「まあ、上がってよ~」
「おーう、さんきゅー」
今こなたの家に来ている。
って言っても学校の帰りにちょっと寄って本を借りに来ただけなんだけどさ。
見慣れた家内をこなたの後について歩いて、部屋にたどり着く。
ガチャ
「うわぁ~・・・あんたの部屋は相変わらずだな・・・」
いつも通りめちゃくちゃちらかってる。
床の上にはいくつも本が積まれている。
しかもなんか、こなたはすぐゲーム起動してるし。
「あー、かがみんの言う本、本棚の上段の右の方だから」
「うん・・あ、これか」
ていうか、客が来てるっつーのにゲームしながらとかなんて失礼なやつだよ。
ま、こいつらしいっちゃこいつらしいんだけどさ。
・・・う?
床の本邪魔だな、おい・・・
「ってッ!?」
「・・・へ?」
ドンガラガッシャーン☆
状況報告。
私が本取ろうとしたときに、床に積んであった本たちに躓いて・・・
本棚にドガーン。
そして本棚の本も雪崩のごとくドドドーン。
ただいま大量の本の下に埋もれております。
「うう・・・いたたた・・・」
本をどけて、体を起こす。
周り本だらけ。
どんだけいっぱい本落としたんだ・・・私。
「ごめん、こなた・・・本いっぱい落としちゃって・・・・」
って、あれ?
こなたがいない・・・ってまさか本に埋もれてる?
ボコッと本を押しのけてこなたの顔が覗く。
「いったぁ・・・もう、いきなりなんなのさぁ。私ゲーム中だよ?」
「ごめん・・って、そこかよ」
「へ?・・・うわちゃー・・・本ヤヴァイね・・・」
「今更か・・・、まあ、私なおすよ。ごめんね・・・なんか・・・」
「いや、いいよ。私が片付けてなかったせいだし」
「え?でも・・・」
「いいの、いいの。かがみん、お客さんだしさ」
頭に本をのっけながら何言ってんだこいつは・・・
さっきは客差し置いてゲームしといて・・・
「そ、そう・・・?なら、私本当に帰っちゃうけど」
「うん。また明日ね~」
「うん、またなー」
・・・これが今回の事件の発端になるだなんて、
このときは夢にも思わなかった。
翌日。
「こなちゃん、まだみたいだね」
「まあ、あいつだからな・・・」
朝の糟日部駅前。
こなたとのいつもの待ち合わせ場所。
いつもどおり遅いこなたをつかさと一緒に待っている。
「ごめん、2人ともっ、遅れた!」
「遅いっ!!」
しばらくしてこなたの声が聞こえ、いつもの頭のてっぺんに立ってる毛を・・・
毛を・・・みょんみょんと・・・って・・・ア・・レ?
「こなちゃん、何か今日髪変だよぉ?」
「ふぇ!?変って!?」
「ほら、あの・・・頭にいっつも立ってるピョンピョン揺れる・・・」
えっと、あれ・・・何て言うんだっけ・・・確か・・アホ毛だっけ?
そのアホ毛が折れ曲がった針金みたいにカックンと折れている。
っていうか、折れてるって表現であってんのかよくわからないけど。
「え?嘘。気づかなかった・・・」
「今まで気づかなかったのかよ」
「何で今日は毛さん元気ないのかなぁ」
「変な寝方でもしたのか?」
「う、ううん。別に・・・いつもどおりだよ」
「・・・ふぅん、ま、いーけど。ほら、はやくしないとバス遅れるわよ」
そんなこんなで学校に到着した私たち。
廊下でこなたとつかさと別れる。
このときまではこなたの様子に変わったことはなかった。
昼休み。
「おーっす」
いつもどおりにB組にお邪魔する。
「あ、お姉ちゃん」
「こんにちは、かがみさん」
つかさとみゆきがニッコリと笑いかけてくる。
こなたはその横でべったり机にへばりついていた。
「こなた、どしたの?」
「んー・・なんかさっきからこうなの」
「おいっ、また徹夜でネトゲでもしてたのか?」
体を軽く揺すってみる。
こなたは微妙に体をもぞもぞ動かした。
「別に昨日は結構はやく寝たんだけどねー・・・何でだかダルくて」
頭のてっぺんを見ると、今朝よりも元気なくげんなりしている毛が一本。
今朝のアホ毛の違和感はこれの予兆だったとか?
