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【scene 1 ―― Introduction】





 ――また一人、私立不動高校の生徒が犠牲になった。

 かねてより、「この学校は自殺者・死亡者、そして殺人犯が普通の高校より少し多いのではないか?」などと密かに囁かれていた同高校だが、先日、また何名かの生徒が、都内に発生する殺人犯の餌食になった。
 昨日までに、連続殺人の犠牲者の中で、不動高校に通っている事が明らかになっているのは、五名。

 で、それがまた一人増えたというわけだ。
 これで六人。
 今度は、三年生の女子生徒である。

 ……この頃は、都内広範囲に渡って、こうした殺人事件が増加している。
 ニュースによると、江東区での死者が五十二名。
 百人規模の死者が出ているという異様な状況下で、都内ではまだ当たり前に時間が過ぎ去っている。

 しかも、この事件の犯人であるという、「二十代後半の入れ墨の男」は、今の所は見つかっていない。
 ――こういう事を言うと不謹慎だが、もし、人を殺したいと思っているのであれば、今がチャンスだろう。

 そう、たとえ、他の誰かが殺したとしても、「二十代後半の入れ墨の男」の起こした事件だと、勝手に思い込んでくれるのだろうから。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆





【scene 2 ―― 遠野英治】





 ――人の命の重さは、平等ではないらしい。


 ここにいる一人の高校生――遠野英治は、ある時、その事を実感した。

 こう言うと語弊があるが、厳密にいえば、一人一人の命の重さが平等ではないという事ではなく、一人の人間の命の量は、多数の纏まった人間の命の量には決して敵わないという事である。
 つまり、たくさんの人間を救う為ならば、少数を犠牲にするのは致し方ないし、自分の命を守る為にも他者を犠牲にするのは仕方が無いらしいという話だ。
 きっと、多くの人は、それをやむを得ない事だと思うかもしれない。


 ……そう、たとえば、有名なトロッコの倫理学の問題がある。



『線路を走っていたトロッコの制御が不能になった。このままでは前方で作業中だった5人が猛スピードのトロッコに避ける間もなく轢き殺されてしまう。
 この時たまたまA氏は線路の分岐器のすぐ側にいた。A氏がトロッコの進路を切り替えれば5人は確実に助かる。
 しかしその別路線でもB氏が1人で作業しており、5人の代わりにB氏がトロッコに轢かれて確実に死ぬ。A氏はトロッコを別路線に引き込むべきか?』



 この場合、多くの人間は、トロッコを切り替え、一人の人間を能動的に殺害するという手段を「許す」らしいと聞いた。
 答える人間の多くは、「何もしない」あるいは「何もできない」――つまり、「五人を見殺しにする」と答えるのだが、それでも、もし反対の行動を取る人間がいたら「許す」のだ。
 しかし、平然とそのトロッコを一人の人間に向けて切り替えるような人間を見た時、そして、それを許す人間を見た時、きっと英治は全身に虫が這うような殺意を覚えるだろう。
 英治はこれを考える度に全身を鳥肌が駆け巡る感覚とともに、奥歯を強く噛みしめた。



 ……そいつは「殺人鬼」だ。



 ――――俺の大事な女性(ひと)を殺した、殺人鬼だ。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆







【scene 3 ―― 小泉螢子】





「――螢子」


 英治は、かつて、最愛の女性と共に湖のほとりで撮った写真を眺めていた。
 彼がこの聖杯戦争の中で全ての記憶を取り戻したのは、部屋の整理中に、偶々この一枚の写真と、この女性からプレゼントされた時計が見つけ出されたからである。
 しかし……この写真と時計だけは、絶対に手放すわけにはいかなかった。
 最愛の人間でありながら、もう写真の中にしかいない少女――螢子。

 まだそこに彼女がいた時の事……。
 まだ彼が純粋に笑えた日の事……。
 幼い頃からの……。

 ……しかし、それは遠い思い出に過ぎなかった。


「もうすぐだよ……」


 世の中は、一人の命は、百人の命を守る為ならば当然犠牲になって良いものとしている。
 周囲の連中は、それを当たり前だと思っている。
 多数の人間が救われる為ならば、一人を犠牲にしても良い――それを日本の法律までもが「正当防衛」だの「緊急避難」だと言って、認めていると来た。
 だが、そんな、尤もらしい理由をつけようが、それは殺人に違いない。

