それは珍しく星が見えた秋の夜。
私は親友の八坂こうとその後輩の田村ひよりさんの三人で歩いていた。
「これで満月なら秋の風流になるっスね」
「今夜は違うけどね。それに九月過ぎちゃたし…どうかした、やまと」
ぼんやり空を見上げていた私は、こうの言葉でビックリさせられた。
心臓に悪い。そう抗議しようとして、ようやく私はこう達からだいぶ離されているのがわかった。
「秋の四辺形を探してただけよ」
「秋の四辺形?そんな星座ありましたっけ」
「ペガススの大四辺形だっけ。えーっとどこだろうなぁ…」
秋の四辺形。春の三角形や夏、冬の第三角と同じようなもの。
ペガスス座を表す4つの星で作られた四角形で、こうが言ったような「ペガススの大四辺形」や「秋の四角形」とも呼ばれている。
星の明るさは良くないが、比較的見つけやすい。
ギリシャ神話だとこの四辺形は「窓」と呼ばれ、神の目が見えたらしい。
実際のところ、あの中で星が見えた事は一度もない。あるらしいが、かなり暗いらしい。見えた事がないのでらしいとしかいえない。
「へぇ、知らなかったっス。夏の大三角なら知ってるんですけど…あれ、ペガサス座じゃないんですか」
「ラテン語読みだと、ペガススになるんだって。だからペガススで合ってる。あったよやまと、あそこ」
ひよりさんに説明している間に、こうが見つけてくれた。やっぱり四辺形の中に星は見えない。
「でも永森さん、天体観測の趣味があったんですね」
「ないわよ。小学校で聞いて覚えていただけ」
「嘘嘘。ホントはね、アレだけ寂しそうだからなんだよひよりん」
…だって、そう思ってしまったのだから仕方がない。
春の大三角形はうしかい座、おとめ座、しし座の3つ。
夏の大三角形ははくちょう座、こと座、わし座の3つ。
冬の大三角形はオリオン座、おおいぬ座、こいぬ座の3つ。
だけど、秋の四辺形はペガスス座だけ。
他の星座と一緒にいない。他の星座と組んでいない。他と違って四辺形で、それだけで一緒にいない。覚えてもらえない。
だから、寂しそうだと思った。それだけ。
「にしても寒いね~。やっぱこういう時は」
「キャッ!」
いきなりこうが抱きついてきた。
「危ないじゃない!転んだらどうするの」「親友のスキンシップだよ、いやぁやまとって暖かいね。…で、やまとさんの間違いを訂正」
「四辺形の北東の星ってさ、ペガススじゃないんだよ。アンドロメダ座の星」
言われて空を見上げた。確かにペガススの隣にアンドロメダがある…というかむしろあれは。
「密着してるよね、今の私たちみたい。ホント暖かい」
「人をカイロみたいに使わないでよ。でもどうして?」
「あの星さ、二重所属だったんだって。で、それがわかったからアンドロメダ座になったらしいよ」
「いい加減ね」
「そうだね」
「ふたつだったんだ…」
「うん。だからあれは、寂しくなんてないんだよ」
「そうね」
「そうだよ。というわけで!」
ようやくこうが離れてくれた。ひよりさんはどこへ
「晩ご飯さっさと食べて帰ろっか」
「こう、ひよりさんが悶え苦しんでるみたいなんだけど…」
「ダメっス、自重するっス、先輩で妄想なんて人として」
「…五分で元に戻すから待ってて」
大丈夫らしいけど、何か背筋に悪寒が走る。今夜は早めに寝よう。
「あっ」
今ならくっきりと、四辺形の「窓」の中に星が見えた。
~了~
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最終更新:2012年02月17日 20:45