お気に入りの花屋に寄って、花束を作ってもらって、病院に行く。
一生懸命花を選ぶのも、こうして病院に足を運ぶのも、一体何回目なんだろう?
きちんと治療をしている筈なのに。ファンの人達からのお見舞いだって届いている筈なのに。
シェリルさんの体調は、まだ回復していない。
ベッドの上で身を起こしているシェリルさんに、私は問いかける。
「シェリルさん、まだ、退院できないんですか?」
「元気は有り余ってるつもりなんだけどね。分からず屋の医者が放してくれないだけ」
「じゃあ、私のファーストライブには……やっぱり、無理ですよね」
「残念だけどね。それより貴女、ファーストライブが迫ってるんでしょう?
お見舞いはいいから。ライブの準備に専念しなさい。いい?」
優しい口調で、シェリルさんが窘めてくれる。
私には、それが嬉しかった。
入院しているシェリルさんの方が辛いのに、こうして、私の事を気にかけてくれるなんて。
嬉しいのに……私の声は、どうしようもなく沈んでしまう。
「はい……」
「どうしたの? 入院している私より、ずっと元気のない声してるわよ?」
「だって。私のファーストライブ。シェリルさんに観て欲しかったから……」
「私だって、こんな状態じゃなければ、観に行ったんだけどね。
いいじゃない。アルトとか、貴女の大事なお兄ちゃんとか。ナナセって子とか。
皆、観に来てくれるんでしょう?」
シェリルさんの言うとおりだ。
お兄ちゃんも、アルト君も、ナナちゃんも、絶対に観に行くからねって言ってくれてる。
それだけじゃ足りないって思ってしまうのは、我儘なのかな?
呆れられるかもしれないって思いながら、私は本心をシェリルさんに打ち明けた。
「私は……他の誰より、シェリルさんに見せたかったんです。
シェリルさんと同じ場所で、歌えるようになった自分の姿を。
私が皆の前で歌えるようになったのは、シェリルさんのおかげだから」
「あら。この前は、アルトに感謝してたじゃない?」
「そそそ、それはそうですけど!」
アルト君には、本当に感謝してる。
私の歌を聴いてくれて。意地悪だけど、応援してくれて。私の話を聞いてくれて。
「けど、私の歌声を最初に聴いて、最初に背中を押してくれたのは、シェリルさんですから」
「……そうだったわね」
「それだけじゃないんです。
そもそも、シェリルさんがいなかったら。私は人前で歌いたいなんて思わなかった。
シェリルさんが好きだから、私もそうなりたいって思えたんです」
歌も好き。歌う事が好き。それと同じくらい、ううん、もしかしたらそれ以上に。
私はシェリルさんが大好き。
シェリルさんみたいになりたくて。歌いたくて。私はここまで来たんだ。
シェリルさんがいなかったら、私もここにはいなかった。
私がここに立っているのは、シェリルさんに出会えたから。
舞台の上から、それをシェリルさんに伝えたかったのに。
不思議と、涙が滲んできた。
こんな所で泣いちゃ、だめ。そう思った矢先、シェリルさんが語りかけてくる。
「ねぇ、この前、アルトが言ってたじゃない。
戦いの最中に、私と貴女の歌声が聴こえたんだって」
「そうですけど……」
「だったら、きっと私にも聴こえるわよ。貴女のファーストライブでの歌声と、その想いが。
何たって、私はシェリル・ノームなんだから。
そして、貴女は超時空シンデレラ、ランカ・リーでしょう?」
自信に溢れた声でそう言って、シェリルさんがウインクする。
そうだ。シェリルさんは、銀河の妖精、シェリル・ノーム。
そして私は、そのシェリルさんに導かれるように舞台に立った、シンデレラなんだもの。
例え離れていても。きっと歌声は伝わる。想いは伝わる。
「……はいっ! 私、頑張って歌います! だから聴いていてください、シェリルさん!」
「もちろんよ。まぁ……ライブより前に、貴女の気持ち、聞いちゃったけど?」
「シェ、シェリルさん!」
茶化すように言われて、私の顔が熱くなる。
いつの間にか涙は乾いて。胸にあたたかいものが宿っていた。
おしまい。
最終更新:2009年04月18日 15:01