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さあ、切符をしっかり持っておいで。
お前はもう夢の鉄道の中でなしに 
本当の世界の火やはげしい波の中を 
大股にまっすぐあるいて行かなければいけない。
天の川のなかでたった一つの 
ほんとうのその切符を 
決しておまえはなくしてはいけない


宮沢賢治『銀河鉄道の夜』




「兄貴?」


何の前触れも無く、“兄”は何かから逃げるように走り去って行った。

「お兄さん、どうしたんだろうね?」

詩織が不安そうに“弟”に尋ねた。“兄”の突然の行動に困惑している。

「さぁ………急用でも思い出したんじゃない?」
「今日のお兄さん、なんか変だったよ?独り言も多かったし」
「兄貴が“考察魔”なのはいつものことだろ」
「うーん……まぁ、そうかもねぇ」

詩織の疑問もやがて消失した。文字が書かれた砂浜が波に覆われ、元の平坦な地面へと戻る様に、NPCは定められた日常へと戻る。


「なあ……詩織、悪いけど先に帰っててくれないか?」


「俺もちょっと用事を思い出しちゃってさ」




安藤潤也とそのサーヴァントがいるのは、東京の品川区にある某競馬場の観覧席だ。
普通、競馬場とは夕方には終了するのものだが、このシーズンではナイターが実施される為夜まで利用する事ができる。
レースはまだ始まっておらず、今は下見場で馬達が周回し、客が新聞片手にそれらを見定めている。

「しっかし、サーヴァントが未成年じゃなくて助かったよ。高校生は保護者同伴じゃなきゃ入れないからな」

実体化したサーヴァントを連れるという方法は、時代錯誤なその姿について不審に思われないかと多少不安ではあったものの、どうやらこの世界では都合よく“流される”らしい。

「こんなところに来てどーするんだ、マスター」
「どうするって、ここに来てやる事はひとつだろ?」
「……本当に競馬するだけなのかよ」

“ついさっき記憶を取り戻してサーヴァントを召喚した奴が真っ先にする事なのか”と、ライダーは自らのマスターの行動に半ば呆れている。

「潤也、だいたいお前さんはこの聖杯戦争をどう動くつもり……」

「なあライダー。俺と賭けをしよう」

「賭け?」
「簡単な賭けだよ。これから始まるレースでどちらの選んだ馬の方が速いか。それを競うのさ」
「なんだと?」
「俺が負けたらあんたの言う事を聞く。もし、あんたが負けたら俺の言う事を何でも聞いてくれ」
「おいおいおいおい、オレが何者かはさっき伝えたはずだよな」

ライダーのクラスの名の通り、彼には馬術の才がある。
その腕は、生前にアメリカで開催された総距離約6000kmにも及ぶ壮大なレースに優勝候補まで登り詰めるほどだ。(そんな彼のマスターが真っ先に競馬場へと向かったのは、これも何かの縁か)
レースで培った経験の量も含めれば、馬に関する事では素人の潤也とは“蝉と鯨”張りの差がついていると言えるだろう。
この賭けは潤也にとって明らかに不利である。

「分かってるよ」
「それでもやるのか?」
「それでもさ」

別段ライダーは主体的にこの聖杯戦争で何かをしたい訳では無かった。
だが、賭けを降りる理由もこれといって無かった。

「いいぜ。乗ってやるよ」




「……で、タネは一体何なんだ」
「俺の実力だよ」
「嘘つけこの」

結果はまさかの潤也の勝利。
だが、正当な勝利とは言い難かった。

レースがスタートし、最終コーナーまではライダーの選んだ四番の馬がトップだった。
各馬々の歩幅、筋肉、呼吸を下見場で観察し、コンディションを緻密に計算した上で、最大の力を発揮出来ると予想した一頭だ。
しかし、数秒後に状況は一変する。
ゴールまでの直線に差し掛かった所で、突然、地震が発生した。
大した揺れでは無い。だが小さな揺れであったとしても、全力で地面を蹴り上げながら走る馬に与える影響は大きい。
それまで先頭だった四番の馬は突如減速。後続の馬もこれに煽られコースを逸れ、結果的に潤也の選んだ八番が一等を飾った。
余りにも理不尽過ぎる大番狂わせに、周りからは落胆の声が上がっている。
この八番は全く人気の無い馬だったらしく、予めライダーに五万円分の馬券を買わせていた潤也は、かなりの額を受け取る事になった。

