最近シェリルさんの様子がおかしい。
シェリルはランカには気取らせないようにしているようであるが、時折漏れるため息がそれを如実に語っている。
(シェリルさん、どうしたんだろう…。はっ、もしや本当は美味しくない?)
今日もランカが作った食事に
「今日も美味しいわ」
とにこやかに笑いかけてくれるがどこか陰りがある。それはランカが不安に思っているが故の思い込みだろうか。
でもシェリルに問いかけてもきっと答えてはくれないだろう。
「はぁ~っ」
一方シェリル・ノームも1人悩んでいた。
「これは…!やはりどうにかしなくてはならないわね」
独り言をぶつぶつ唱えつつシェリルはお風呂場で何かを決意する。ランカがぐるぐるシェリルのことを考えていることに気付くことが出来る余裕も失っていた。
翌朝。まだ陽も当たらないような時間。ランカはまどろみながら隣からごそごそ音がしているのを耳にしたような感覚にとらわれた。疑問符を浮かべつつも寝ぼけた頭ではあまり深く考えられず、再びそのまま眠りに落ちた。
「んーーっ!シェリルさんおはようございます!」
隣でまだ寝ているはずの人に起こして挨拶をしようと、伸びをしつつ振り返ったランカは固まってしまった。そこには誰かがいた形跡はあるものの既にもぬけの殻だ。
(シェリルさんの寝顔を見ようとしたのに~って違う!)
頭を振り妄想を振り払う。
暖かい…
ランカがベッドを確認するとまだ微かにシェリルが先程までいたであろう温もりが残っていた。
(どこに行っちゃったんだろう…)
急に不安にかられ胸が押し潰されそうになる。
ランカが泣きそうになっていると、計ったかのような絶妙のタイミングでガチャリと玄関の扉が開きシェリルが戻ってきた。
「ふぅー、ただいま…」
まだランカが寝ていると思っているのか静かに告げる。
「シェリルさん!置いて行かないでくださいっ!」
「ええっ、ど、どうしたの?ランカちゃん。私はどこにも行かないわよ」
帰宅した途端ランカに急に飛び付かれ泣かれてしまい訳が分からずとまどうシェリルだったが、ランカを胸に抱きしめ泣き止むまで頭を撫で続けた。
「落ち着いた?でも急にどうしたの?」
「うぅ…シ、シェリルさんがっ私を置いていなくなっちゃうと思ってっ」
何故そんなことを思ったのだろう。逆はあっても私がランカちゃんから離れることなんてありえないのに。でもランカを不安にさせてしまったことは確かなようだ。
「そんなことないわよ。ずっとランカちゃんの傍にいるわ」
「ほ、ほんとですかー」
まだ落ち着かないのか舌足らずになっているランカを宥めつつ疑問に思っていたことを尋ねる。
「でもどうしてそんなことを?」
「シェリルさんが最近何か悩んでいるようだったから。私に不満があるのかな、って思って…それで今朝起きたらシェリルさんがいなくなってたし」
気付かせないように注意をしていたつもりだったが、この娘はしっかり気付いていたようだ。ランカの洞察力に感心すると共に、自分のことをしっかり見ていてくれたことにシェリルは感激していた。
「心配かけてしまってごめんなさい。でもなんでもないのよ」
詫びつつも肝心の理由を告げず曖昧にごまかそうとするシェリルに対しランカは追及の手を緩めない。
「じゃあ今どこに行ってたんですか!」
また少し涙目になりつつもランカが尋ねると、ランカの泣き顔に弱いシェリルは真っ赤になりながらも渋々白状した。
「…ランカちゃんの食事が美味し過ぎてちょっと太っちゃったから。ダイエットしようと思ってジョギングに行ってたのよ」
ランカは気が動転していて気付かなかったが言われてそういえばシェリルはジャージでタオルを肩にかけた姿だったことに気付いた。
「なんだ…」
気が抜けて崩れ落ちそうになるランカをシェリルが慌てて支える。
「ちょっ、ランカちゃん大丈夫?しっかりして!」
しばらくしてようやく立ち直ったランカはシェリルに尋ねた。
「でもシェリルさん全然見た目変わってないじゃないですか。いつも通りきれいで私の憧れの人ですよ」
「駄目よ!私達は人に見られる職業なのよ。歌手であっても常に外見も磨かなくてはならないのよ」
素直に感情をぶつけてくれるランカに照れながらもシェリルは強く言い切る。
そして意識しなければ聞き逃してしまうような小声でつけ足した。
「…それにランカちゃんにいつもきれいだと思っていてもらいたいから」
「えっ?シェリルさん何か言いました?」
「な、なんでもないわっ!」
そう慌てるシェリルをニコニコ眺めながらランカはいたずらっぽくこう言った。
「じゃあ明日からは私も一緒に走らせてください。私もシェリルさんにきれいだと思っていてもらえるよう外見を磨きます!」
「な、本当はランカちゃん。さっきの聞こえてたんでしょ?」
ランカにからかわれたと気付いたシェリルは赤面しつつ、この娘には一生かなわないなぁと思うのだった。
-翌朝-
2人仲良くジョギングをして帰ってきたのはいいのだが…
「こ、これは一体…」
食卓に大量に並んでいる黄色の物体。まさか…?
「ランカちゃん。これは?」
恐る恐る尋ねるシェリルに満面の笑みを浮かべ、答えるランカ。
「え、シェリルさん知らないんですか?バナ○ダイ○ットですよ!なんかとある大物歌手の方がやって効果があったそうなんです」
(大物歌手って誰!?)
と思いつつ笑顔でランカにバナナを差し出されると断れないシェリルであった。
結局それからどこで聞き付けたのか皆からも楽屋にまでバナナが届けられてしまいシェリルは約1ヶ月バナナ漬けの生活を余儀なくされたのでした。
でも日頃バナナ尽くしだった為に、ランカの料理が一層美味しく感じられたのも事実だったり。
終わり。
最終更新:2009年05月23日 18:02