 ふざけている……。

 殺された一人の命には、カスども百人の命よりも大事な想いがあるのだ。
 この世の誰かに奪われた彼女の命は、一口に「一人の命」などと呼び捨てるほど単純な物ではない。
 彼女が持っていた喜びや、悲しみや、怒りや、愛や、やさしさを……英治は知っていた。

 小泉螢子の持っていた――英治が愛した彼女の全てが、たかが何人か何十人かの命の為に、奪われたのだ。
 英治にとって、螢子の命は何百人の命よりも重い物であった。
 その罪が問えず、許されてしまう――。
 その罪人は殺さなければならない。


「……もうすぐ、お前の為に……」





◆ ◆ ◆ ◆ ◆





【scene 4 ―― 追想】





 ――英治と螢子は幼い頃から、寄り添うようにして育っていた。
 二人とも同じように孤児であり、それからもずっと親しく、愛し合っていたのである。
 やがて、二人は別々の家に引き取られる事になったが、それぞれの養父母は英治と螢子が会うのを快く思わなかった。

 英治は遠野家で裕福に育ったが、螢子は小泉家でメイドのようにこき使われて、綺麗だった指をどんどん痛めていった。
 そんな螢子の姿を見るのが、英治にはどうしようもなく耐えられない事だった。

 英治は、螢子を不幸の中から救ってやりたかった。
 何としても。

 まずは、豪華客船オリエンタル号の処女航海に、一緒に行かないかと誘った。気晴らしになればと思ったのだ。
 だが、結局は英治は養父母に発覚し、二人で行く事が出来ず、螢子だけがオリエンタル号に乗って遊びに行く事になった。
 英治は寂しく思いながらも、螢子にツアーを楽しんでもらえればと、その姿を笑顔で見送った。


 ……それが、英治が螢子を見た最期だった。


 タンカーとの衝突。沈没したオリエンタル号。不慮の事故。
 何百という犠牲者――その中に、螢子がいた。
 本来なら、助かる筈だった螢子が……。

 満員の救命ボートに手をかけた螢子の命は、「誰かの為」に理不尽に奪われた。
 誰かが螢子の手をはねのけ、螢子を広く深い海へと追いやったのだ……。
 その結果、螢子は、氷のように冷たくなって、英治の前に帰って来た……。


 螢子一人の命を秤にかけ、奪った奴がこの世界にいる……。
 その人間についてわかるのは、『S・K』というイニシャルのみだ……。
 螢子を見殺しにしたオリエンタル号沈没事故の被害者たちで、『S・K』のイニシャルを持つ者は九人……。
 九人もいた……。



 ――螢子が死んだのに、『S・K』のイニシャルを持つ人間が、九人も生きのびていやがった……。




 クソみたいな大学生。
 尻の軽そうな女子高生。
 死体ばかり描く気持ち悪い画家。
 ワカメみたいな髪型の男。
 成金のジジイと、どうせ金目的で引っ付いた成金の女。
 ぱっと見は良い人そうな医者。
 あからさまに性格の悪いフリーライター。

 どいつもこいつも怪しい……。
 どいつが螢子を殺したのだ……。
 彼らの資料を見つめても、どいつもこいつも生きている価値のない人間に見えた。
 こいつら百人の命が寄り集まっても、螢子一人の命の尊さに敵うとは思えなかった。
 こいつらも結局、誰かを見殺しにのうのうと生きているわけだ。
 あの事故で生き延びた人間は全員そうだ。誰かを蹴落としたクズに違いない。

 九人の内、誰か一人が、螢子を殺した『S・K』だという。
 そう。そいつは絶対に裁かれなければならない。

 だが、警察は当てにならない。
 法律で裁けないのだから、その人物を警察に突き出しても仕方が無いのだ。

 ……つまり、英治がこの手で殺すしかない。

 それでいい。
 それで英治は満足するのだ。
 螢子を殺してまで生き延びた人間が死んでくれれば、彼はそれでもう満足だった。

 人を殺してまで生き延び、人を殺してまで誰かを救い、未だに生きている罪人を――この手で殺す。
 奪われた側の人間にとって、そんなに簡単に、「カルネアデスの板」などというものを認められるわけがない。


 罪なき螢子は、最後まで幸せになる事を許されなかったというのに、誰かを殺した人間が少なくとも『生きている』事を許されているというのが現実だ。


 世界が敵に回ってもお前に味方すると言う口説き文句があるように、遠野は世界を犠牲にしても螢子を愛せた。
 螢子は世界に犠牲にされたのなら、英治はそんな世界を許しはしない。
 法律など関係はない。
 螢子の命さえ守れない法律などに……。





