている事だけは理解ができた。
「無論、確証はない。そも我が仇を討つことなく源氏が栄華を築きあげた、我の知る歴史とは異なるこの日の本。頼朝や義経めが別人の可能性とてあるだろう。
然れども、それが源氏を斬らぬ理由にはなりはせぬ。我ら一門が源氏に滅ぼされたという一点だけは変わらぬのだからな」
「つまり、テメーが殺さなきゃならない奴がいるからここに来たって訳か。サーヴァントってのになってまでご苦労なこった」
難儀なサーヴァントを引いたものだ、とプロシュートが内心で閉口する。
プロシュート達のボスへの反旗の一番の理由は仇討ちだ。
だがそれだけで終わりという訳ではない。
ボスを打倒した後に得られるであろう麻薬ルート。
それは冷遇され続けていた彼ら暗殺チームにとって莫大な利益を生む。
プロシュートらの行った組織への反逆は過去の精算と未来への希望が同居していたのだ。
だが、セイバーには未来という視点はない。
過去、自分を含む平家一門を滅ぼされたという悔恨の赴くままに、殺して、殺して、ひたすら殺すだけの道の先には役目を終えて消えるだけの虚無が待っているだけなのだ。
仮に源氏の者がいれば復讐心に駆られて暴走する危険もあるこの男を、その時が来た際にどう対処するか。
その時、そんな事をプロシュートは考えていた。
(まあ、そのゲンジとやらがいなけりゃ暴走する事もねえだろうし、仮にいたとしてもさっさと始末しちまえばいい話ではあるんだがな)
記憶の海から、思考を現実へと引き戻す。
暴走する危険性があるのならば、真っ先にそれを始末しさえすればいい。
マスターの殺害という点を鑑みれば自分の能力、そしてセイバーの耐久性の高さは噛み合っていた。
セイバーが時間を稼ぎ、老化によって相手のマスターを弱らせ始末する。最悪は直に触れるという奥の手もあった。
セイバーがその戦い方を是とするかに対しても、先程の襲撃において異を見せなかった事から一先ずは問題はないと結論づける。
吸い終わった吸殻をグリグリと備えつきの灰皿に押し付け、外に出た。
既にサイレンの音は止んでいる。
気だるそうに伸びを一つして虚空を見上げた。
今度こそ『栄光』を掴むのだ。
他の誰でもない、自らの手で。
【クラス】
セイバー
【真名】
平景清@源平討魔伝
【属性】
中立・中庸
【ステータス】
筋B+ 耐B 敏B 魔C 運C 宝A+
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
戦闘続行:C
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
かつて"ぷれいや"なる者の布施にて復活し、戦い続けた逸話の名残。
魔力放出(風):B
武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。
セイバーはこの力を用いて飛ぶ斬撃や、必殺・旋風剣といった剣技を放つ。
【宝具】
『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』
ランク:A 種別:対人 レンジ:0 最大補足数:1
装備しているだけで毒に類する効果を全て無効化する。真名を解放する事で後述の『神も悪魔も降り立たぬ荒野に』の発動条件の一つが満たされる。
源氏討伐の折に手に入れた三種の神器の1つ。
『八咫鏡(やたのかがみ)』
ランク:A 種別:対人 レンジ:0 最大補足数:1
装備しているだけで雷と竜巻による攻撃とそれに起因する副次効果を無効化する。 真名を解放する事で後述の『神も悪魔も降り立たぬ荒野に』の発動条件の一つが満たされる。
源氏討伐の折に手に入れた三種の神器の1つ。
『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』
ランク:A 種別:対人 レンジ:0 最大補足数:1
筋力のステータスを倍化させる。この宝具は同ランク未満の攻撃およびスキル・宝具によっては破壊されない。 真名を解放する事で後述の『神も悪魔も降り立たぬ荒野に』の発動条件の一つが満たされる。
源氏討伐の折に手に入れた三種の神器の1つ。
『神も悪魔も降り立たぬ荒野に(源平討魔伝)』
ランク:A+ 種別:対人 レンジ:0 最大補足数:1
この宝具を除く全ての宝具を真名解放した際にのみ発動できる。全てのステータスを1ランク上昇し、源氏・妖怪・魔族・竜種に対する特効の付与および同ランク未満の蘇生・防御スキルを無効化する。
セイバーの所持する3つの宝具を解放する事でセイバーが魔の者に支配された日本を救った逸話――源氏討伐というあり得たかもしれない未来――を再現する。
【Wepon】
日本刀
【人物背景】
平家の武将。本名は藤原景清
平家の中でも剛の者として知られているが壇ノ浦の戦いにおいて源氏方に敗れ死亡。
その後、魔の者と結託し日本を闇に覆うとした源氏の所業を憂いた天帝の命により、黄泉の国より蘇る。
蘇生後は滅ぼされた平家一門の恨みを背負い、単身壇ノ浦から鎌倉まで源氏方との無数の戦いを潜り抜け、
道中手にした三種の神器を携えて源氏の頭領、源頼朝の討伐に成功し、役目を終えた景清はその身を花弁へと変えて消えていった。
【マスター】
プロシュート@ジョジョの奇妙な冒険 第5部
【マスターとしての願い】
蘇り、仲間とともに栄光を手にする
【能力・技術】
スタンド:ザ・グレイトフル・デッド
【破壊力: B / スピード: E / 射程距離: 列車一本程度は十分 / 持続力: A / 精密動作性: E / 成長性: C 】
半径200mの範囲に無差別に生命の肉体・精神・記憶を老化させる霧を放出する。
この老化効果は熱によって進行の度合いが変化し、対象の温度が低ければ低い程、老化は遅くなる。
スタンド使いであるプロシュート本人が直に相手を触る事によっても発動し、その際は急激に対象を老化させる。
またこのスタンドによってプロシュート本人の外見年齢を若者~老人まで操作することが可能。
マスターには効果はあるが生命体ではないサーヴァントには効果がない
【人物背景】
イタリアンマフィア・パッショーネの暗殺チームに所属するスタンド使い。
チームの仲間が組織にボスに制裁を受け殺害された事から仲間と共にボスへの反逆を誓い、ボスの一人娘を手に入れる為に弟分のペッシと共にフィレンツェ行きの列車にのったブチャラティ一行を襲撃するも敗死する。
自分が死にそうな状態でもスタンドを解除しない強靭な精神力の持ち主であると同時に、目的の為ならば無関係の人間を巻き込む事も辞さない冷酷な心の持ち主でもある。
目下の人間への面倒見がよく、通称プロシュート兄貴。
【方針】
マスターらしき人物を見つけたら攻撃をしかける。
主従との戦いに関してはセイバーが前線を担当し、プロシュートのスタンドで相手を老衰による衰弱死に追い込む為の時間を稼ぐ。
騒ぎになって目をつけられる、あるいは対策を打たれないように人が大勢いる場所でのスタンド使用は極力控える。
候補作投下順
最終更新:2016年03月03日 13:17