『一緒』(153氏)

用意された控え室で衣装に着替えたシェリルは、撮影セットでランカと顔を合わせた。
以前、美星学園で束の間同級生であった時間を思い出させるような、制服風の姿。
それがどこか気恥ずかしくて、どちらからともなく笑い出す。

「何だか不思議な気分ね。こんな格好で並ぶ時が来るなんて」
「そうですね。でも嬉しいです!」
「ランカちゃん。それ、何回目の『嬉しい』かしら?」
「だって嬉しいんですもん!」

そもそも、2人で正式にデュエット曲を歌う、と決まった時からずっと、
ランカは事あるごとに、「嬉しい」と口にしていた。
「一緒に歌えて嬉しい」
「一緒に練習できて嬉しい」
「一緒に舞台に立てて嬉しい」
素直に喜ぶランカが可愛くて、シェリルは自然とその頭を撫でる。

「美星の制服も似合っていたけど。その服も似合っているわね」
「ありがとうございます!
 私、シェリルさんとまたお揃いの服を着られると思うと嬉しくて……あれ?」
「どうしたの?」
「お揃い……じゃない?」

ランカが、自分の衣装とシェリルの衣装を交互に指差す。
改めてみると、2人の衣装は似ているようで違う点が多かった。
1つのイメージを元に作られた筈で、一目みればお揃いだいう印象を受けるのだが、
よくよく見ると、それぞれの雰囲気に合わせてか、異なる部分が少なくない。

「そうみたいね。リボンとネクタイ。上着の裾も違うし」
「……そんなぁ。お揃いだって聞いて、楽しみにしてたのに」
「でも、基本は同じなんでしょう?
 衣装って、着る人の個性を強調するっていう一面もあるから、
 それを考慮しての変更なんじゃないかしら?」
「お仕事だっていうのは、分かるんですけど……」

シェリルの言い分に、間違いはない。
それはランカも理解しているだろうが、期待を裏切られた感は否めないらしい。
つい先程まで、「嬉しい」とはしゃいでいたというのに、
今は、大袈裟な位に肩を落としてしまっている。

「この位で落ち込まないの。これから一緒に撮影なのよ?
 ジャケットに2人で映れるなんて嬉しいって、貴女言ってたじゃない?」
「は、はい! それは嬉しいです!
 大好きなシェリルさんと、こんなに長い間一緒にいられるの、初めてですし」
「……だったら、そんな顔しないで。もっと笑って?」
「そ、そうですよね」

ランカは頷くが、そうして浮かべた笑顔は普段のそれよりややぎこちない。
それに気付いたシェリルは、心の内で全くこの子は、と呟いた。
「大好きなシェリルさん」と簡単に口にするほど大胆なのかと思えば、
こんな些細な事で、気を落としてしまう。
それら全てが、シェリルを思う気持ちから来るのは、シェリル自身もう知っていた。
だから、放っておけない。

シェリルは黙ってランカの横に並ぶと、その手をとって、指先を絡めた。
急な密着に驚いたのか、ランカのふわふわよく動く髪の毛が飛び上がる。

「シェリルさん!?」
「ジャケット、このポーズでとりましょう?」
「え、ええ?」
「衣装が少し違うくらい、なぁに?
 服のデザインが多少違っても、私達の心は一緒なんだから。
 それを、こうして見せ付けてやればいいだけの話よ」

片目を瞑りながら言うと、ランカがようやく、心からの笑みを見せる。
その笑顔に、シェリルの心も弾んだ。
ランカがシェリルに関わる事で気持ちを上下させるように。
シェリルもまた、ランカによって気持ちを左右されてしまうのだ。
それは、つまり。

「えへへ……嬉しいです。
 普通に手を繋ぐより、もっとシェリルさんに近づいてる感じで」
「あら。じゃあ、もっと喜ばせてあげようかしら?」
「え、もっと?」
「私も大好きよ、ランカちゃん」

そういう事、だ。
シェリルの言葉に、ランカは最早「嬉しい」とも言えず、ただ顔を赤くしている。
やがて2人は視線を交わすと、セットの中へと歩き出した。

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最終更新:2009年04月18日 15:18
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