・・・いやいやいや、毛一本でここまで変わるわけないってww
「大丈夫ですか?泉さん。少し保健室で休まれては・・・」
「ん、大丈夫」
少し元気のないこなたをちょっと気にしながらも昼食を済ませる。
そして、放課後。
「おーい、帰るぞー」
「お姉ちゃん・・・こなちゃんが・・・」
つかさが困ったような顔をしながらこっちに来る。
「ん?」
こなたの席を見ると、昼のときと同じようにぐでーとしている。
帰りの支度も全然しないで、あいつは何やってんだ・・・。
「何だか、元気ないみたいなの。体調が悪いのかも・・・」
「えー?まさかあ~・・・おいっこなた!起きろ!帰るぞ!」
バンッと背中を叩く。
「ひゃうっ!?」
ビクンとこなたの上半身が持ち上がる。
「あ、かがみ・・・そっか、もう帰りかぁ」
「あんた・・・大丈夫か?」
チラリと頭のてっぺんに目をやる。
確実に時間が進むごとにげんなりしているアホ毛。
やっぱりこの毛が原因なのだろうか・・・。
試しにつまんで伸ばしてみるも、離したらまたげんなりと重力に従って下に落ちてしまう。
・・・でも何でアホ毛がこんなに・・・。
とりあえずこの日はぐだぐだしてるこなたを引っ張ってって帰った。
帰りの電車の中、つかさに話をふってみた。
「今日のこなた、ずっとあんなんだった?」
「え?こなちゃん?う、うん・・・だんだん元気がなくなってった感じだったけど」
「んー・・・ねえ、やっぱりアホ毛が原因なのかしら?」
「アホ毛?・・・」
「ほら、あのいつも立ってる毛のこと」
「あ、あの毛さんね。うん、今日は毛さんも元気なかったかも・・・」
「でも、アホ毛が元気ないとこなたまで元気なくなるもんなの?」
「ふぇ?逆じゃないの?」
予想外のつかさの言葉に、一瞬私はきょとんとする。
「どうゆうこと?」
「こなちゃんが元気ないから毛さんも元気ないんじゃないかな」
「・・・そうゆうもんなの?」
「え・・・私に聞かれても・・、でもさぁ、嬉しいことがあったとき元気よく動いてたから」
言われてみればそうだ。
嬉しいとアホ毛はみょんみょんするし、悲しいとくにゃりと曲がる。
言うなれば感情を示す器官の1つ。つかさのリボンが感情とシンクロするのと一緒だ。
「でも、それってつまり、アホ毛に影響があるとこなた本人にも影響が出るともいえない?」
「え~っとお・・・うぅ・・わかんないやぁ」
私の推理では、あの日、本がアホ毛に直撃しアホ毛が曲がってしまった。
アホ毛が曲がったことにより、こなたの調子も悪くなった。
・・・つまり、アホ毛が元通りになればこなたも元通り。
アホ毛を元通りにするにはこなたを元通りに・・・あれ?
