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「ラブレターの行方」(2009/08/31 (月) 19:18:35) の最新版変更点
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八月某日。
まだ日も昇る前、ぐうぐう眠っている私の背中に、誰かの声が届いてきた。
「あ、ごめんかがみ、筆箱借りていい?」
私はうすら目を開き、うーんと布団の中で軽く背伸びをして、寝返りを打った。
そこにいたのはまつり姉さんだった。
「なんで?」
眠気で朦朧としている意識の下、特に何を考えるわけでもなく、そう聞き返す。
「今日集中講義あんだけどさ、筆箱どっか忘れてきたみたいでー。ねえ借りちゃダメ?」
集中講義とは、大学が夏休み期間に開く特別授業のことだ。
そういえばこの姉は単位が足りないやら何やらで、
この自宅から遠く離れたキャンパスで開かれる集中講義にわざわざ出ることにした、とか何とか言っていた気がする。
私は取るべき単位はきっちり取得しているし、休みも満喫したいので、そういうものには出ないことにしていた。
「ふーん。まあ持ってっていいけどさ。机の上に置いてあるから」
私はアンニュイに許可する。
「ありがとー、持ってくねー」
そう言ってまつり姉さんは机の上から、味気ない紺色をした布製の筆箱を取り、慌ただしく出ていった。
ドタバタした足音に混ざってかすかに、やべーあと一時間だし、という言葉が聞こえた気がする。
ふう、と心の中で溜息をつき、私は再び眠りに就く。
中途半端に頭が冴えてしまったが、五分もすればまたすぐ眠気が戻ってきた。
そのまま夢の世界へ踏み入ろうとした。
その時。
「……ん?」
私はあの筆箱に関して、何か重要なことを思い出した気がした。
頭の中でその違和感を追いかける。
すると、それははっきり輪郭を見せ、私の全身をひきつけさせた。
「……はっ!」
そうだった。あの筆箱のサイドポケットには、一年くらい前、クラスの男子あてに書いたラブレターが……
----
「…ま、いっか」
そう呟いて、わたしは再びまどろみ始めた。
確かにあの筆箱にはラブレターが入っている。しかしそれは、文章を凝りに凝ったせいで恋文にはとても思われない代物になったのだ。
実際、うっかり教室でソレを落とし、よりにもよって目当ての男の子に拾われるてしまったのだが、その男の子がラブレターを見て曰く、
『古文の宿題かな?』
…あ、ちょっと涙でてきた…。
ってか、なんでわたしはそんなものを筆箱に入れっぱなしにしてるんだろう…。
なんとなく、眠れない。
あの筆箱に、まだ何かあった気がする。
眠気で回らない頭を、精一杯働かせて考える。
そして、あることに思いいたり、わたしはベッドから跳ね起きた。
「やっばー…」
今日、みんなで行こうって言ってた、駅前の甘味屋のタダ券。こなたから受け取って筆箱に入れてそのままだった。
『かがみに預けとけば、安心だね』
そう言って微笑むこなたの顔が浮かぶ。
このままだとこなたの信頼を裏切ることになる。
いや、そんなことより、このままだとわたしの奢りになりかねない。こなたなら、きっとそう言い出す。
ってか、なんでわたしはそんなものを筆箱なんかに入れてるんだ。普通、財布に入れるだろ。
わたしは自分にツッコミを入れながら、急いで服を着替え始めた。
今から追いかけて、姉さんに追い付くだろうか…。
----
私は玄関をでるなり走った。今までやったことないくらいの全速力で。
駅までさほど遠くはないけどさすがに苦しい。
けれども足を止めるわけにはいかない。まつり姉さんのこと、あの手紙をみればどんなことを言われるか。
携帯電話のメールのタイトルを見ただけで執拗に追究するくらい。
そんな姉があの手紙をみたら・・・考えたくもない。
駅に着き、辺りを見回す。居ない。
定期券で駅に入り、ホームに向かう。朝早いからまだ電車は来ていないはず。
階段を降り、ホームを見回すと・・・居た!
