MY SONG(421氏)

こうして、2人きりの時間を過ごせるなんて、どれだけぶりなのかな。
シェリルさんの横顔を見ながら、私はそんな事を考える。
この星に移住して。それからずっと、シェリルさんと私はそれぞれの仕事に時間をとられて。
メールも電話もしてた。でも、やっぱりこうして直接会えるのが、一番嬉しい。

「……」
「お茶、替えてきますね」

久々にオフが重なった日、私は、新しい部屋にシェリルさんを招待する事にした。
最初は、色々な事を話していたんだけど。
突然、シェリルさんが「何か書くものをくれる?」と言い出してから、空気が変わった。
歌の詞が、思い浮かんだみたい。
私はすぐにメモとペンを用意して、シェリルさんはそれを素早く受け取って。
それからずっと、シェリルさんは歌詞を書くのに没頭しちゃってる。

「……ええと……」
「これ。中国茶なんですけど。どうぞ」

すぐ側に新しいカップを置いても、シェリルさんは顔を上げてくれない。
私は、側で自分の入れた中国茶を黙って飲んで。シェリルさんの邪魔にならないようにする。
もし、こんなところをナナちゃんが見たら、
「一緒にいるのに自分の世界に入り込んじゃうなんてひどい!」って言うかもしれないけど。
私は、こうして歌の世界に入り込むシェリルさんを見ているのが好き。
だって、最初はモニター越しにしか、見る事が出来なかったんだもん。
それが、今はこうして、すぐ側で。他の皆には見せないシェリルさんを独り占めできる。
これって、すごい事だよね!

「……ふぅ」
「シェリルさん。終わったんですか?」
「えぇ、浮かんだフレーズは書き終えたんだけど……これは、ねぇ」
「どうしたんですか?」

折角、新しい歌詞を書き終えることが出来たのに。シェリルさんは浮かない顔をしてる。
私がメモを覗き込もうとすると、シェリルさんはそれを手の中に隠してしまった。


「ランカちゃんには見せてあげない」
「えぇ!? どうしてですか?」
「……ちょっと、言い難いんだけど。
 最近、歌詞を書くと。全部、ランカちゃんへのラブソングみたいになっちゃうのよ」

困ったわ、とシェリルさんは天井を眺めてる。
そんなシェリルさんに、客観的な事実を伝えるべきかどうか、私はちょっとだけ迷って、

「で、でも。シェリルさん。それって、今更なんじゃ……?」
「え?」
「あの、思い上がりだったらすみません。
 でも、シェリルさんが前に発表した『ノーザンクロス』。
 あの曲は、てっきり私に向けての歌なのかと思ってたんですけど……」

私がフロンティアを離れていた頃、初めて歌われた『ノーザンクロス』。
それを初めて聴いたのは、グレイスさんに捕まっていた最中で。
確かに届いたシェリルさんの歌声、そして何より歌詞に含まれた想いのおかげで、
私は精神的な窮地から立ち上がることが出来た。
だから、『ノーザンクロス』はシェリルさんが私を思って書いた歌だと思ってたんだけど。
違ったのかな?

「……」
「シェリルさん、もしかして無意識だったんですか?」

シェリルさんから返ってくるのは、沈黙だけ。
でも、顔を背けてしまったせいでよく見れないけれど、頬はさっき以上に赤くなってた。
隠し切れないって、こういう事を言うんだね。

「シェリルさん、可愛い!」
「ちょ、ランカちゃん!?」

照れているシェリルさんを見ていると居ても立ってもいられなくなって、私は飛びついた。
勢いが強すぎたみたいで、私とシェリルさんは、そのままソファに倒れこむ。
無理な体勢に眉を顰めるシェリルさんを見下ろしたまま、私は言った。

「嬉しいです。シェリルさん」

私への想いが込められたフレーズしか出てこないってことは。
シェリルさんの心は、私でいっぱいって事だもん。
私の心だって、負けないくらいシェリルさんでいっぱいいっぱいで。
それは、つまり。相思相愛、なんだよね?

「私も、新曲書いてみようかな……」
「そうしたら分かるわよ。今の私の気持ち。
 絶対、私へのラブソングになっちゃうんだから」

悪戯っぽく片目を瞑って、シェリルさんが私の背中を抱き寄せてくる。
柔らかな胸に顔を埋めながら、私は自分の中に新しい歌が生まれつつあるのを感じた。


おしまい。

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最終更新:2009年02月11日 18:43
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