「つまり・・・」
つかさが思案気味の顔で呟いた。
「こなちゃんを喜ばせて、元気にすれば毛さんも元気になるんじゃないかなぁ」
「こなたを喜ばせる・・・ねぇ。今のアイツには何をやっても喜ばなそうだけど」
「でも、じゃないとこなちゃんが・・・」
「うん、そうだね。何とかしないと・・・」
本で雪崩を起こしたのは私なんだから・・・
翌日。
「おっす、こなた。今日アニメイト行こうと思ってるんだけど、一緒に行かない?」
さらに元気がなくなっているこなたにアニメイトに行かないかと誘ってみた。
普段のこなたなら尻尾を振ってついてくるような内容だ。
けれども今日は・・・
「ごめん・・・なんか、行く気にならないんだよね」
本当に元気がなくなってきている。
言葉もあまり発さない。
まさかアホ毛1本でここまでこなた本人に影響が出るなんて。
どんだけ親密に関わりあってんだよお前ら・・・
つかさもつかさなりに頑張っているみたいだけれども、効果はないらしい。
何を言ってもほとんど反応しないこなたに私はだんだんイライラしてきた。
こんな元気のないこなたを見ているのも嫌だった。
「ああっ・・もう!!はやく元気出しなさいよ!!」
手を机にバンッと叩いて、立ち上がった。
なんだかいつまでもうじうじしているのは嫌いだ。
それにはやくこなたに元に戻ってほしかった。
「・・・うるさいなぁ、私はいつも通りだってば」
こなたは「はぁ」と嘆息する。
「嘘つけっ全然元気ないじゃない!昨日アニメ見た?」
「うーうん、見てない。見る気がなかっただけだって。そーゆう気分のときだってあるっしょ」
「あんたが・・・?」
「うん。ていうかオタクしてるのも最近疲れるんだよネ」
「え?」
「もう、やめちゃおーかなぁ、オタク」
「・・・・・・」
愕然とした。
こなたはいっつもテンション高くて、いつも私たちに分からないようなオタトークをしてて、
それが私の知っている「こなた」だ。
とは言っても私は何を言えばいいかが分からなかった。
こなたがオタクをやめるなんて信じられない。
そんなの・・・そんなの・・・・
私はこなたに背を向け走り出した。
もう、こんな「こなた」を見ていたくはなかった。
既にそいつは別人だ。私の友達の「こなた」じゃない。
しばらく走って息が切れて、ハアハアと喘ぎながら膝を落とす。
何してんだろ、私。
「お姉ちゃん、どうしたの!?」
後ろからつかさの声がする。
「つかさ・・・」
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
立ち上がってつかさから顔をそむける。
どうしたらこなたは今までのように・・・元に戻ってくれるだろう。
事の発端は私なんだ。
・・・。
「つかさ、先帰ってて」
「え・・・ぅ、うん、わかった。頑張ってね」
「うん、ありがと」
つかさが廊下の端に消えたのを見て、私は前に歩き出した。
向こう側からちょうどこなたが歩いてきた。
「あ、かがみん・・・」
相変わらずアホ毛がげんなりしている。
「ごめん、私のせいで・・・」
「え」
「私のせいで・・・あんたのアホ毛がおかしくなったんだよね」
「アホ毛・・・?あ・・・これ・・・」
自分の頭に手を伸ばし、元気のないアホ毛に手を当てる。
「え・・・何でこんなしなびてるの・・・?」
「本の雪崩あったでしょ?あれが原因かなって」
「!?・・・あ、あれか・・・」
「ごめん、私がちゃんと足元に注意していれば・・・こんなことには・・・」
「へ・・?ち、違うよ。かがみのせいじゃないってば・・・」
こなたを顔を俯かせた。
アホ毛もさらにくにゃりと曲がる。
だめだ。
なんか、こなたが喜ぶようなことを言わなきゃ。
でも、何を?
オタクをやめようかなとか言ってるのに・・・
思いつかない。
「・・・・・・。」
無言でこなたが横を通り過ぎる。
「あ、ちょっ・・・!」
私の呼びかけに足を止め、振り返るこなた。
「ん・・・?」
「ちょっと待って・・・えっと・・今、考えるからっ」
「・・・え、何を?・・」
って、私何言ってんだ!?
ドタンバのつかさじゃあるまいし!
「ごめん、私、はやく帰りたいからさ・・・」
「え、何かやりたいことでもあんの?」
「・・・寝たいから」
てっきり、「ゴールデンタイムのアニメ」とか返ってくると思ったのに・・・
予想外の答えにしばし、固まる。
ホントに重症だ。
でも、どうすればいいかわからない。思いつかない。
「・・・じゃあね」
こなたがまた歩き出す。
だめだ。止めないと。
けど、止めてどうする?