私は姉に駆け寄り間髪をいれずに話しかける。
「私の筆箱・・・ちょっと見せてくれない」
息が切れてうまく話せない。そんな私を見て姉は目を丸くして驚いている。
「どうしたのよ、そんなに息を切らせて」
「いいから、私の筆箱を・・・」
「・・・」
姉は私の気迫に圧倒されたのか、理由を聞かずに鞄から筆箱を取り出し私に差し出した。
姉の手を見て愕然とした。
「私の筆箱じゃない」
「そんなこと言われても、かがみの机にあった物よ」
よく筆箱をみると・・・つかさの筆箱
いったいいつ入れ替わったのだろうか。
あれこれ詮索をしていると、電車の来る放送が流れる。
「もう時間ね、悪いけどこの筆箱そのまま持っていくわよ」
私は呆然と姉を見送った。
私が寝ている間につかさが私の部屋に入ってきて筆箱を取り替えた?・・・何故
私は怒りがこみ上げてきた。
つかさが私の部屋に入ってきたことじゃない、筆箱を取り替えたことでもない、私に黙ってそれをしたことに。
まだ日が昇ったばかり、つかさはまだ夢の中。怒りは次第に大きくなる。
たたき起こして問いたださないと。怒りを抑え私は家に帰った。
----
「つかさ起きなさい」
部屋に着くなり私はつかさから毛布を引っぺがした。
何を幸せそうに寝てるのかしら。今から絶望を与えてあげるわ。
私はもう自分が制御出来なかった。
「起きなさい!」
「……ふぇ?」
「つかさ。あんたに聞きたいことがあるんだけど」
「な、なに? え? なんで怒ってるの?」
つかさのすっとぼけた反応に、私の怒りは更に燃え上がった。
「自分の胸に聞きなさいよ」
「はぅっ!」
「私の筆箱……知らない?」
「し、知らないよぅ」
「嘘、付かないで。あんたが私の筆箱を入れ換えたことは知ってるんだからね!」
つかさは既に半泣き状態だった。だけどやめない。つかさには教えないといけないから。
「何の事? 私よくわからな、」
「いい加減にしなさい!」
私のその怒鳴りスイッチだったみたいで、つかさはボロボロと涙を流し始めた。
泣けば良いってもんじゃ――。
「知らないよ……お姉ちゃんの筆箱なんて……わたじ、自分の筆箱だってどこにあるかわがらないのに゛ぃ……うぅ、うわぁぁぁん」
「え? あれ?」
つかさが自分の筆箱を知らない……?
待てよ、私は何か重要な事を忘れてるような――!?
『あっれー? 筆箱、学校に忘れて来ちゃったっぽいわね』
『つかさー、ちょっと……って寝てるのか。まぁ良いや。筆箱借りてくわねー』
思い出した……。えと、全部私の思い過ごしって事で……。
「うぅぅうぅぅ……っ」
つかさは泣いちゃった訳で……。
「あぁぁぁんっ、うわぁぁぁん」
どーしてこーなった。
どーしてこーなった!?
----
私はつかさに謝った。最初は泣いてばかりいたが
つかさはすぐに許してくれた。
落ちついてきたのか、つかさは私に質問をした。
「お姉ちゃん、筆箱の在る無いでなぜこんなにむきになるの」
つかさにしては鋭い質問だった。直接答えられるはずはない、私はお茶を濁すしかなかった。
「ほら、駅前の甘味屋のタダ券、こなたから預かったじゃない、それが入ってたのよ」
「それじゃ、こなちゃん、ゆきちゃんと集まる前に学校に取りに行かないといけないよね」
「そうね、私が忘れたから・・・私が取りにいく」
「あ、大丈夫、今日こなちゃん午前中補習で学校に行くって言ってたからメールでお姉ちゃんの筆箱持ってくるように連絡するよ、どうせ集合午後からだし」
「そうね、・・・いや、まった」
それはまずい、こなたにあの手紙を読まれたら・・・まつり姉さんにばれるよりも・・・最悪だ
「私が忘れたのにこなたに持って来させるのは悪いわ、やっぱり私が取りにいく」
「それじゃ、こなちゃんと一緒に現地に来て、私はゆきちゃんと来るから、これでいい?」
「それでいいわ」
私は早速外出の準備をした。万が一、こなたが私の筆箱に気付いたら・・・
「お姉ちゃん、もう仕度してるの?、補習が終わる時間に合わせたら?まだ早いよ」
「こなたより先に・・・いや、今日はいい天気だから散歩ついでに」
つかさの言葉が鋭く私に突き刺さる。
学校に着いた。夏休みの学校、どことなく物静かで雰囲気が違う。
私は自分のクラスに入ろうとした。人の気配がする。ドアの張り紙を見ると補習の教室が私のクラスになっていた。
そして話し声の中に聞きなれた声が混ざっている。そう泉こなた・・・
普段遅刻ばかりしてるのに、なぜ今日に限ってこんなに早く来る。今教室に入れば怪しまれること間違いない。
扉が半開きになっていたのでそっと教室の中を覗くと、私の机にこなたが座っている。その隣りには日下部が居た。
よりによって・・・あの二人の前に出るのは危険すぎる。
補習の休み時間を狙って筆箱を回収しよう。
確か図書室は開放されているはず。私は休み時間まで図書室で待つことにした。
しかし図書室に向かおうとしたとき。
「そこに居るのかがみじゃない」
こなたの声が私を呼んだ。
----
「あ、あー、おはよ」
幾分かの不安を覚えつつ私はその声に返事をした。
再び教室の中に視線を向け、こなたと日下部の座っているあたりを見やった。
……そのとき。
二人が何かを手に、それを見ながら笑っていることに気付いた。
それは古びた紙のようだった。
まさか?
