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 あなたの命に刻まれた、たったひとつの小さな力
 全ての生あるものに与えられた、取るに足らない小さな祈り
 あなたが、今、ここに在るという
 ただそれだけの、奇跡





   ▼  ▼  ▼






 自分は一体、どこで間違ってしまったのだろう。
 問いに答えるものは何もなく、意識はただ黒に塗り潰された。

 きっかけは、そう。銃口だった。
 あの日、あの時。傍らの少女に向けられた銃口が、全ての始まりだった。

 自分には分かっていた。銃口が少女に狙いをつけていることも、銃弾に少女が反応できないことも、自分が銃弾を迎撃することさえできないことも理解できた。
 今にも引かれようとしていた引き金を止めるには、手や足を狙ったのでは僅かに遠く、今の自分が選択できる最短距離での攻撃箇所を狙わなければ絶対間に合わないことも、分かっていた。
 銃を構えるその男が、かつて自分に兄弟の話を誇らしげに語ってくれた彼だということさえも。
 嫌になるくらい、分かっていた。

 目の前の光景が、ぐにゃりと歪んで、捩れた。
 視界に映るすべてのものが、闇に沈んだ気がした。

 眼前の影はびくりと痙攣し、そのままゆっくりと床へと落ちる。差し出すように掲げた剣がずるりと抜け、赤と黄の暖かなものが、顔中に降りかかるのが理解できた。

「あ……」

 声を上げ、遅れてそれが自分の声だとようやく認識できた。

 ふと、右足に焼けるような衝撃を感じた。
 振り返り、ぼんやりと自分の足に視線を向ける。
 穿たれた銃痕から溢れ出る血を、何か不思議なものでも見る気分で眺めた。



 立て続けに三度の衝撃を背中に受け、右の騎士剣を取り零す。それが床にはねるより早く無数の銃弾が襲い掛かり、銀色の刀身が甲高い音をまき散らして細かな欠片に砕け散る。
 喉の奥から何か熱いものがこみ上げ、咳き込んだ拍子に血が飛び出た。
 少女に駆け寄ろうと踏み出して、しかし焼け付くような衝撃に膝を貫かれて体勢を崩す。
 床に倒れ込み、顔に何か柔らかいものが当たって、気付いた。
 目の前には、まだ若い、兵士の姿。
 既に暖かさが失われつつある、数秒前まで人間だった物。

 ―――ああ、そうか。

 意識が遠のく。周囲の音が急速に遠のいていく。霞んでいく視界の中に少女の姿を見つけ、差し伸べようとした手が地に落ちて。

 ―――僕が、殺したのか。

 何もかもが、真っ暗になった。





   ▼  ▼  ▼





 壁にかけられた時計の針が、朝の5時を指していた。
 休日の朝のこと。自分以外に誰もいない部屋の中で、ディーと呼ばれる少年は億劫そうに椅子を傾けた。
 特に意味はない。ただすることが何もなかったから、呆と時間を過ごしているに過ぎない。
 ここに来てからはいつもこの調子。鉛を詰め込まれたように頭が重くて、何をする気にもなれない。体内組織の動作状態を隅から隅まで走査しても異常は何一つ見つからないのに、神経パルスの戻り値は体調の悪化を訴え、頭痛も眩暈も一向に収まらない。

 吐き気を堪えて手を伸ばし、ベッドの下に隠してある騎士剣『陰』の柄を握ってI-ブレインを一時的に戦闘起動。脳と体の状態を強制的に整え、細く長い息を吐く。
 ……実のところ、騎士剣に手を触れる必要はなかった。ベッドに隠れた騎士剣は、最早剣としての機能を果たせそうにないほど破壊し尽くされて、その中に内蔵された機構さえも今は存在しない。
 だから、これは単に気持ちの問題。生まれてからずっと傍にあった、そしてI-ブレインを起動する際のプロセスとして脳に刻まれた行為をなぞることによる精神の安定化。
 乱れたベッドをもとに戻して、さてこれからどうしようと重い頭で思案して―――

