カーテンの隙間から漏れる日差しが、少女の顔をうっすらと照らす。
眩しさに耐えきれず、彼女は目を覚ました。
起き抜け特有の気怠さを感じながら、その新雪のような白い髪を掻きつつ、ベッドから身を起こす。
時刻は午後1時
二度寝しようとも考えたが、二度寝するには中途半端な時間だ。
また夜眠れなくなってしまう。
ベッドから降り、伸びの運動をしながら体を解す。
(今頃は授業中ね)
学校で机に座りながら授業を受ける自分の姿を想像する。
彼女が学校に行かないのは、午後1時まで寝ていたのは体調を崩し、療養していたからではない。
自分の意志で学校を休んだのだ。
少女の休みは一週間になる。
学校に行く気が全く起きない、それどころか何もする気がおきない。
いつから、こうなってしまったのだろう?
何か強いショックな出来事があったのは覚えているが、奇妙なことにどのような出来事かまるで覚えていない。
そして少女の休みを咎める者も、その身を案ずる者もいない。
少女の両親はすでにこの世から去っている。
―――とりあえず喉が渇いた
寝起きのせいで喉が渇いたのか、水分を求め部屋から出ようとするが、足が止まる。
視線の先には机の上にある何かある。
何故かそれが無性に気になった。
その物が何か確かめるべく、机に向い手に取った。
木で作られた細長い笛。確か、犬笛と言っただろうか。
犬を呼ぶために使われる笛。
自分の記憶の限りでは、買った覚えも貰った覚えもない。
そもそも犬を飼っていないのだから、持つ必要もない。
少女は犬笛を隅々まで観察した後、何気なく犬笛を拭いてみた。
ピューと耳鳴りがするような、低周波の音が部屋に響き渡る。
その音を聞いた瞬間、雷に打たれたような衝撃が彼女に走った。
情報の洪水が脳内に押し寄せる。
―――テグネウ、魔神、凶魔、六花の勇者、アドレット―――
「はぁ、はぁ、はぁ」
頭が痛い、まるで脳内を鈍器で直接殴られたようだ。
痛みのあまり、少女はその場で膝をつき、呼吸が乱れる。
すぅー、はぁー
大きく息を吸って、吐く。
深呼吸をしたことにより、眩暈や痛みが治まってくる。
痛みが治まってきたことで、脳内に入ってきた莫大な情報を整理する余裕ができた。
私の名前はフレミー・スピッドロウ。
火薬の聖者。
世界を救うために選ばれた六花の勇者。
そして、この世界は自分が住んでいた世界とは別の世界。
状況確認をするために、思い出した記憶を一つ一つ紐解いていく。
「で、後ろにいるアナタは誰?」
フレミーは後ろを振り向かないまま、独り言のように呟いた。
記憶の整理をしていると、後ろから人の気配、いや何かの気配を感じた。
それなりに修羅場を潜ってきたし、何かが息を潜めていれば、ある程度は察知できる自負はある。
だが、その気配は突然出現した。
いつの間に現れた?疑問は尽きないが、後ろにいる何かは、発する気配だけでも只者ではないのは分かる。
「私はランサーのクラスのサーヴァントです」
ランサー?サーヴァント?
聞き覚えがない単語を聞いた瞬間、思わず振り向く。
そこに立っていたのは、自分と同年代と思われる少女だった。
新雪のような白い髪、側頭部に光沢のある青い羽根。
黒革のスカートには青と紫と黒で彩られた、鳥の羽のような美しい大きな翼がついている。
発する気配から、もっと恐ろしい何かが居ると思っていたが、普通の少女だったことにフレミーは虚を突かれた。
「あなたが私のマスターですね」
◆ ◇ ◆
「つまり、私はトーキョーという、自分が住んでいる別の世界に連れてこられて、
貴女みたいなサーヴァントという存在を率いて戦い。勝ち残ったマスターとサーヴァントの願いを聖杯が叶えてくれる」
「そうです」
「とんだ与太話ね」
「荒唐無稽とは思いますが、これは事実です」
フレミーはベッドに腰を掛けながらランサーの話を聞く。
口では否定的な発言をしたが、内心では信じつつあった。
今いるこの東京と呼ばれる世界。
自分が知っているものとは何もかもが違いすぎる。
例えば、今着ている衣服、
肌触りや着心地など元の世界で着ていたものに比べて遥かに質が良い。
そして、TVや電話と呼ばれる未知の道具。
遥か遠くの相手と会話でき、遥か遠くの景色を映すことができる。
これは聖者と呼ばれる特殊能力を持つ者たちでも作ることは不可能だ。
そんな道具があるこの世界は、自分が住んでいる世界とは別の世界ということも信憑性が出てくる。
そうなると、聖杯戦争もサーヴァントの存在も現実味が増してくるものだ。
「ところでマスター、あなたの願いは何なのですか?」
ランサーには聖杯に懸ける願いがなかった。
サーヴァントは何かしら願いを持っているはず。
では何故呼ばれたのか?