ただならぬ不安に縛られ動けずにいると、こなたがそれを手にしたまま席を立ち、私のもとへ歩み寄ってきた。
心なしかニヤついているように見えるその顔がより一層私の胸を澱ませる。
「ねえねえ、これ見て?」
こなたはそう言いだした。私は固唾をのんだ。
やがて、こなたは手に握っていた紙を開いた。
そこに書いてあったものは──
「似てない?」
私(?)の似顔絵だった。
「似てねーよ。そしてまた口から炎か」
私は呆れて突っ込んだ。
と、その時、私の胸ポケットで携帯電話が鳴りだした。
ちょっとごめん、と言って私は教室を急ぎ離れ、発信者の名前を見た。
……まつり姉さん?
----
「もしもし、あ、かがみ、筆箱から甘味屋のタダ券が出てきたわよ、今朝欲しかったのってこれじゃないの?、今更だけど」
私は気が遠くなった、何故、そんなことがあるはずがない、私は返事をするのを忘れ携帯を切った。
教室に戻り、こなたが座っている机に向かう。
「こなた、どいて」
こなたが動くよりも先に私は机の中の自分の筆箱を取り出した。手紙は無事なようだ、しかし・・・タダ券がない。いくら探してもない。
「柊、何探してるのさ」
「無いのよ、無い、確かにここに入れたはず・・・」
「かがみ、無いって、タダ券かい」
こなたは私の探している物をすぐに見破った。私はこなたの目を見た。
「かがみ、私がタダ券渡したのはB組だよ、つかさが丁度トイレ行ってて、かがみが代わりにつかさの机片付けてたじゃん」
「勘違いってやつか、柊にしちゃ珍しいね」
日下部が人事のように軽く話す、しかしまったくその通り、私は筆箱を取り違えていた。まつり姉さんに追いついた時、筆箱の中身を見ておくべきだった・・・
そんな私をこなたは怒りもせずに日下部に話し出した。
「今日、甘味屋で集まることになってたんだ、みさきちも誘おうと思って持ってきたんだけど正解だったね」
こなたは財布から5枚つづりのタダ券を取り出した。そして最初にそうしたように微笑みながら私にタダ券を渡した。
「私は・・・」
言い訳をしようとした時、先生が入ってきた。補習に関係ない私は当然追い出される。廊下で一人になった。教室では補習が始まり先生の声がする。
私は最初の予定通り図書室へ向かった。
誰もいない図書室、本を読むわけでもなく私は休み時間を待つ。いつの間にか私は今朝からの行動を振り返っていた。
早朝から姉を追いかけて、妹を泣かした。そして、学校まで来て私は休み時間を待っている。
そこまでして私は何をしようとしている。そう、見られてはいけないものを守るため・・・そう、あれは見られてはいけない手紙、絶対に見られてはいけない。
そんなことを考えていると。手渡されたタダ券を私はまだ手に持っていた。手を開いて5枚つづりのタダ券を見つめた。
そういえばあいつ、怒ってなかったな。何故? 私なら激怒して問いただす、今朝つかさにしたように・・・
いっそのこと怒ってくれた方が私は気が楽だった。それなら私も言い返してやったのに・・・
気が付くと休み時間をとっくに過ぎ、補習の時間も終わろうとしていた。しまった機会を逃した。急いで教室に戻った。
教室に着くと、もう補習は終わっていた。他の生徒は居ない。こなたと日下部だけが残っていた。日下部が私に気付いた。
「柊、私も甘味屋行っていいかな」
「つかさとみゆきさんには了解を取ってるよ、あとはかがみだけ」
「断る理由はないわ、券も5枚あるし」
「やったー ちびっこ、バス停まで競争だ」
言うと同時に日下部が走り出す。
「あー、まった、ずるい」
こなたも掛け出した。あっと言うまに二人は居なくなった。残ったのは私一人。バスが来るまではまだ時間がある。
自分の机の中の筆箱を取った。そして中の手紙を取り出した。
誰も居ない。今なら隠すことも、破って捨てることもできる。
手が止まっている。どちらも出来きない。