「やっほ。ちょっとは落ち着いたかな」

 ―――訂正、一人ではなかった。
 声に目を向ければ、そこにいたのは一人の少年であった。窓枠に腰かけ、足を外に出してぶらぶら揺らしている。なんとも危ない姿勢であるが、その出自を聞いているディーがとやかく言うものではなかった。
 手にしているのはスケッチブックと鉛筆だろうか。確かディーの机には昨夜まで書きかけのスケッチブックが放置されていて、ああつまり、彼は昨日の絵の続きを描いているのだろうと。
 そんなことを、ディーはぼんやりと考えた。

「心配かけてごめん、アーチャー。もう大丈夫―――」
「じゃないね、その顔は。せっかくの休日なんだしもうちょっと寝ててもいいんじゃないかな」

 そこは外出を勧めるところなんじゃないか、と思いつつも、ディーは「ありがとう」とだけ返して押し黙る。アーチャーと呼ばれた少年は、にこりと小さく笑い返した。

 事の次第と詳細は、このアーチャーと名乗る少年から色々聞かされていた。
 聖杯戦争、東京、マスター、サーヴァント、令呪。俄かには信じがたいそれらの事実は、しかし不思議なほどにディーの胸中にすとんと収まった。まるで自分がそれに導かれたかのように、最初から頭に刻まれていた知識を、後追いで思い出すかのように。
 それに対して何か言葉を返そうとした自分を、しかしアーチャーは静かに押し留めた。まだ時間はあるからそれまでに答えを出せばいいよ、と。まるでこちらの迷いを見透かしているかのように。


431 : ディー&アーチャー ◆GO82qGZUNE :2016/02/10(水) 23:30:01 k2Cw8kVI0

 カリカリという筆の音と、時折風にざわめく木々の揺らめきだけが耳に届く昼光の時間。どちらも言葉を発さず、けれど決して不快ではない時間が過ぎていく。
 壁にかけられた時計の針が、静かに時を刻んだ。

「ねえ、アーチャー」
「なんだい、マスター」

 何の気なしに、言葉を投げかけてみた。
 それは何気ない会話のようで、けれどこれ以上なく重い決意の籠った言葉だった。

「ここに来る前、僕は人を殺したんだ」

 言って、両手を目の前に広げ、見つめる。
 その手が血に塗れているように感じて、吐き気がこみ上げる。兵士の頭を刺し貫いたあの瞬間の重い感触が蘇り、右手が小刻みに震える。いつかの夢で見た血の海の幻が目に浮かぶ。数えきれないほどの人の死体が、赤黒い闇の中を流れていく。
 ディーは、大きく息を吸い、吐き出した。
 心に渦巻くそれらをすべて、力づくで抑え込んだ。
 アーチャーは、ただ静かにこちらを見つめていた。

「それで、僕の兄さん……幻影(イリュージョン)No.17って人がいてね。ちょっとだけ話をしたことがあるんだ。人間嫌いで怖い人だって聞いてたけど、実際には全然そんなことなくて。明るくて、軍の人たちにも信頼されてて、『シティが無事ならおれはどうなってもいい』なんて本気で言う人で、すごくびっくりした」

 いつの間にか風はやんでいた。一層静かになる世界に、耳鳴りが聞こえたような気がした。

「その人は、傷だらけなんだ。大きいのとか小さいのとか、古いのとか新しいのとか。下手したら死んでるような大けがもあって、それがいくつも重なって再生処置でも治せないくらいボロボロになってて、それでもあの人は戦ってる。僕なんか、足元にも及ばないくらいに鍛え上げて」

 無意識に、手を膝の上で組み合わせ。

「……敵わないって思った。強さもそうだけど、それ以上にもっと違う何かで、全然及ばないって思ったんだ。僕はどんなふうになればあの人みたいになれるんだろうって考えて、あの人と話して、ようやくちょっとだけ分かった」