わからない。
でも、どうにかしないと。
私も歩き出して、のろのろと歩くこなたに並ぶ。
「私も一緒に帰る」
駅までのバスの中。
特に会話もしないで、無言。
目も半開きで半分寝てるなこいつ。
その間にどうすればいいか考えられた。
あのアホ毛をすごくみょんみょん振るほどの嬉しい出来事って・・・
どうしたら・・・って今それを考えてんじゃん。
・・・・はあ、ラチがあかない。
駅に到着。
「おい、着いたぞ」
「ふぁ?」
まぬけな顔をしているこなたの腕を引っ張ってバスから引き降ろす。
まったく・・・世話が焼けるやつだ。
1人で帰ってたらどうなっていたか・・・
・・・・今日は送ってってやるか。
何とかこなたと一緒に電車に乗る。
「でも、悪いよ・・・大丈夫。私1人で帰れるし・・・」
「ばか。絶対寝過ごすだろ」
「そんなことないって・・・」
「あんたはいっつも口だけでしょ」
「むぅ・・・」
こなたが顔をしかめた。
「・・・さいよ」
「ん?」
「・・・うるさいよ」
「は?」
「何でそうやって私のこと見下すのさ」
「見下してなんかないわよ。タダ単にあんたがしっかりしないから・・・」
「だからってついて来なくてもいいじゃん」
「だって、あんたのアホ毛が・・・」
「もう、いいじゃんそんなの。ほっといてよ」
「・・・っ」
その言葉を聞いた途端、私の中で何かがハズれた。
「・・・私がどんだけ心配してたと思ってんのよ」
「へ?」
「いつもの・・・いつものあんたに戻ってほしくて・・・」
「・・・」
「オタクで、いつもテンション高くて、いつも宿題やってなくて・・・でも、そんなあんたが私は好きなのよ」
「・・・・ぇ」
「でも今のあんたは全然違う。今のあんたは・・・別人みたいで・・」
・・・「こなた」であって「こなた」でない。
「だから、元に戻ってよ。いつものあんたに戻ってよ」
強気で言ったつもりなのに、何故か弱弱しくなっていた。
こなたは私を見て目を見開いた。
「かがみ・・・」
「え、えっと、その・・・だから・・・・」
沈黙が怖くて言葉を意味なく発する。
でも、その必要ななくなる。
こなたの降りる駅に着いたから。
「あ、着いた」
こなたが立ち上がった。
私も降りるつもりだったけど、恥ずかしくてこなたと目があわせられなかった。
俯いて座り続ける私を見て、こなたは電車の外に向かおうとする。
気を遣ってくれたのかな?
「じゃあ、またね」
最後にこなたの声。
「・・・あっ」
顔を上げたとき、こなたは既に電車の外だった。
でも、その「こなた」は電車内にいたときの「こなた」とは別人に見えた。
次の日。
「あはは、臭いよねー」
「臭いねー」
いつもの風景がそこにはあった。
「実は私が大好きなアニメがOVA化決定したんだよねー、私的には2期が良かったんだけどさー」
「まあ、続きが見れることに変わりはないんだからいーでしょーが」
「おーぶい・・?」
「オリジナルビデオアニメーションの略ですね」
いつもの声がそこからは聞こえた。
「のあああああ!今日発売日だって忘れてたあああああっ!かがみん、今日アニメイト寄ってこうよ!」
「ええ~!?何で私まで行かなきゃいけないんだ・・・」
「いいじゃんっ、ほら、行こ行こ!」
「もう・・・しょうがないわね・・・」
「ツンデレ最高♪」
「ツンデレゆーな!」
いつものアホ毛が元気に揺れていた。
オタクで、馬鹿で、チビで、ぐーたら。
でも、要領よくて、いつも元気で、ゲームが得意。
そして今では元気に飛び跳ねてるアホ毛。
どれも欠けていてはだめ。
全部がそろっていて初めて「こなた」なんだ。
最終更新:2008年05月11日 22:18