無題(2-673氏)

ご飯も炊けた。目玉焼きもいい感じの半熟具合。味噌スープも出汁が効いててバッチリ。浅漬けの塩加減だってかなりイイ線いってます。

 「にへへ」

 エプロンを纏ったランカは、テーブルの上に並べた朝食のデキ具合を見て、得意げに、そして満足そうに笑みを漏らした。
 今日の朝食はアルト直伝のジャパニーズメニュー。
 和食というものは、これまた奥が深く、ここまで腕を上げるだけでも苦労したが、やっぱり好きな人に食べてもらいたいという愛おしい目標がある限りどこまでも頑張れるもので。
 料理はお世辞にも得意とは言えないが、原動力にドデカい愛があればこそ、今は魚も三枚に卸せるし、大根の桂剥きだってなんのその。
 もう少ししたらカロリー計算とか栄養管理にも手を出そうと思っているくらいですなランカちゃんは、うっかり本職を忘れそうになっている勢いだが、それはやっぱりドデカイ愛故なのでしょうがない。

 「流星に~まーた~がって♪」

 ご飯が冷めないうちに、早く早く。

 ランカはふわっとした緑の髪を揺らし、ご機嫌に鼻歌を歌いながらスキップで寝室に向かう。
 1・2・3回と軽やかにノックして、「シェリルさぁ~ん」と呼んでみる。
 なんだか、声が甘い猫なで声っぽくなってしまったのはきっと気のせいじゃないけど、そこはご愛嬌。
 返事を待つこと、1・2・3秒。でもうんともすんとも反応なし。

 (やっぱり起きてないですよねぇ)

 昨日遅かったもんなぁ。

 一人呟きなが、昨夜のことを思い出してしまって、思わず頬を赤らめる。
 と、同時に、幸せな苦笑も零れていく。
 ランカは一人照れながら、もう一度未だ夢の中にいる彼女の名を呼びドアを開けた。

 カーテンの締め切られた、少し明度の低い部屋。
 朝陽の熱がこもって、部屋の中はとても暖かい。
 日当たりのいい部屋を選んで正解だったな、なんてこと考えながら、そっとベッドに寄っていく。
 案の定、銀河の妖精はまだ夢の中だった。

 「シェリルさん……」

 ベッドに腰掛けて、もう一度呼ぶ。

 あぁ、起こさなきゃいけないのに、こんな甘ったるい声じゃダメだよね。
 そうは思うけど、うん。


 シェリルは、こちらに背を向けて、柔らかな毛布に丸くなっていた。
 二人で寝る時は自分を抱き枕みたいにぎゅっとしてくるからそんな事はないけれど。
 でも、一人で寝ている時はいつも小さく丸くなって寝ている。

 自分の体を抱き締めるように、守るように、小さく小さく丸まる姿はまるで。


 (……小さい頃のクセ……なのかな……)

 最初はただ、可愛いと思って見てたけど。
 一緒にいれるようになってから少しずつ色々知っていって、だから最近はなんとなくそう思う。

 部屋の中はとっても暖かいのに。
 ふかふかのベッドだってとっても温かいのに。



 寒いんですか?

 寂しいんですか?




 「……私なら、ここにいますよ」

 寒がりで寂しがり屋で、なのにどこまでも強がりで。
 そんな、どうしようもなく愛おしい妖精の額にキス一つ。
 夢の終わりが良いものでありますように、祈りながら優しくそっと。

 「……ん……ぅ」

 でも、シェリルは小さく身じろぎして、布団の中でもぞもぞと動いて。
 それで長い足を折り畳んで、更に小さく丸まってしまった。

 「ありゃりゃ……」

 ランカは困ったように小さく笑って、シェリルのストロベリーブロンドを撫でる。

 寝乱れてしまっている、ふわふわ綿飴みたいな髪の毛に手を入れて、手櫛で梳いた。

 「……おはようのキス、気に入りませんでしたか?」

 冗談めかしに聞いてみる。
 そうしたらまたもぞもぞと布団の中で動いて。
 それから緩慢に白い腕が伸びてきた。

 「……おでこじゃ……おきてあげにゃ、い……」

 首に甘く絡む腕を、ランカは甘い顔して受け入れた。


 (にゃ、って……可愛いなぁ~)


 寝ぼけて上手くしゃべれなくて、眩しくて目も開けられてないから、手探りで自分を探してくるシェリルの指先がくすぐったい。
 そのこそばゆさとか、甘えん坊な姿が可愛くて、「くすぐったいですよ~」と笑いながら寝ぼすけ妖精さんを抱き締める。

 「やっとこっち向いてくれた」
 「んー」

 背中しか見えなかったのは、やっぱり物足りなかったから。
 顔がちゃんと見れて嬉しくて、すべすべのほっぺに思わずすりすりと頬ずりをする。
 シェリルはじゃれるランカに普段の様子からは想像できないような、ふにゃっとした声で間延びした返事をした。

 「シェリルさぁーん」

 呼びながら瞼にキス。
 どこにキスしたら起きてくれるかなんて分かってるけども、もうちょっとこのふにゃんとした姿を味わっていたい。
 両方の瞼にキスをして、ほっぺたにキスをして、筋の通った鼻の頭にキスをして、それから。

 「……おはようございます、シェリルさん」


 ちゅっと、唇に。


 「……ん」


 シェリルは満足そうに吐息を漏らして、ゆっくりと目を開いた。
 澄んだ蒼の瞳が覗く。
 サファイアのような色の、でも、どこまでも真っ直ぐな光を放つお日さまみたいな。




   ――――私の、大好きな色。




 首に緩く絡んでいたシェリル腕に力が籠って、頭を撫でられながら引き寄せられた。
 犬とか猫の挨拶のように、鼻と鼻とを擦り合わせられる。

 「ふふ。もーいっかい」
 「えー」


 甘えん坊さんだなぁ。
 可愛いなぁ。
 ほんとに可愛いなぁ。


 「ご飯覚めちゃいますよー」とか言いながらも、ランカは結局シェリルお願いを聞いた。
 ちゅっと音を立ててキスをする。
 シェリルが満足するまで、何度も何度も。

 「……起きないんですかー?」
 「んー」
 「……また寝ちゃうんですか?」

 啄ばむような、拙くて幼いキスが心地よかったのか、シェリルの瞼はまたうとうとと揺らぐ。
 夢と現の境目の、酷く無防備な顔が愛おしくて、寝ちゃダメなんて言えない。

 「仕方ないですねぇ」

 キスに満足してまた夢の中へと旅立ってしまったシェリルに、ランカは苦笑を禁じ得なかった。
 でも、その苦笑はやっぱり幸せそうなもので。








 おやすみなさい。

 可愛くてワガママな、私の妖精さん。







 ランカはシェリルの体にきちんと布団を掛けてやってから、薄く開いた唇にもう一度口付けを送った。
 折角の朝食は、残念ながら昼食になってしまうらしい。
 ランカは取り敢えず作ったものにラップをしてこようと寝室を出る。

 そうしたら、一緒に二度寝をしようと決めて。






 「……二人でくっついていれば、寒くないですよね」


 さむいのなら、いくらでもあっためてあげますから。ね?




END

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最終更新:2009年11月22日 12:58
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