「地震自体をお前さんが引き起こしたとはさすがに思えない。確実に八番が一位を取るとは限らんからな。とすると……“未来予知”か?」
「まあ大体合ってるよ」

潤也は白状する。

「俺は“十分の一確率なら確実に当てる”ことができる」

それが潤也の“能力”だった。
レースに参加していた馬は全部で“十頭”。
この能力を使えば、その中でどの馬が最終的に一位なのかを試合前に把握することが可能だ。

「あんたの目利きは間違いなく良いんだろうけど、“偶然”の事故なんてのはさすがに予想できないだろ」

潤也は『ライダーが選んだ馬が偶然敗北する事』、『弱い馬が偶然一等を取る事』を予め分かった上で、ライダーに賭けを持ち出したのだ。

「要するに、とんだ“出来レース”だったって訳か」
「約束は約束だよ。あんたには俺の方針に従ってもらう」

しかし約束は約束でもただの口約束。
そんなものでこの男を縛れるとは、潤也は勿論思っていない。

「俺のやり方は、あんたのやり方とは全然違うかもしれないけど、俺は俺のやり方で進ませて貰う」

これは、ライダーに対する“決意表明”と言う意味合いの方が大きい。


「俺はどんなことをしてでも聖杯を手に入れる」






――兄貴はあの日、唐突にこの世を去った。

――“どこにも行かない”と言ったのに。
――“賭けてもいい”と約束したのに。

――これが兄貴にとって“納得”したものだったとしても、俺はまだ“納得”出来ない。

――だから俺は、兄貴がいた何の変哲も無い日常を取り戻す為に闘う。


――例えそれが、兄貴の想いを踏み躙る行為だったとしても。


――兄貴も“この聖杯戦争のマスター”だったとしても。





共に食事をし、共に学校へ登校し、下らない話をする。
何気ない日々だったけれど幸福に満ちていた。
このまま何も知らずに暮らしていたかったとさえ思うほどに。

だが、あの電気製品売り場の前での出来事によって、夢は覚めてしまった。
どこかへ走り去っていく兄。
その姿を見た潤也は、なぜかそのまま兄が消えてしまう錯覚に陥った。
まるで、あの時の様に………………あの時?

次の瞬間、全てを思い出した。

兄が犬養と対決してボロボロになって死んだこと。
詩織達を令嬢〈フロイライン〉から守らねばならないこと。

何故か競馬場へと足が進んでいた。
周りは見慣れないはずなのに見慣れている異様な世界。取り敢えず資金を集めなければならないと無意識に動いていた。

そんな中、突然現れた『謎の男』ライダー。
彼から聖杯戦争についての説明を受けた時は突拍子も無い話だと思ったものの、彼がただの法螺吹きには思えなかった。

そして、潤也はある事に“直感的”に気付いた。
兄もまた、聖杯戦争のマスターの一人である事に。

だが、潤也は聖杯の獲得を決意した。
いずれ兄と“対決”することになるのだとしても。

「もう少し金を集めたい所だけど、そろそろ帰らないとな。ライダー」

“兄貴が心配するからね”
そう言って潤也は笑ってみせた。

その瞳は深い深い黒に染まっている。

漆黒の瞳の奥に、ライダー『ジャイロ・ツェペリ』は、共に戦った“親友”の影を見た。




【クラス】ライダー
【真名】ジャイロ・ツェペリ@ジョジョの奇妙な冒険
【属性】秩序・中庸

【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具B(EX)

【クラス別スキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:C
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。

【固有スキル】
鉄球の回転:B
 肉体を動かさずに掌にある物体に「回転」を加える特殊技術。
 鉄球を回転させてその振動であらゆる事象を引き起こす。

心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】
『黄金長方形の回転(スティール・ボール・ラン)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1人
 自然界に存在する黄金長方形を見ることで、鉄球の回転の真の力を引き出す。
 レンジ内に完全な自然界の黄金長方形(葉や生物、雪の結晶など)が存在する間、
「鉄球の回転」スキルのランクを2ランク上昇させる。

『無限螺旋を越えた技術(ボール・ブレイカ―)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:1人
 黄金長方形による馬の走行に、黄金長方形の無限の回転を加える技術。
 そのエネルギーは人型のヴィジョンで形成され、このヴィジョンの攻撃は次元の壁さえも突き抜ける。
 事実上防ぐ術はないが、鉄球は完全なる真球でなければならず、少しでも損傷し「楕円球」などでは十二分に力を発揮できない。

『波を視る右目(スキャン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 『聖人の遺体』を有していない為、この宝具は失われている。

【Weapon】
無銘・鉄球
金属を加工することで作る事ができる。

ヴァルキリー
ライダーの愛馬。

【解説】
本名はユリウス・カエサル・ツェペリ。
ネアポリス王国出身の法務官であり、処刑人と医者を代々務めるツェペリ家が編み出した技術「鉄球の回転」を行使する。
たまたま密会の現場に勤めていただけで「国家叛逆罪」として裁かれた靴磨きの少年マルコの処刑にどうしても納得がいかず、スティール・ボール・ラン優勝による「国王の恩赦」によってマルコを救う為にレースに参加した。
しかし、第7ステージでの大統領との対決中、一手の差により死亡する。

【サーヴァントの願い】
特になし





【マスター】
安藤潤也@魔王 JUVENILE REMIX

【マスターとしての願い】
兄貴のいた頃の日常を取り戻す。

【能力・技能】
1/10=1
 十分の一までの確率なら、正確に当てることが出来る。
 これを利用して潤也は競馬で大金を稼いだ。

【人物背景】
兄の死の真相について調べ、犬養と対決することになる。
その行動は次第に狂気を帯びていき、兄の想いを継ぐことと周囲の人々を守るためなら手段を選ばない「魔王」とも呼べる行動を起こしていく。

高校2年生(休学中)であるが、東京では高校1年生として生活している。

【方針】
どんなことでもやる。例え“大切なもの”を利用してでも。



【補足】
2日目夜に品川区で小規模の揺れが発生しました。
もしかするとサーヴァントの影響によるものかもしれません。
最終更新:2024年09月28日 09:21