昼休み。俺とこなた、
かがみさんと
つかささん、それに
みゆきさんの五人は、いつものように机を囲んで昼飯を食べていた。
「ずっと疑問に思ってたんだけど…」
そんな中、かがみさんが俺とこなたを交互に見渡す。
「なんで、こなたはこいつに弁当作ってきてるのに、自分はチョココロネなのよ」
こいつの部分で俺を箸で指しながら、かがみさんがそう言った。
そのことは俺も疑問に思っていた。こなたは俺に弁当を作ってきてくれてるが、自分の分は購買やらコンビニやらで買ったチョココロネで済ませてることが多い。なにか理由でもあるのだろうか。
「二つ作るのめんどくさい」
…駄目すぎる理由だった。
「めんどくさいんだったら、俺の分も作らなくていいのに」
「そんな事いわないでよー」
こなたが甘えるように俺の腕にまとわりついてくる。箸を持っている腕だから、食いにくい。
「こういうのは大事なんだよ?地道に好感度上げていって、後々のイベントに備えるんだよ」
いまいちよく分からない。
「…ようするに、餌付けよ」
「なるほど」
横からのかがみさんの解説に納得した。
「ちーがーうー…かがみ、余計な事いうなー!」
こなたが俺の腕を離れ、かがみさんに文句を言いに行ってる間に、俺は弁当を平らげることにした。
弁当を食べ終わり、お茶を啜って一息ついていると、向かいに座っているつかささんが俺の方をじっと見ているのに気がついた。
「俺の顔になにか付いてる?」
「え?あ、いや…その…今日、なんか眠そうだなって。さっき授業で居眠りしてたし…」
それか。俺は少し溜息をついた。こなたにも笑われたし、アレはかっこ悪かったな。
「昨日、こなたに勧められた深夜アニメ見ててね。あまり寝てないんだ」
原因はこなただったりするんだけどな。
「そういや、感想聞いてないや。どうだった?」
こなたが顔を突っ込むようにして、横から聞いて来た。
「…いまいち、よく分からなかったな」
俺が正直にそう答えると、こなたは腕を組んで眉間にしわを寄せた。
「むーアレもダメか…どういうのがツボるんだろうね…」
「っていうか、アニメ自体に興味が薄いんじゃないの?」
こなたの向こう側から、かがみさんが呆れたようにそう言った。
「えー、それつまんないよ。なんかこう、共通の話題って言うか語り合える趣味って言うか…」
「だったら、無理矢理こっちに引きずり込むんじゃなくて、相手に合わせてみるとかしなさいよ」
それはそれで問題があるな。
「そう言えば、聞いたことないのですが。なにか趣味や凝っている事とかおありなのでしょうか?」
こなたの居る逆の方から、みゆきさんが俺にそう聞いてきた。
「いや、それが全く無いんだ」
「あ、あら…」
俺の答えを聞いて、みゆきさんがカクンと肩を落とした。
「こういう無趣味な人だから、わたしはその人生に潤いとか張りとかを与えてあげようとしてるのですよ!」
拳を握り締めて、力説するこなた。
「そういや、いい夢だったようなこと言ってたけど、どんな夢見てたの?」
それとは全く関係なく、つかささんがさっきの居眠りについて俺に聞いてきた。
「ちょっと、つかさー!?」
「うん、まあなんつーか…」
「なんでそっちに食いつくの!?わたしの立場は!?」
こなたが横でなにかうるさく言っているが、とりあえず無視して質問に答える。
「こなたと結婚して、子供も作ってたな」
場が一瞬で静まり返った。チラッと隣を見ると、こなたが顔を机に伏せていた。照れているのか、耳が赤い。
「そ、それってプロポーズ…?」
こなたが俺にそう聞いてきた。顔を伏せたままなので、声がくぐもっている。
「見た夢そのまま言っただけだぞ」
まだ高校生なのに、プロポーズはないな。
「でも、夢にはその方の願望が出ると言いますし…」
「うん、やっぱりこなちゃんとそうなりたいとか…」
みゆきさんとつかささんが、遠慮がちにそう言ってきた。
「まあね。それは思ってるな」
俺がそうはっきり言うと、みゆきさんとつかささんは苦笑いのような表情を見せた。
「かがみ、たすけてー…」
隣では、こなたが今度はかがみさんにすがり付いていた。
「何をどう助けろって言うのよ…」
言いながら、かがみさんはこなたを振りほどいて、自分の弁当箱を持って立ち上がった。
「それじゃ、そろそろ教室戻るわ」
そう言って、教室のドアに向かうかがみさん。その腕にこなたがすがり付いていた。
「ちょっと、なんでついてくるのよ?」
「…置いてかないで」
「いや、あんたの教室ここだろ。ってか、あいつの側にいてろ」
「…これ以上側にいたら死んじゃいそう」
「は?…いや、意味わかんないから」
言い合いながらも、二人はそのまま教室を出て行った。残された俺たち三人は、なんとなくお互い顔を見合わせた。
「それにしても、よく分からないよね」
こなたが戻ってくるのを待っていると、つかささんがポツリと呟いた。
「なにが?」
「こなちゃん達が付き合いだしたって聞いたときね、わたしこなちゃんと遊ぶ時間とか、凄く減ると思ってたんだ」
そう言いながら、つかささんはさっきまでみんなでお昼を食べていた机を見渡した。
「お昼ご飯もね、こなちゃん達二人きりで食べるんだって思ってたよ」
「そうですね…わたしも、そう思ってました」
つかささんの言葉に、みゆきさんが同意する。
「でも、なんか違うって言うか…友達が一人増えただけって言うか…」
言いながら、腕を組んで考え出すつかささん。言いたいことが、あまりまとまっていないようだ。
「こなたがそうしたいって、言ったからな」
「泉さんが?」
その言葉に目を丸くするみゆきさんに、俺は頷いて見せた。
「みんなとは今まで通りにしときたいって…その上で、俺と付き合いたいってさ」
「…はあ」
みゆきさんが呆れたような感じで溜息をつく。
「それで…納得できたの?」
つかささんが俺にそう聞いて来た。
「そりゃ、特に反対する理由も無いしな」
俺は特に考えずにそう答えた。
「というか、俺にも利点はあるしな」
「へー、どんな?」
「…女の子に囲まれるって経験は滅多にできるもんじゃない」
「あ、あはは…」
「そ、それはどうかと…」
流石に言い過ぎたのか、つかささんとみゆきさんが苦笑い気味だ。
そして、その直後。俺の顔面に何かがぶち当たった。
衝撃から立ち直って前を見ると、床に落ちた上履きと、何時の間に戻ってきてたのか、頬を膨らませたこなたが見えた。
「浮気は許してないからね!」
俺もそんなつもりは毛頭無い…多分。