ゆっくりと目を覚まし、少女は目の前の光景を見つめる。
白。余りにもまっさらな色が視界に広がる。
蛍光灯の光によって照らされる白い天上だ。
それが眠りから覚醒した少女が常に見る、最初の景色だった。
少女はぼんやりと視線を横へと向ける。
カーテンが周囲を覆っている。
まるで外界から自分を隔離しているかの様に。
近くのテーブルには雑多な物が置かれている。
その中で一際目立っていたのは一冊の本。
室井静信という作家が手がけた小説。
此処にあるものといえば、それくらいだ。
まるで世界から見放された様な空間で、少女は暮らしていた。
少女の見る世界は、常にこの空虚な病室だった。
彼女は『奇病』によって陽の光を浴びることが出来ない体質だった。
日中に外へ出ることは出来ないし、日中に目を覚ますことも出来ない。
人として、普通の生活を送ることが出来ない。
だからこそ少女は此処に居るのだ。
少女に身寄りはいないし、過去の記憶は霧が掛かった様に思い出せない。
ただ気が付いた頃にはこの病室の中にいた。
少女の胸の内には疑問が常に浮かんでいた。
いつから此処に居たのか。
自分に家族は居たのか。
この身体は治らないのか。
ただ一つ確かなことは、このまっさらな牢獄だけが少女の全てだった、ということだけだ。
そう、全てだった。
今日この日までは。
少女は今まで、何も知らなかった。
今宵の目覚めの時まで、何も気付いていなかった。
少女は唐突に、まるで落とし物をふと思い出したかの様に。
ようやく『全て』を、思い出したのだ。
「…もう起きたかしら、沙子ちゃん?」
看護士がカーテンを開け、声を掛けてくる。
少女を常に看てくれている夜勤の看護士だった。
少女にとって、彼女は自分のことをよく理解してくれている存在だ。
看護士は目を開けていた少女を見て、柔和な笑みを見せた。
―――――人だ。
目の前の看護士を見つめ、少女の中に『餓え』が込み上げる。
「やっぱり起きていたのね。
沙子ちゃん、今日の検査のことなのだけど―――――」
いつものように、彼女は検査や体調のことについて話してくれる。
普段ならば看護士の言葉をしっかりと耳にしていただろう。
しかし今の少女にとって、それは最早無意味な言葉の羅列に過ぎなかった。
―――――空腹だ。
―――――欲しい。
―――――食事が欲しい。
少女は、身体を起こした。
看護士は少し驚いた様に、少女を見つめた。
そして少女もまた、ゆっくりと。
看護士を見つめる。
「…沙子ちゃん?」
きょとんとした様子で看護士は呟いた、直後。
看護士に向かって少女が飛び掛かる。
そして、鋭い牙で――――――その首筋に食らい付いた。
◇
青ざめた顔で、看護士は崩れ落ちる。
その首筋には虫刺され痕の様な小さな傷が生まれていた。
口元に付いた血を拭い、少女は看護士を見下ろす。
―――――美味しかった。
少女――――桐敷 沙子(キリシキ スナコ)は、看護士の血を喰らったのだ。
自らが何者なのかに気付いた瞬間、彼女の中の本能が蘇ったのだ。
沙子は、ヒトではない。
ヒトの血を喰らって生き長らえる化外の者だ。
己の記憶を取り戻した瞬間から、自らの餓えを耐え切れなくなった。
沙子は果てしない時を生き、多くの人を喰らってきた。
最早何人の人間を殺したのか、彼女にさえ解らない。
彼女が人を殺すのは、人が家畜の肉を喰うのと一緒だ。
それでも彼女は、血を喰らってきた。
生きる為に。餓えを凌ぐ為に。
彼女にとっての捕食とは、ただそれだけのことだ。
それ故に、彼女は日の当たる世界では生きられない。
人は決して、人殺しの化物を赦したりはしないだろう。
彼らにとって人食いの鬼とは、迫害に値する対象なのだから。
神も、法も、全て人を護る為のモノだ。
人から外れた化物は、それらから完全に見放される。
少女はそれ故に彷徨っていた。
安寧の地を求め続けてきた。
自分が何者なのかを思い出してしまった。
この病室から抜け出た瞬間、自分は再び彷徨う身となるのだ。