 ……そう、彼は、『大の為に小を犠牲にした』事が許せないのではないし、『自分の命の為に他者を犠牲にする』行為を許せないのでもない。

 『最愛の螢子を殺し、それを正当化した理論』が許せないのだ。

 それが彼の狂気の原動力だった。
 助けを求めてもがいた螢子を、救命ボートから突き落とした人間……。
 螢子が最後に求めた救いを、跳ねのけた最悪の奴……。
 結局、九人の内、誰が螢子を殺したのかはわからなかった。

 英治は、それを必死に探し、答えを求めた。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆






【scene 5 ―― 『バーサーカー』】





 そして。


 そんな彼の前に現れたのは、仇を殺す以外の、もう一つの「手段」だった。
 それがこの、聖杯戦争だ。
 言語能力のない『バーサーカー』を引き当ててしまった彼だが、既に聖杯戦争のルールは、ある方法で把握している。

 記憶の覚醒と共に現れ、英治も知らないどこかで「虐殺」を続けた怪物。
 それ――バーサーカーは、今、彼の前にいる。


「――聖杯戦争、か」


 イニシャルが『S・K』の人間を殺すのではなく、くだらない願いの為に他を犠牲にしようとするカス共を殺す事で、螢子を生き返らせる事が出来るとは、何と都合の良い事だろう。
 仇を殺すよりもずっと意味のありそうなゲームだった。
 何せ、仇を殺しても自分たちの気が晴れるだけで螢子は帰って来ないが、このゲームに勝利すれば、螢子は生き返るのである。

 ……まあ、勿論、全てが終わり、螢子が甦ったならば、「仇探し」をさせてもらうが、その人間を問い詰めこそすれ、殺すまでは至らないかもしれない。
 螢子がよみがえるのなら、英治としてはそれでよいのだから。
 とはいえ、螢子が冷たい水の中でどう苦しんだのかを思えば、怒りも湧くが――後の事は、螢子の判断に任せよう。
 そいつをどうするかはともかく、英治は螢子を甦らせる事を優先した。


「……」


 戦争に乗る覚悟なら充分ある。他人を殺す覚悟も。
 どうせ敵は、英治ほど大事な願いを持っているわけでもない奴らである。
 くだらない事しか考えていない、温室育ちの連中だ。

 ――いや、やはり、相手が誰だろうと英治の信念は揺るがない。
 螢子の為ならば、英治は螢子以外の全てを犠牲にできる。
 ……そう、自分の命だって厭わない。
 だから。


「――バーサーカー、俺の命令はたった一つだ」


 目の前に現れた、巨体の怪物の方に、彼は向き直した。
 無口で、どこか威圧感のある恐ろしい怪物であったが、マスターである英治への殺意はないらしい。
 いや、流石に英治との協力関係くらいはわかっているのだろう。
 言葉を話す事は出来ないにせよ、言葉を多少は理解している、という事か。
 だとすれば、話が早い。
 英治が言いたい事は、本当にただ一つなのだから。





「この俺以外のマスターとサーヴァントを――――全員殺せ!!」





 皮肉にも――彼が呼び出した、この『バーサーカー』のサーヴァントは、本来、この後に英治が扮して、『S・K』たちを殺す為に利用する洋画の怪人と同じ名前だった。
 その名は、『殺人鬼ジェイソン』。フルネームで言えば、『ジェイソン・ボーヒーズ』。


「……」


 彼は、頷く事もなく、自分を維持するマスターに対してだけ、殺意も理性も抱くなく、ただ見下ろしていた。


 そう――自分と同じ、狂った殺人鬼の姿を。









【クラス】

バーサーカー

【真名】

ジェイソン・ボーヒーズ

【パラメーター】

筋力B 耐久EX 敏捷E 魔力C 幸運C 宝具EX

【属性】

混沌・狂

【クラススキル】

狂化:A+
 全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。

【保有スキル】

戦闘続行:A
 名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
 「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。

怪力:B
 魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性で、一時的に筋力を増幅させる。
 一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間は「怪力のランク」による。

【宝具】

『13日の金曜日』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人(自身)