ランサーには皆目見当がつかなかった。
可能性があるとすれば、マスターと何かしら縁があって呼ばれたのか。
これからマスターについて色々と尋ねれば、分かるかもしれない。
「願いね……」
フレミーは呟くと、目を閉じ、腕を組みながら考え始めた。
数十秒経っただろうか、フレミーは目を開け、俯きながらランサーに問う。
「願いというのは、何でも叶えられるの?」
「大概のものは叶えられると言われています」
「そう……」
ランサーの答えを聞いたフレミーは、声を振り絞るように語り始めた。
「私は誰からも愛されなかった……でもそんな時に現れたの、アドレットが……
私が攻撃しても、どんなひどい目にあっても助けようとした。
最初は信じられなかった、どうせ裏がある。最後には裏切られると思っていたわ。
けど違った。アドレットは私のことを想ってくれていた。愛してくれていた。
でもそれは幻想だった。テグネウに植え付けられた偽りの愛。
アドレットは私のことを愛していなかった。それどころか憎んでいるわ!
アドレットはこう言ったの『フレミーを死なせていれば、よかったんだ』
それはそうよね!アドレットのすべてを奪った種族の血が私の身体には流れているんだから!愛される理由は何一つ無い!」
フレミーの目から涙が流れていた。
最初の方は静かに語っていたが、途中から声を荒げ、涙声で擦れている。
「でも、アドレットに愛されたい……
あの人が私の名前を優しく呼ぶ声が聴きたい……
あの人が私を守るために、抱きかかえてくれる手の温もりを感じたい……」
フレミーは凶魔と呼ばれる人間に仇なす異形の化け物と、人間の間に生まれた子供だった。
凶魔に引き取られ、育てられた。
凶魔が住む土地で、フレミーは人の血が入っている故に迫害を受ける。
その迫害はフレミーを育ててくれた凶魔にも及んだ。
自分のせいで家族が血を流すことに心を痛める。
家族を守る方法は只一つ。凶魔と認められること。
フレミーは死にもの狂いで強くなり、凶魔に害となる強者を葬った。
強者を葬るたびに、凶魔は喜んでくれた。
家族や自分を迫害しなくなった。
あるとき、フレミーはある強者に敗れてしまった。
失敗したが、家族は自分を優しく出迎えてくれるはずだ、そう思っていた。
それは甘い幻想だった。
家族から浴びせられる容赦ない罵声。
失敗した者は用済みと言わんばかりに、フレミーは家族から命を狙われた。
人間の生活圏に落ち延びた先でも待っていたのは迫害だった。
自分に優しくしてくれる人間もいたが、少し心を開けば、待っていたのは裏切り。
フレミーは理解した。
自分は凶魔からも人間からも愛されることは無いと。
そんな時に現れたのがアドレットだった。
ランサーはフレミーの独白を黙って聞くことしかできなかった。
――――愛されたい――――
その感情には覚えがある。
かつて、父オーダインに愛されたいと願っていた。
だが、父の愛は自分には向かなかった。
その苦悩、その胸の苦しみは今でも覚えている。
そしてフレミーの苦しみは、自分の苦しみより辛いものであることはわかる。
あの絶望の感情に染まった瞳。
よほどアドレットという人を愛していたのだろう。
「喋り過ぎたわね……どうかしてるわ私……」
フレミーは自分の涙で濡れた顔と、その感情を隠すようにベッドに顔を埋める。
そして場は静寂に包まれること数分。
ランサーの凛とした声が、静寂を打ち破る。
「マスター、あなたは愛されるという願いを叶えるために、人を殺す覚悟はありますか?」
願いを叶える。
聖杯戦争において、それは他者の願いを摘み取ること。
時には、サーヴァントではなくマスターを殺めなければならない時がくる。
他者の願いと命を天秤にかけてでも、自分の願いを叶える覚悟があるのか。
それを尋ねたかった。
フレミーは布団から顔を上げ、ランサーの目を見据えながらはっきりと告げる。
