きっかけは、私の誉め言葉だった。
ランカちゃんが作ってくれる愛情たっぷりの料理が、とてもおいしかったから。
それを素直に口にしてみたの。
ランカちゃんが浮かべる照れ笑いを見たかったっていうのもあるんだけど。
やっぱり、賞賛と感謝とは口にしないとダメじゃない?
「ランカちゃん、本当に料理が上手よね」
「あ、ありがとうございます。シェリルさん」
「色々な料理を作れるし。可愛いし。まさに理想のお嫁さん、かしら?」
「それはちょっと、言い過ぎですよ。
お嫁さんっていうなら、シェリルさんの方がずっと花嫁衣裳が似合うと思います!
エプロン姿だって、シェリルさんの方が様になりそう」
「ありがとう。でも、私って料理した事ないのよね」
そう言った時、ランカちゃんの目が光ったように見えたのは、気のせい?
「だめですよ、シェリルさん!」
「え、え?」
「せめて簡単なもの位は、作れるようになってた方が良いと思います!」
「でも、外食でも十分じゃない?」
現に、これまで私は食生活の殆どを外食で済ませてきてる。
誰かの手料理を頻繁に食べる機会なんて、ランカちゃんと出会うまでなかったから。
舞台の世界にいる人間にとって、食事なんて栄養摂取さえ出来れば何でもいいんだもの。
まぁ、美味しいに越した事はないけど。
「……うぅ……それはそうですけど……」
「ランカちゃん?」
でも、ランカちゃんにとっては不服みたい。
料理なんて、別に自分で出来なくてもいいと思うんだけどな。
私が作れなくたって、ランカちゃんが作ってくれるだろうし。
……なんて思っていたら、ランカちゃんが最後の攻撃をしかけてきた。
「私、シェリルさんの手料理、食べてみたいです!」
そんな顔して言われたら、断れるわけないじゃない?
お願いされた数日後、つまり今日、私はランカちゃんの家を訪れた。
ランカちゃんに教わりながら、料理を作って、一緒に食べる為に。
料理教室みたいなものよね。
でも、先生であるランカちゃんは、いつもと違って厳しい目をしていた。
「では、酢豚を作ります!」
「難しすぎないかしら。まずは、サンドイッチとか……」
「私、『娘々』でバイトしてた時に酢豚の作り方を習って。それがすっごく美味しいんです!
思ってるより簡単だから、シェリルさんにだってすぐ作れますよ!」
押し切られる形で、2人並んで台所に立つ。
ランカちゃんがまず用意したのは、茶色くて、丸っこいのにぴょこんととんがっている……
「玉ねぎ、よね?」
「そうですよ。まずはこれの、茶色い部分を剥ぐんです」
「まだ包丁は使わないのね。良かった……って、あら?」
どうして? どうして自然と涙が出てくるの?
そんなにランカちゃんとの共同作業が嬉しかったのかしら、私は?
いや、そうじゃなくて!
「どうしたんですか、シェリルさん?」
「ランカちゃん、これ、目にしみる!」
「玉ねぎですから。剥き終わって、包丁で切り出したら、もっと目にしみるんですよねー」
もっと!? これよりもっと目にしみるの!?
「ねぇ、ランカちゃん、やっぱり私」
「シェリルさん、ちょっとこっち向いてください」
料理は食べるだけでいいわ、というより早く、ランカちゃんが私を呼ぶ。
少し身を屈めて顔を向けると、ランカちゃんもこちらを向いていた。
背伸びしたランカちゃんが、もっと顔を寄せてきて、そして、
「んっ」
ランカちゃんの暖かい舌が、私の涙を舐めとっているのが、分かる。
「シェリルさん、もうちょっと、屈んで下さい」
「え、ええ……」
「ええと、次は右側」
「あうっ……」
「あ、あんまり動かないで下さい、シェリルさん」
両手は玉ねぎで塞がっているから、代わりに舌で拭っている、という事なのかもしれない。
でも、私にとっては、それだけじゃなかった。
ランカちゃんの舌が頬を行き来する度に、体温が上昇するような錯覚がある。
ふわふわと、良い気持ち。
舌だけじゃ、もう足りない。
私は玉ねぎをまな板の上に置いて、ランカちゃんを抱き締めようとしたんだけど。
「はい、終わり」
「え? もう?」
「涙は止まったみたいですし。仕方ないから、玉ねぎは私が全部切っちゃいますね。
シェリルさんには、ピーマンをお願いしていいですか?」
「え、ええ……」
何事も無いような顔で、ランカちゃんが今度は緑色の物を差し出してくる。
ええと……でも私の頬って、多分上気してると思うんだけど。
ランカちゃんってば、それに気付いていないのかしら?