 何度殺されても必ず蘇り、殺人鬼として人々を恐怖に陥れたジェイソンの逸話から生まれた宝具。
 バーサーカーの死後、マスターの魔力を消費するのと引き換えに、再び英霊として聖杯戦争の舞台に現界する効果を持つ。
 再臨後は筋力のパラメーターが1ランク上昇する(それ以上の上昇値がない場合は+が付く)が、代わりにマスターの制御下を逃れ、視界に入るもの全てに対して無差別な殺戮を始める可能性が高まっていく。
 その為、マスターにとってもリスクが大きく、何度も使用すると危険しか生まないので、バーサーカーを死なせないようにする必要がある。
 特に回数制限はないが、マスター不在である場合には、この宝具が発動される事は無いので、マスター死亡後にバーサーカーが死亡すればそれが最後。

『クリスタルレイク』
ランク:B+ 種別:結界宝具 レンジ:? 最大捕捉:?

 バーサーカーの固有結界。
 自らが溺死したクリスタル湖と、その周辺の鬱蒼とした森とキャンプ場。
 この場所に敵のサーヴァントやマスターを引き込み、バーサーカーの
 固有結界内は霧に囲われ、結界に捉われたマスターやサーヴァントの視界も曖昧になる。
 結界内では、バーサーカーはAランクに相当する『気配遮断』のスキルを獲得し、至近距離に到達されない限り、バーサーカーの存在を感知する事が出来なくなる。
 ここに誘い込まれたマスター、サーヴァントは言い知れぬ不安感に襲われ、いずれかのパラメーターが1~2ランク程度下がる場合もある。

【weapon】

『アイスホッケーマスク』
『無銘・斧』

【人物背景】

虐めによってクリスタル湖で溺れさせられた11歳の少年、ジェイソン。
彼は先天的な障害によって、顔は奇形であり、脳が小さく、それが虐めの原因だったとされる。
溺死したかに思われたが、彼は実は生きていた。
巨大な怪物の殺人鬼ジェイソンへと変わり果てて…。

何度死亡しても、落雷や超能力、サイボーグ化などによって毎度のように復活。
死亡する度に人間離れした「不死の怪物」となっていく。
この怪物の弱点は、母親と同じ恰好や話し方をする女性や、幼い頃の自分と重なる相手と相対すると戦意を喪失する事がある事。
また、ある伝説においては、「水が苦手」とも言われているが、彼自身は「大嫌い」なだけで致命的な弱点とはなり得ない。




【マスター】

遠野英治@金田一少年の事件簿 悲恋湖伝説殺人事件

【マスターとしての願い】

螢子の蘇生。

【weapon】

『S・Kのイニシャルが刻まれたキーホルダー』
 オリエンタル号の沈没事故で遺体となって引き上げられた小泉螢子が握っていたキーホルダー。
 イニシャルらしき物が刻まれており、それを理由に彼は凶行を引き起こす引き金になっている。

『螢子と撮影した写真』
 螢子と二人で撮影した写真。裏に衝撃的な事実が書いてある。
 原作では衝撃的な事実と一緒に、日付も書いてあるが、サザエさん時空な為に後の話と矛盾が生じている。
 その為、二次創作の上では特に日付は書いてない事にする。

【能力・技能】

「イニシャルがS・Kの奴が妹を殺したっぽいので、とりあえず条件に合うS・Kは全員殺す」という超身勝手な理由で手の込んだ殺人計画を実行する、ネジがぶっ飛んだ行動が平然と出来る。
「死体を木の上に乗っける」、「死体を冷蔵庫に詰め込む」といった、過剰に猟奇的な死体遺棄も平然とやってのける。
ボートを動かす技術くらいはある。
あと、名探偵の名推理によると、死ぬ事を大して恐れていないらしい。

(また、彼の能力ではないが、彼の通う不動高校は極端に治安が悪く、あらゆる災厄を引き付ける性質を持っている。
 殺人事件が多発するほか、遠野英治の他にも生徒・教師など現在11名が殺人事件を起こしており、数十名の殺人事件被害者・自殺者を出しており、この高校は都内にある。
 一応、校内で殺人事件が発生した事は連載中で二回しか無いが、在籍者や関係者がよく人が死ぬので、激戦地や死者大量発生などの現象が極端に起こりやすくなっているだろう。)