この手紙は何日もかけて書いた手紙、目的は果たせなかったとは言え心を込めて書いた。今までないくらい心を込めて。それを厄介物扱い。
そして友達から預かった券さえ私は管理できず、失くしたことを人のせいにしている。一番嫌いな事を自分がしている。
そんな私をこなたもつかさもまつり姉さんも怒らなかった。何故か涙がでてくる。すぐには止まってくれそうにない。
涙を止める方法を思いついた。
「この手紙、みんなが見たらどう言うかしら」
私は一言そう呟き、手紙を折りたたみ、券と一緒に胸のポケットにしまった。涙を拭いバス停に向かう。
きっと一生忘れられない思い出になる。そんな気がした。
終
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#comment(below,size=50,nsize=50,vsize=3)
- 2レス目の浮きっぷりが酷いな…。 &br()こんど参加する時はもっと前後との繋がり考えて書かないと…。 -- 名無しさん (2009-08-26 23:29:20)
- リレーって完走すると凄い感動するよね。 &br()今回のこれも前々回(?)の『プレゼントって何?』も完成度高くて素晴らしい! -- 名無しさん (2009-08-26 22:37:31)
- 初めてリレーSSに参加してみた。 &br()これって作ったSSがどのように展開するが分からない。 &br()続きを思い浮かべながら次の人へとリレーを託す。 &br()読むより参加した方が面白い。そんな感じがしました。 -- 名無しさん (2009-08-26 19:53:22)
八月某日。
まだ日も昇る前、ぐうぐう眠っている私の背中に、誰かの声が届いてきた。
「あ、ごめんかがみ、筆箱借りていい?」
私はうすら目を開き、うーんと布団の中で軽く背伸びをして、寝返りを打った。
そこにいたのはまつり姉さんだった。
「なんで?」
眠気で朦朧としている意識の下、特に何を考えるわけでもなく、そう聞き返す。
「今日集中講義あんだけどさ、筆箱どっか忘れてきたみたいでー。ねえ借りちゃダメ?」
集中講義とは、大学が夏休み期間に開く特別授業のことだ。
そういえばこの姉は単位が足りないやら何やらで、
この自宅から遠く離れたキャンパスで開かれる集中講義にわざわざ出ることにした、とか何とか言っていた気がする。
私は取るべき単位はきっちり取得しているし、休みも満喫したいので、そういうものには出ないことにしていた。
「ふーん。まあ持ってっていいけどさ。机の上に置いてあるから」
私はアンニュイに許可する。
「ありがとー、持ってくねー」
そう言ってまつり姉さんは机の上から、味気ない紺色をした布製の筆箱を取り、慌ただしく出ていった。
ドタバタした足音に混ざってかすかに、やべーあと一時間だし、という言葉が聞こえた気がする。
ふう、と心の中で溜息をつき、私は再び眠りに就く。
中途半端に頭が冴えてしまったが、五分もすればまたすぐ眠気が戻ってきた。
そのまま夢の世界へ踏み入ろうとした。
その時。
「……ん?」
私はあの筆箱に関して、何か重要なことを思い出した気がした。
頭の中でその違和感を追いかける。
すると、それははっきり輪郭を見せ、私の全身をひきつけさせた。
「……はっ!」
そうだった。あの筆箱のサイドポケットには、一年くらい前、クラスの男子あてに書いたラブレターが……
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「…ま、いっか」
そう呟いて、わたしは再びまどろみ始めた。
確かにあの筆箱にはラブレターが入っている。しかしそれは、文章を凝りに凝ったせいで恋文にはとても思われない代物になったのだ。
実際、うっかり教室でソレを落とし、よりにもよって目当ての男の子に拾われるてしまったのだが、その男の子がラブレターを見て曰く、
『古文の宿題かな?』
…あ、ちょっと涙でてきた…。