ひょっとしてこれって、所謂放置プレイ?
結局、私とランカちゃんは、そのまま酢豚を作り上げた。
と言っても、私はランカちゃんの舌の感覚ばかりを気にしていたせいで、
どう料理をしていたのか、あまり覚えていないんだけど。
もしかすると、酢豚作りの7分の6位は、ランカちゃんがやってくれたのかもしれない。
そうして、2人で作った酢豚を美味しく食べて、そのままここに泊まる事になって。
それで、あの時の続きが出来れば良かったんだけど。
「……なのに、どうしてランカちゃんはもう寝てるのかしら?」
「スー……スー……」
交替で入浴して、ベッドの準備をして。
さぁこれから、と思った時には、ランカちゃんはすでに寝入っていたのだ。
「ねぇ、ランカちゃん。私の興奮はまだ冷めてないのよ?」
「スー……スー……」
「もう。……そっちがそうなら、こっちも勝手にしちゃうんだからね?」
まずは、可愛い寝息を振りまく口元と、首筋に口付けて。
それから、起こさないよう慎重に、ランカちゃんのパジャマをたくし上げる。
まだ育ちきっていない、そんな印象のある胸を揉むと、少し、ランカちゃんの呼吸が乱れた。
「ふっ……んんっ……」
起こしたかしら?
……いや、まだランカちゃんの瞼は下りたままだ。まだ眠っている。
安心して、私はランカちゃんの胸を弄ることに没頭した。
「ランカちゃんの胸、気持ち良い……」
「あうっ……んー……」
「寝ていても、反応はしちゃうのね」
小さな乳首が、さぁ触って、とでも言うように存在を主張している。
私は誘いに乗って、片側のそれを自分の口に含んだ。
舌先で味わいながら、軽く歯を立ててみる。
……それが、いけなかった。
「あう!」
「え?」
「ん……うー……あれ、シェリルさん。え。えええええ!?」
あーあ、起きちゃった。
ランカちゃんは、首だけを僅かに持ち上げて、刺激のあった胸元を確かめる。
めくり上がったパジャマと、そして胸を揉んでいる私の手。
状況証拠は揃ってた。
「ごめんなさいね、ランカちゃん。つい……」
「ついって」
「ほら、涙を舐めとってくれたでしょう?
あの時から、こうしたくて堪らなかったの。
でも、ランカちゃんが先に眠っちゃったから、起こすのも悪いかと思って」
「だからって……眠っている間に勝手に、こんな……」
「でもまぁ、起きちゃったんだし。
ランカちゃんだって、もう寝直せないでしょう?
だったら……ね?」
続きをしましょう、と私は促す。
ランカちゃんは少し躊躇ったようだけど、やがて決心したのか頷いた。
やったわ!
……でも、どうしてランカちゃんがににじり寄ってくるのかしら?
「ランカちゃん? そのまま仰向けになってていいのよ?」
「いいえ。
眠っている間に、シェリルさんに『してもらった』んですから。
今度は私がお返ししますね!」
「ランカちゃん、目が……ひゃあ!」
ランカちゃんが、いきなり抱きついてきて、首筋を舐めてきた。
その後は、もうランカちゃんにされるがまま。
やっぱり、料理なんて慣れない事、しようなんて思うんじゃなかった。
……気持ち良かったけどね?
END
最終更新:2009年02月11日 18:11