無題(3-820氏)

私の好きな人は。
ワガママに見えるかも知れないけれど。
ほんとの“わがまま”を言えない人。
いつだって、強気な態度で引くことをしないけれど。
ほんとは、いつだって心に不安を抱えている人。
綺麗でかっこよくて誰よりも輝いているから。
“強い人”だって思われがちだけど。
一緒に歌って気づいた。
本当は、寂しがり屋で怖がりなところもある。
誰よりも女の子で、とてもかわいい人。

私の好きな人は。
甘え上手に見えるかも知れないけれど。
甘え方を知らない人。
甘えるフリをして、いつだって自分のことは後回し。
つらい時こそ“大丈夫”だって笑う人。
傍にいて知った。
自分のせいで誰かに心配をかけたくないから。
自分のせいで誰かを傷つけたくないから。
笑って“優しい嘘”をつく人。

私の好きな人は。
1人でも大丈夫だって、平気な顔をしているけれど。
ほんとは、誰よりも“ひとり”になるのを恐れている人。
“ひとり”になるのが嫌だから。
誰かを“頼る”ことをためらう人。
大好きになってわかった。
頼ってしまうことが“勝手なわがまま”だって思っているから。
嫌われることが怖くて“お願いごと”をしない人。



だから。
教えてあげないといけない。
誰もそんなことで嫌いにならないこと。
それが“勝手なわがまま”なんかじゃなくて。
頼ってくれたら“嬉しいこと”だって。
でも、きっと。
私の好きな人は、それをすることをためらい続けると思うから。
だから。
いつだって、私を甘えさせて“大好き”だって笑ってくれる。
私の大切で大好きな人を。
私が甘えさせてあげないといけない。
きっと今頃。
ベッドの上で丸まって。
寂しくて泣いているはずだから。

「シェリルさん。」

ほら。
ウサギみたいな赤い目に。
綺麗な顔に涙のあと。
やっぱりじゃないですか。
平気だなんて言っておいて。
大丈夫だなんて笑っておいて。
ほんとは、しんどくてつらかったんですよね。
不安で、怖くて、寂しいから。
“傍に”いてほしかったんですよね。
嘘ついたって、ダメなんですよ。
もう騙されてなんてあげません。
いつだって自分は後回しにして。
1人で我慢しちゃうんだから。



「マクロスピードで仕事は終わらせて来ましたよ。」

額に触れれば熱が伝わって。
外で冷えていたはずの手がすぐに温かくなる。
赤い瞳は閉じられて、気持ちよさそうな表情に。
その熱の高さを実感して苦笑がもれた。
こんなになるまで我慢して。
まったく、もう。

「ダメじゃないですか。こんなに熱があるのに、ちゃんとお布団もかけないで。」

言っても大丈夫なんですよ。
頼ってくれていいんですよ。
かわいい“わがまま”を “叶えて”あげますから。
少し頼りなく感じるかも知れませんが。
意外と私、強いんですよ。
倒れそうになったって、ちゃんと支えてあげられるんですから。

「ずっと傍にいますから。だから早く治しましょうね、シェリルさん。」

そんな不安そうな顔しなくても大丈夫ですから。
夢なんかじゃないですから。
私、ここにちゃんといますよ。

「ラ・・・ンカ・・・ちゃん・・・」

ひどく枯れた声がそう呼ぶ声に微笑めば。
布団から伸びた手が私の服の裾を遠慮がちに掴む。
それに応えるように。
額にキスをして、頭を撫でた。



私の好きな人は。
とても素敵で、かっこよくて、綺麗で、かわいくて、凄くて。
弱い所を決して人前では見せようとしない人。
強いけれど弱くって、弱いからこそ強くって。
ひとりに臆病だからこそ、たたかって。
触れあって感じた。
たくさんの見えない“傷”と“痛み”の大きさ。
“ひとり”になるのを怖がって、“ひとり”になってしまう所があるから。
ずっと傍にいて。
“大丈夫だよ”って。
“大好きだよ”って。
“ひとりじゃないよ”って。
微笑んで、ぎゅっと抱きしめて安心させてあげたい人。

『そうだよ キミの言葉は いつだってたからもの』

静かに歌い出せば。
その口元に笑みが浮かんで、ゆっくりと瞳が閉じていく。
歌い終わる頃には、ひどく苦しそうだった呼吸も少し和らいで。
安心しきった表情で眠る子どもみたいな寝顔。
そんな寝顔に微笑んで。
眠ってしまったのに、まだ裾を掴む手をとって。
祈るみたい両手で包みこむ。

大丈夫ですよ、ちゃんと傍にいますから。
“ひとり”になんてしませんから。
だから、安心してゆっくり休んで下さいね。

「おやすみなさい、シェリルさん。」

私の好きな人は。
少し素直じゃなくて、寝顔のかわいい。
この世で一番、愛する人。



おわり

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最終更新:2011年06月26日 22:33
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