ナナセ→ランカ(31氏)

女の子が2人、オープンカフェでアイスクリームを食べているという光景。
それはきっと、傍から見れば仲の良い友達同士に見えるんだと思う。
実は、私がランカさんに抱いている思いは、友情とは異なるのだけれど。
私の思いは、きっと気付かれていない。それで良いと思ってる。
そして、友情を信じているランカさんの瞳は、今、街頭にある宣伝画面に向けられていて……

「ナナちゃん。やっぱりシェリルさんって綺麗だね!」
「え、ええ……そうですね」
「スタイルいいし。声も綺麗。まさに歌姫って感じ!」

画面の中で歌うシェリル・ノームは、ランカさんにとって憧れの的。
ランカさんだけじゃない。皆が、歌姫だ綺麗だともてはやしてる。
でも、あの風格を見ていると、お姫様というより女王様という言葉が浮かぶのは私だけ?
だって、お姫様は。私にとってのお姫様は。

「お姫様は……」
「お姫様がどうかしたの、ナナちゃん?」
「あ!……その。ランカさんも、歌姫になれるんじゃないかなーって」

ついつい漏れてしまった声を、何とか誤魔化す。
するとランカさんは、画面からこちらへと視線を向けて、顔を赤く染めた。
赤くなったランカさんも、可愛い!

「な、なななななななナナちゃん! 急にお世辞なんて!」
「お世辞じゃないです。
 ランカさん、時々歌を口ずさんでいるでしょう?
 私、それを聞いて、いつも素敵だなぁって思っているんですから。
 ランカさんの歌声だって、シェリルさんに負けないくらい、魅力があります!」

私の本気が伝わったんだろう。ランカさんはもっと紅潮した顔で、アイスを舐める。
やがて、か細い声で言った。

「私が歌姫になんて……。でも、ありがとう、ナナちゃん。嬉しいよ」
「いいえ、本心ですから」

もしかしたら、と自分の言葉に気付かされる。
こんなに可愛くて、鈴のような歌声を持つランカさんの事だ。
本当に歌手になろうとするかもしれないし、急にスカウトされるかもしれない。
そうしたら、こうして一緒にカフェに来ることも出来なくなってしまうのだろうか?
想像したら胸が苦しくなって、急に抑えられなくなって。
私はそっと、ランカさんの唇の、すぐ側に口付けた。

「ん?」
「クリームが、ついていましたので」
「あ、そうだったの? ありがとう!」

私の嘘を疑いもせず、ランカさんは笑う。
それが嬉しくて、私も笑った。
いつか、たくさんの人から歌姫だと称えられるかもしれない。
かっこいい男の人に、僕だけのお姫様、とか言われるかもしれない。
けれど、今だけは。私だけのお姫様でいて下さい、ランカさん。

おわり。

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最終更新:2009年02月11日 17:59
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