楽屋にて(2-220氏)

「暇ねぇ……」
本日撮影のスケジュールが急遽変更されてしまい次の仕事まで時間が空いてしまった。
シェリルも以前だったらスタッフに我侭を通して強行させたかもしれないが、今は違う。
運良くランカも一緒の仕事だったので楽屋で待機中の今は二人で雑談に興じているところだ。

「んー、そうだなぁ…… あ、じゃあトランプやりませんか? シェリルさん」
シェリルのぼやきを聞いてからしばし逡巡していたようだが、何かを思い付いたのかランカは笑顔で提案してくる。
「トランプぅ?」
「はい! ババ抜きなんてどうでしょう?」

二人でババ抜き。

何故にトランプ?それにババ抜きだとジョーカーを誰が持ってるか分かってしまうし、あまり意味がないのでは……
シェリルは内心そう思いながらも、ランカがあまりに無邪気な笑顔だったのでつられて首を縦に振ってしまった。
既にランカはどこから取り出したのかトランプを配り始めている。
もしや普段から持ち歩いているのだろうか。
そんなことをシェリルがぼんやりと考えている内に、カードを配り終えたらしい。
「じゃあ始めましょう! あ、それでもし私が勝ったらシェリルさんが私のお願いを一つ聞いてくれるってのはどうですか?」
「お願い? 何かしら。じゃあ私が勝ったらもちろんランカちゃんが私の願いを叶えてくれるってことよね」
「もちろんです!」
ランカには自分が負けるという可能性は毛頭ないらしい。得意気な表情でシェリルの要求にも二つ返事で了承した。
シェリルはランカからの思いがけない提案に軽く驚きつつも、面白い展開になってきたことでババ抜きにも俄然やる気が沸いてきていた。

「はい、上がり~。また私の勝ちね」
からかうようなシェリルの声が室内に響く。
開始当初は得意気で雑談混じりだったランカだったが、口数も徐々に減っていき真剣さが増し、戸惑いと焦りの表情も見えてきた。

「そんなぁーーーー!」
ランカはもう何度目かも分からなくなってしまった悲鳴を上げて、最後に残った一枚のカードを手に持ったままテーブルに突っ伏した。
またジョーカーが最後まで手元に残ってしまった。ランカの負けである。何故かシェリルが一度もジョーカーを取ってくれない。
皆から表情がころころ変わって考えてることがすぐ分かると言われるから、必死にポーカーフェイスの練習をしたのに!
「なんで勝てないのー! シェリルさん、もう一回やってください!」
「また? 構わないけれども。貴女は私には勝てないと思うわよ?」
シェリルは勝者の余裕なのか、勝ち誇った笑みを浮かべつつ答える。
確かに先ほどから全く勝てそうにない。ゲームを始めた時は普通なのに、カードの枚数が少なくなってくるとことごとくジョーカーを避けられてしまう。なぜだろう……?
頭に疑問が沸いてくるがランカにはどうしても理由が分からない。
(私達は感覚を少し共有するようになったから?といってもカードまでは分からないだろうだし…… は、シェリルさんはもしやエスパー!?)

おかしな方向に思考が飛んでいるランカを眺めているシェリルは一方でこんなことを考えていた。
(ランカちゃん見てると面白いわねー。本当かわいい)

なぜランカは勝てないのか。シェリルがジョーカーを一度も引かない理由はここにあった。
ランカ自身はポーカーフェイスを装っているつもりのようだが、シェリルがジョーカーらしきカードを選んでしまいそうになると、余程嬉しいのか緑色の髪が跳ね上がるのだ。
それを見て隣のカードに手を移し、軽く引くような素振りをしてみると、髪がしおれるように元通りになる。
(ランカちゃんはまだ気付いていないようだし、かわいそうだけどこのことは絶対内緒ね)
ランカの犬のような素直さに頬が緩みそうになっているシェリルだが、ランカに何を要求しようかと頭を巡らせる。

「さーて、負けたランカちゃんには何をしてもらおうかな~」
「うう……」
結局ババ抜きはシェリルの十六勝0敗という結果に終わった。二人だったので時間がかからず早かったとはいえ、もちろんその間にかなり時計の針は進んでいた。
余程勝ちたかったのかランカは何度も挑戦したし、シェリルもランカの姿を見るのが楽しくて対戦に応じていた。
「分かりました……約束ですから、ってわわっ」
「あら、何でもしていいのよね?」
臥せていたランカが気付かない内にシェリルはランカの背後に回り、抱きしめてランカの髪に顔を埋めながら耳元に息をふきかけ囁いた。
「何でも、って。それはまぁ言いましたけど……」
抱きしめられたランカは耳まで真っ赤に染まって呟くが、徐々に小声になり語尾が消えていく。心なしか体温も上がっているようだ。
「なぁに、何を想像したの?」
「な、なにも想像してません!」

「んっ、んぅっ」
慌てふためくランカをどこか悪戯めいた顔で眺め、シェリルは抱きしめた状態のまま左手だけで素早く顔だけ振り向かせ唇を奪う。テーブルから落ちた幾枚かのカードが床を滑る。
「ん……ふぅ。ランカちゃんは本当に可愛いわねー。これ以上は我慢出来なくなりそうだから続きは後でね」
「はぁっ…… え、続きって」
「あら? 当然勝った回数分、私の言うことを聞いてくれるのよね」
「ええっ!……わ、分かりました。」
シェリルは真っ赤になりながらも頷くランカを抱きしめたまま囁く。

 ランカにとってはシェリルの言葉こそが『ジョーカー(切り札)』なのかもしれない。
こうして二人きりのつかの間の休息時間は過ぎていったのだった。

仕事後の『続き』は皆様のご想像にお任せします。




終わり。

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最終更新:2009年05月31日 17:19
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