 俯いていた視線を、ゆっくりと上げる。

「あの人の中には『自分』がいない。自分の命とか損得とか、そんなものが初めから計算に入ってない。だから、誰かを殺さなくちゃならない時は自分の手を汚すし、誰かが死なないといけないなら自分が犠牲になろうとする……自暴自棄じゃない、自分が大切だってことは分かってて、でも心の中にそれより大切なものを持ってる」


 砕け散った自分の騎士剣を思い出す。それは、まるで自分の弱さの象徴のようにも思えた。
 それこそが、幻影No.17の強さ。
 死ぬ覚悟。殺す意思。今の自分に欠けているもの。

「その人に言われたんだ。僕はいつか、自分か、セラか、別の誰かか、どれかの命を選ばないといけない時が来るって。その覚悟を、いつでも持ってなきゃいけないんだって。
 そして、僕は人を殺した。だから多分、今がその時なんだと思う」
「君の兄さんのように、自分の全てを賭ける時が、かい?」
「……本当はね、まだ良く分からないんだ。僕は人を殺してしまったけど、次に誰かを殺さなきゃいけなくなったら、その時は迷わず剣を振るえるのかって。
 でも、これだけは分かる。僕はセラを助けるためなら、迷わず戦える。彼女を殺そうとする誰かがいたら、僕は迷わずその誰かを殺すことができる。
 聖杯だって、セラを幸せにできるというなら取ってみせる」

 この世界は、とても綺麗だ。
 青い空があり、緑の草原があり、魔法士や人々が不当に犠牲になることのない優しい世界。
 ここに招かれた時、空を見上げ、思わず涙が零れたことを、ディーは覚えている。
 ならばこそ、強く思うのだ。この暖かさをセラにも味わってほしいのだと。

 そして。
 瞳に力、静かに宿して。

「だって僕は、自分よりセラのほうが大切だから―――」
「はいバン」

 不意打ちでデコピンを食らった。
 完全に、意識の範囲外だった。

「……アーチャー?」
「君の気持ちは分かった。けど、それはどうかなってぼくは思うよ。
 少なくとも、君はもう少し自分ってものを考えたほうがいい」

 額に去来する痛みも忘れ、ディーはアーチャーを呆と見つめる。
 その言葉は柔らかなものではあったけど、どこか真剣さが感じられるもので。

「誰かを守ろうと思うなら、自分はどうなってもなんて考えるもんじゃないよ。残された人はいつだって、後悔しか抱かないんだからね」

 それはまるで、自分が体験してきたかのような。
 少年のようでもあり、老人のようでもある、不思議な貫禄と共に染み入る言葉だった。

「だけど、うん。さっきも言ったけど君の気持ちは理解できた。だから少なくとも、今この場においてぼくは君の味方だ。大船に乗ったつもりで、とはいかないのがアレだけどね」
「……ううん、それで十分だよ、アーチャー」

 アーチャーの笑みに、つられてディーも微かに笑った。
 思えば、ここに来て初めて笑えたのではないかと、そう考えて。

「あ、その表情いいね。今まではジメジメした仏頂面だったけど、これならいい絵を描けそうだ」

 ……そのまま、1時間くらい絵のモデルとして表情を固定したまま待たされた。
 後に手渡された絵は、なんともコメントに困る画力だった。





【クラス】
アーチャー

【真名】
ティトォ@マテリアル・パズル

【ステータス】
筋力D 耐久E 敏捷D 魔力B+ 幸運A 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:C
マスターなしでも行動できるスキル。

【保有スキル】
無窮の叡智:C++
多くの学問を収めた知識知能による戦術恩恵。
情報解析による状況・敵勢力の看破、軍略、人間観察、高速・分割思考、完全記憶などの思考戦術系スキルを内包し、かつ高いボーナス値を付与する。
後述の宝具によりランクが大幅に上昇している。