ってか、なんでわたしはそんなものを筆箱に入れっぱなしにしてるんだろう…。
なんとなく、眠れない。
あの筆箱に、まだ何かあった気がする。
眠気で回らない頭を、精一杯働かせて考える。
そして、あることに思いいたり、わたしはベッドから跳ね起きた。
「やっばー…」
今日、みんなで行こうって言ってた、駅前の甘味屋のタダ券。こなたから受け取って筆箱に入れてそのままだった。
『かがみに預けとけば、安心だね』
そう言って微笑むこなたの顔が浮かぶ。
このままだとこなたの信頼を裏切ることになる。
いや、そんなことより、このままだとわたしの奢りになりかねない。こなたなら、きっとそう言い出す。
ってか、なんでわたしはそんなものを筆箱なんかに入れてるんだ。普通、財布に入れるだろ。
わたしは自分にツッコミを入れながら、急いで服を着替え始めた。
今から追いかけて、姉さんに追い付くだろうか…。
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私は玄関をでるなり走った。今までやったことないくらいの全速力で。
駅までさほど遠くはないけどさすがに苦しい。
けれども足を止めるわけにはいかない。まつり姉さんのこと、あの手紙をみればどんなことを言われるか。
携帯電話のメールのタイトルを見ただけで執拗に追究するくらい。
そんな姉があの手紙をみたら・・・考えたくもない。
駅に着き、辺りを見回す。居ない。
定期券で駅に入り、ホームに向かう。朝早いからまだ電車は来ていないはず。
階段を降り、ホームを見回すと・・・居た!
私は姉に駆け寄り間髪をいれずに話しかける。
「私の筆箱・・・ちょっと見せてくれない」
息が切れてうまく話せない。そんな私を見て姉は目を丸くして驚いている。
「どうしたのよ、そんなに息を切らせて」
「いいから、私の筆箱を・・・」
「・・・」
姉は私の気迫に圧倒されたのか、理由を聞かずに鞄から筆箱を取り出し私に差し出した。
姉の手を見て愕然とした。
「私の筆箱じゃない」
「そんなこと言われても、かがみの机にあった物よ」
よく筆箱をみると・・・つかさの筆箱
いったいいつ入れ替わったのだろうか。
あれこれ詮索をしていると、電車の来る放送が流れる。
「もう時間ね、悪いけどこの筆箱そのまま持っていくわよ」
私は呆然と姉を見送った。
私が寝ている間につかさが私の部屋に入ってきて筆箱を取り替えた?・・・何故
私は怒りがこみ上げてきた。
つかさが私の部屋に入ってきたことじゃない、筆箱を取り替えたことでもない、私に黙ってそれをしたことに。
まだ日が昇ったばかり、つかさはまだ夢の中。怒りは次第に大きくなる。
たたき起こして問いたださないと。怒りを抑え私は家に帰った。
----
「つかさ起きなさい」
部屋に着くなり私はつかさから毛布を引っぺがした。
何を幸せそうに寝てるのかしら。今から絶望を与えてあげるわ。
私はもう自分が制御出来なかった。
「起きなさい!」
「……ふぇ?」
「つかさ。あんたに聞きたいことがあるんだけど」
「な、なに? え? なんで怒ってるの?」
つかさのすっとぼけた反応に、私の怒りは更に燃え上がった。
「自分の胸に聞きなさいよ」
「はぅっ!」
「私の筆箱……知らない?」
「し、知らないよぅ」
「嘘、付かないで。あんたが私の筆箱を入れ換えたことは知ってるんだからね!」
つかさは既に半泣き状態だった。だけどやめない。つかさには教えないといけないから。
「何の事? 私よくわからな、」
「いい加減にしなさい!」
私のその怒鳴りスイッチだったみたいで、つかさはボロボロと涙を流し始めた。
泣けば良いってもんじゃ――。
「知らないよ……お姉ちゃんの筆箱なんて……わたじ、自分の筆箱だってどこにあるかわがらないのに゛ぃ……うぅ、うわぁぁぁん」
「え? あれ?」
つかさが自分の筆箱を知らない……?
待てよ、私は何か重要な事を忘れてるような――!?
