あたしには歌しかないと思っていた…
でも、本当は歌しか見えていなかっただけなのかもしれない。
この胸の奥がチリチリする感覚。
どうしようもなくて、ただただもやもやするだけ。
こんな気持ちなんか知らない
テラスで夜風に当たりながら、あたしは呟く。
「ランカちゃん…」
いつも元気で、ころころと表情を変えるのを見てるのが面白かった。
会話している時に見せる純粋な瞳、頭を撫でてあげると照れた様に俯いてしまう所が可愛かった。
「なんでよ…どうしてっ」
涙が止まらないのよ…
今まで感じたことのない自分の感情に、あたしはただ戸惑う事しかできなかった。
愛だの恋だの散々アルトに言っていたのに、所詮は口だけだったということ。
本気の恋なんてしたことがなかった。
それがこんなにも辛いなんて。
きっと不器用な所も祟っているのだろう。
あたしはいろいろな感傷に浸っていた。
「こんな時間まで夜風に当たってると風邪ひいちゃいますよ」
「っ!?」
背後からいきなり声をかけられたあたしは反射的に振り返ってしまった。
「シェリルさん!?」
涙でぐしゃぐしゃになったあたしの顔を見たランカちゃんは驚いていた。
更に、感情に合わせてピコピコと動く髪がその驚きを表している。
こんなとこ、人前じゃアルトにしか見せたことなかったのに。
「ど、どうしたんですか!?」
ランカちゃんは駆け寄ってきたけれど、あたしはどうしていいのかわからなかった。
この気持ちを言葉にすればいいの?
そんな事できない。
あたしは歌しか知らないのよ。
気持ちを歌でしか伝えられないのっ!
「ラ…ンカ、ちゃん」
カメラの前の饒舌なあたしは何処へ行ったのかしら。
歌でしか伝えられないのなら歌えばいいじゃない。
それすら出来ないのならあたしは…
「…他人に…気持ちを伝えるのって難しいわね」
自分自身へ向けての精一杯の皮肉のつもりだった。
たった一人の少女に想いすら伝えられない自分への。
「大好きな…大好きな人の涙を見ちゃうと、私も苦しくなっちゃうんです」
それに返答がきた事以上にあたしは驚いた。
今、なんて…?
ランカちゃんは深呼吸をしてあたしに向き直す。
歌うのかしら…いつも囁くように歌うあの歌を…
「シェリルさん」
「な、なによ」
「歌わなくたって、言葉を交わさなくたって、気持ちを伝える方法はありますよ」
あたしとランカちゃんの距離がゼロになる。
「ん…」
「ほら、私の気持ち、伝わったでしょ?」
ほんの少しだけ頬を赤く染めたランカちゃんがにこやかに言う。
でもあたしはその数倍赤い自信があった。
「なっ、なっ!?」
キ、キスされた…?
精一杯背伸びをしたランカちゃんがそっと涙を拭き取ってくれる。
小さくて、それでいて暖かい手。
「私でよければ相談に…って私じゃ役に立たないですよね!
あーもお何言ってんだろ…」
緑の髪がしゅんと元気をなくす。
本当に表情がころころ変わるというかなんというか。
そんな所が好きなんだけどね。
いや、全部好きだけど。
「そう…ねぇランカちゃん、あたしの話聞いてくれる?」
「は、はいっ!」
「あたしね…」
ランカちゃんの頬に手を添えて、さっきのキスより深いキスをする。
「んっ…ふ」
「…っ」
ランカちゃんが苦しそうにあたしの服の袖を掴んだので彼女を開放した。
「あ…シェリル、さん?」
あたしはね、怖かったの。
貴女はアルトの事が好きなんだって思っていたから。
ほうけているランカちゃんをぎゅっと抱きしめて耳元で囁く。
「ランカちゃんに勇気を貰ったから、今なら言えるわ」
貴女が好き。
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そんな自分はランシェリ派
最終更新:2009年04月18日 11:55