蔵知の司書:-
多重人格による記憶の分散処理。
現在このスキルは失われている。

【宝具】
『白焔よ、我を活かせ(ホワイトホワイトフレア)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:5
炎の魔力を変換し、癒しと強化のエネルギーを作り出すマテリアル・パズル。
変換後は白い炎になり、纏った者の傷を治し肉体を強化する。回復・強化の度合いはさじ加減が可能。
この宝具自体が極めて高密度の魔力を内包しているため、炎を纏った者の攻撃には相応の神秘が付加されサーヴァントにも通じるようになる。
自身やマスターの他、動植物にも効果があり、抵抗値の低い又はこの宝具に身を委ねている者に限定して動作の操作が可能。
白い炎は通常時は一切の破壊をもたらさないが、アーチャーの意思ひとつで瞬時に攻性の炎に転じさせることもできる。

『仙里算総眼図』
種別:対人魔技 レンジ:0 最大捕捉:1
マテリアル・パズルではなく、アーチャーが長い時間をかけ編み出した「1を聞いて10を知る能力」。

対象の言葉、表情、眼、行動、周りの環境などから情報を取り入れ、対象の行動パターンを数十秒完全に先読みできる。
対象は1体に限られ、更に発動には膨大な情報が必要なので、味方の戦闘による時間稼ぎがあってこそ真価を発揮できる。
また、未知の人物や兵器の正体などの推理など、戦闘以外の用途にも使える。

【weapon】
なし

【人物背景】
ドーマローラ国が滅んだ際、不老不死になった三人のひとり。
17歳の時に不老不死になったので、その姿で固定されている。
三人の中では一番厳しく、しかし一番優しい性格。頭脳労働担当。

【サーヴァントとしての願い】
グリ・ム・リアの打倒。そして願わくば、"彼ら"が安心して暮らせる未来を。



【マスター】
デュアルNo.33@ウィザーズ・ブレイン

【マスターとしての願い】
セラの幸せ

【weapon】
騎士剣・陰:
銀の不安定同素体「ミスリル」で構成された近接戦用外部デバイス。
騎士の能力を拡張・底上げする機能を持ち、物理的にも非常に頑強……なのだが、現在は刀身と中枢コアが完全に砕けており、剣としてもデバイスとしても全く機能していない。
陽のほうはどっか行った。

【能力・技能】
魔法士:
大脳に生体コンピュータ「I-ブレイン」を持ち、物理法則を改変して戦う生体兵器。彼はその中でも身体能力を書き換える「騎士」と呼ばれる魔法士。

身体能力制御:
自身の体内の物理法則を書き換え、身体速度と知覚速度を大幅に上昇させる。
元来の彼であるならば53倍まで加速可能であったが、騎士剣がない現状においては数倍程度までしか加速ができない。
なお、加速と同時に不自然な運動から来る反作用を全て打ち消している関係上、どれだけ加速しても得られる運動エネルギーは等倍のままである。原理としては身体強化というよりは時間加速に近い。

情報解体:
物理的に接触した物体の存在情報にハッキングを仕掛け、それを消去することにより、物理的には原子・分子単位まで分解する。
ただし、人間や高度AIなどといった思考速度の速い物体、すなわち情報的な防御力の高い物体には一切通じない。
元々は単純火力に劣る騎士が外壁や装甲といったものを効率よく破壊するための能力であるため、人間やサーヴァントの肉体を直接崩壊させることは不可能と言っていいだろう。

自己領域:
騎士剣がないと使えないため当然使えない。

【人物背景】
ファクトリー製「規格外」魔法士、ナンバー33。世界でただ一人、複数の能力を同時使用できる騎士。
能力だけで見れば世界最強クラスの彼であるが、しかし「殺人恐怖症」という致命的な精神欠陥が存在する。
外見的には14歳の少年だが、所謂試験管ベイビーであるため実年齢は2歳。
誰も殺したくないと剣を捨て、けれど自分よりも大切と思える一人の少女のために剣を振るう騎士。

【方針】
聖杯狙い。
ただし、できればサーヴァントのみを狙いたい。
最終更新:2024年09月28日 09:43