『あっれー? 筆箱、学校に忘れて来ちゃったっぽいわね』
『つかさー、ちょっと……って寝てるのか。まぁ良いや。筆箱借りてくわねー』
思い出した……。えと、全部私の思い過ごしって事で……。
「うぅぅうぅぅ……っ」
つかさは泣いちゃった訳で……。
「あぁぁぁんっ、うわぁぁぁん」
どーしてこーなった。
どーしてこーなった!?
----
私はつかさに謝った。最初は泣いてばかりいたが
つかさはすぐに許してくれた。
落ちついてきたのか、つかさは私に質問をした。
「お姉ちゃん、筆箱の在る無いでなぜこんなにむきになるの」
つかさにしては鋭い質問だった。直接答えられるはずはない、私はお茶を濁すしかなかった。
「ほら、駅前の甘味屋のタダ券、こなたから預かったじゃない、それが入ってたのよ」
「それじゃ、こなちゃん、ゆきちゃんと集まる前に学校に取りに行かないといけないよね」
「そうね、私が忘れたから・・・私が取りにいく」
「あ、大丈夫、今日こなちゃん午前中補習で学校に行くって言ってたからメールでお姉ちゃんの筆箱持ってくるように連絡するよ、どうせ集合午後からだし」
「そうね、・・・いや、まった」
それはまずい、こなたにあの手紙を読まれたら・・・まつり姉さんにばれるよりも・・・最悪だ
「私が忘れたのにこなたに持って来させるのは悪いわ、やっぱり私が取りにいく」
「それじゃ、こなちゃんと一緒に現地に来て、私はゆきちゃんと来るから、これでいい?」
「それでいいわ」
私は早速外出の準備をした。万が一、こなたが私の筆箱に気付いたら・・・
「お姉ちゃん、もう仕度してるの?、補習が終わる時間に合わせたら?まだ早いよ」
「こなたより先に・・・いや、今日はいい天気だから散歩ついでに」
つかさの言葉が鋭く私に突き刺さる。
学校に着いた。夏休みの学校、どことなく物静かで雰囲気が違う。
私は自分のクラスに入ろうとした。人の気配がする。ドアの張り紙を見ると補習の教室が私のクラスになっていた。
そして話し声の中に聞きなれた声が混ざっている。そう泉こなた・・・
普段遅刻ばかりしてるのに、なぜ今日に限ってこんなに早く来る。今教室に入れば怪しまれること間違いない。
扉が半開きになっていたのでそっと教室の中を覗くと、私の机にこなたが座っている。その隣りには日下部が居た。
よりによって・・・あの二人の前に出るのは危険すぎる。
補習の休み時間を狙って筆箱を回収しよう。
確か図書室は開放されているはず。私は休み時間まで図書室で待つことにした。
しかし図書室に向かおうとしたとき。
「そこに居るのかがみじゃない」
こなたの声が私を呼んだ。
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「あ、あー、おはよ」
幾分かの不安を覚えつつ私はその声に返事をした。
再び教室の中に視線を向け、こなたと日下部の座っているあたりを見やった。
……そのとき。
二人が何かを手に、それを見ながら笑っていることに気付いた。
それは古びた紙のようだった。
まさか?
ただならぬ不安に縛られ動けずにいると、こなたがそれを手にしたまま席を立ち、私のもとへ歩み寄ってきた。
心なしかニヤついているように見えるその顔がより一層私の胸を澱ませる。
「ねえねえ、これ見て?」
こなたはそう言いだした。私は固唾をのんだ。
やがて、こなたは手に握っていた紙を開いた。
そこに書いてあったものは──
「似てない?」
私(?)の似顔絵だった。
「似てねーよ。そしてまた口から炎か」
私は呆れて突っ込んだ。
と、その時、私の胸ポケットで携帯電話が鳴りだした。
ちょっとごめん、と言って私は教室を急ぎ離れ、発信者の名前を見た。
……まつり姉さん?