「ええ、できるわ」
愛されるために人を殺す。
それは間違っているのかもしれない。
だが、ランサーには口が裂けても間違っているとは言えなかった。
父の愛を求め、苦悩する日々も確かにあった。
だが、ランサーはついに出会えたのだ。
愛する人、自分を愛してくれる人。
生涯の伴侶オズワルド。
彼と出会えたことがランサーにとって、どれだけ救われたか。
もし、フレミーと同じように、生前の夫の愛が偽物だったら。
オズワルドが自分に敵意と殺意の目を向けてきたら。
想像しただけで、心臓が止まりそうだ。
それはこの世のどんな責め苦より苦痛だろう。
そんな責め苦をフレミーは味わった。
そして、死の国より深く暗い絶望の果てに、聖杯と言う唯一の希望を見つけたのだ。
もし、フレミーと同じ立場であれば、同じく愛されることを願うだろう。
ああ、わかった。
何故、フレミーのサーヴァントとして召喚されたのか。
自分以上に愛に飢えている、この少女を救いたいのだ。
夫オズワルドに出会えたように、アドレットという人物と愛に満ちた人生を歩んで欲しいのだ。
それが聖杯に懸ける願い。
「わかりました。ランサーのサーヴァント。真名グウェンドリン。
マスターの願いの為にこの槍を振るいましょう」
【クラス】
ランサー
【真名】
グウェンドリン@オーディンスフィア
【属性】
秩序・善
【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
食事摂取:A
食事摂取による魔力回復が極めて高い。
またダメージが回復し、僅かばかり耐久が上がる
竜殺し:A
予言に記されし、終焉を呼び起こす竜レヴァンタンを打倒した逸話から。
竜の因子が含まれているサーヴァントに極めて高い効果を発揮する
アイテム作成:C
アイテムを作成できるスキル
自分の世界にあった材料と似たようなものがあれば
同様のアイテムを作ることができる
【宝具】
『戦乙女の槍はすべてを貫く(ガングリオン)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:1~2
アーチャ―が生前使用していた、サイファーと呼ばれる、魔石を原料として作った宝石を組み込んだ槍。
命ある者をその武器で倒すことにより、力が増幅する特性を持っている。
氷を操り、氷による攻撃は対魔力では軽減できない
【weapon】
ガングリオン
【人物背景】
北の国ラグナネイブルの姫君。魔王と恐れられる国王オーダインの次女で、槍のサイファーを手に勇敢に戦うワルキューレ。
普段は物静かで控えめだが、いざとなるとどんな者を前にしても勇ましく立ち向かう強さを持っている
【サーヴァントとしての願い】
フレミーの願いを叶えたい
【マスター】
フレミー・スピッドロウ@六花の勇者
【マスターとしての願い】
アドレットに愛されたい。
【武器】
銃と銃弾
【能力・技能】
「火薬の聖者」
火薬を作る特殊能力
弾丸となる金属球を手に持つことで、それに薬莢と火薬を組み合わせた「銃弾」へと変えることができる。
また自分の任意で爆発できる爆弾なども作ることができる
【人物背景】
「火薬」の神の力を持つ聖者。本作のヒロインであり白髪に右目が桃色で左目が青のオッドアイのはかなげな少女。武装は銃と爆弾。凶魔の母と人間の父とのハーフで、元々はテグネウの命令で六花の勇者の候補者を殺害していた。
しかしチャモに負けたことで用済みになり、母親を含めた凶魔たちに殺されそうになったため、復讐のため魔神を倒すことを決意する。他者を寄せ付けない刺々しい気性の持ち主だが、アドレットに同行するうちに彼に対して強い信頼と想いを抱く。
【ロール】
高校生(不登校)
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最終更新:2016年03月09日 23:10