此処は空っぽだ。空虚な檻だ。
世界から見放されたかのように隔離された籠の中だ。
しかし、それでも此処は沙子にとって人の社会で得られた『居場所』だった。
安らかな日々を求めてきた彼女にとって、初めての空間だった。
だけど、此処とはもうお別れ。
人の真似事は終わりだ。
人ならざる者としての本能を自覚した今、自分はもう人ではいられない。
沙子はベッドから降りる。
テーブルに置かれていた室井静信の小説を手に取り。
そしてカーテンを振り払い、看護士の成れの果てを尻目に、彼女は歩き出す。
外界。この部屋の外を、目指して。
そして、沙子は――――――扉を開いた。
病室の外へと、出た。
外は、死で充満していた。
塗料をぶち撒けたかのように。
大量の鮮血が、廊下に飛び散っていたのだ。
べちゃりと、少女の足の裏が汚れる。
足下に血が撒き散っていたのだ。
人の頭が、腕が、胴体が。
まるで壊れた人形の部位のように転がっていた。
医師や職員らの成れの果てだろうか。
人が、人の形をした肉へと成り下がっている。
人の命を癒す籠は、ほんの僅かな時間で惨劇の舞台へと変貌していた。
「おいしい」
直後に耳に入ってきたのは、咀嚼音と奇妙な独り言。
目の前の状況に唖然としていた沙子は、あるものを見つけた。
「すごく、おいしい」
血濡れの池の中心に立つ―――――漆黒の衣に身を包んだ『梟』。
ソレは地面に転がる肉を、喰らっている。
狼が羊を襲って喰らう様に、『梟』は人を喰っていたのだ。
なんて、美味しそうに食べているのだろう。
沙子は梟のような男を見て、そんなことを思った。
男は、一心不乱に肉を口に運んでいた。
飢えた獣の様に血を舐め、肉を喰らい、残酷に貪っていた。
男の形相は狂気に塗れていた。
淀んだ瞳で目の前の餌を喰らい続けていた。
同時に、沙子には彼が「やっとの思いで餓えを凌いだ」ようにも見えた。
まるで自分達が、屍鬼が人の血を喰らう様に。
やっとの思いで人に食らい付き、餌として血を啜ったときの様に。
びちゃり、びちゃり。
沙子は足が汚れることも気にせず、血塗れの廊下を歩く。
人を喰らう梟のような男の傍へと、歩み寄る。
肉にありついていた男は少女に気付き、ゆっくりと顔をそちらの方へと向ける。
「貴方も、お腹を空かせていたのね」
少女はただ一言。
微笑みを口に浮かべて、そう言った。
その瞳に同情と親近感の様なものを浮かべて。
◇
飢えていた。
腹が減っていた。
兎に角、何かを喰らいたかった。
肉を喰いたい。
ヒトが、喰いたい。
俺がいたのは、病院だった。
薬品のような独特のニオイでいっぱいだった。
臭い。なんて臭えんだよ。
ふと周囲を見渡したら、人間が何人か居た。
ああ、そういや病院だもんな。
人間くらい、いるよなあ。
俺の姿を見て、どいつもこいつも腰を抜かしていていた。
どうやら俺が怖いらしい。
今の俺は飢えていた。
腹が減っていた。
何でもいいから、喰いたかった。
だから俺は、殺した。
目につく奴らを殺した。
全員殺した。
医者も看護士も職員も。
皆殺しにした。
もぎたてのパイナップルみたいな頭を何度も喰い漁った。
おいしかった。
程よく肉のついた腕に何度も貪った。
おいしかった。
ステーキみたいな胴体の肉に何度も何度も喰らい付いた。
おいしかった。
おいしかった。
おいしかった。
ほんとにおいしい。
とにかくもう、今は何でもいいから喰いたい。
そんな時、子供が俺を見ていた。
真っ黒な目をした女のコだった。
俺を怖がるわけでもなく、まるで同類を見つけたように近寄ってきた。
女のコは、笑っていた。
「貴方も、お腹を空かせていたのね」
俺は、確信した。
こいつなんだな、と直感した。
こいつが、俺の、マスターだ――――――――。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
オウル@東京喰種:re
【パラメーター】
筋力A+ 耐久A++ 敏捷B+ 魔力E 幸運E 宝具D++