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「もしもし、あ、かがみ、筆箱から甘味屋のタダ券が出てきたわよ、今朝欲しかったのってこれじゃないの?、今更だけど」
私は気が遠くなった、何故、そんなことがあるはずがない、私は返事をするのを忘れ携帯を切った。
教室に戻り、こなたが座っている机に向かう。
「こなた、どいて」
こなたが動くよりも先に私は机の中の自分の筆箱を取り出した。手紙は無事なようだ、しかし・・・タダ券がない。いくら探してもない。
「柊、何探してるのさ」
「無いのよ、無い、確かにここに入れたはず・・・」
「かがみ、無いって、タダ券かい」
こなたは私の探している物をすぐに見破った。私はこなたの目を見た。
「かがみ、私がタダ券渡したのはB組だよ、つかさが丁度トイレ行ってて、かがみが代わりにつかさの机片付けてたじゃん」
「勘違いってやつか、柊にしちゃ珍しいね」
日下部が人事のように軽く話す、しかしまったくその通り、私は筆箱を取り違えていた。まつり姉さんに追いついた時、筆箱の中身を見ておくべきだった・・・
そんな私をこなたは怒りもせずに日下部に話し出した。
「今日、甘味屋で集まることになってたんだ、みさきちも誘おうと思って持ってきたんだけど正解だったね」
こなたは財布から5枚つづりのタダ券を取り出した。そして最初にそうしたように微笑みながら私にタダ券を渡した。
「私は・・・」
言い訳をしようとした時、先生が入ってきた。補習に関係ない私は当然追い出される。廊下で一人になった。教室では補習が始まり先生の声がする。
私は最初の予定通り図書室へ向かった。
誰もいない図書室、本を読むわけでもなく私は休み時間を待つ。いつの間にか私は今朝からの行動を振り返っていた。
早朝から姉を追いかけて、妹を泣かした。そして、学校まで来て私は休み時間を待っている。
そこまでして私は何をしようとしている。そう、見られてはいけないものを守るため・・・そう、あれは見られてはいけない手紙、絶対に見られてはいけない。
そんなことを考えていると。手渡されたタダ券を私はまだ手に持っていた。手を開いて5枚つづりのタダ券を見つめた。
そういえばあいつ、怒ってなかったな。何故? 私なら激怒して問いただす、今朝つかさにしたように・・・
いっそのこと怒ってくれた方が私は気が楽だった。それなら私も言い返してやったのに・・・
気が付くと休み時間をとっくに過ぎ、補習の時間も終わろうとしていた。しまった機会を逃した。急いで教室に戻った。
教室に着くと、もう補習は終わっていた。他の生徒は居ない。こなたと日下部だけが残っていた。日下部が私に気付いた。
「柊、私も甘味屋行っていいかな」
「つかさとみゆきさんには了解を取ってるよ、あとはかがみだけ」
「断る理由はないわ、券も5枚あるし」
「やったー ちびっこ、バス停まで競争だ」
言うと同時に日下部が走り出す。
「あー、まった、ずるい」
こなたも掛け出した。あっと言うまに二人は居なくなった。残ったのは私一人。バスが来るまではまだ時間がある。
自分の机の中の筆箱を取った。そして中の手紙を取り出した。
誰も居ない。今なら隠すことも、破って捨てることもできる。
手が止まっている。どちらも出来きない。
この手紙は何日もかけて書いた手紙、目的は果たせなかったとは言え心を込めて書いた。今までないくらい心を込めて。それを厄介物扱い。
そして友達から預かった券さえ私は管理できず、失くしたことを人のせいにしている。一番嫌いな事を自分がしている。
そんな私をこなたもつかさもまつり姉さんも怒らなかった。何故か涙がでてくる。すぐには止まってくれそうにない。
涙を止める方法を思いついた。
「この手紙、みんなが見たらどう言うかしら」
私は一言そう呟き、手紙を折りたたみ、券と一緒に胸のポケットにしまった。涙を拭いバス停に向かう。
きっと一生忘れられない思い出になる。そんな気がした。
終
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- タイトルから恋愛系かとおもったら全く違って度肝を抜かれました。GJ それとリレー小説って面白いですね。 -- CHESS D7 (2009-08-31 19:18:35)
- 2レス目の浮きっぷりが酷いな…。 &br()こんど参加する時はもっと前後との繋がり考えて書かないと…。 -- 名無しさん (2009-08-26 23:29:20)
- リレーって完走すると凄い感動するよね。 &br()今回のこれも前々回(?)の『プレゼントって何?』も完成度高くて素晴らしい! -- 名無しさん (2009-08-26 22:37:31)
- 初めてリレーSSに参加してみた。 &br()これって作ったSSがどのように展開するが分からない。 &br()続きを思い浮かべながら次の人へとリレーを託す。 &br()読むより参加した方が面白い。そんな感じがしました。 -- 名無しさん (2009-08-26 19:53:22)