【人物背景】

私立不動高校の三年生で、元生徒会長。
現在の生徒会長である七瀬美雪によると優しい先輩だったらしく、ぱっと見は感じの良い好青年。美雪と付き合っているという噂もあった。
しかし、その正体は悲恋湖リゾートで起きた連続殺人の犯人・『殺人鬼ジェイソン』である。

彼の動機は、数年前に起きたオリエンタル号沈没事故の際に、最愛の女性・小泉螢子を満員の救命ボートから突き落とした人間への復讐だった。
ボートに乗っていた他の人間を助ける為の正当防衛とはいえ、螢子の命を奪った人間を結果的に殺したその人物を遠野は許さなかったのである。
そして、螢子の命を奪った人物の手がかりは、彼女自身が教えてくれた。
彼女は、最期に、自分を突き落とした人間がバッグにつけていたキーホルダーをむしり取っていたのである。
そこには、その人物のイニシャル『S・K』が刻まれていた。
だが、遠野がどれだけ探しても、イニシャル以外の情報は結局つかめず、螢子を殺した人物は九人もいた……。

そこで彼は考えた。
だったら、全員殺せばいいのだと。

【方針】

何を犠牲にしてでも聖杯を必ず手に入れ、螢子を蘇生させる。
目的を果たした後は、元の世界で螢子を殺した人間を探し出す。









◆ ◆ ◆ ◆ ◆






【scene 0 ―― 『聖杯戦争』】





 ……英治が聖杯戦争の全てを知ったのは、今日の放課後の事だった。
 腕を捲り、昨夜、すべてを思い出してから突然現れた痣を、英治は気にしていた。
 嫌な形に出来ており、てっきり憎しみが高じて腕に刻み付けてしまったのかと思ったが、どうやら違ったらしい。


『あれ? 遠野くん。その腕の痣、どうしたの……?』


 そして、それを見ていたクラスメイトの女子に突然声をかけられる事になった。
 髪が長く、妖艶な雰囲気を伴った、まあ、美少女といって良い方な同級生(英治はあまり彼女に興味がないが)。
 そんな同級生に、ふと言われた一言。


『――……もしかして、遠野くんも「マスター」なのかしら?』


 はじめは、この一言もわけがわからず、きょとんとした。
 しかし、それだけ英治にとって引っかかる言葉が告げられた以上、何かある。
 そう思い、彼女の話を聞く事にした。


『やっぱり? でも、「聖杯戦争」について何も知らないの?
 それってマズいじゃん! ねえ、じゃあ、この後すぐに、校舎の裏まで来て、全部教えてあげる――』


 英治は、普段、温和な性格で通っている。
 三年生になって引退するまでは生徒会長として真面目にやってきた程だ。
 だから、彼女は、英治の事を無条件で信頼し、話してしまったのだろう。


『聖杯戦争っていうのはね、――』


 彼女の口から、『令呪』と『聖杯戦争』の情報を得た英治は、驚き、そして、「覚悟」を決めた。
 突飛な話だが、自分が螢子の事さえ忘れてこんな所にいる、という状況が既に、不可解でしかない。
 英治には、たとえ、爆発に巻き込まれて全ての記憶を失っても螢子の事だけは忘れないという絶対の自信があったくらいだ。

 そう――。
 いま、この状況ならば、相手は無防備――『サーヴァント』とかいう奴もいない。


『ねえ、私と同盟組まない? 私は別に聖杯なんて欲しくないし、早くパパやママの所に帰りたいから――』


 彼女は、そう提案した。
 英治は、彼女の言葉を普段通りの笑顔で受け入れた。
 それから、彼女は、「じゃあ一緒に帰ろう」と、笑顔で言った。
 仲間だと思っているらしい。


『えっ……、何するのっ……遠野く……ちょっ、やめ――――』


 そして、英治は、彼女の首を後ろからベルトで絞めて――――殺した。

 犯行は誰にも見られなかったようなので、校内の繁みに隠し、夜になってから、バラバラにして、公園に棄てた。
 英治が初めて『バーサーカー』と会う事になったのは、その帰り道だ。



 ……ちなみに、彼女の死は、「二十代後半の入れ墨の男」が引き起こした連続殺人の一つという事になっているらしい。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆









【備考】

遠野英治の令呪の位置は、左腕(腕を少し捲ると見えますが、普通は視えません)。
「S」、「I」、「く」のような形の三画が繋がったような感じで発現しています。

ちなみに遠野英治は、不動高校に通っていた『マスター』の少女を、一人殺害済です。
最終更新:2024年09月28日 10:01