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
狂化:D
筋力と耐久のパラメーターを1ランクアップさせる。
言語能力こそ健在だが、その精神は狂気に蝕まれている。
【保有スキル】
喰種(偽):B+
人を喰らう怪物。グール。
オウルは人から喰種へと転じた半喰種に分類される。
人間を凌駕する再生能力と身体能力を持つ他、人肉を喰らうことで魔力回復とパラメーターの一時的な向上を行える。
更に捕食器官である『赫子(かぐね)』を身体に備える。
なお喰種が摂取できるのは人肉以外には水とコーヒーのみ。
戦闘続行:B+
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
あらゆる苦痛に対する耐性も兼ね備えており、敵の攻撃に非常に怯みにくい。
精神錯乱:A+
同ランク以下の精神干渉をシャットアウトする。
更に自身と相対した者に恐怖のバッドステータスを与え、自身に向けられた判定のファンブル率を上昇させる。
ヒトでありながらバケモノへと転じさせられ、捕食を繰り返したオウルの精神は完全に荒廃している。
【宝具】
「偽誕の梟(オウル)」
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大捕捉:5
喰種特有の捕食器官「赫子(かぐね)」。分類は羽赫。
ブレードの形状を取っており、主に近接戦を得意とする。
人間を捕食する為の器官である為、敵が人間であった場合には攻撃判定・与ダメージが強化される。
「隻眼の赫者(カニヴァル・オウル)」
ランク:D++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
共食いを繰り返した果てに赫子を進化させた喰種「赫者(かくじゃ)」としての力。
オウルは未だ未完成な半赫者に分類するが、その力は並の喰種を遥かに凌駕する。
発動時は宝具「偽誕の梟」の性能を大幅に強化し、更に全パラメーターと精神錯乱スキルにプラス補正が掛かる。
この段階に至ったオウルは完全に発狂し、まともな意思疎通は困難になる。
【Weapon】
自身の肉体、赫子
【人物背景】
「滝澤 政道」という人間だった男。
元は喰種の事件を担当するCCGの捜査官であり、アカデミーを次席で卒業した優秀な新人だった。
しかし喫茶店「あんていく」襲撃作戦の際に重傷を負い、行方不明になる。
二年後、CCGによるオークション会場襲撃作戦にて半喰種として姿を現した。
【サーヴァントとしての願い】
全部殺して、自分が一番だと証明する。
【方針】
沙子と共に往く。
【マスター】
桐敷 沙子@屍鬼(藤崎竜版)
【マスターとしての願い】
安らかに暮らせる居場所が欲しい。
【weapon】
なし
【能力・技能】
「屍鬼」
人の血を吸って生きる人外の存在。
驚異的な治癒力、不老の肉体、血を吸った人間への暗示といった超常的な力を持つ。
血を吸われた人間は素質がある者のみ死亡後に屍鬼として蘇生する。
ただし幾何学模様や十字架といった霊的なものに対する恐怖心、他人の住居への無断侵入が出来ないといった弱点を持つ。
また日中には強制的に眠りに落ちてしまう他、日光に当たると皮膚が焼け爛れてしまう。
日中にも強い外的要因があれば目覚めることが可能。
基本的に不死身のように見えるが、心臓への杭や頭部の破壊などで大量の出血をすれば死亡する。
伝承で言う所の『吸血鬼』に近い。
【人物背景】
過疎地である外場村に引っ越してきた桐敷家の娘。
その正体は長い時を生きる不老の「屍鬼」。
桐敷家を始めとする村の屍鬼や人狼を統べる存在でもある。
かつては人間だったが、西洋の人狼に血を吸われ屍鬼と化した。
読書好きで聡明だが、外見相応の幼い一面も併せ持つ。
【方針】
バーサーカーと共に往く。
会場内でのロールは「入院生活を送る身寄りの無い子供」だった模様。
最終更新:2024年09月28日 09:16